今回は、以前の授業で未解決だった路線バス問題の続きについて考えます。
例によって登場人物は麻布志望の3人組、タロウ・ワタル・ゲンタ(仮名)です。実際の生徒・授業ではなく、過去の授業を再構成したものです。
1.路線バスの現状
タロウ:先生、僕この前の授業の後、久々にバスに乗ってみたんだ。
私:ほお。それでどうだった?
タロウ:遅いし臭いしさんざんだったよ。いつもなら電車で15分で着く距離なのに、バスだと40分以上かかったんだ。いちいちバス停で止まるから、なかなか進まなくて。あと、排気ガスのにおいがして嫌だった。
ワタル:そりゃあしょうがないよ。道路走ってるんだし。バス停に止まってくれなければ、タロウだってバスに乗れないだろ。
タロウ:あと、バスがなかなか来なくてさ。僕がバス停に行ったら、ちょうど前のバスが発車したところで間に合わなかったんだ。時刻表見たら、次のバスが10分後だっていうから待ってたんだけど、結局来たのは15分後だったよ。何あれ?
ゲンタ:あ、それわかる! 僕もいつもバス乗り逃がすんだよね。なんでだろ?
ワタル:たまたまだよ。
タロウ:もう絶対バスに乗らないことに決めたよ。電車のほうが早いし時間に正確だし。バスに乗るくらいの距離なら自転車のほうが楽だし。
私:なるほどな。タロウはバスに乗らないことに決めたんだね。でもタロウ、バスに乗ってみて他に気が付いたことはないかな?
タロウ:他にって?
私:他にはどんな人が乗ってたかな?
タロウ:お年寄りばっかりだったよ。あ、あと、ベビーカー押したお母さんがいた。バスに乗るの大変そうだったから、僕手伝ってあげたんだ。
私:それは偉かったな。
ゲンタ:そういえば僕のおじいちゃんも、いつもバス使ってるよ。電車に乗ればすぐなのにさ。
私:それじゃあ、そのことについて考えて記述してもらおうかな。「路線バスを利用するのはどんな人で、なぜ利用しているのか。」これがテーマだ。
2.路線バスの利用客とその理由
私:それじゃあゲンタの答を見てみよう。
ゲンタ:「路線バスは、お年寄りがおもに利用しています。なぜなら、仕事をしていないお年寄りは時間が余っていて、急ぐ必要がないからです。」
タロウ:それ、僕の答えと全く同じだ!先生、満点でしょ?
ワタル:満点のわけないよ。お年寄りは暇だとか急ぐ必要がないとか、偏見じゃないか。
ゲンタ:だって、おじいちゃんに聞いたんだよ。どうして電車じゃなくてバスにばっかり乗るのかって。そしたら、時間がたっぷりあるからねえ、だってさ。
私:たしかに急いでいるときには、バスは時間が不正確だから困るかもしれないね。ところで、お年寄りが多く利用していることには他にも理由があると思うよ。
ワタル:僕の答えは?「路線バスは、目的地まで急いで行く必要が無い人が主に利用しています。バスは地下鉄とくらべて外の景色がみえるので、町の様子をゆっくりと眺めながら利用するのに適しているからです。」
タロウ:なんだよ、どんな人が利用しているか具体的に書いてないじゃないか。それに景色を眺めたいって、そんなの理由にならないよ。
私:先生はこういう答え好きだぞ。確かにバスは移動手段だけど、それだけではない利用法・目的を思いついたところがとても良い。そこを評価して7点あげよう。
タロウ:あげすぎだよ! でもなんで3点減点したの?
私:それは、タロウやゲンタの話にでてきていたお年寄りが多く利用している理由についてもう少し掘り下げて考えてほしかったからだ。誰かわかるかな?
タロウ:お年寄りは暇だってことと、景色を眺めたいってこと以外に?
私:そうだ。
ワタル:もしかしてだけど。お年寄りの行動範囲に関係あるかな?
私:いいね。
ワタル:僕もバスに乗ってるときに気が付いたんだけど、停留所の名前って駅の名前とは違ってるよね。〇〇病院前とか、〇〇カルチャーセンター前とか。なんか身近っていうか、いかにもお年寄りが行きそうなところばっかり通っているような気がするよ。
ゲンタ:なるほど! そういえばおじいちゃんも、病院行くときにいつもバス使ってる。
タロウ:先生、質問いいかな?
私:なんだ?
タロウ:バスに乗るとき気が付いたんだけど、お年寄りのお客さんたち、みんな定期みたいなの持ってたんだ。僕みたいにお金で払ってる人なんかいなかったよ。あれなんだろう?
私:よく気が付いたな。たぶんそれはシルバーパスだろう。
タロウ:何それ?
私:地域にもよるんだけど、例えば東京都は、お年寄りのバス乗り放題パスが、半年で1000円から10000円くらいで買えるんだ。
タロウ:へえ。バスの大人運賃ってたしか210円だったから、往復で420円だろ。1万円だとしても、1か月くらいで元がとれそうだよ。でも何で金額にそんなに差があるの?
ゲンタ:僕知ってるよ。おじいちゃんもシルバーパス持ってるから。収入によって差があるんだよね?
私:そうだ。このシルバーパスのようなものがお年寄りでバスを利用する人が多い理由の一つだね。他にもあるかな?
皆:先生、ヒント!
私:じゃあ、地下鉄の入口とバス停の写真を見てごらん。
ワタル:わかった! そうか、そういうことか。
ゲンタ:なるほどね。
タロウ:何?何なの?
ワタル:駅って階段ばかりじゃないか。だからお年寄りは嫌いなんだよ、きっと。
タロウ:そうか!
私:みんなわかったみたいだね。普通の鉄道にしても地下鉄にしても、駅は階段が多いからね。2000年に交通バリアフリー法という法律ができたこともあって、最近はエスカレーターやエレベーターが整備されているけれど、それでもエレベーターまで遠かったり、あとはエスカレーターが苦手なお年寄りも多いからね。だからバスが人気なんだろうね。
タロウ:でも、バスだって乗るのに階段がちょっとあるよ。
私:最近は、低床バス、ノンステップバスというものが増えていて、段差もずいぶん小さくなってきている。さらにバスを乗降口側に傾けることができるバスもあるよ。
3.バスの路線網について
タロウ:先生、前回にお客さんがあんまり乗ってないバスは環境に悪いって話になったよね。
ゲンタ:そうそう。それについて考えることになってたよ。
私:覚えてたんだね。たしかに大型バスに数名しかお客さんが乗ってないのは環境に悪いことは間違いない。みんなならどうしたらいいと思う? そうだ、これを記述にしよう。
タロウ:書けた!「バスの乗客が満員になるまでバスが発車しないようにすれば、常に満員で運行されるために最も環境にやさしくなる。」
ワタル:タロウの意見にしたがうと、始発からしかバスに乗れなくなるよ。それじゃあバスの利点がなくなるじゃないか。
タロウ:じゃあ、ワタルはなんて書いたの?
ワタル:「利用客が多い時間帯や路線だけ運航して、それ以外の路線や時間帯は廃止する。」
ゲンタ:それじゃあ、うちのおじいちゃんが困るよ!病院行けなくなっちゃう。僕ならこうするな。「バスを小型化して定員を減らし、その代わりに本数を増やすことでバス停で待つ時間を減らすとともに、道路の渋滞も防ぐことができる。」
タロウ:それいい!
私:それはなかなかいいアイデアだね。すでに小型のバスを運行している地域もあるよ。見たことないかな?
皆:見たことない。
私:普通の大型バスが定員80名くらいなのに対して、小型バスは定員が20名くらいなんだ。コミュニティバスなんてよばれているね。これだと、狭い住宅街も走ることができるし、より身近な交通手段となるね。もちろん問題もあるけど。
ゲンタ:それはそうだよね。バスの運転士さんが大勢必要になるから、運転士さんを集めるのも大変だし、費用もかかるってことでしょ?
私:その通り!
タロウ:それじゃあバスを大型化すれば? 2台のバスが真ん中でくっついているの、僕見たことあるよ。
私:連節バスというものだね。たしかに最近日本で増えてきている。でも、それだと一度に大勢の乗客が見込める広い道路しか走らせることはできないね。
皆:うーん。難しい。
4.LRTという選択肢
私:実は、もう一つの選択肢があるよ。
タロウ:わかった!自転車!
ゲンタ:お年寄りが乗ったら危ないじゃないか。
私:ヒントはこの写真だ。(道路に線路のようなものが見える写真を見せる)
じゃあ、次回はこれについて皆で考えることにしよう。
身近な交通手段である路線バスですが、利用したことのない生徒も大勢います。駅の近くに住んでいたり、家で日常的に車を利用していたりする場合ですね。とくに東京の山手線の内側に住んでいると、歩いて行ける範囲に異なる路線の地下鉄の駅が複数ある場合も多く、ますます路線バスを利用する機会はありません。しかし、乗り降りが気軽で階段も使わなくて済むバスは、通勤・通学時間以外の時間には多くのお年寄りが利用しているのです。前回はバスの環境負荷について考えましたので、今回は身近な生活を支える交通手段としてのバスについて考えてもらいました。
地図を見てコミュニティバスのルートを考える問題など、中学入試では複数校で出題されているテーマです。
次回は、LRTについて考察してもらう予定です。