中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

【麻布受験生のための】ロジカルライティング授業の紹介 なぜ選挙に行かないの?

今回は選挙の問題について考える授業です。

子どもたちは、大人が考える以上に選挙に興味を持っています。選挙が近づくと、通学路に見慣れぬポスター掲示板が現れたり、駅前で演説がおこなわれていたりするからでしょうか。この機を逃さず、選挙について考えさせることにします。

例によって登場人物は麻布志望の3人組、タロウ・ワタル・ゲンタ(仮名)です。実際の生徒・授業ではなく、過去の授業を再構成したものです。

選挙ポスター

タロウ:先生、みんなもちょっと来て! 僕、すごいの見つけちゃった!

ワタル:すごいって何?

タロウ:来ればわかるって。すぐそこだから。

一同路上に出る。

タロウ:ね、今回の選挙って、立候補者多くない? ポスター掲示板が凄いことになってるんだけど。

ゲンタ:ほんとうだ! しかも同じ政党なのかな? おんなじデザインのポスターで掲示板が乗っ取られてるみたい。

ワタル:ねえ、先生、選挙って誰でも立候補できるんだよね。僕も立候補してみたいな。

ワタル:その前に投票してみたい!

私:よし、それじゃあ教室に戻って選挙について考えてみるか。

 

投票率

私:まずはこのグラフを見てもらおう。

投票率推移 衆議院

ワタル:これは?

私:これは、戦後の衆議院総選挙の投票率をまとめたグラフだ。そしてもう一つ、参議院選挙の投票率のグラフがこれだ。

 

投票率推移 参議院

タロウ:ねえ、どっちもずいぶん下がってきたね。

ワタル:本当だ。昔は70%以上もあった投票率が今じゃ50%くらいになってるね。

ゲンタ:ちょっと待って。先生、投票率って、選挙に投票に行く人の割合だよね?

私:そうだ。投票する権利のことを選挙権って習っただろ。昔は20歳以上、今は18歳以上に選挙権がある。

ゲンタ:ってことはさ、せっかく選挙権があるのに投票に行かない人がこんなにいるってこと?

皆:もったいない!

タロウ:そんなに選挙権がいらないなら、僕にくれればいいのに。

ワタル:そうだよ。僕だって、早く選挙で投票したいって思ってるんだからさ。

私:先生もそう思うな。選挙権拡大の歴史って勉強しただろ? 今18歳以上の国民全員に選挙権があるのは、尾崎幸雄や市川房江等が苦労して戦って勝ち取って来た成果だからな。それを使わないなんて、もったいないを通り越してあきれてしまう。捨てるくらいなら、一所懸命選挙のことを勉強している君たちに分けてあげればいいと思うぞ。

ゲンタ:先生の力で何とかできない?

私:残念ながら私にはそんな力は無い。

 

投票率の下がる理由

ワタル:ねえ、なんでみんな選挙に行かないの? 投票率が下がるってことは、選挙に行かない人が増えているってことだよね。

私:そうだな。ワタルはなんでだと思う?

ワタル:面倒くさいとか? わざわざ投票所にまで行くのが億劫になったとか?

ゲンタ:あ、それわかる!

タロウ:でも、昔は投票に行く人が多かったわけだろ。ということは、だんだん怠け者が増えてきたってこと?

ゲンタ:仕事が忙しくなってきたんじゃないか。

私:選挙の投票日はだいたい日曜日だ。

ゲンタ:じゃあ違うか。あ、どっかに遊びに行く人が増えたとか? 日曜だし、選挙なんか行ってる場合じゃないよ、海に行こうぜ! とか言ってさ。

タロウ:そうかなあ。そんなの調べられないよ。

私:どうやったらそのことを調べられると思う?

ワタル:ううん。例えば選挙の日の遊園地の入場者数を調べるとか? ディズニーランドとか、USJとか。

タロウ:そっか。それじゃあ選挙投票日の海に行った人数も調べてみよう。

ワタル:遊園地と違って海の人数は正確に数えにくいんじゃないかなあ。

ゲンタ:例えばさ、選挙の日のお天気を調べたらどうかな。きっと晴れてる日は投票率下がるはずさ。先生、PC貸して。

一同、しばらくネットを調べる。

タロウ:ほら、ここに天気の日は投票率が下がるって書いてあるよ。

ワタル:でも、こっちには無関係だって。先生、どっちが正しいの?

私:昔から天気と投票率は関係があると言われてはいるな。でもよく調べてみると、必ずしもそうとは言えないようだ。まあ台風レベルの災害になるとそもそも投票に行くために外出できなくなるかもしれないが。

ゲンタ:なんだ。いい考えだと思ったんだけどな。

タロウ:もしかして、選挙に行く気がなくなったとか? ほら、小学校って、理由もなしにさぼると怒られるじゃないか。だから、今日は寝ていたいなとか、ゲームしてたいな、とか思っても、結局学校に行くよね。

ワタル:わかる! ほんと、たまにはさぼりたいときあるもんな。

ゲンタ:でも、僕は学校楽しいよ。もしやってるんだったら日曜日だって行きたいくらさ。

タロウ:だからそういう人はいいんだけど。選挙って、別に投票に行かなくても怒られるわけじゃないよね。だったら、よっぽど選挙に行きたい人以外は、どうでもよくなってきたんじゃないかな。

ゲンタ:ねえ先生、ほんとうにそんな理由なのかな?

私:そうだな。ある新聞社が行ったアンケートを紹介しよう。選挙に行かなかった理由を聞いた結果だ。

投票したい政党や候補者がいないから  48%
自分の一票で政治や社会は変わらないから  36%
政治が信頼できないから  35%
他のことで忙しいから  23%
政治に関心がないから  22%
政治がわからないから  21%
政治に不満がないから  1%

ゲンタ:うわ! ひどいね、これ。

タロウ:ほんとだね。もう選挙や政治に絶望してるって感じだ。

ワタル:絶望より無関心のほうがひどくない?

私:それでは、投票率が低いとどのような問題があるのか、そしてどうしたらいいのかについて書いてもらおう。

 

投票率が低いことによる問題と解決策についての記述

タロウ:「投票率が低いと民主主義じゃなくなってしまうので、がんばって投票するようにしないといけない。そのためには、たとえ投票したい政党や候補者がいなくても投票に行くように頑張る必要がある。」

ワタル:3点!

タロウ:なんで?

ワタル:だって、どうして民主主義じゃなくなるのかが書いてないし、頑張って投票するなんて精神論だし、投票したい政党や候補者がいなかったら投票用紙に何と書けばいいのさ。

タロウ:だからがんばって探すんだよ。

ワタル:ほら、また精神論だ。

タロウ:先生、何点?

私:5点あげよう。投票に行かないと民主主義じゃなくなるって意見は良かった。でもワタルのいうように、その理由まで書ければよかったかな。

タロウ:理由って?

私:例えば日本国憲法の前文を思い出してごらん。

タロウ:日本国民は正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し・・・。あっ!

私:気がついたね。

タロウ:そっか。そもそも選挙で投票するのって、自分たちの代表者を選ぶことだからか。

私:あと、頑張るっていうのは嫌いじゃないぞ。先生もいつも、投票したい政党や候補者がいないときでも、少しで良いと思える候補者や生徒を一所懸命探して投票に行くからな。例えばこの部分も「自分の考えに最も近い候補者や生徒を探すようにして・・・」と書けばよかったな。

ワタル:「投票率がさがったのは、信頼できる政党や政治家がいなくなったことが原因で、本当の問題はそこにある。だから、政党や政治家が国民の信頼を取り戻すように努力する必要がある。」

タロウ:なんか格好いいな。8点くらい?

私:そうだな、7点だ。着眼点が良かった。投票率が下がった原因を、有権者ではなくて政党や政治家にあるとした点だ。そうすると解決策もこうなるね。ただ、有権者に本当に責任がないのだろうか。そこも考えてほしかったな。

ゲンタ:「私たち有権者が政治に無関心になることで、政治家も国民に寄り添った政治を行わなくなり、また私たちが政治に失望するという悪循環になっていることが問題だ。まずは私たちが政治について勉強し、興味関心を持ち続けることが重要だ。そうすると政党や候補者もそれに応えるようになり、投票率は上がると思う。」

ワタル:うわ、完璧じゃん。

タロウ:ゲンタ、いつからこんな記述が書けるようになったの?

私:ゲンタ、よく書けたな。これなら満点だ。

ゲンタ:やったね。

私:結局のところ、私たちが政治に関心を持たなくなることが、政治をダメにするといえるんだ。常に政治についてアンテナを張っておく必要があるってことだね。

一同うなずく。

私:ところで、こんなデータもあるぞ。

年代別投票率

ゲンタ:なにこれ。投票に行くのはお年寄りばかりってこと?

ワタル:若い人ほど選挙に行かないんだ。でもおかしいよね。若い人達のほうが、これから長く生きていくんだからさ、政治にもっと関心があるのかと思ってたよ。

私:さあ、今日の宿題だ。この表からわかることをまとめてきてごらん。