中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

広尾学園についての感想



何人かのお母様に質問されました。

広尾学園って本当のところどうなんですか?」

質問してきたお母様方は、皆ご自身が中学受験経験者ばかりです。その頃は存在しませんでしたからね。それなのに、急に話題に上るようになり、偏差値表の上のほうで見かけるようになった。気になるのはわかります。

そこで、今回は広尾学園について書いてみたいと思います。もちろん、広尾学園を持ち上げるつもりも貶めるつもりもありません。

例によって、私個人の主観(含む偏見)にもとづく感想レベルの話ですので、その点はご容赦ください。

1.偏差値について

手元にたまたまあった6年前のサピックスの偏差値表を開いてみました。

偏差値

この学校の入試は細分化され過ぎていてとてもわかりづらいのですが、2月1日の午前入試の偏差値で見ることにします。午後入試はどの学校も偏差値が高く出るのが当たり前ですので。

一般に大学付属の共学校は女子の方が偏差値が高めにでるものです。男子は大学入試でより上を目指す子が多いのに対して、女子は大学入試を回避して中受で受験生活を終わらせようとする方も多いからですね。そう思って男女に分けて調べてみましたが、とくに差はなさそうですね。大学付属ではないからでしょう。

2017年当時の偏差値53というと、男子では早大学院、女子では洗足学園が並んでいました。2024年の偏差値57でみると、男子では早稲田実業、女子では洗足が58,吉祥女子が55でしたのでその間ですね。

サピックスの偏差値が四谷大塚日能研より数字が低く(5程度)出るのは知られているところですが、他塾の偏差値を確認しても同じ傾向がうかがえました。

実は、この学校の偏差値については、高くでるように操作しているのではないか、などと言う方もいます。

上の表をご覧ください。第一志望校としてあがることの多い学校の多くは、2月1日の午前に入試を行います。広尾学園のそこでの募集人員はわずか50名です。また、2月1日の午後入試の募集人員も70名となっています。

2月1日午前のみの入試を行う学校が300名程度の定員で入試を行うことを考えれば、あきらかに募集人員が少なすぎます。また、1日の午後入試といえば、午前に主要校(開成・麻布・桜蔭・女子学院・渋谷渋谷等)を受験した生徒たちがこぞって受けにきますからね。必然的に偏差値は急上昇するというわけです。立地からいうと、歩いてこられる麻布や、ご近所といえる渋谷渋谷あたりから受けにくる受験生が多そうです。

このことをもって、「高偏差値に見せかけるために、故意に受験人数をしぼった入試を細分化して複数日程で実施している」

これを偏差値操作とよぶのでしょう。

しかし、入試日程の細分化など、今や珍しい話でもありません。受験生の立場からすれば、入試機会が複数あったり午後入試があることはとても助かりますので、悪い話ではないはずです。学校としても優秀な生徒に一人でも多く進学してもらう機会を提供しようとしているわけですので、実に利にかなっています。

つまり、「偏差値操作のための少人数複数回入試」なのか、「複数回入試をしたことによる高偏差値」なのか、どちらともいえないわけですね。

学校が意図して高偏差値を演出しようとしているのかはわかりませんが、受験機会を多く設定したことによって、結果として高偏差値となったとしても、それをとやかく言われる筋合いではないでしょう。

例えば、女子人気校の一つである豊島岡は、3回も入試を行っています。しかも1回目の入試日は2/2です。明らかに桜蔭を受験した生徒の落穂拾いととられそうですね。しかしこの学校についてそういうことを言う人は少ないと思います。桜蔭に合格しながら豊島岡に進学する生徒もいるという噂です。学校自体に魅力があれば、このような疑惑は持ち上がらないと思うのです。


ところで、学校が公表している募集要項には、「昨年度実績に基づく合格見込み数」まで載せられていました。もしかして、「午後入試は定員を70名に絞って高偏差値操作をしているといわれているけれど、実際には270名も合格を出しているのですよ。」というアピールなのかな? などと考えてしまうのは、業界が長すぎる私の邪推です。

本当のところは、「これだけ合格が出ますから安心して受験してください」というメッセージでしょう。

 

2.海外大学進学

学校の公表データ等をみると、昨年実績で、海外大学延べ合格者数は148名となっています。1学年270名のうちインターナショナルコースに在籍している生徒は計80名ほどで、そのうち半数が帰国子女だそうです。帰国生入試では合格者を100名~150名ほど出しているはずですので、歩留まりは低いですが、これは帰国生入試全般に見られる傾向です。入試日程が分散していますので、多くの帰国生が多数の学校を受験するのが普通だからです。

また考慮しなくてはならないのは、1名の生徒がどれくらいの海外大学に合格したかという数字です。例えばアメリカの場合、700くらいの大学が採用している共通願書ともいうべきCommon Applicationというものがあります。インターネットでこちらに入力することで、個々の大学への出願がずいぶん省力化しました。そのために一人当たりの出願数が増加傾向にあるのです。

広尾学園の華々しい海外大学合格実績は魅力です。しかしその数字が、「帰国生入試で進学した元々の英語力がネイティブの生徒たちが出した実績」なのか、「日本で中学受験勉強をして進学した生徒が進学後に英語を頑張ってチャレンジした成果」なのかを見極める必要があると思っています。私の考えでは、いわゆる「純ジャパ」といわれる日本人が中高で頑張って英語を勉強して海外難関大学アイビーリーグ等)へ進学するのは非常に困難だと思っています。もし可能だとすると、例えば国際数学オリンピックや国際物理オリンピックといった、世界規模の大会で金メダルを獲得するレベルの生徒なら可能性があります。また芸術分野やスポーツ分野で秀でた才能があると、これも評価の対象となります。「英語力があるのは当たり前。学力が高いのも当たり前。その上にさらにプラスアルファの才能があること」というのが海外大学、とくにアメリカの主要大学で求められているのです。単純に考えても、全米の高校生がライバルとなる中で、ハーバードやプリンストンに選んでもらうのは困難だということです。

もっとも、こういった次元の才能が必要なのは、アイビーリーグを始めとした主要大学の話です。例えばコミュニティカレッジなら、成績不問・TOEFLiBTスコア45以上という学校も存在します。

広尾学園の海外大学実績をみると、なかなかのレベルの大学への合格が出ていますね。「海外大学への進学のノウハウ」があることは間違いないでしょう。

 

3.校内の雰囲気

 これは、私が学校を訪れた時に感じたものですので、思いっきり主観、ただの感想であることをお断りしておきます。

 駅からも近い、きれいな校舎です。学校というよりは9階建てのオフィスビルにしか見えませんが、これは仕方ないことです。校地は狭いのですが、それを上手に利用して作られていますので、中に入るとあまり狭さは感じません。体育館の屋上に小さなグラウンドがあります。1階には綺麗なカフェテリアが2か所も設けられています。メニューも充実しています。教室も明るく、実験室の設備も充実しています。

 新しい学校は皆こうなのかもしれませんが、古くさい校舎・教室での中高生活を送った私からすると、実に羨ましい。場所も「広尾」ですしね。

隅から隅まで先生方の目が届きやすいのだろうなと感じました。これなら親の安心感は高そうです。

ただ、綺麗すぎて、物陰とよべるような余地が無いことが若干気になったことも事実です。学校周辺に寄り道できるような所も皆無です。もちろん広尾の商店街やおしゃれなカフェはいくつもありますが、繁華街ではありません。至極真面目な良い子が育つ環境だと思います。たぶんそれでいいのでしょう。しかし、教師の目の届かぬ物陰だらけの校舎で中高生時代を過ごした私からすると、少し息が詰まりそうに感じました。

私は、学校を訪れたときには、教室内や廊下の掲示物に注目します。そこによそ行きの説明会には現れない「素」の生徒の姿がうかがえるからです。英語で書かれた生徒の制作物が目につきますね。さすが「インターナショナル」な学校です。ただし、よく内容を読んでみると、年齢の割には少々幼い印象を受けました。下手に背伸びしていないのは好ましいともいえますが、中高生は背伸びすることで実際に背が伸びる、つまり大人ぶることで、知性が発達すると私は思っています。一般入試の生徒の英語力は普通のようですね。

 

4.伝統について

 この学校には伝統はありません。母体となったのは「順心女子学園」という高校ですが、その女子校の伝統を何も引き継いではいないと思います。

 順心女子学園時代に、学校立て直しのために、荒れていた某都立高校を立て直した手腕を買われて着任なさった校長先生にお会いしたことがあります。学校立て直しのプランをお話してくださいました。「まずは挨拶の徹底から」とおっしゃっていたのですが、うまくいかなかったようです。数年後には「広尾学園」として生まれ変わりました。

 広尾学園をここまでにしたのは、理事長として赴任した大橋清貫氏の手腕です。もともと塾を経営されていたこともあり、塾目線での改革を行ったと私は理解しています。それがうまくいったのですね。

 おそらくは、この学校を選ぶ生徒・保護者というのは、学校の伝統などに重きを置かない方なのだろうと思います。旧態依然とした教育よりも、より新しい教育を求める方なのでしょう。そうした方にとっては、この学校は魅力的なのだと思います。

時代によって変わらないものが教育なのか、教育は時代によって変わらなければならないのか。難しいテーマですね。

実は私はどちらかというと前者よりの考えに近いのです。すいません、古い人間なもので。だから、「新しいから」「グローバル化しているから」といった理由で学校を選ぶことをおすすめはしていません。広尾学園を選ぶのなら、じっくりとその教育の核心を見極めて選ばれるべきだと思っています。

 しかし、そんな私でもこの学校の大躍進には目を瞠らざるを得ません。今後の進展が注目される学校の一つであることは間違いないでしょう。