子どもが幼稚園や小学生低学年のうちは、塾に通わせるつもりが無いご家庭も多いと思います。むしろ多数派でしょう。
しかし、将来中学受験を考えている場合、塾に行かなくても家庭で勉強できる通信教育は気になりますね。
今回は、そんな通信教育について検討してみることにします。
※いつもながら、私個人の限られた情報に基づく主観(多分に偏見)ですので、特定の通信教育を貶めるつもりも持ち上げる意図もないことをお断りしておきます。あくまでも個人の感想としてごらんください。
1.通信教育の是非
具体的な教材の見当に入る前に、そもそも通信教育ってどうなの? というあたりから考えましょう。
今では、その多くがタブレットや映像を組み込んだ通信教育へと発展しつつありますが、ここで「通信教育」というのは、
①教材が(何等かの手段で)送られてくる
②自宅で学習する
③テスト・作文等を(何等かの手段で)送り返す
④添削指導されたものが(何等かの手段で)戻ってくる
この①→②→③→④ のサイクルを繰り返すものと考えます。
(zoom等を使ったリアルタイム指導はここでは扱いません)
解説動画が見られたり、教材がPDFで提供されたりするものも、結局のところは送られてきた教材を自宅で学習するという通信教育のスタイルであることには変わりありません。
さて、通信教育を検討する際には、上述した①②と③④を分けて考える必要があるのです。
(1)学習の材料入手手段としての通信教育の利用(①②)
例えばお子さんが小学1年生になるところだとしましょう。
幼稚園のときには、親が買ってきた適当な漢字ドリルと計算ドリルをやっていたくらいで、特段系統立てた学習をしてはいませんでした。なるべくたくさん本を読ませるように心がけていたくらいです。また科学図鑑のようなものを買っておいてはあります。しかし、今度小学校に上がるタイミングで、きちんとした学習をさせていこうと思っています。
書店に行ってみましょう。眩暈がするほどの多種多様な問題集やドリルが並んでいますね。ほとんど全てが学年別に分かれています。手に取ってみましょう。おそらくはこうした感想を持つことでしょう。
「や、易しい!」
そうなのです。書店で売られているほとんどの「小学1年生用」の問題集やドリルは、「それまで幼稚園で何も学んでこなかった」子供を想定して作られていますので、多少なりとも将来の中学受験を考えて、漢字や計算ドリル、読書に取り組んできたような生徒にとってはあまりにも「易しすぎる」のです。
それでも、いろいろと探してみると、算数についてはどうやら使えそうな問題集が4種類に絞られました。
A. 公文式/100マス計算のようなドリル
ひたすら計算力をつけるには良いのかもしれません。ただ、あまりにも面白くなさそうなので、これを子供に強制する気がどうもしません。
B. 難しそうな問題集
表紙には「最高水準」とか「中学受験のための」とか「スーパーエリート」などの文字が躍っています。開いてみると、文章題が並んでいます。なかなか手ごたえがありそうです。しかし「先取り感」が強すぎて、子どもが算数嫌いにならないかどうか不安です。
C. パズル系問題集
「思考力」「考える力」「パズル」そんな文字が躍っています。なかなか楽しそうです。しかし、これで本当に思考力がつくのかどうか不安です。
D. 塾が出版している問題集
中学受験でよく名前を聞く塾が編纂した問題集も売られています。やはりこれがよいのだろうか?と思ってしまいます。
そこで、これら4種類を買ってきて、さらに1学年飛び級して「小学2年生用」の一般問題集も用意します。それらを目次を詳細に検討しながら、月単位・週単位のカリキュラムを再編し、新しく習った解法が確実に習得できるように組み直すことにします。
などという作業ができますか?
無理ですよね。算数においても、子どもの脳の発達段階に沿いながら、適切な負荷をかけつつ、好奇心を引き出していくようなカリキュラム構成が必要です。それをご家庭で独自に構成するのは事実上不可能だと思います。
多くのご家庭は、結局のところ「ひたすらトレーニング」と「ひたすら先取り」の2つを大量にやらせていくような家庭学習になってしまうでしょう。
おそらくは大半の子供が算数嫌いになるような気がします。
また、国語も厄介です。
なるべく短くても良い文章を読みながら、徐々に読解を身に着けてほしいですし、日本語の美しさにも触れてほしいものです。それらを満足する教材がどうにも見当たらないのです。
その点、通信教育の教材は、毎月一定水準の一定量の教材が送られてきますので、何も考えずに子供に与えることができます。
通信教育の最大のメリットはここにあるのです。
(2)学習のモチベーションを継続する(③④)
勉強はやりっ放し・やらせっ放しが一番いけません。いつのまにかモチベーションが下がり、学習密度が薄くなるからです。そこで、記述答案や作文などを提出し、添削指導をバックしてもらうことで、生徒の学習意欲を維持することをはかります。
通信教育の最大の弱点は、「一方向性」にあります。対面指導やリアルタイム指導とは違って、一方的に送られてきた教材をやるだけです。たとえ映像講義でも状況は変わりません。そこで、多少なりとも「双方向感」を出すために、こうした添削指導が組み込まれているのです。
しかし、提出した直後にバックがあればまだしも、数日後(数週後)に返却があったところで、もう何を提出したか忘れていますし、さほどの効果はありません。あくまでも「双方向感」を出しているにすぎないからです。
継続できるかどうかが鍵
「通信教育あるある」として、手をつけていない教材が山積みになることがあげられます。メルカリやヤフオクをみると、「未開封」などと宣伝文句つきで大量に出品されているのがその証拠です。
もし通信教育をやらせるのなら、「必ず親がサポートする」必要があります。もし仕事等で忙しくて子供だけでやらせようとしているのなら、お金の無駄に終わる危険性が高いと思います。
2.主要な通信教育教材
ここでは主に小学校低学年(1~3年)を対象としたものを検討してみます。
(1)進研ゼミ小学講座(ベネッセ)
日本最大規模の通信教育会社ベネッセの講座ですね。未就学児対象には「こどもちゃれんじ」という虎のイメージキャラクターの講座をご存じの方も多いと思います。
新1年生の講座を見てみると、入会プレゼント的なものに人気アニメキャラがちりばめられており、その他プレゼントも盛りだくさんで子供心をくすぐるようにできています。
「チャレンジタッチ」というタブレット教材の講座と、「チャレンジ」という紙の教材の講座に分かれていますが、どうやらチャレンジタッチのほうを全面に押しているようです。勉強嫌いの子供に受けそうである点と、企業的には紙よりもコストが安いからでしょう。タブレット嫌いの人は「チャレンジ」を選ぶほかないのですが、こちらでも無料タブレットが送られてきてしまいます。
この教材のレベルは、市販の「1年生ドリル」と同等です。そうしたドリルに拒否反応を示す子供に、少しでも勉強をやらせるための設えとしてのタブレットです。ゲーム感覚で取り組ませようとするコンセプトですが、そのことがかえって集中力や思考力の妨げになっていると思います。
中学受験を考えている生徒が取り組むレベルではありません。私が指導していた生徒で、低学年のうちにこの講座をとっていた生徒はいませんでした。
(2)Z会小学生コース
こちらもタブレットコースと紙コースの2つに分かれています。その他、3年~6年のみ中学受験コースがあり、こちらはタブレット必須です。
Z会は通信教育の老舗ですね。昔は難易度に定評がありました。中高生の頃こちらの数学で順位表に名前を載せるためにがんばった思い出が実は私にもあります。
さて、こちらの教材は古典的というか、ゲーム感覚は全くありません。タブレット版も、紙版をそのままタブレットに置き換えただけですが、若干クイズの匂いがしますね。ここはタブレット版をチョイスするべきではないでしょう。いずれ中受から大受にいたる全ての入試や学校の授業から紙が消える日が来るのかもしれませんが(私はそう思っていません)、その日がくるまでは、結局勉強は紙で行うものですから。
難易度はまずまずだと思います。これくらいのレベルなら将来の中受の学習にも役立つと思います。
(3)東進オンライン学校小学部(ナガセ)
東進(ナガセ)は四谷大塚を傘下におさめていますので、授業動画は四谷大塚の講師が担当しています。授業動画を視聴し、ペーパーテストを解く、そういったサイクルです。
レベルとしては、四谷大塚の全国統一小学生テストを念頭においているようですね。このテストは中学受験する小学生は受けない生徒が多いものですので、中受レベルから少しずれるかもしれません。Z会>東進>>>>ベネッセ といったかんじでしょう。
(4)進学くらぶ・リトルくらぶ(四谷大塚)
1~3年がリトルくらぶで、4~6年が進学くらぶです。
こちらは、四谷大塚の教材を教室に行って学べない生徒を想定した通信教育です。
自宅のPC・タブレット等で予習授業を視聴し、ジュニア予習シリーズで勉強し、添削指導や月例テストもある、そうしたスタイルです。映像授業以外は古典的なシステムですね。
中学受験を考えているのなら、どう考えても東進よりもこちらをおすすめします。資本は一緒だとしても。
もともと東進は映像予備校で伸びた企業ですので、四谷大塚が東進に買収された後、急速に四谷大塚も映像授業に力を入れるようになったという経緯があります。
(5)ピグマキッズくらぶ(SAPIX)
難関校実績がめざましいSAPIXの通信教材です。1~4年生用があります。しかし、これをやっている人って周りにいますか? どうも登場以来リニューアルをしていないようで、すっかり名前を聞かなくなりました。内容的には古典的というか、紙のテキストが毎月送られてきて、それに作文の添削指導がある、ただそれだけのシステムです。映像はありません。しかし、レベルは高めでクオリティは悪くないと思います。オーソドックスな通信教育を求めている方には良いと思います。
(6)スタディサプリ(リクルート)
中高生用としてはなかなかよいですね。短い時間の講師の動画を見て、配信されているPDFプリントで勉強するようなスタイルです。講師は予備校系のプロ講師がそろっていて教え方は上手です。しかし、小学生用としては疑問符がつきます。小学生は講義動画を見ただけでは学べないからです。
私が知っているものはこれくらいですね。その他にも小さなところはたくさんあり、評判も良いものもあるようですが、取り上げませんでした。教材開発には多額の先行投資が必要ですので、あまりにも小さなところだと、そのあたりが不安だからです。
塾がやっているものとしては、昔は日能研の「知の翼」というのもあったのですが、8年ほど前になくなりました。
3.おすすめは?
中学受験の準備としてだけとらえるなら、
四谷大塚・サピックス・Z会 のいずれを選んでも間違いは無いと思います。
いずれもゲーム要素がなく、普通に紙の教材で学ぶスタイルです。低学年といえども、いや低学年のうちだからこそ、こうした古典的な学習習慣を身に着けるべきだと思います。
将来サピックスに通うのか四谷大塚系にするのかで選び分けてもいいでしょう。そんなに大差があるわけではありません。入会案内を見て、気に入ったものを選べばよいと思います。3つを較べると、この中ではSAPIXのものが一番親の関与を必要とすると思います。
※残念ながら、中学受験向けの主要な選択肢であるZ会は、中学受験コースはタブレット前提となっています。四谷大塚はまだ紙の香りを残しています。自宅のプリンターで解答用紙をプリントし、解答済の用紙をスキャンして送り返し、添削結果をWEB上で確認するというスタイルです。
4.タブレットについて
勉強にタブレットは不要です。
内容に自信がないところにかぎって、タブレットでゲーム性やインタラクティブ性を演出したがります。
紙で足りるものをわざわざタブレットに置き換えることに意味はありません。
そもそも、教育の長い歴史において、タブレットの登場などほんのごく最近の出来事です。それまでの古典的な「紙教育」で、何か不都合があったでしょうか? 大きな欠陥が生じていたでしょうか? そんなことはないですよね。皆きちんと紙を使って学び、受験し、研究してきました。「紙学習」ができない生徒は、タブレット学習をしても効果は同じ。それが私の持論です。
しかし、世の中はタブレット流行です。これにはいくつかの理由があります。
〇PC(デスクトップ・ノート)の操作は難しく、それを教える側に多少の知識を要するが、タブレットPCはそのハードルが低いので導入しやすい
〇タブレットを使わせるとい、いかにも「ICT教育を実践している感」が出るので、導入することは集客にメリットがある
〇大量生産によりタブレットの価格がだいぶ安くなったので、導入しやすくなった(ベネッセのように無料で送られてくるところも)
〇実際の紙の教材を送るよりコストダウンとなる
〇タブレット教育を売り込んでくる業者が多い(躯体+アプリの組み合わせで営業してきます)
〇ゲームばかりしているわが子でも、タブレット学習ならゲームっぽいので取り組んでくれるのでは? と幻想を抱かせる
どう考えても、「教育効果」を考えているというより、「営業効果」が優先しているようにしか思えないのです。
ただし、タブレットでしかできないものとしては映像・動画の視聴やプログラミングがあります。そのためのタブレットの利用は意味がありますが、別にタブレットでなくとも、もっと大きな画面のデスクトップのモニターを見せたほうがよいと思います。はるかに見やすいですし。
また、タブレットとタッチペンの組み合わせは、実に書きにくいのです。すでに自分の字が確立している中学生以上ならともかく、小学生には悪影響があると思います。教育関連の展示会に行くと、書き心地がよいことを売りにしているタブレットも見かけますが、まだ普及はしていないようですね。
「子どもだまし」のタブレットがない通信教育を選ばれることをおすすめします。
教育DXの是非についてはこちらの記事に、
PCの選択についてはこちらの記事に書きました。よろしかったらお読みください。