今回のロジカルライティングの授業テーマは「ラーメン屋で儲けよう!」です。
例によって登場人物は麻布志望の3人組、タロウ・ワタル・ゲンタ(仮名)です。実際の生徒・授業ではなく、過去の授業を再構成したものです。
ゲンタ:先生、教えてほしいんだけど。
私:なんだ?
ゲンタ:ラーメン屋を開くのに1000万円以上かかるって言ってたよね。いったい何でそんなにお金がかかるのか、いくら考えてもわからないんだ。
私:ラーメン屋を開く夢を捨ててなかったんだね。
タロウ:僕も知りたいよ。
ワタル:僕も。
私:よしわかった。将来の皆の夢をかなえるために、皆で考えてみよう。
ラーメン屋を開くにはいくらかかる?
私:まず、ゲンタ、どこまで考えた?
ゲンタ:ええと、まずお店が必要だよね。なるべく便利そうなところを借りるだろ。
私:どこに?
ゲンタ:どこでもいいよ、駅前なら。
タロウ:場所は大事だよ。だってさ、行列ができるようなラーメン屋さんに囲まれたらまずいだろ。
ワタル:それにどれくらいの広さのお店にするの?
ゲンタ:それも決めてなかった。
ワタル;それじゃあ僕たちのラーメン屋さんがうまくいくわけないじゃないか?
私:僕たち?
ワタル:どうせ考えるなら真剣にやらなきゃ。
ゲンタ:なんかごめん。
ワタル:先生、ちょっとPC貸して。あとプリンターも。さて、まずはお店の種類を考えよう。
ゲンタ:種類って?
ワタル:ほら、大きな道路に面していて駐車場が広いラーメン屋さんもあるし、ショッピングモールの中にあるお店もあるし、赤坂とか銀座とかの高級そうなラーメン屋さんもあるじゃないか。
タロウ:僕は、普通のラーメン屋さんがいいな。自分たちの住んでいる駅前にあるような、ちょっとお昼を食べるのに便利そうな。
ゲンタ:僕も。
ワタル:よし、それじゃあ東横線にしよう。
ゲンタ:なんで?
ワタル:なんか好きなんだよ、東横線って。井の頭線も好きなんだけど。それで駅は自由が丘がいいと思うんだ。
ゲンタ:なんで?
ワタル:この前遊びに行ったんだけど、もうびっくりするくらい人がいっぱい歩いてたよ。それでも、渋谷みたいにすさまじい人混みってわけじゃないから、ちょうどよいかなって。若い人が大勢いたし。
タロウ:自由が丘なら、僕らが目指してる麻布にも近いから、ちょうどいいかもしれないね。よし、自由が丘にしよう。ワタル、ネットで調べてみて。
ワタル:どれどれ。不動産屋さんのサイトを見てみるね。あ、これなんかどう? 奥沢と自由が丘の間で、新築のビルの1階だって。ほら、写真見てみて。
ゲンタ:ああ、きれいなビルだね。
タロウ:ここにしようよ。で、広さが約20坪だって。この坪って単位よくわからないんだよね。どうして㎡にしないのかな?
私:1坪は3.3㎡だ。
タロウ:ずいぶん中途半端だね。
私:でも、坪って単位は便利だぞ。畳2枚分がちょうど1坪なんだ。
タロウ:へえ。じゃあ、10畳の部屋だと5坪ってこと。
ゲンタ:それならかえって㎡よりわかりやすいかもしれない。で、このビルの部屋は20坪ってことは、40畳か。広いじゃないか。ここにしようよ。
ワタル:月60万円だってさ。これ高いのかな、それとも安い?
タロウ:他のところと比べてみたら?
ワタル:駅にもう少し近いと、面積はここより狭い16坪で66万円ってなってるから、まあだいたいこんなものじゃないのかな。
タロウ:じゃあここに決めよう。
ゲンタ:それで、よくわからないのが、この敷金と保証金と礼金ってものなんだけど。
私:ああ、敷金と保証金っていうのはだいたい同じようなもので、部屋を借りるときに、貸主、つまり家主さんに預けるお金だよ。
ゲンタ:預けるってことは、あとで返してもらえるの?
私:そうだ。部屋をクリーニングする費用を引いて、残りが退去するときに返してもらえる。それから礼金っていうのは、家主に払う手数料みたいなもので、これは返ってはこない。
ゲンタ:じゃあ、保証金6か月、礼金2か月ってことは、60万円×8,つまり480万円を最初に用意しなくちゃだめなんだね。
私:他にも、仲介手数料として1か月分を不動産屋さんへ、それから家賃の2か月分を先に前払いする場合が多いぞ。
ゲンタ:じゃあ、さらに180万円で、これで660万円だね。
ワタル:でも、写真見るとただのコンクリートの部屋だよ。これをラーメン屋さんにするのにはいくらかかるのかな?
私:調べてごらん。
タロウ:ええと、ラーメン屋、内装工事、これで検索するよ。なるほど、坪あたり30万円から50万円ってかいてあるよ。
ワタル:あんまり安っぽい雰囲気にはしたくないから、50万かかるとして、20坪だから1000万円だね。
ゲンタ:それから、キッチンだね。大きな冷蔵庫とか大きなコンロとか。ネットでみると、だいたい200~250万円かかるんだって。
ワタル:それから椅子だよね。いくつ必要?
タロウ:ここを見ると、だいたい30%は厨房スペースだって。それから1坪に2席ってあるよ。だから、6坪が厨房で、14坪がお客さんスペースだから、28席ってことじゃない?
ゲンタ:でもさ、僕きらいなんだよね、狭い席って。隣の人とひじがぶつかりそうなの。
タロウ:わかる! それに厨房が狭いのも嫌だよね。よし、それじゃあ20席にしようよ。全部カウンターでいいよね。
ワタル:そうだね。よくわかんないけど、1つ2万円くらいとして、40万円だね。
ゲンタ:あとお皿とか丼とか。それから鍋も必要だよ。
タロウ:もう細かすぎてよくわかんないから、全部まとめて100万円にしといたら?
ゲンタ:それでいくらになってる?
ワタル:お店借りるのに660万、内装工事に1000万、椅子に40万、食器に100万、これで1800万円。
ゲンタ:なるほど。だからラーメン店開くのには1000万円はかかるっていってたんだね。僕たちのお店は、もう1800万円もかかってるよ。
ゲンタ:おしゃれなお店だからね。
タロウ:それで、この前計算したラーメン屋さんは1日に90杯売れたよね、10席で。だから、こんどはその2倍の席数だから一日180杯売れるってことになるね。1杯1000円として、原価が30%だから、700円×180=126000円が毎日儲かるってことになるね。1か月だと378万円だよ。
人件費の問題
ワタル:ねえ、僕たち3人が働くとして、他に人いらないのかな?
ゲンタ:それは僕が昨日偵察してきた。
タロウ:すごい!
ゲンタ:いや、家族でラーメン食べに行っただけなんだけどね。そこはカウンターに18席あったんだ。それで、数えてたんだけど、厨房には4人いたよ。
タロウ:4人も!
ゲンタ:うん。メインで作ってる人は二人いて、あとは奥のほうで食器洗ったり、何か刻んだりしてる人がいた。だから考えたんだけど、ぼくたち以外にあと4人雇えば、朝担当が3人、夜担当が3人にできるかなって。それで1人が1日ずつ休めるよ。
ワタル:1人の月給が40万円として、4人雇うと160万円か。378万円から160万円引くと、218万円だね。
私:光熱費は?
タロウ:そうか。光熱費も調べないと。ああ、30万円から40万円くらいらしいよ。
ゲンタ:他にも割りばしとかゴミ袋とか細かい出費がありそうだね。
ワタル:じゃあそれも引いて。そうすると、165万円のこったよ。それを3人で分けると、55万円だね。まあ悪くはないと思うけど。
タロウ:週1日しか休めてないけどね。
ゲンタ:夏休みもないけどね。
一同:ううむ。
タロウ:やっぱり人件費が大きいね。
ワタル:思ったんだけど、ラーメンを作る腕は僕らがいるから大丈夫だよね。だったら、その他に雇う人は、アルバイトでもいいんじゃないかな?
ゲンタ:そうだよ、忙しい時間帯だけ働いてもらえばいいんだよ。
タロウ:でも、ラーメン屋さんの仕事って大変そうだよね。アルバイトを募集しても応募してもらえるかな?
ゲンタ:だったら、どんな仕事でもやります!って人を探したら?
ワタル:例えば?
タロウ:外国から働きに来た人とか?
ゲンタ:ああ、それで。
タロウ:何が?
ゲンタ:昨日食べに行ったラーメン屋さん、働いてた人の4人のうち3人が外国の人だったんだ。国まではよくわからかったけど。
私:ちょっとこのグラフを見てごらん。外国人労働者の人数の推移だ。単位は万人。
タロウ:増えてるね! やっぱり出稼ぎ的な?
私:こんどはこのグラフだ。
ワタル:この製造業って、工場とか?
私:そうだ。
ゲンタ:この飲食業っていうのがラーメン屋さんだね。
タロウ:こうしてみていると、やっぱり大変そうでそんなに儲かりそうではない仕事が多い気がする。
私:最後のこのグラフ。
ゲンタ:ああ、昨日のラーメン屋さんで働いてた人、もしかしてベトナムの人だったかもしれない。
タロウ:近所のコンビニでもよく見かけるよね、中国とかフィリピンの人を。
ワタル:じゃあ、そうした外国の人を積極的にアルバイトで雇えばいいんだね。
ゲンタ:でもなあ。ちょっとひっかかるんだ。
ワタル:何が?
ゲンタ:だってさ。日本人ならやりたがらない仕事を、外国の人にやってもらおうっていうことだろ。なんかそれっておかしくないかな?
タロウ:だって、働きたいって人を雇うだけだから、別にいいんじゃないか。
ワタル:僕も気になるな。なんか差別みたいなかんじがする。
タロウ:そうかなあ。無理に働かせようってわけじゃないし。募集したら、たまたま外国の人が応募してきたってだけだと思うけど。
ゲンタ:でも、そもそもアルバイトに応募する人がいるかな、それじゃあ外国の人を雇うことにしよう、っていう発想だったよね。
タロウ:たしかに。
一同:ううむ。
私:なかなか難しい問題にぶつかったようだね。
ゲンタ:先生、外国の人を雇うのって、良いことなんですか、それとも悪いこと?
私:別に良い・悪いという問題じゃないよ。
ワタル:じゃあ、何でひっかかるんだろう?
私:よし。今日の記述の課題は、「外国人労働者の問題について」としよう。最初の予定では、儲かるラーメン屋の条件についてまとめてもらうつもりだったんだけど、こっちのほうが大事だと思うよ。
外国人労働者の問題
タロウ:先生、どう考えていけばいかな。今日の課題って、いつもよりも曖昧っていうか、問題が大きすぎて書く方向性が見えないんだ。
ワタル:僕も同じ。先生、ヒントちょうだい。
私:そうだな。じゃあ、自分に置き換えて考えてごらん。君たちが外国、たとえばドイツに働きに行くことになったら、どんな問題が生じるかな?
ワタル:なんでドイツ?
私:ドイツはビールとソーセージが美味しいからね。
ゲンタ:そういうことね。
タロウ:いきなりドイツに行ったら、まずドイツ語がわからなくて困るよね。そんなんで働けるのかな?
ゲンタ:ドイツ語が話せなくてもできるような仕事しか無理だよ。
タロウ:そんな仕事ってある?
ゲンタ:だから、たとえば農業とか漁業とか。
ワタル:あと、工場で単純作業ならできるんじゃないか? 単語をいくつか覚えればいいんだよ。
タロウ:そうか。それじゃあ、レストランは?
ゲンタ:お客さんと話すの無理だよ。
タロウ:だから、厨房の裏でお皿洗うとか、あとは掃除するとか。
ワタル:あんまりお給料高そうじゃないね。
タロウ:しょうがないよ。ドイツ人がやりたがらない仕事しか回ってこないから。
ゲンタ:住むところはどうするの?
タロウ:どこかアパートでも借りる?
ゲンタ:安いところしか無理だよね。もしかして日本人だからって断られたりして。
タロウ:なんで?
ゲンタ:ほら、すぐ靴を脱ぎたがるとか、焼き魚焼きたがるとか。あと天ぷらも嫌がられそうだよね。
ワタル:天ぷらと焼き魚は我慢できるけど、僕、納豆は外せないな。毎朝食べてるし。
ゲンタ:それも匂いが嫌がられるかもね。
私:さあ、そこでもう一歩進めるよ。現地で君たちは結婚したんだ。同じ日本人の女の子とね。どんな問題が生まれるかな?
ゲンタ:別にとくには無いと思うけど。
タロウ:わかった! 子どもが生まれる問題だね。
ゲンタ:それって問題なの?
タロウ:だってさ、言葉もわからなければお金もないのに、病院探すのだって一苦労だよ。
ワタル:あと、子どもが行く学校は? 現地のドイツの学校に通うとしても、まあ子どもはドイツで生まれ育ってドイツ語大丈夫だとしても、親がわからなければ、先生と相談もできないじゃないか。
私:そろそろ書けそうだね。
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ワタル:「外国人労働者は、日本人よりも安い賃金で働かされる場合が多い問題がある。また、子どもの教育が難しい。」
タロウ:「日本語が十分に話せない外国人労働者は、アパートを貸してもらえなかったり病院で断られたりする差別的な扱いをうけることもある。」
ゲンタ:「日本人が嫌がる仕事を外国人に押し付けるという考え方は間違っている。日本語や日本の文化をきちんと学べる環境を整え、日本人だから、外国人だからと区別しないで暮らしていけるようにするべきだ。」
私:素晴らしい答だね。3人の解答を合体するとパーフェクトだ。
皆:また3分の1人前だ。