中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

かんじの良い学校とは? 女子校編

1.学校の校風や雰囲気を主観的にとらえてみよう

 

「先生がおすすめの、かんじの良い学校はどこですか?」

女子生徒の母親と面談中に、唐突に質問されました。

ずいぶんざっくりとした質問ですが、なんとなく、意図するところはわかります。

そこで、そのご家庭における娘の教育についての考えを聞き出してみると、以下のような考えをお持ちでした。

〇勉強一色であってほしくない

〇遊ぶ生徒ばかりであってほしくない

〇きちんとしたご家庭のお嬢さんが多いとうれしい

〇面倒見が良いことはうれしいが、過干渉は遠慮したい

〇いじめ問題がないこと

〇上級生と下級生の関係性が良好であること

〇保護者が学校に過度にかかわることがない

〇言葉遣いが汚くならない

〇金銭感覚が華美すぎない

〇女子校がよい

 

まだ他にもおっしゃっていましたが、ざっとまとめると、以上のようなお考えでした。

おっしゃることはなんとなくわかります。

のんびりした性格の娘に合う学校を、ということでした。

大学進学実績よりも、人間形成の大切な時期の環境を重視されているのですね。

しかし、数値化できないこうしたもやっとした要望を満たす学校を選ぶのはとても難しい。

全て主観にすぎないので、100人の生徒・保護者がいれば、100通りの受け止め方があるからです。

たとえ、私が「ここの学校はかんじが良いですよ。」とお勧めしたところで、果たしてそれがこのご家庭にとって「かんじのよい学校」であるとはかぎりません。

しかし、そんな一般論はご承知の上での相談であることもわかります。

そこで私は、こうお答えしました。

「数多くの学校を見てきている私が『かんじが良い』と思った学校についてお話するが、全て私個人の主観(多分に偏見)なので、一つの意見としてだけ聞いてほしい。」

 

2.個人的にお勧めできる(かもしれない)学校

 跡見学園

明治8年創立という、まぎれもない伝統校です。ミッション系以外では日本最古の女子校だと思います。

ごきげんよう」のあいさつが有名です。

現在の校長、松井 真佐美先生は卒業生だそうで、とてもかんじのよい方でした。

学内の様子や授業の様子を拝見したことがありますが、挨拶のできる生徒が多いと感じたことを覚えています。

茶室もあり、茶道や華道を学ぶこともできるのも、いかにもなかんじですね。

円形の吹き抜け空間のある教室配置で、開放的な印象でした。

www.atomi.ac.jp

 

 鴎友学園

もともと世田谷ののんびりした学校といった印象で、そのころは大学進学実績を見ても、4大への進学者が少ないような学校でした。勉強が好きな生徒が集まる学校であるとはいいがたかったですが、がつがつしていない雰囲気で、評判も悪くはなかったですね。

それが、30年ほど前(もう少し前かも)から、本格的な学内改革に取り組みはじめました。まず入試問題が2科目から4科目へと変わります。

当時は、とくに女子校では2科目のみを試験科目とする学校が多くありました。受験生の負担を軽減する目的です。

そんな中で4科目入試を導入するのは勇気がいることです。

しかも、初年度の入試問題から、理社のカラー化、思考力記述問題の出題、と思い切った入試へと変えてきたのです。

その前後に学校を訪れたことがありますが、まだまだ学校の魅せ方に不慣れなかんじで、授業見学を勧められたものの、運動会の準備で多くの教室がもぬけの空、ちょうど行われていた授業も保健体育でしたので遠慮したことを覚えています。

しかし、改革は実を結びつつあるようで、今では進学校として評価されています。また、英語の指導にも定評がありますね。

数年前に学校を訪れてみると、進学校の暗い雰囲気などなく、思いのほか生徒は活発な様子で、学内にいる部外者(つまり私)に対して積極的に元気よく挨拶をしてくれます。また、校長先生の説明も、進学実績などに触れずに生徒を見守る姿勢が好印象でした。

「のんびりした娘に合う学校」というご要望に沿っているかどうかはわかりませんが、なんとなく安心できる学校、というのが私の感想です。

www.ohyu.jp

 

 大妻中学

皇居近くにある伝統校ですね。

ここは、大妻多摩・大妻中野・大妻嵐山と系列校が多いのですが、すべて校風が異なります。

こちらの学校も、活発で自立した生徒が多い印象です。
そういえば、先日電車内でこんな大妻の生徒を見かけました。
見るとスカートは腰のところで折り込まれて膝上丈となっており、校則違反であることは間違いない。髪型も染めてこそいませんが、かなり今風のものであり、おそらくは校則ぎりぎりと思われます。
まあ言ってしまえば今時の標準的?な高校生です。
ただし、彼女は一心不乱に勉強に取り組んでいました。
立ったまま前に回したリュックの上に器用にノートを広げています。
定期試験が近いのでしょうか。


こうして勉強に打ち込んでいる生徒を応援したくなるのも職業病だと思いますが、大妻に対しての印象が1ポイントアップしたのは間違いありません。


実は、同じ車内のドア付近に、近年共学化した進学校の女子生徒が数名いたのですが、乗り降りする乗客の邪魔になることも気にせず、一心不乱にスマホにしがみついていたので、よけいに差が際立ったのでした。

 

www.otsuma.ed.jp

  共立女子

こちらも歴史のある、神保町に位置する学校です。
大学への進学実績を見ると、目立って良いとはいえないものの、悪くはないな、と思います。
生徒たちものびのびと過ごしているようで、2割の生徒が共立女子大へ進学するので、8割進学校・2割附属校といった雰囲気になるのでしょう。
学内の設備は標準的ですが、隣接する大学の設備の一部も使えます(共立講堂等)し、都会の真ん中(神保町駅徒歩4分)の立地としては、余裕を感じさせる作りです。入口を入ったエントランスホールにはカフェテリア風にテーブルと机が置かれており、ちょうど先生が生徒の相談に乗っているところを目撃しました。職員室も1階のすぐ横にありますので、生徒が気軽に先生に相談しやすい環境のようでした。
 生徒たちの様子も、少し幼いかな?というかんじもしましたが、きわめて普通の中高生と思います。華美なかんじの生徒もいない(私が訪れた際には)ようなのは好印象でした。
 

  山脇学園

120年の歴史をほこる学校です。
まず、なんといっても立地が良い。赤坂です。
しかも、敷地が広い。山脇短大を閉鎖したため、短大の土地・施設をすべて中高が使うようになり、非常に恵まれた施設・環境となりました。
実は、古くからある女子校には、生徒募集に苦戦している学校が多くあります。その危機を乗り越えるため、いろいろな改革に取り組む学校も多いですね。
こうした改革が実を結ぶかどうかは、その学校に揺るがない芯のようなものがあるかどうかにかかっていると、私は思います。
さて、山脇も今まさに改革の真っ最中です。
その成果があがりつつあるのか、人気も難易度も少しずつ上向いているようです。
今は「かんじのよい学校」の一つと思っていますが、将来もそうかどうかは、今後の改革の行く末次第だと思います。

 普連土学園

プロテスタントの一派、フレンド派が開いた学校ですね。
1学年の人数が130人少々3クラス編成ですので、かなりこじんまりした学校です。
卒業生が、また自分の娘を入学させるケースが多いと聞いたことがあります。
とりたてて目立つアピールポイントがあるわけではないのですが、何か安心できる学校という印象をずっと持っていました。
この偏差値帯の学校にしては、大学進学実績も悪くはありません。
校長先生のお話や生徒達の印象なども、かんじがよかったですね。

 香蘭女学校

東急線旗の台駅近くに立地します。
レンガ造りの校舎、人工芝のグラウンド、礼拝棟、築山、茶室等、余裕のあるつくりで、緑豊かな環境となっています。
一度訪れていただければわかるのですが、この雰囲気だけで、通わせたくなると思います。説明会にうかがうと、在校生がお手伝いをしているのですが、その中に異なる制服の高校生がいます。ガールスカウトの子なのですね。私も知らなかったのですが、日本におけるガールスカウトは香蘭が発祥だそうです。約100年前のことです。クラブ活動の枠を超えた活動を行っているそうで、人気だと聞きました。
立教大学への推薦については、1951年の2名から始まり、2020年に97名へ増員しました。そして2025年からは、160名に増員されます。1学年の人数が160名ですので、立教大学へはほぼ全員進学できる、そういう学校になりました。
 
ところで、立教女学院は従来は2/3の生徒が立教大学へ推薦で進学していました。残りの生徒達は、国公立や医学部、あるいは慶應大学等への進学者もいますが、都落ち感のある残念な大学への進学者もいたものです。こちらも2025年からは推薦枠が学年人数と同等の200名まで増員されましたので、完全な大学付属校化へと舵を切ったのでしょう。

 成蹊中学

ご相談の方の要望は女子校ということだったのですが、共学校も1つ紹介します。
吉祥寺にある、大学附属校ですね。
大学附属とはいえ、成蹊大学に進学するのは3割、のこりは他大学に進学します。
その進学実績を見ると、なかなか良いのです。
また、この学校で特筆したいのは、その境です。
吉祥寺という町も緑が多く人気のエリアですが、ここは非常に恵まれています。
吉祥寺駅方面から少々歩きますが、正門から続く欅並木がすばらしい。運動施設は、グラウンドとテニスコート、体育館が2つと、それだけで十分なうえに、大学と共用の野球場・サッカー場ラグビー場・プールなどがあります。
この環境で6年間(もしくは10年間)過ごせるのは幸せですね
 
もちろん「かんじがよい」と私が感じる学校は他にもたくさんあります。ここに挙げたのは、あくまでも一部の例にすぎません。
また、私が知らないだけで「かんじの良い」学校も多数あるはずです。
 

3.かんじがよい学校とは?

このあいまいな表現に、私なりにいくつか定義づけしてみました。
 

 〇小規模な学校

 生徒数が少ない分、生徒同士の関係性や生徒と先生の距離が近くなります。
 穏やかな仲間意識が期待されますね。
 もちろん、小規模=感じが良い といった単純な話ではありません。人間関係が濃い分だけ、合わなかったときは悲惨です。

 〇緑が多く敷地が広い

 のびのびした空間が、のびのびした雰囲気を育むでしょう。また、緑が多いことも大切です。緑は人の心理に大きな影響を与えるからです。
 この条件と上述した「小規模」という条件は矛盾しますが、生徒の人数に見合った広さか、それ以上の広さがあればよいですね。
 

 〇大学附属or系列

 大学受験がないだけで、どれだけ生徒がのんびりできることか。 その余裕の時間を、部活や趣味に充てられます。
 ただし、生徒によっては、「部活や趣味」ではなく「遊び」を充実させている場合もあるので要注意です。最近人気の大学付属校(共学)の近くの駅前を歩いていたときのことです。制服のスカートの丈を思い切り短くした女子生徒(中学生)のグループと遭遇しました。皆歩きながらスマホを鏡替わりにして化粧に余念がありません。通行人が迷惑そうに除けていくのもお構いなしでした。今時の中高生事情については多少は知っている私ですが、はっきりいって「みっともない」の一言です。この学校は御三家レベル残念組も多く進学する学校です。私の教え子も進学しています。もちろん全ての生徒がそんな生徒でないことは承知していますが、その光景を見ただけで生徒に勧める気が失せました。
 

 〇プロテスタント

 かんじがよいなあ、という学校を思い浮かべていると、プロテスタント系の学校がいくつか想起されました。
 芯になる教育理念がしっかりしていることは重要なのですね。
 

 〇伝統校

 もうお気づきかと思いますが、前項で私があげた学校は、伝統校ばかりです。
 これは、新興校がかんじが良くないといいっているのではありません。そうではなくて、伝統校は、すでに校風が確立しているため、評価がしやすいという意味です。
 以前は「かんじが良い学校だなあ」と思っていた学校が、急に大学進学実績を追い求め始め、雰囲気ががらりと変わり、受験少年院化してしまった、そんな例をいくつも見てきました。あるいは、共学化して学校名が変わってしまえば、校風も変わるのは当然です。そうした学校の「攻めて」いる姿勢も嫌いではないのですが、今回のテーマとは相いれないということです。

 〇程よい進学実績

 私などは、開成や桜蔭もかんじがよい学校だと思っているのですが、多くの人は賛同しないでしょうね。
 大学受験は過酷な競争です。学校の進学実績が良いことには理由があるのです。
 私の立場で進学実績を否定するのもおかしな話ですが、その学校にちょうどよい進学実績というものがあると思います。それを超えて無理な実績を追い求めようとすると、どこかにひずみが生じます。そうした学校の一つに子供を通わせている方から聞きました。早慶をはじめとした大学への推薦枠がいくつもあるのに、成績優秀者には使わせてくれないどころか、推薦枠の詳細も明かしてはくれないそうです。つまり、成績が高い生徒には、国公立を狙わせ、さらには早慶も一般受験させて合格実績を稼ぎたいのですね。推薦枠は、推薦でなければ進学できないレベルの生徒に回す、とそういうことなのでしょう。正しいような間違っているような、もやもやした気持ちになるのは私だけでしょうか。
 
 相談をしてきたご家庭が望んでいるのは、勉強一色に染まらない、程よい進学実績だと思います。
 

4.学校の生き残り戦略について

 伝統校といえども、伝統に胡坐をかいていては生き残れない時代です。多くの学校が、様々な戦略で生き残りをはかっています。
〇高校募集停止→完全中高一貫
〇大学の閉鎖
〇制服のリニューアル
〇校舎の建て替え
〇共学化
〇入試の多様化
〇帰国生獲得に注力
シラバスの策定
〇コース制の導入
〇海外留学
〇英語教育の強化
〇理系教育の強化
こういったのが主な戦略でしょうか。受験生を、それもできるだけ優秀な受験生を集めることに積極的です。もちろん、受験生にとってマイナスとなる話ではありません。
 
たまたま訪れた海外の塾で、東京の私立中学の先生方とばったりと出会ったことがあります。学校の先生方が手分けして塾を訪れて学校のアピールに努めるのは珍しい話ではないですが、まさか海外まで生徒集めに奔走しているとは思いませんでした。英語力の高い帰国生が欲しいのですね。
 
このような改革も、学校の理事や先生方が皆で考え抜いて実行に移すのならよいのですが、必ずしもそうとはいえないのが実情です。
業界の裏事情を暴露するようで恐縮ですが、この世界にはいわゆる「教育系コンサル」とでもいうべき商売があります。生徒募集に苦戦している伝統校が改革をはじめると、その内容を見て「あっ、これはコンサル入れたな」とわかってしまうものです。それが適切な指導であればよいのですが、せっかくの学校の良さを殺す形での方向性である場合も見受けられるのです。具体例をあげるわけにはいきませんが、ビジネスマーケティングに詳しい方が見ればすぐにわかると思います。
私は、学校が教育をビジネスの視点で語るのが嫌いです。
それは塾・予備校業界にまかせておけばよいのです。
学校は、真摯に教育のみを語ってほしいと思っています。
 
直接足を運ばねば何もわからない
 
当たり前の話で恐縮ですが、これが結論です。
学校説明会・オープンキャンパス・文化祭、なんでもよいので、まずは学校に足を運んでみてください。
また、登下校の時間に学校付近で生徒の様子を見てみてください。
この生徒達に交じって我が子がこの制服を着て通学する。
そう想像したときに、いいなあ、と思える学校がきっと見つかると思います。
 
ここで紹介した学校以外にも、かんじがよい学校と私が思った学校はたくさんあります。あくまでも例として紹介しました。
 
また、繰り返しになりますが、これはあくまでも私個人の主観にすぎません
「あの学校はかんじが良くないですよ」というご意見もおありでしょうが、それもまた個人の主観の一つということでしょう。
また、先生や生徒によっても印象は大きく変わります。
「姉のときはとてもかんじがよかったから妹も入れたら、まったくちがった」などという声も聞きます。
 
その学校の粗さがしをしながらの学校選びよりは、良いところを見つける学校選びのほうが幸せですね。
 
学校選びについては、別の記事でも書いています。
ぜひご覧ください。