中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

最近の子どもは買い物をしたことがない(2024.2.20加筆修正)

生徒たちと話をしていて気づいたことがあります。

最近の子どもたちは、買い物をしないのですね。しかし、買い物というのは、子供たちがはじめて「資本主義」を学ぶ重要な機会です。今回はそのことについて書いてみたいと思います。

1.中学入試問題

 だいぶ昔の問題ですので、学校名を忘れてしまいました。しかし印象に残っている問題があるのです。

「スーパーマーケットでは、通常は同一商品を横に並べて陳列する。その方が人間の視覚の特性上目立つため、商品を手に取ってもらいやすくなる、つまり売り上げが向上するからである。ところが、オーストラリアのとあるスーパーーでは、同一の商品を縦に並べて陳列している。売上が落ちるこのような陳列方法をとる理由について説明せよ。」

うろ覚えで恐縮ですが、こうした記述問題でした。

みなさんは答がわかりますか?

正解は「ノーマライゼーション」です。

スーパーマーケットでの買い物の醍醐味は、自由に商品を手にとって比べながら買い物ができることにあります。とくに買う気が無い物でも、「へえ、こんな便利な物があるんだ」「これ美味しそうだな。今日はいいけど、今度買ってみよう」などと歩き回るのが楽しいのです。しかし、車いすの方はそうもいきません。手にとってみたい商品が手の届かない高い棚に横に陳列されていると、他の人のヘルプがなければ手にとることができないのです。店員に手伝って取ってもらったとして、「やっぱりこれはいいです」と戻すのにも手伝いが必要です。それでは買い物を楽しむことができないですよね。

このオーストラリアのスーパーの陳列方法なら、小柄な人も子供も車いすの人も、自由に商品を手に取って買い物を楽しむことができるのです。まさに「ノーマライゼーション」です。

 ある授業で、この話をするための前振りとして、「みんなスーパーマーケットの商品の陳列方法にはいくつか工夫があるのだが、それは何かわかるかな?」と質問してみたときのことです。

「買い物行かないからわかんない!」と返ってきたのですね。

もしかしてこれは由々しき事態かもしれません。

 

2.買い物体験は楽しい

私は買い物が好きです。買い物といっても、ブランドショップや服飾品には興味はありません。スーパーマーケットや地元系の食品を扱うお店をのぞくのが大好きなのです。

アメリカに行けば、広大な駐車場つきの巨大なスーパーで大型のショッピングカートに商品を山積みにして買い物をしている地元客の様子を見るのもおもしろいですし、売られている商品がいかにもなかんじで楽しいですね。TV dinner(TVディナー)とよばれるジャンルの冷凍食品が並んだ様など、アメリカの食生活の一端がうかがえてわくわくします。日本式に言ってしまえば「冷凍弁当」ということなんでしょうかね。でも弁当とは何かが違う、B級感が溢れています。Hungry-Man(ハングリーマン)という商品なんて、ネーミングからして素敵です。これも含めて過去にいくつも食べてみましたが、正直どれも美味しくはないです。塩気も強く、体には良くなさそうな気がします。でも楽です。一方、オーガニック系というかナチュラル系というか、そうしたスーパーもよく見かけるのがアメリカの面白いところですね。Trader Joe’s( トレーダージョーズ)とか、Sprouts Farmers Market(スプラウト ファーマーズ マーケット )とかいろいろあります。個人的にはWhole Foods Market( ホールフーズ マーケット)が好きですね。ここのお惣菜コーナーはいつ行っても楽しくて美味しいのでつい買い過ぎてしまいます。

フランスだと、Carrefour(カルフール)がありますね。でも私のお気に入りはMonoprix(モノプリ)です。どこにでもありますし、パリ市内にもそこら中で見かけますので、ちょいと水を買ったり、お土産のエシレバターを買ったりするのに非常に便利です。

ドイツでは、地元の名もなき小さなスーパーにしっかり「寿司コーナー」があったり、5月だとホワイトアスパラが売られていたりと、地元の食文化がうかがえます。

ベトナムのスーパーでは、生きたカエルが売られていました。これ、買って帰って調理するのですよね?

何も海外に行かなくても、国内であっても、旅先の小さなスーパーなどのぞくと、都内では目にしない食材がありますし、意外な美味しい物にも出会えます。

自宅近所のスーパーであっても、もしかして「地場野菜」のコーナーがあるかもしれません。また、旬の野菜を知ることもできるでしょう。

 

3.買い物体験は社会科学習のネタの宝庫

〇商品の陳列に法則性があるが、それはどういうものか。

〇そのような陳列法となっているのはなぜか。

〇牛肉売り場には、同じ牛肉でも値段の異なるものが数種類ある。それぞれどのような肉で、どうしてこういう価格になっているのか。

〇陳列棚の上のほうの手の届かぬところの商品は、誰にとっても買いにくいはずなのに、なぜそこに陳列してあるのか。

〇同じ野菜でも、異なる価格のものが複数あるが、それらはどのような産地のものなのか。

〇お惣菜コーナーに行くと、小分けしたお惣菜が多くみられるが、それは何を意味しているのか。

〇レジでの支払い方法は複数あるが、どの支払い方法が一番多く選ばれているのか。

〇高いコメと安いコメの違いとは。

〇日本のスーパーと海外のスーパーの相違点と共通点とは?

〇コンビニはなぜ狭い店舗なのに必要だと思うものが全て揃っているのだろうか。

 

まだまだ挙げだすとキリがありませんね。

もし私が生徒を引き連れてスーパーにでも行けば、何時間でもエンドレスで思考力系社会科の授業をする自信があります。

せっかくの学習機会を活用しないのはもったいないと思います。

 

4.買い物にいかない理由

そんなわけで、よく授業中に、買い物を題材として取り上げることが多いのですね。しかし、どうにも反応が薄いなあ、と思ってよくよく聞いてみると、ほとんどの生徒が買い物をしたことがないことが判明しました。

親に買い物を頼まれた経験はなく、また親と一緒に買い物をして回った経験もないそうです

まず、買い物を頼まれなくなった、これはわかります。現に、スーパーに行っても、小学生が一人で買い物をしている姿など見かけませんからね。さらに、子供をひきつれて 買い物をしているお母さんというものも、昔より減ったような気がします。少なくとも、私が教えているような小学生(高学年、中受を頑張っている層)はまず見かけません。受験勉強には縁遠そうな(失礼!)子供たちが走り回っているのを見かけるばかりです。理由は簡単です。受験生は忙しいからです。今時の小学生は時間がないのです。親の買い物に付き合っているような暇はありません。

かくして、買い物の経験が無い小学生が生まれているのですね。それでは、私の講義での買い物ネタに反応が薄いのも道理です。

 

 これが良いことなのか、悪いことなのかはわかりません。しかし、社会生活の体験の入口としての買い物体験、必要なのだと思うのですよね。たまには、社会勉強の一環としても、お子さんを買い物に連れていってみてはいかがでしょうか。(ただし、洋服選びに付き合わせるのは賛成できかねます。こう言っては失礼ですが、無限の時間がかかりそうですから。)