今回も、ロジカルライティングの授業を紹介します。
授業テーマは「日本の貿易の変化 その2」です。
例によって登場人物は麻布志望の3人組、タロウ・ワタル・ゲンタ(仮名)です。実際の生徒・授業ではなく、過去の授業を再構成したものです。
貿易額の変化
私:今日は、昨日に続いて日本の貿易の変化について考えてみるよ。
皆:はい。
私:ところで日本の貿易の特徴といえば何をあげるかな? はい、ワタル。
ワタル:加工貿易
私:そのとおりだね。加工貿易ってどんな貿易だったか言えるかな?
ワタル:原料を輸入し製品に加工して輸出する貿易のことです。
私;完璧だ。でも、どうしてそんな貿易を行っているのかな?
ワタル:どうしてって・・・・・。
ゲンタ:それは日本には資源が無いからだよ。だから輸入してるんだ。
私:じゃあ、製品を輸出する理由は?
タロウ:儲けるため!
私:正解だ。貿易というのは、言ってしまえば商売なんだね。何かを外国に売ればお金が入ってくる。何かを外国から買えばお金を支払わなくてはならない。
タロウ:じゃあ、なるべく輸出して輸入しないのが一番だね。
ゲンタ:それが貿易黒字ってことだね。あ、昨日、グラフで見てたら、とくに1980年代からの20年以上、日本はずっと貿易黒字だったよね。つまり儲かってたってことだね。
私:このグラフを見てごらん。1981年から2010年までの30年間分だ。右の目盛は緑の線、つまり黒字額を示している。
タロウ:ほんとだね。ずっと貿易黒字だったんだね。
ゲンタ:先生、2008年に急に貿易額も黒字額も減ってるんですけど、何かあったんですか?
私:いいところに気が付いたね。2008年には、アメリカの投資銀行の大手だったリーマン・ブラザースという会社が倒産したんだ。その負債総額は何と6000億ドルだった。
タロウ:6000億ドル! えっと、日本円でいくらだろう? ゼロがたくさんありすぎてわかんないよ。
私:当時の相場だと64兆円くらいだね。
皆:64兆円!
ワタル:でも何で倒産したのかな?
私:ううむ、これはけっこう難しい話なんだが。ま、簡単にいうと、銀行からお金を借りて住宅を買ってた人達がそのお金を返せなくなってね。それがきっかけとなって連鎖反応的に金融危機が広がったんだ。
タロウ:それが日本にも影響したんだね。
日本の貿易品の移り変わり
私:ここで、日本の貿易品を見てみよう。まず、1960年の輸入品だ。
ワタル:へえ。綿花とか羊毛とか輸入してたんだ。どっちも日本でとれないからだよな。
タロウ:繊維製品の原料だけで17.6%もあるよ。
ゲンタ:先生、鉄くずなんて輸入してどうするの?
私:ああ、それは鉄の原料にするんだ。
タロウ:こうしてみると、機械類の7%以外は原料ばっかりだね。
ゲンタ:だから加工貿易してたんだよ。ということは、輸出品は?
私:では、1960年の輸出品のグラフを見てみよう。
ゲンタ:ほら、やっぱり加工貿易だよ。
タロウ:ほんとだね。30.2%が繊維製品で占められてる。
ワタル:自動車は1.9%だってさ。少ないね。
ゲンタ:先生、今はどうなってるの?
私:よし、この60年後、2020年のデータを見てみよう。まず輸出品から。
タロウ:うわ! わかってはいたけど、あらためてグラフでみると、凄いね。機械類と自動車で半分以上だ。
ワタル:さすが加工貿易国。工業製品ばっかり輸出してるね。
ゲンタ:もう繊維製品は輸出してないんだね。
私:それでは、2020年の輸入品割合のグラフだ。
タロウ:あれ? 予想と全然違う!
ゲンタ:石油とか液化ガス、石炭の輸入が多いのはわかるんだけど。
ワタル:日本で化石燃料とれないからね。
ゲンタ:でも、機械類の輸入がこんなに多いなんて。
タロウ:これじゃあ、まったく加工貿易じゃないぞ。
私:いったいどういうことかわかるかな?
一同:ううむ。
私:よし、ここでたとえ話をしよう。
たろう:でた! 先生のたとえ話!
工業製品を輸入する理由
私:今ここに1軒のピザレストランがある。
タロウ:昨日はラーメン屋で今日はピザか。なんで?
私:ピザが食べたい気分だからだ。皆も好きだろう?
一同:うん!
私:ピザの材料ってどんなものがあるかな?
タロウ:小麦粉とトマトとバジルとチーズ。
ゲンタ:タロウはマルゲリータピザが好きなんだね。あとはオリーブオイルと、それからアンチョビとかソーセージとか。
ワタル:鶏肉も載せよう。
私:夢がふくらんだみたいだな。ところでこのレストランではこれらの材料を自分のところで作っているのかな?
タロウ:まさか! 小麦畑付きのレストランなんて聞いたことないよ。
ゲンタ:牛を飼ってチーズをつくる? ありえない!
私:そうだな。では、どうやって手に入れている?
ワタル:そりゃあ他所から買ってくるんだよ。当たり前じゃないか。
私:そうだな。つまりこのレストランでは、ピザの材料をよそから買ってくるんだな。それを店内でピザに加工してお客さんに出す。
タロウ:あ! 加工貿易だ!
ゲンタ:貿易というより、加工商売だね。原料を他所から買ってきて製品に加工してお客さんに売る。
ワタル:しかも、原料の価格よりピザの価格のほうが絶対に高いからもうかる!
タロウ:それに、お店によって値段も違うよね。外から見えるところでシェフがピザ生地を作っているようなお店って美味しいよね、高いけど。
ゲンタ:高度な技術で加工して高く売るんだね。
私:そうだな。先生も薄い生地のピザが好きだ。何枚でも食べられるぞ。
タロウ:それでピザレストランがどうしたの?
私:ごめんごめん。ついピザが頭に浮かんでしまって。いいか、この美味しいピザレストランで、君たちはとんでもないものを目撃してしまったんだ。
タロウ:幽霊とか?
ゲンタ:魔物じゃない? ピザの姿の。
ワタル:なんかかわいい。
私:そうではない。なんと、お店の前に宅配ピザのトラックが停まっていたんだ。しかも毎日のように。
タロウ:べつにおかしくはないよ。ピザを配達してくれるんだろ。
私:違う。止まっていたのは、某有名宅配ピザチェーンのトラックだ。このお店のものではない。しかも、そのトラックから何やらピザらしき物をお店に運び入れていたんだ。
ゲンタ:それは変だね。
タロウ:お店で働いている人のお昼じゃない?
ワタル:ピザレストランの人が、他所から宅配ピザをとるわけないよ!
タロウ:確かに。変だね。
私:その理由をこれからみんなで推理してみよう。
ゲンタ:わかった! お店のシェフが休んでるんだよ。
タロウ:毎日? それじゃあそもそもシェフがいないことになるよ。あっ、でもそれもあるかもね。
ワタル:ひどいお店だね。宅配ピザを、自分のところで作ったふりしてお客さんに高く売るの?
ゲンタ:でも、最近の宅配ピザって美味しくなったってお父さんが言ってたよ。僕のうちでも、たまにとるけど美味しいよ。
タロウ:それにレストランより宅配ピザのほうが安いしね。
私:確かにそうだな。先生は薄いピザも好きだけど、宅配ピザのもっちり分厚い生地も好きだ。3枚はいけるな。
皆:先生、ちょっと黙ってて!
私:ごめん。
タロウ:あっ、こういうのは? ほら、ピザって生地を作るのが難しいよね。だから、生地だけ買ってるんだよ。そこにお店でいろいろトッピングして焼いているんだよ。
ワタル:なるほど。そうか、うちでもたまに、スーパーで買ってきた冷凍ピザ生地に、自分たちで好きなものをトッピングして焼いて食べることあるよ。
ゲンタ:そのほうが、高い給料でシェフを雇うより安上がりだしね。うん、そうに違いないよ。
タロウ:あともう一つ思いついた。きっと宅配ピザ屋さんが怒ってきたんだよ。あなたのレストランが繁盛しすぎて、うちの宅配ピザが売れなくなってしまった、どうしてくれる!って。
ワタル:どうしてくれるっていってもなあ。そもそもお店を選ぶのはお客さんだしね。
タロウ:それでも、喧嘩はしたくないじゃないか。それで、このレストランは、宅配ピザ屋さんから、ピザを買ってあげることにしたんじゃないか?
私:なかなか面白い意見が出てきたね。まとめるとこういうことかな。
1.宅配ピザを仕入れたほうが自分のレストランで作るより安い場合
2.宅配ピザを仕入れたほうが自分のレストランで作るより美味しい場合
3.ピザの生地だけを宅配ピザ屋から仕入れて、それを店で加工して売る場合
4.宅配ピザ屋から脅されている場合
タロウ:そうなるね。でも、なんだか2番目の理由って哀しいね。
ワタル:でも、最近宅配ピザのクオリティが上がってきているから、そんなこともあるかもよ。
ゲンタ:僕わかったよ。日本がピザレストランで、自分のところで作れる技術があるはずなのに、なんで工業製品をこんなにたくさん輸入しているのかってことだよね。
タロウ:そうか! つまりまとめるとこんなこと?
1.製品を輸入したほうが日本で作るより安い場合
2.製品を輸入したほうが日本で作るより品質が高い場合
3.部品を輸入して日本で組み立てる場合
4.外国から脅されている場合。
ワタル:あっ! 昨日先生言ってたよね。1992年にアメリカ大統領が攻めてきたって。
ゲンタ:あったあった。大統領がアメリカの自動車会社の偉い人達を連れてきて、日本にプレッシャーかけてきたんだよね、アメリカの車を買えって。
タロウ:なるほどなあ。そういえば、この間うちは冷蔵庫買い替えたんだけど、ハイアールってメーカーのだった。中国の会社なんだってさ。でも、一番安かったからそれにしたんだけど、よく冷えるし、庫内も広いし、使い勝手いいよ。
ゲンタ:うちはテレビ買った。50インチのやつ。
ワタル:いいなあ。うちも大きいの欲しいんだけど。でも高いんだよね。
ゲンタ:それがそうでもなかったみたい。LGっていう韓国のメーカーのものだったから、日本製の半額以下だったていってたよ。
ワタル:へえ。それならうちでも買えるかな。お父さんに聞いてみようっと。
ワタル:そういえば、お兄ちゃんが中学生になって買ってもらったスマホ、OPPOってどこのブランドなのかと思ったら中国だった。
私:先生の乗ってる自転車は台湾製だよ。
ワタル:ああ、あの青い自転車。イタリアのブランドだって自慢してたじゃないか。
私:イタリアのブランドだけど台湾で作ってるんだよ。実は自転車は台湾の技術がとても高いんだよ。台湾製なら安心できるって言われてるよ。
タロウ:つまり、アジア諸国の技術力が上がってきて、昔は日本でなきゃ作れなかったような工業製品、例えば液晶テレビとかも、中国とか韓国とかで作れるようになって、それが高品質で価格も安いから輸入するようになった、ってことだね。
私:それに、日本では作れない工業製品もあるからね。
タロウ:例えば?
私:CPU
タロウ:何?
私:中央演算装置っていってね、コンピューターの心臓部なんだ。
タロウ:ICならわかるんだけど。
私:ICっていうのは集積回路のことだね。登場したころは、数十個の電子部品、それを素子というが、その素子をわずか1㎝角くらいの大きさに集積したことで、画期的な技術だったんだ。それが、やがて1000以上の素子が集積される大規模集積回路、つまりLSIに発展した。こうしたLSIが普通のパソコンにもいくつも積まれている。その役割は様々だが、おおざっぱにいって、計算を担当する心臓部の働きと、情報を蓄えておける働きにわかられるかな。その計算担当の心臓部のチップをCPUと呼んでいる。残念ながらこれを作れる会社は限られていてね。アメリカのインテルとAMDが2大メーカーで、パソコンはこのどちらかのCPUが使われているとみて間違いない。さて、このCPU以外にも、日本で作れない工業製品があるよ。
ゲンタ:先生、ヒント!
私:うん。すごく高い。1つの価格が300億円から500億円くらいする。
タロウ:500億! 1個で? なんだろう、それ。
ワタル;わかった! 船!
私:たしかに船も高いな。でも、大型貨物船でも数十億円で買える。
ゲンタ:じゃあ、飛行機!
私:正解! 飛行機の中でも大型旅客機は日本では作っていない。
タロウ:どうして?
私:作れないからだ。三菱という企業が、15年間頑張って開発にチャレンジしたが結局2023年に撤退した。
タロウ:じゃあどこで作ってるの?
私:三大メーカーとしては、アメリカのボーイング、フランス等ヨーロッパのエアバス、そしてブラジルのエンブラエルだね。それではそろそろ記述してもらおう。テーマは、「どうして日本は工業製品を多く輸入するようになったのか」
工業製品輸入が増加した理由の記述
タロウ:できた。「アジア諸国の技術が向上したため、テレビや自転車などの工業製品を多く中国や韓国などから輸入するようになったため。」
ゲンタ:短いね。5点くらい?
私:そうだな。6点あげよう。
タロウ:どこがダメだったの?
私:まず、「~ため。」を2回続けた。間違いではないが、日本語としてカッコ悪い。
タロウ:だって。他に思いつかなかったから。
私:思いついているじゃないか。「~から。」を使えばいいんだよ。
タロウ:あっ、そうだね。あとは?
私:具体的な工業製品や国を入れたところはとても良かった。
タロウ:だって、先生がいつも「具体的に書け」っていうから。
私:ただし、製品輸入が増えた理由として最重要なことが書かれてないんだ。
タロウ:なんだろう?
ゲンタ:僕それ書いたよ。「日本で作るよりも中国や台湾から輸入したほうが安いため、冷蔵庫や自転車などをたくさん輸入したから。」
ワタル:これも6点じゃないか?
私:そうだな。冷蔵庫と自転車ってチョイスも微妙だが、具体的な製品をあげたのは良い。国も書いた。でも、理由が1つしか書いていないね。
ゲンタ:じゃあ、ぼくの解答とタロウの解答をくっつけたら?
私:8点だ。
ワタル:ぼくの解答もくっつけたら?「日本は1980年代に工業製品を輸出しすぎたため貿易摩擦がおきた。そこでなるべく工業製品を多く輸入するように努力したから。」
私:おお、そっちを書いたか。そうだな、3人の解答を合体させれば10点になるな。
ワタル:ぼくたち半人前だってことだね。
タロウ:違うよ、3分の1人前だよ。
ゲンタ:なんかそれヤダ。