1.渋谷教育学園渋谷の概要
1983年に千葉に渋谷教育学園幕張が開校しました。それまで千葉の私立中高は、東邦大東邦が最難関で市川中がそれに続いており、首都圏受験生の上位層は1月受験としてこの両校のどちらかを受験することが多かったのを覚えています。
しかし、渋谷幕張の開校によって、千葉の受験地図は大きく変わることとなったのです。
渋谷幕張の創立者の田村哲夫氏は麻布中高の出身で、自由な校風の共学校を目指したと言われています。
渋谷幕張は人気校となり、その成功を受けて1996年に私立渋谷女子高を改組する形で渋谷渋谷は開校し、こちらもたちまち人気校になりました。
初年度入試では、S偏差値30程度の生徒が合格したのを覚えていますが、もう過去の話ですね。
すっかり男女御三家と並ぶ人気校となってしまいました。
現在渋谷渋谷の校長は田村哲夫氏の長女の高際伊都子氏が、渋谷幕張の校長は長男の田村聡明 氏が務めており、さらに両校の学園長として田村哲夫氏がいます。
良くも悪くも田村哲夫氏の理念が具現化した学校といってよいでしょう。
ふと考えてみると、学校法人って世襲のところが多いのは何故なんでしょうね?
例えば奈良の西大和学園。こちらの創立者は自民党衆議院議員だった田野瀬良太郎氏
(今は次男の田野瀬太道氏が地盤を継いで衆議院議員です)、長男の田野瀬大樹氏が現西大和学園理事長です。
そういえば、西大和学園カリフォルニア校にお邪魔したとき、学園長の先生に紹介された事務長の方の名刺に田野瀬夏子とあったのを思い出しました。創立者のご息女だったのですね。
このくらいの高偏差値層の生徒で、共学校の進学校を選びたければ、実質上渋谷渋谷と渋谷幕張の2択といってよいでしょう。
とてもグローバルな匂いのする学校で、優秀チームがNYに派遣されるという「全国高校模擬国連大会」の常連校でもあります。
実際に大会に足を運んでみると、ネイティブの先生に引率された同校の生徒たちが、先輩の活躍を見学していました。全員がナチュラルな英語で話しているところを見ると、英語圏からの帰国生でしょう。(ただし、他校をけなすその会話に辟易させられたのを覚えています。横にいた私には理解できないと思われたのかな?)
もっとも内情を言ってしまうと、高校模擬国連大会の事務局であるユネスコ・アジア文化センターの理事長は、渋谷教育学園理事長、渋谷幕張・渋谷渋谷両校の学園長を兼任する田村哲夫氏が務めているのです。
2.渋谷渋谷の帰国生入試について
さて、この学校の帰国生入試は、1月27日に行われます。
そして、入試は、2パターンに分かれており、どちらかを受験することになります。
(学校HPをごらんください)
〇英語型入試
英語・・・60分 100点
国語・・・50分 100点
算数・・・50分 100点
英語面接・・・グループディスカッション
算数・国語は英語型・作文型共通問題です。
難易度は高いですね。一般入試と同等と思ってください。
そして、この英語が難関です。
英検準1級レベルとされていますが、1級所持者が軒並みやられてしまう難易度なのです。
この英語型入試では、算国の点数は重要ではありません。
英語の高得点のみで合否が決まると思っていいでしょう。
実は、このことが後の悲劇を生む原因でもあるのですが、それは改めて記事としましょう。
〇作文型入試
作文・・・60分 100点
国語・・・50分 100点
算数・・・50分 100点
日本語面接・・・グループディスカッション
作文型入試は、国内の高偏差値の「隠れ帰国生」達がこぞって受験するため、一般入試よりも合格が難しいと思ってください。彼らは、日本の塾(SAPIX等)で開成や桜蔭合格に向けて学力を高めてきており、相当な猛者ぞろいだからです。
渋谷渋谷の帰国生入試が不合格でも一般入試で合格していくのは、そうした生徒達なのです。
学校側のしつらえとしては、英語圏現地校出身の生徒は英語型入試、日本人学校出身者は作文型入試ということなのでしょうが、海外の日本人学校でのんびりすごした生徒にはハードルが高すぎる競争となることは覚悟が必要です。
私が指導していた生徒でも、渋谷渋谷と聖光の帰国生入試で合格をとったあと、開成と筑駒に合格したという子がいました。
そのレベルの生徒と戦う力が求められているのです。
3.作文のテーマ
2023年の出題
テーマは「海外生活をふりかえると思い出される『におい』・『音』『肌ざわり』」でした。
このような指示がされています。
〇「におい」・「音」・「肌ざわり」の中から1つまたは複数選んでテーマとする
〇本文の内容をふまえて自分で題名をつける
〇海外生活の経験・エピソードを具体的に書く
〇600字以上800字以内
「におい」「音」「肌ざわり」に着目させるあたりはいかにもいかにも渋谷渋谷らしい、ひとひねりした出題だといえます。
実は渋谷渋谷の帰国生入試の作文には一定の傾向はあるのです。
2022年の出題
昨年は「〇〇がなくなってしまったら困る」「△△がなくなってしまって困った」の空欄にことばをいれて題名とし、なくなったら困る理由や困った経験を書くというテーマでした。
ただし指示に「海外生活の中で得られた経験をできるだけ活かして書くこと」とあります。
日本では当たり前と思っていた物が、海外ではなくて困る、そんな経験はたくさんあることでしょう。その中の一つを選んで書けばよいのです。
さらに「海外生活の中で得られた経験を活かす」という指示に従うことが重要なのはもちろんです。
2021年の出題
さらに一昨年は「異文化に触れて気づいた私の思い込み」がテーマであり、「日本と海外の生活や文化について、あなた自身が勘違いしていた出来事や、思い込みだったと気づいたエピソードを具体的に。またその思い込みについて感じたことや考えたことを書く」と指示されていました。
アメリカ人は〇〇だ
イギリス人はみな△△である
フランスは□□な国である
このように、ある国をひとくくりにして形容している表現を多く見かけますね。話題としては面白いですが、ずいぶん乱暴なくくり方です。多様な国民をひとまとめにして論ずることはおろかともいえるでしょう。
例えば「日本人は真面目だ」 とはよく聞きますが、不真面目な日本人もたくさんいます。「日本人は融通がきかない」といわれると、うなずける点もあるものの、「そうかな?」と反論したくなってきます。
私たちはこうした思い込みから逃れることは難しいものです。現地に行って初めて勘違い・思い込みであったことに気づくのです。
そうした体験を書ければ、この作文は難しくはないでしょう。
また、逆に日本にいた時には気づけなかった日本の生活や文化について、海外から俯瞰して考えることによって気づくことも多いだでしょう。ここに注目して書くのも良いですね。
4.渋谷渋谷の作文への対策
対策としては、現地にいる間から、意識的に現地と日本の社会や文化の違いについて考察していくことが大切となります。
こうした作文では、あまりにも絞った対策は逆効果となるものです。
日頃の生活をどう送っていたかが問われているのです。
作文のテーマは、あくまでも「海外生活」をベースとして、それを斜め横からの視点で考えさせるというものです。
また、その他の学校でも、帰国生入試での作文テーマは「異文化体験」に基づくものが非常に多いことにも注意が必要です。
異文化体験の重要性
日本と海外の違い、海外でしか得られぬ体験などを、常に意識し続けて日々を送る必要があるのです。ただぼんやりと海外生活をエンジョイするわけにはいきません。
ただし、特別なボランティア体験や学外活動を求められているわけではありません。
日々の生活で、どれだけ多くの気づきがあるのか。
どれだけ違和感を見つけ、それを追求して考えることができるのか。
そうした姿勢を持つことが大切なのです。
5.最新の入試問題紹介・・・2024年出題
次のテーマで600字以上800字以内の作文を書きなさい。
「思わぬことで人に驚かれた、自分の言動」
※あなた自身の体験・エピソードを、具体的に書いてください。体験した場所については海外でも日本でもどちらでもよいですし、驚かれた相手(=「人」)についても、外国人でも日本人でも、どちらでも構いません。ただし、あなたが海外で生活したことがあるということを、なるべく生かして書いてください。
※その体験を通してあなたが気づいたことや考えたこと、体験前後のあなたの変化、などが伝わるように書いてください。
※題名は、本文の内容をふまえて、各自で自由につけてください。
今年(2024)も、渋谷渋谷スタイルの作文テーマでした。
海外体験で得た気づき、成長について書かせるとしても、一ひねりしてくるのが渋谷渋谷スタイルです。
この作文も、他の学校なら「あなたが驚いた外国の体験」とくるところを、自分が驚かせた体験を書かせるのですね。
指示としては、「場所は海外でも日本でもよい」「相手も外国人でも日本人でもよい」とありますが、そこには必ず「海外で生活したことがあるということを生かす」必要があります。
パターンとしては以下のようになるでしょう。
(1)海外の現地の外国人に驚かれた
(2)海外で出会った日本人に驚かれた
(3)日本に帰国後に日本人に驚かれた
組み合わせとしては、他には「日本に帰国後に外国人に驚かれた」というものもありますが、よほどインパクトのある体験でなければ書けませんね。むしろ、「海外で現地以外の外国人に驚かれた」ならいろいろ書けそうです。例えばアメリカの現地校で出会った韓国人(orフランス人or中国人等)の同級生に驚かれた、そうした体験ならいろいろありそうです。
いつもながら重要なのは、具体性です。自分自身が体験したことを具体的に書かねばなりません。また、その体験は特別な物である必要はありません。日常の何気ない言動が驚かれた、そうした体験のほうが異文化体験に役立ちますし、書きやすいと思います。
以前指導した生徒にこんなことを書いた生徒がいました。
「自分は小さい頃からアメリカに行っていたため、誰かがくしゃみをすると”god bless you”というのが自然だった。でも日本に戻ってきた直後に同じように言葉をかけると不思議そうな顔をされた。」
そんなささやかなことで良いのです。