中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

帰国生入試の適性検査問題から考える公文国際学園という学校



公文国際学園の帰国生入試、適性検査の問題を見てみよう

この学校は、評価の分かれる学校だと思います。
褒める人もいる一方、そうでない人も。
私の教え子でも、過去に一人しか進学しませんでした。
非常に優秀なお子さんで、どの最難関中学でも合格できる力を持っていたのですが、お父様の固い意志により、公文国際に進学しました。
とても残念だった思い出です。
 

1.公文国際学園とはどんな学校だろう

この学校の特徴としては、以下の4点があげられます。

 (1)寮がある

 おそらくこちらの学校を志望される帰国生は、寮があることに魅力を感じるのだと思います。
 海外赴任からの帰国タイミングがよめずになかなか本帰国ができない場合、首都圏にありながら中1から寮が選べる学校は稀有な存在です。
 ただし、本気で大学受験勉強を始めた場合は、寮生活がネックとなるかもしれません。
 大船から直通バスはありますが(片道240円)、運行時間帯は限られています。
 予備校に通おうとすると、大船から寮まで帰り着く手段はタクシーのみとなってしまいます。

 (2)スイス公文国際学園高等部がある

日本の私立学校が海外に開いた学校として、以下のような学校があげられます。
 
 
私が訪問したことがあるのは、西大和学園カリフォルニア校だけです。
こちらは小・中学校のみとなっています。
生徒数は非常に少ないそうで、全体的にさびれた印象を受けてしまいました。
 
そのほかの学校は、スイス公文を除いて、大学の付属校の位置づけですので、多くがそのまま大学に進学します。
 また、早稲田渋谷シンガポールだけは、保護者が海外に居住していることが条件となっていますね。
 スイス公文学園は日本の教育機関ですので、そのまま帰国して日本の大学を受験することが可能です。
 しかし、留学先として考えると疑問符がつきます。
 寮生活の仲間はほぼ全員が日本人であり、英語力の向上は期待できないからです。
 卒業生の進路を見ても、海外の大学に進学する生徒は非常に少ないですね。
 日本の高校がたまたま環境の良いスイスのリゾート地にある、こう考えるとよいでしょう。スイス公文の公式HPの🔗を貼っておきます。
 

 (3)公文式を学べる

中高生になって、このことに魅力を感じる生徒はいないと思います。
学習習慣をつけたり計算力をつけたりするのには有効な公文式ですが、あえて中高で継続する理由はないでしょう。

 (4)自由な校風である

 かなり自由な学校だと聞いています。
 ある意味、日本の学校離れした雰囲気だそうですね。
 それを魅力と感じるかどうか。
 残念ながら、自由な学校で真価を発揮するのは、やはり高偏差値の生徒に多いようです。
 男子校でいえば麻布・武蔵。女子校でいえば女子学院
 これらの学校に進学しながらも、自らを律することができずに成績が低迷する生徒がいます。
 

 (3)大学実績

 私は、学生時代に、とある男子高校生の家庭教師をしていたことがあります。
 吉祥寺にある、自由な校風で知られる、小学生から高校生までが学ぶ学校の生徒で、自由にのびのびと育った素直な生徒だったことを覚えています。
 その生徒から学校の様子を聞くと、本当に日本の学校らしからぬ、自由な校風で驚きました。たしか成績表のようなものも出ないと聞きました。そうした校風に魅力を感じて12年(小中高)を過ごした後の大学進学ですが、今学校のHPで確認したところ、大学合格実績として、人数の多い大学は以下のとおりです。
19名…日本大学
12名…武蔵野美術大学
 さて、親の職業を継ぐために医学部を受験したその生徒ですが、残念ながらどこにも合格できませんでした。
 もちろん、私の力不足のせいです。
 
 はたして、公文国際で自由を謳歌した生徒たちはどうでしょうか?
学校HPによると、今年の大学合格実績はこんなかんじでした。(現役生のみ)
◆国公立計33名・・・東京大学(5)・東京工業大学(3)・横浜国立大学(3)・横浜市立大学(3)等
◆主要私立…早稲田(34)・慶應(34)・上智(38)・東京理科大(17)・明治(35)・青山学院大(22)・立教(25)・中央(17)・法政(19)・学習院(1)・ICU(4)・関西大(1)・同志社(2)・立命館(3)
◆その他私立(191)
◆医学部医学科(10)
159名の卒業生数の実績としてはなかなかといえます。心配は杞憂のようですね。
もっともその他私立とまとめられてしまった大学はどんなところかはわかりません。
 
学校について詳しくしるためには、まずはじめにHPをご覧ください。
 

2.帰国生入試の適性検査問題(2023)

帰国生入試は、1月19日に実施されました。
適性検査 50分 100点
英語 50分 100点
面接 10分程度
となっています。
適性検査の問題は理科・社会に関連した基本的な知識と資料の読み取りなどが試されています。

そして記述。

2023の入試では、

宮沢賢治のことば「世界全体が幸福にならない限り、個人の幸福はありえない」についての自分の考えを答える。

〇生態系における「消費者」の肉を私たちが食べることで生じる問題について。

〇食料自給率を引き上げるためのコメを使った取り組みの提案。

〇フードロスを解決するアイデア

 

といった記述が出題されました。

 難易度はそう高くはありません。

 要求されている字数も多くても100字程度です。

 内容的にも、受験生の学習範囲の中ですね。

理科や社会をきちんと学んできた受験生であれば大丈夫だったと思います。

 

 あえて言えば、幸福についての記述が少しだけ厄介だったかもしれません。

 

 本文には、平均寿命と医学の進歩、食糧事情の問題などが解説してあり、その上で宮沢賢治の言葉を引用する形での出題となっていました。

現代の日本で暮らす私たちのほとんどは、食糧にまったく不足や心配がなく生活することが普段からできているため、一見幸福に思えるかもしれませんが、その幸福が、もし他の国の人たちの貧困や犠牲の上に成り立っているとしたら、それは本当の幸福といえるでしょうか。そういうことを宮沢賢治はきっと言っているのでしょう。

 これはもう、ヒントというか答が書いてあるといってもよいですね。そのまま出題者の誘導に身をまかせればよい問題です。

 

 新疆ウイグル自治区の木綿の話であるとか、膨大な水や飼料を必要とする牛肉生産の話であるとか、さまざまな具体例が思い浮かぶことでしょう。

 

私たちは幸福に生活している

→しかしその幸福は多くの人の犠牲の上に成り立っている

→したがって、本当の幸福とはいえない

→世界全体の幸福の上に私たちの幸福が成り立ってこそ、本当の幸福が訪れる

 

こんな文脈での記述になるでしょうか。

 ここで注意が一つ。

順番が違う。個人の幸福なくして世界全体の幸福無し!

などという屁理屈をこねないこと

 あくまでも出題者の意向に沿った記述を心がけましょう。

 

 いつも生徒にしつこく指導するポイントですが、「あなたの考えを書きなさい」「あなたはどう思いますか」といった類の記述に対して、本当に自分が思っていることを書くとだいたい失敗します。あくまでも「出題者が書いてほしい」内容を考えるべきなのです。

 

3.帰国生入試の適性検査問題(2024)

2024年の帰国生入試・適性検査問題は、化石燃料・環境問題・自動車をテーマとした理社融合問題でした。
最後に記述問題が2題あります。
1題はドローンについて。ルワンダ共和国で輸血パックをドローン輸送したことをヒントにして、
日本においてドローンを活用するとしたらどんな方法が考えられるか。40~60字以内で答えなさい。ただし、以下の条件3つを満たすものとする。
 ・一度に運べる重さは5kgまで
 ・一度に最大160㎞、90分間飛行可能とする
 ・飛行禁止エリアは飛ぶことができない
という記述でした。
何かと話題になることの多いドローンです。生徒なりに活用法を考えさせるのは面白い問題でしたね。
また、もう一題はこういう問題でした。
将来的に自動運転技術が一般化される未来が実現すると、人件費がかからなくなる分だけ移動コストが安くなる可能性がある。移動コストが下がったとしたら、社会や生活はどのように変わるだろうか。具体例を最低2つ挙げながら60字以上80字以下で答えなさい。
これもなかなかおもしろい出題ですね。
すぐに思いつくのは物流の活性化ですが、問題文はあくまでも「人の移動」にしぼったものとなっています。都心への一極集中の解消などがすぐに思いつくことかもしれません。ただしコストが安くなっても移動時間は減るわけではないので、そのあたりは注意が必要です。