この記事は2回加筆修正しています。
2024.1/09の加筆修正として、ケーススタディ3と(3)そもそも子どもの意志はどこから生まれるのか、この2点を加筆しました。
お子さんに最適の学校はどこなんだろう?
日々迷いますよね。
最初は心に決めた志望校があったとしても、周囲から様々な情報・噂話を聞くと心が乱れます。
やっぱり大学付属校のほうがいいのではないかしら? もう受験しなくてよくなるし。
いやいや、わずか12歳で将来の大学の進路まで決めるのはどうなんだろう? もしかして大化けするかもしれないし。
いやいや、この両親の子供なんだから、そんなに高いレベルに到達するということはないだろう。
やっぱり好きなことを伸ばしてあげられる学校がいいのではないか?
いやいや、なんといっても将来につながる職業へ直結した学びが大切だ。
やはりこれからの時代は日本国内ではなくて海外に目を向けなくては。
などなど。
考えだせばきりがないくらいに迷います。
今回の記事では、 中学受験における学校選びについて、経験から見えてきたことを受験のプロの視点から説明しましょう。
1.受験校選びで最も大切なことは家族の意志統一
「どこの中学校に行きたいか」。この悩みがいつの間にか、「どこの中学校なら合格できるのか」にすり替わってはいないでしょうか。
中学校選びで最も大切なのは、家族の意思統一であることを改めて強調します。
とくに父親と母親の意思がそろうことが大事なのです。
子どもが中学受験世代の親御さんは働き盛り世代でもあります。
ご夫婦で仕事をお持ちの方も多いですが、保護者会や説明会・面談などに訪れるのは圧倒的に母親の割合が多いです。
子どもの塾での様子や成績、さらに志望校についての情報などを我々からお伝えする機会が多いのもまた母親となります。
そのまま最後まで母親主導で受験校を選んでいくのならよいのですが、志望校をそろそろ確定させる6年生の秋ごろになって、父親が登場するともめるケースが多いです。
「ところで太郎の志望校はどうなんだ? 塾での成績は?」
「この間塾との面談でこの学校を勧められました。」
「なに? そんな学校など行かせる意味はない! 公立中で十分だ!」
あくまでも想像ですが、こんな会話がなされているご家庭もあるような気がします。
父親が最新の学校情報をお持ちならよいのですが、そうではない場合、ご家庭での意志が統一されなくなりがちです。
ケーススタディ1 駒東が第一志望だった太郎君(仮名)の場合
そうしたご家庭の例として、駒東を第一志望としていた太郎君の話を思い出します。
実は、お父様は都内の進学校(いわゆる御三家)のご出身で、子供には筑駒に進学させたいという希望をお持ちでした。筑駒を第一志望として、1日は開成を受験させる、そういうつもりだったのです。
しかしながら、子供の成績は遠くおよばず、実のところ駒東もチャレンジ校でした。
お母さまの話によると、父親は、最初は開成から駒東への志望変更も渋っていたそうです。私としては、駒東の受験はチャレンジさせるとしても、その他に合格を見込める学校をいくつか用意するべきだと考えていました。
そこで、「攻玉社はいかがですか?」と面談で父親に伝えたところ、父親の顔色が変わり、「あんな名前さえ書ければ受かるような学校に息子を行かせるつもりはない!」と食ってかかられたのでした。
都立高校全盛期の時代には、中堅私立校が生徒募集に苦慮していたことは確かです。しかし、それは過去の話です。
それにしても、「名前さえ書ければ」とはひどい言い様です。
父親は、今の攻玉社の実力について何もご存じなかったのですね。今や、卒業生240名中、国公立現役合格者数が76名、東大にも現役で12名合格するという実績をほこる進学校です。
私と母親で綿密に組み上げていた受験戦略は父親の頑迷さの前に崩れ去ったのでした。
もちろんご家庭それぞれの方針というものがあり、それが最重要であることは当然です。
しかし、両親の意志がずれていると、それに巻き込まれる子供がかわいそうです。
今年もまた、せっかく合格した中学校があるにもかかわらず、地元の公立中進学を決定した生徒がいました。ご家庭の方針とはいえ、生徒本人が不憫でなりません。
ケーススタディ2・・・大学付属か進学校かで迷走した花子さん(仮名)の場合
「娘を医者にする!」これが父親の希望でした。
とくにご両親がお医者様ということではありません。何か強い思いがおありだったのでしょう。
近年、優秀な生徒で医学部を志望する子が増えているような気がします。いわゆる医学部人気というやつです。私なりに理由をいくつか考えてみました。
◆不安定な時代でも、将来安定した収入が見込める
◆企業に属さなくても、自分の力量で収入が得られる
◆社会的地位が高く世間から高評価の仕事である
◆やりがいのある仕事である
やりがいと収入、そして世間からの評価、これらを兼ね備えているところが人気の理由なのでしょうか。
最初はお父様と面談しました。「医学部に強い学校はどこですか?」とストレートに質問されたのを覚えています。
女子校でしたら、なんといっても桜蔭ですね。次いで豊島岡です。さらに意外に(といっては失礼ですが)強いのが、雙葉・白百合といった学校です。単純に医学部合格者数を卒業生数で割ってみると、駒東や海城、開成や聖光をも上回っているのです。もちろん複数合格者もカウントしての数字ですが。共学はお好みではないとのことだったので、桜蔭と豊島岡を主軸とした受験パターンを組み立てました。
実は、豊島岡を志望すると他に受けられる学校が激減します。豊島岡の入試日が2月2日・3日・4日と3回もあるからです。この場合は、1日の受験校設定が非常に重要です。桜蔭合格レベルの生徒なら、1日桜蔭、あとは豊島岡を3回受験で行かせます。ただ難しいのは、桜蔭合格レベルでない生徒の場合ですね。そのレベルの生徒が豊島岡を3連続で受けても、すべて不合格の可能性が高いのです。そうなると、もう4日以降の学校しか残っていません。花子さんがまさにこのケースでした。1日は桜蔭以外の学校、たとえばフェリスにするか、あるいはどうしても1日の桜蔭にこだわるのなら㏡に豊島岡から白百合に受験校を変えるほうが賢明なのです。しかし、お父様の医学部に対する強いこだわり故、玉砕覚悟の受験パターンとなったのです。
それからしばらくして、今度はお母さまと花子さんが2人でご相談にやってきました。そこで伺った話はお父様の意見と全く異なっていました。
母親と娘の共通した希望は大学付属校だったのです。医学部には全く行きたくない、それが花子さんの意志でした。まだ小6ですから、6年後には意志が替わる可能性はもちろんあります。しかし、現時点での本人の希望は、「大学付属校に進学したい」というものでした。その理由としては、英語とバレエの2つをあげられました。幼少から習っているバレエに真剣に取り組んでいるので、このまま続けたい、ただしバレリーナになりたいということではない、でも中途半端は嫌だ、と言うのが花子さんの意志です。また、英語に関しては、こちらも幼少期から習っているそうで、将来はアメリカで環境保護関連の仕事をしたいという夢を持っていました。そのために、中高6年間の間のどこかで留学をしたいという希望があるそうです。ただし、アメリカの大学に進学希望ではなく、日本の大学にそのまま進学して、大学の間にまた1年ほど交換留学をするというプランを持っていました。
小6ですでにこれだけの明確なビジョンを持っているのです。
そのことを父親に話したのかどうか確認すると、話をまともに聞いてもらえないとのことでした。「環境の仕事では飯は食えん」と言われたそうです。
まるで昭和の頑固おやじのようですね。
ここまで家族の意志がずれていると、もう私には介入する余地はありません。とにかく母娘で、父親にはっきりと娘の考えを何度でも説明し、説得してもらうほかありません。
さらに、父親に譲歩できる提案をアドバイスしました。それは、桜蔭を受けるなら豊島岡の受験を1回にする、豊島岡を3回受けるなら桜蔭を受けない、というものでした。加えて、父親には言わずに、3日・4日・5日の希望校への出願を勧めました。娘の不合格が続くと、さすがの頑固おやじも折れてくれるかな、と父の娘に対する愛情に賭けたのです。
ちょうど中学受験の時期というのは、親が一番仕事に脂ののっている時期で、非常に忙しい方が多いと思います。でも、子供の受験については、家族でよく話し合って意志を統一してほしいと思うのです。
ケーススタディ3 母親が意地になった五郎君(仮名)の場合
五郎君は素直な生徒でした。あまり勉強に積極的に取り組むタイプではないものの、言われたことはきちんとやる、そうした生徒です。なんだか最近こういうタイプの生徒が増えてきた気がしますね。
さて、五郎君の自宅から、さほど遠くないところに、なかなか評判の良い私立校Aがありました。五郎君の学力からするとちょうどよい学校です。性格的にも合いそうです。担当する教師の誰もが、「五郎君ならあの学校がぴったりですね」と判断を下しています。私もそう思いました。そこで、A校を主軸とした受験プランを考えました。A校を2回受験するとして、安全校を1つ用意する、そうしたプランです。おそらくは早い段階で合格が決まっていくだろうと思いました。
何も全ての受験生が偏差値的に高みを目指してチャレンジ受験をする必要はないと思います。子供にぴったりの学校が見つかれば、たとえもっと上のレベルの学校を受けられる実力があったとしても、チャレンジする必要などないのです。(塾によってはとにかく上の学校を受けさせようとする進路指導をすると聞きます。むしろその方が多数派かもしれません。もちろん理由は塾の実績稼ぎ、それだけです。嘆かわしいですが現実です)
さて、五郎君のお母様と面談をいたしました。志望校を相談する面談では、初めにする私の発言はいつも決まっています。
「公立中でも良い、とお考えですか?」
「これ以下なら公立中にする、と考えるラインはありますか?」
この2つをまず確認します。ご家庭によっては、「〇〇中なんかに進学するくらいなら地元の公立中に行かせます。」とはっきりとしたラインをお持ちの方もいるからです。それを確認しないまま押さえの学校をお勧めしても時間の無駄に他なりません。
「どこかお考えの学校はありますか?」
これが次の質問です。ご家庭でお考えの学校というものが必ずあるはずです。それを聞かないことには、学校選びのお手伝いはできません。五郎君のお母様との面談も、そのように進みました。公立中は全く考えていないそうで、またとくに行かせたい学校も決めていないとのことでした。むしろ「先生のおすすめの学校はありますか?」と言われます。そこで、まずA校をお勧めしてみました。すると、完全な拒絶反応が返ってきたのです。「A校だけは行かせたくありません!」
そんなにあくの強い学校ではないので、ここまで拒絶されるとは思いもよりませんでした。おそるおそる理由をうかがったところ、こう返答されたのです。
「A校は主人の出身校なので。」
ああ。これは無理だ。
実は、五郎君のお母様からは、以前からあるご相談を受けていたのです。それは離婚のご相談でした。子供の受験が終わるまで離婚するのを待つべきかどうか、そういう相談です。本当は今すぐにでも離婚したいのだが、子供の受験に不利になるのなら待つほうがよいのか悩まれていたのですね。
まさかそんな理由で受験校を拒絶されるとは想定外でしたが、こればかりは仕方がありません。他の学校を主軸とした受験プランに変更するほかありませんでした。
しかし思うのです。子供の人生と母親の人生は別物です。それは母親は「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」状態なのは仕方がないとしても、子供にそれを押し付けるのはどうなんでしょう? もしかして五郎君は父親の出身校に行きたい、そういう可能性だってあったかもしれません。
これは相当レアなケースでしょう。しかし、親の意地を子供に押し付ける学校選びは問題があると思います。しかも、学校の様子は変化しています。ニュートラルな視点で学校選びを考えるべきだと思っています。
2.子どもの希望はどこまで尊重すべきか
この点も悩ましいですね。
理想をいえば、子供の希望と両親の希望が一致することです。
しかし、なかなか理想どおりにはいかないものです。
そこで重要となってくるのは、「なぜ子供はその学校を志望しているのか」ということになるでしょう。
例えば、「文化祭で見た部活に入りたい」「先輩が素敵だった」などといった理由ならほほえましい。できるだけかなえてやりたいと思います。
問題なのは、最初から「無理な志望校を曲げようとしない」ケースと、「間際の志望校変更」のケースです。
(1)子どもが無理な志望校を曲げないケース
志望校目指してがんばっているが成績が届いていない、というケースではありません。
そうした生徒は、頑張っているが故に自分の限界も見えており、無理を押し通そうとしないものなのです。また、成績には表れていない実力の変化というものもあり、塾の先生に相談すれば、そのあたりも見えてくると思います。
そうではなくて、高い志望校を掲げていても全く努力はしておらず、したがって受験しても合格が無理と考えられるのに、志望校を変えようとしないケースがあるのです。
子どもの心理としては、次の3つが考えられると思います。
〇受かるかもしれないと思い込んでいる。
〇自分の実力が露になることから逃げようとしている
〇親の顔色をうかがっている
努力していない生徒にかぎって、自分とまわりの努力している生徒との違いがきちんと認識できていないのですね。それは、自分の成績を正面から見つめてこなかったからです。
だから、どんなに高望みの学校であっても、受かるかもしれないと思っているのです。
また、2つめのケースもやっかいです。
志望校を下げて、それで不合格になることを恐れているのでしょう。あるいは、今まで模試の成績が悪くても、「これはたまたま悪かっただけ」と自分や親を欺き続けてきたものの、いざ入試となると実力があからさまになることを恐れているとも考えられます。
それくらいなら、合格が見込めない学校を受験し、「こんな高いレベルの学校だったから、不合格でもしかたがなかった」という自分(&親)への言い訳をつくっているのです。
3つめのケースも同様ですね。子供は親の気持ちを映し出す鏡のようなものだと思います。頑なに無理筋な学校の受験にこだわるのには、親のこだわりが反映している可能性もあるのです。
いずれにしても、子供がなぜ志望校を曲げようとしないのか、その理由をきちんと話し合うことが重要なのはおわかりいただけると思います。
(2)間際の志望校変更
急な志望校変更を子供が言い出すケースとしては、
①下のレベルへ下げる
②上のレベルへ上げる
の2種類があります。①のケースはわかりやすいですよね。子供だって不合格は嫌です。入試日が迫ってくるにつれ、「このままでは受からない!」と恐怖心が芽生えてきます。だったら努力しろ!という話なのですが、努力をしてこなかったからこそ、不合格が見えてきてしまうのです。そこで「僕は〇〇中より△△中のほうが向いていると思う」と謎の理由を振りかざして、レベルを下げた学校の受験を言い出す、そんなケースですね。
謎なのが②のケースだと思います。もちろん努力とそれにともなう実力の向上があっての変更なら素晴らしいですが、いきなり「僕はやっぱり〇〇中を受けたい!」と言い出し、親や塾教師を慌てさせる生徒というのが例年必ずいるのです。この理由としては、前述の無理な受験校を曲げないケースと同じですね。このまま不合格になるくらいなら、無理な受験校を受けての不合格のほうが自分のプライドが傷つかない、という子供特有の発想がうかがえると思います。
こんなケースを紹介しましょう。
ケーススタディ3・・・無理筋な受験をした次郎君(仮名)
次郎君はは、2月1日に、最難関の中学を受験しました。本人のたっての希望です。しかし、成績は偏差値で20以上届いていませんでした。そして成績を上げるための努力もしてきていませんでした。
もちろん不合格でした。
2日に受験した学校は、試験終了後に本人が「ここはぜったい受かっている」と断言したため、3日には、志望を下げずに最難関の中学を受験しました。
どちらも、不合格となりました。
最終的には、かろうじて1校だけおさえとして受けていた学校に進学することとなったのです。
その学校も人気校で、私にいわせれば実力適性校といえる良い学校なのですが、いろいろと不満があったのでしょうか、本人が学校生活をエンジョイしているという話は伝わってはきませんでした(むしろその逆)。もちろん勉強もきちんとやってはいないようでした。
なぜ続けざまに最難関の学校ばかりを受験したかを親に尋ねると、「受験させないと一生恨まれるから。」ということでした。
子ども本人の意志を尊重することは素敵ですが、そうはいっても子供は子供、12歳の判断力はそこまで信頼できません。
しかも、受験機会は限られています。
子どもに振り回される志望校選びであってはならないと思うのです。
(3)そもそも子どもの意志はどこから生まれるのか
最後に、なぜ子ども主体の学校選びがダメなのか、もういちど整理します。
それは、子供には情報が少なすぎる、この1点につきます。
子ども本人が持つ学校情報の入手ルートは以下の4つです。
◆親から・・・親が中学受験経験者の場合は、日々の会話の中に学校の情報が多く含まれています。ただし、その情報は古いです。親が高校を卒業してから20年以上は経っていますよね? その間に学校も様変わりしているかもしれません。
◆兄姉から・・・兄や姉がいれば、最新の学校情報に直接接することができますね。それがプラスイメージであればよいのですが、マイナスイメージである場合も多いです。「お兄ちゃんと同じ学校だけは嫌だ!」なんて声は良く聞きます。兄姉フィルターを通した情報も要注意です。
◆友達から・・・小学校の友達というよりは、塾の友人からの情報というものもありますね。でも、同じ立ち位置の塾友からの情報の信憑性は低いです。
◆塾の教師から・・・個別に学校名をあげて生徒に情報を伝えることはほとんどありません。あるとすれば、生徒のやる気を引き出す目的で様々な学校の魅力を紹介するときくらいです。
◆塾でもらう資料から・・・塾によっては進学情報誌のようなものを配るところもありますね。
◆学校に行って・・・文化祭や体育祭等に連れていったときの印象から得た情報です
こうして列挙してみても、大した情報を持っているはずもありません。そんな子供に対して、「あなたの行く学校なんだから自分で決めなさい!」と突き放すことは無意味です。inputが少なければoutputも不正確です。
かといって、全ての学校説明会に子供を引き回すのは非現実的です。
ここは、親が、わが子に合う学校をじっくりと選ぶべきなのです。
もちろん、そのお手伝いはいくらでもします。