中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

海城中の帰国生入試面接対策を通して、面接の注意点を考える

海城中は一般入試でも人気の学校です。

帰国生入試の男子校としては、聖光とならぶ人気校となっています。つまり、激戦です。

それがいかに激戦かについては、以前にこんな記事も書きましたのでご覧ください。

peter-lws.hateblo.jp

 

入試概要

 募集要項

1月初旬に実施される海城中の帰国生入試は、募集要項によると以下のようになっています。

https://www.kaijo.ed.jp/admission/from-abroad/

【A方式】・・・国語・算数、面接(10分程度・受験生のみ)

【B方式】・・・国語・算数・英語、面接(10分程度・受験生のみ)

※A方式、B方式いずれかを選択。国語・算数はA・B方式共通問題。

※B方式の英語は、自由記述の作文問題。

面接時に「生活していた国や地域と日本との違い」について日本語による2分程度のスピーチあり。

「スピーチ」中に、メモを参照したり資料等を用いたりすることは出来ません。

 

 出願者数

2023年の入試では、出願者数は、A方式の出願者数がBの2倍近くとなっており、合格者数もちょうど2倍となっています。

つまり、とくには英語を武器としていない受験生のほうが多いことがわかります。

これは、英語が不得手な受験生が多いというより、一般入試の受験勉強を主軸にやってきた受験生が多いため、英語対策に時間を割きたくないという理由だと思われます。

ちなみに英語入試は長文を記述させるものなので、対策をきちんとする必要があります。

 

 合格者平均点

帰国生入試の合格者平均点は以下の通りとなっています。※帰国生入試の満点には面接の点数(24点満点)を含む

※帰国B方式の国語は120点満点が60点満点に圧縮されます

これを見ると、24点もの配点がある面接はA方式B方式どちらも避けては通れない関門といえるでしょう。

2分間スピーチ対策

テーマは、「生活していた国や地域と日本との違いについて

海城中にかぎらず、帰国生入試では定番中の定番の質問です。ここではスピーチですが、作文として出す学校も多いですね。あまりに対策を定型化してしまうことは避けたいと思います。学校側が一番嫌うのが、大人が仕込んだありきたりのスピーチだからです。 結婚式のスピーチを思い起こしてみてください。次々に登壇する新郎・新婦の会社の上司たちのスピーチ。あれって、つまらないですよね? それより、たどたどしくても、言葉に詰まっても、心がこもっている友人のスピーチのほうがはるかに心に響きます。海城中のスピーチ対策についても、まずは子供本人の言葉で語らせることを第一に考えましょう。とはいうものの、子供だけにまかせておくのは不安です。子供がどのようなスピーチ原稿を作るのか、そしてそれをどのように手直しすべきなのか、実例をあげて説明しましょう。

  A君が書いた原稿 その1

 僕は小学二年生の途中から昨年の夏まで四年間、アメリカの〇〇州に住んでいました。日本との違いはたくさんありますが、一番は現地校に入学した時、時間割がない、ということに驚きました。時間割がないと、いつ授業が始まりいつ終わるのか、次は何の授業なのか分からずとても困りました。日本ではありえないことだ、と最初は不便に感じていましたが、よく考えてみると、実はとても合理的なことに気づきました。先生は教科ごとの進み具合を考え、遅れている教科の時間を長めにするなど、いろいろ調節できます。イベントが近いと、体育や楽器演奏の授業が毎日あったりしました。日本では事前にいろいろ細かく決めて時間割や月間、年間スケジュールが決まっています。だからアメリカのこのようなスタイルは考えられないでしょう。なぜアメリカの学校は自由に時間割を変えられるのか、それはまず教科書は個人の物ではなく、学校のもので家には持って帰りません。筆記用具、ノート類も教室に置いてあり体育は体操着に着替える必要がありません。このような理由でアメリカの学校は時間割が自由に変えられるのだと思います。僕の学校では人によって特別授業を受けに行く人もいて、個人個人の能力に合わせた時間割でもあり、良いところがたくさんあります。 すっかり自由なアメリカの学校に慣れたので日本の学校に戻るのに少し不安もありましたが、今度は日本の時間割の良いところを発見したいと思います。 

 さて、どうでしょうか?なかなか良く書けている方だと思います。どうやら、すでにお母さまのチェックが入っているようでした。誤字脱字・文法の誤りのみの訂正で、中身については手を加えていないとのことでした。取り上げたテーマについては良いと思います。日米の教育の違いということで、生徒本人が最も身近に感じるテーマです。特に日本の小学校からアメリカの現地校に行けば、それこそ違いだらけで驚きの連続だったと思います。

 そういえば、日本の小学生のランドセル、なんとかならないものでしょうかね? 最近ではようやくランドセルの重さが子供の骨格に与える悪影響が話題となり、軽量化も図られているようですが。アメリカの日本人学校を訪れたとき、生徒がみな「コロコロ」を転がして登校していたのは新鮮でした。旅行用の小さなトランクに車輪がついている、あれですね。日本人学校ですので、A君が指摘した現地校とは違って教科書は持ち歩かなくてはなりません。そのためのコロコロ、合理的だと思いませんか?

 A君の原稿に対して、私は以下の1点のみ指示をしました。

このアメリカ式の時間割・授業により、君はどのように成長できたのか? 

 これが抜けていると、ただの感想文で終わってしまいます。A君が「良いところがたくさんある」と評価するアメリカ式の授業で、A君自身が何を得たのかを入れるように指示したのです。その指示にしたがって書き直してくれた原稿が以下のものです。

 

  A君が書いた原稿 その2

 僕は小学二年生の途中から昨年の夏まで四年間、アメリカの〇〇州に住んでいました。日本との違いはたくさんありますが、やはり一番驚いたのは学校の制度の違いです。現地校に入学したばかりのころ、時間割がないことに戸惑いました。なぜなら、いつ授業が始まりいつ終わるのか、次は何の授業なのか分からなかったからです。日本ではありえないことだ、と最初は不便に感じていましたが、よく考えてみると、実はとても合理的なことに気づきました。先生は教科ごとの進み具合を考え、遅れている教科の時間を長めにするなど、いろいろ調節できます。イベントが近いと、体育や楽器演奏の授業が毎日あったりしました。また僕の学校では、人によって特別授業を受けに行く人もいて、個人個人の能力に合わせた時間割がある、ということころにも驚きました。例えば僕は最初英語が話せなかったのでESLという英語が母国語でない生徒が受ける授業を毎日1時間受けていました。そのおかげで2年でESLを抜けることができました。さらに特別なテストに合格した人だけが受けられるPEPという授業もあり、専門の先生が来てくれて様々な分野を学び体験できます。僕はこのテストに合格し、週2回の授業が大好きでいつもとても待ち遠しかったです。このような個人に合った時間割のシステムはとても良いところだと思います。すっかり自由なアメリカの学校に慣れたので日本の学校に戻るのに少し不安もありましたが、今度は日本の学校の良いところもたくさん発見したいと思います。

 だいぶ良くなりました。一番大きく変わったのは、A君が英語を身に着ける過程が具体的に書いてある部分です。このままでも、合格点はもらえるスピーチといえるでしょう。でも、よく見てみると、まだまだ改善点があります。そのうちの1つだけとりあげるとすると、こんな部分です。

英語を身に着けた理由が受動的なものであった 

自分の努力で英語を身に着けたという成功体験は高評価につながりますが、その理由が時間割のおかげだとするのはあまりにも受動的ですね。能動的に学習に向かう姿勢を見せたいところです。例えば、学校のアメリカ人のクラスメイトに、自分から積極的に話しかけるように努力したとするのはどうでしょうか。あるいは、地元のボランティア活動に積極的に参加することで、様々な年齢層・出自の人たちと交流し、英語力だけでなく幅広いコミュニケーション力が向上できたといった例が話せればよいですね。

 その他にも、4点ほど改善点があり、そのうちの一つは根本的な問題点なのですが、わかるでしょうか?海城中の理念をHPでチェックされるとわかると思います。

www.kaijo.ed.jp

 

海城という学校

 海城中高は、1891年(明治21年)に海軍予備校として創立されました。そう聞いても、古めかしい軍国主義的な学校と勘違いする方はいないでしょう。めざましい大学進学実績を誇る有数の進学校としての評価を得ている学校です。

 だいぶ以前になりますが、海城中の説明会に参加したとき、「ずいぶん上昇志向の強い学校だな」と感じたことを覚えています。まだまだ大学実績も今ほどではなかった時代の話です。そのころから、入試問題にも工夫がみられるようになりました。例えば社会科の入試問題が記述中心の出題へとシフトしていったのです。しかし、そのころの記述問題は、いわば「記述のための記述」といったレベルで、思考力を問うような深い出題とはとてもいえないものでした。そのころ海城中を志望する生徒に対しては、「特別な記述対策が必要な問題ではない」と指導していたものです。しかし、年々入試問題は進化してきました。今や、海城風とでもいうべき傾向が確立し、思考力を要する良質な記述問題を出題する学校です。

 この学校を志望する際には、念入りな記述対策をする必要があります。

 

※英語の問題については以下で考察しています。

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