中高一貫校で採用の多い「体系数学」は良い教材なのか? その種類と使い方を説明します
※この記事は、2024.1/09に加筆修正しました。3.検定外教科書をなぜ使うのか? が加筆した部分です。
1.体系数学という教材の種類
麻布・女子学院・豊島岡等多くの中高一貫校でつかわれている数学のテキストに数研出版の「体系数学」があります。
中学校の教科書は、なかなか侮れないと以前書いたことがあります。
しかし、数学に関しては学校教科書はお世辞にも良いものとはいえません。受験算数を突破してきた生徒たちにとっては、あまりにも平易すぎて(むしろ幼稚)、これでは物足りなさすぎるでしょう。
その点この体系数学は、基本的なところから発展までおさえてあり、とても使いやすくできていると思います。いつくもの種類があってわかりにくいので整理してみます。
★☆①体系数学(市販/学校配布)
これが基本になるテキストです。おそらく学校で配られると思います。
書店でも購入できます(表紙が異なるー写真のものはこれ)。
きちんと解法が丁寧に説明してあり、かといって無駄もなく、ちょうどいいレベル・ボリュームだと思います。中学入試を突破してきた生徒たちにとっては、あまりに過剰な説明は嫌われます。中学校学校教科書がまさにそれなのです。その点、こちらの体系数学はこざっぱりとした印象ですね。
しかし、練習問題の解説は一切ありません。仮に自学自習しようとすると、実に使いづらい教材です。解答しかありませんので、答が合っていたとしても、解き方の確認はdけいません。そして、解けなかった場合は、そこから一歩も先に進めなくなります。つまり、まさに学校の授業用の教科書として作られたテキストなのですね。
また、これだけでは問題演習量が不足します。
それを補う問題集が3種類あります。
☆②体系問題集(市販)
テキストに準拠した問題集です。
基礎的な問題から発展的な問題まで網羅されています。こちらは書店で購入ができます。途中式が一応載っていますが、親切な解説というわけではないので、「解説を読んでもよくわからない」生徒はそこでフリーズするだけとなってしまいます。
★③体系問題集(配布のみ)
上記②と同じ名前で非常に紛らわしいのですが、この問題集と②の問題集では問題は別となっています。
標準編と発展編と2種類存在します。
下記④と全く同じ問題が載っています。
書き込むスペースはないので、別途ノートが必要です。こちらは一般書店での市販はありません。解答はありますが、解説はほぼありません。
★④体系問題集 完成ノート(配布のみ・分冊)
上記③の体系問題集の標準編・発展編それぞれが分冊になっており、式等を書き込むスペースがあり、別途ノートを使わなくてすみます。表紙を見ると、いかにも先生と生徒がやりとりするのに便利そうな枠が設けられていますね。おそらくはページを決めて課題を出し、提出させる、という使い方を想定しているのでしょう。
解答はかなりシンプルで、解説はありません。
生徒が単独で解き進めるのはつらいかもしれません。だからこそ、学校用となっているのでしょう。
以上の4種類のテキスト・問題集に加えて、こんなものもあります。
☆⑤チャート式 体系数学(市販)
ご存じチャート式の体系数学バージョン。
解説がとても詳しいです。これは参考書という位置づけで、学校で配られることはないですね。自分で先取り学習をしたり、あるいは苦手な問題の解き方を調べたいときには、これが最も使いやすいと思います。発展問題も載っていますが、これは難しいです。学校の授業と並行して使用するなら、定期試験前に範囲となっている部分の問題を拾ってやる、できなかった問題は解説をよく読み理解する、そうした使い方が有効でしょう。
☆⑥体系数学 パーフェクトガイド(市販)
これは、①の体系数学のテキストの教科書ガイド的な位置づけです。体系数学テキストのページが縮小でのっており、その練習問題の解説等がついています。ちなみにその縮小部分は、本当に縮小ですので実に見づらいです。
これは学習者用というよりは、指導者用という位置づけでしょう。
周囲に指導者がいなくて自学自習だけですすめる場合には役立つと思います。
ただし解説は①のテキストよりは少しだけましですが、丁寧というわけでもないので、自習用の参考書としてはむしろ⑤のチャート式をおすすめします。
もしかして学校の先生によっては、この本を生徒が使うことを嫌がるかもしれません。
※パーフェクトガイドは体系数学の2までしかありません。
このように、同じような名前で何種類もあるのでわかりづらいですが、上手に活用すれば数学の学習には非常に有効な教材だと思います。
学校で配布される教材の復習だけで十分だと思いますが、物足りない場合には②の問題集を追加したり、あるいは置いて行かれそうな場合には⑤のチャート式を参考書として活用するのがよいでしょう。
★印の(配布のみ)とあるものは、一般書店で入手できません。
出版社が学校専用として出しているものです。
しかし、この体系数学シリーズに関しては、十分な種類が書店で市販されていますので、わざわざメルカリなどで手垢のついた本を入手する必要は全くありません。お金の無駄でしかありません。
2.体系数学のカリキュラム
全部で8分冊となっている体系数学のテキストは、以下のように分かれています。
・体系数学1 代数編・・・文字式~1次関数
・体系数学1 幾何編・・・平面図形・空間図形
・体系数学2 代数編・・・因数分解~2次関数・確率
・体系数学2 幾何編・・・相似・三平方
・体系数学3 数式・関数編・・・複素数・二次関数・三角関数など
・体系数学3論理・確率編・・・集合と論理・整数の性質など
・体系数学4・・・指数・対数・微積分・数列・ベクトル
中1では、体系数学1の代数編と幾何編を、中2では体系数学2の代数編と幾何編をすすめるくらいが標準的な進度だと思います。
それでも、公立中学の3年間の内容をおよそ2年で終了するペースです。
早いことは早いですが、難関中学に進学した生徒ならば、ちょうどいいペースだと思います。
これ以上のスピードで先取りすることは無意味です。ついていける生徒はよいのですが、その他の生徒は確実に数学嫌いになります。
ちなみに、鉄緑会では、教材は異なりますが、中1の1年間で中学3年間の数学をやってしまいます。
理解の深さよりもスピード重視ですね。
そのため、途中で戦線離脱する生徒が続出します。
また、途中から鉄緑会に入塾しようと思っても、学習していない範囲ばかりとなるため、入塾テストで合格できないということになります。
だから、中1最初じゃないと鉄には入れない! という神話が生まれます。
塾の経営戦略としてはありですが、生徒のことを考えると「?」ですね。
話を戻しますと、体系数学2の代数編あたりから、いよいよ本格的な数学の香りがする内容へ突入します。
そこをじっくりと理解しながらすすめるためにも、中1の1年間はとても重要です。
3.検定外教科書をなぜ使うのか?
そもそも、こうした「検定外教科書」をなぜ私立は使うのか?
答えは簡単です。高校入試が無いからです。
中学校用の検定教科書は、高校入試がある公立中学を想定して作られています。そのため進度が遅く、私立中高のメリットを活かせないため、使えないのです。学校からは一応教科書が配られますが、そのまま棚の奥で埃が積もります。
また、書店で中学生用の問題集や参考書を探そうとしても、その全てが高校受験用となりますので、私立の生徒には実に使いづらい。カリキュラム・進度が異なるので、自分で取捨選択する必要があり、面倒くさいですね。
ただし、体系数学の2までが終了すると、中学で学ぶ数学は完了していますので、高校入試問題をまとめた問題集は使えるようになります。しかし、学校は高校数学範囲に入っていますので、ここであえて高校入試問題をやる必要性はあまりなさそうです。あえて言えば、中2の最後の春休みに、それまでの数学の総まとめ問題演習としてならい良いでしょう。
検定外教科書にはこんなものがあります。
(1)数学
〇体系数学(数研出版)
〇精解中学数学(学研)
〇システム数学(啓林館)
中学用としてはこんなところでしょうか。その中でも体系数学が一番メジャーな気がしますが、どちらかというと女子校の採用が多いかもしれません。
昔はこうした教材がなかったので、私立校は教師がオリジナルのプリントで授業を進めるところが大半でした。昨今は選択肢が増えたので先生も助かりますね。
高校になると、無理やり検定外教科書を使うメリットはなくなります。学校によっては、体系数学の1と2を中2までで終了させて、中3から高校用の教科書に切り替える、そうしたところも多くあります。生徒も数1・Aの問題集や参考書など、いくらでも書店で入手できますので教材に不足はないでしょう。
たとえば「体系数学」の数研出版は、「チャート式」の参考書で有名ですね。みなさんもお世話になったのではないでしょうか。こちらが出している高校用の数学の教科書のラインナップを難易度順に並べるとこんなかんじです。
数学シリーズ>NEXTシリーズ>高等学校シリーズ>新編シリーズ>最新シリーズ>新高校の数学シリーズ
私立でここの教科書を使うとすると、数学シリーズかNEXTシリーズだと思います。
(2)英語
〇Progress in English
〇Birdland Junior English(文英堂)
〇Treasure(Z会)
採用校の数でいうと、プログレス>バードランド>トレジャーというかんじでしょうか。
私の記憶では、プログレスが最も古くからあったと思います。使いにくいことで有名な教材でした。私立がこぞって採用したものの、教師泣かせ・生徒泣かせの噂をよく聞いたものです。現行のプログレス21はだいぶ使いやすくなっているようですね。
いつだったか、中高一貫校生向けの塾のすぐ近くにある古書店で、バードランドが全冊(ワークブック等も含めて)揃っていたので思わず購入しました。開くと何も記入されていません。この教材は一般書店では売られておらず学校から配られるはずですが、これを持ち込んだ生徒はいったいどうやって勉強していたのか不思議です。
ちなみにバードランドの内容については、あまり良いものとは思えませんでした。内容もつまらなく、生徒のやる気を削ぐような気がします。特に英語は、中学生になってからがほとんど初修ですので、生徒を英語好きにする要素は必要だと思うのです。これなら検定教科書を先取りぎみに使ったほうがはるかに良いと個人的には思います。
(3)理科・社会
残念ながら、理科・社会については検定外教科書はありません。まあ需要がないから出版社も手を出さないのでしょう。
そもそも、中学校用の検定教科書の完成度が高いのです。一度開いてみてください。豊富な写真や資料、実験動画QRコード等、各出版社がお金をかけて作っていますね。これを、売れる冊数が少ない私立向けに検定外で作成すると、完全に赤字となります。だからこそどこも手を出さないのです。
それでは、検定教科書に基づいて学習すればよいかというと、そうもいかないのです。私立の先生方は高校生まで教えているのが普通です。とくに理社の先生についてはそうですね。高校では理社は細分化されます。生物・物理・化学・地学、日本史・世界史・日本地理・世界地理・政治経済、といった具合ですね。それぞれの専門の先生方が、中学生も指導します。
もうおわかりですね。私立中学校では、高校で習うような範囲をどんどん授業で扱うのです。それでは、大学入試用の教材を用意すればよいかというと、それではさすがに詳細すぎます。例えば日本史で定番の山川出版の教科書を用意してみたところで、実際の授業は知識を間引きしてますので情報過多となります。
つまり、理社に関しては、中学校用の教材(教科書)では物足りなく、高校用の教材(大学入試用)ではオーバースペックとなってしまうのです。
これはもう授業中心、復習中心で行くしかありません。学校の授業が一番大切となる教科です。