中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

2023年入試問題にみる、跡見学園の入試制度改革と可能性

特待入試の思考力問題からわかる学校の求めるものとは

跡見学園特待入試の思考力問題を見てみました。
 この試験は、2月の4日に英語のコミュニケーションスキル入試と同時に実施されます。この試験が設定されている学校側の意図を、募集要項からさぐってみましょう。
 

 募集要項からわかること

まずは、跡見学園のHPを見てみましょう。

www.atomi.ac.jp

特待入試の思考力問題と英語コミュニケーションスキル入試は、どちらも漢字と計算が出題されています。

思考力入試のほうには本語の思考力問題が、英語コミュニケーションスキル入試のほうは面接・筆記などが実施されます。

 募集要項には日本の小学校卒業見込みと同等の学力がある者、とあるので、帰国生も視野に入れた入試と思われます。

 12月の帰国生対象入試と合わせて、帰国生には2回のチャンスがあると考えてもよいでしょう。

 また、都立中高一貫校の受験生には合格後の学費納入延期の特典もあるので、適正検査型の対策しかしてこなかった生徒もとりこもうとしていることがわかりますね。

 

跡見学園という学校

 跡見学園といえば、歴史が古い学校として知られています。

 1875(明治8)年の創立です。

 その5年前には女子学院フェリスが創立し、最古の女子校としてはこちらになりますが、ミッション系以外の学校としては跡見が最も古い学校です。

 しかし現在の跡見はそうした古さを感じさせません。

 7年ほど前に制服もリニューアルし、

制服 | 校章・校歌 | 学校紹介 | 跡見学園中学校高等学校

  校舎も円形の吹き抜けを囲むように教室が設置されて開放感があります。

 学校HP内に、学校紹介動画がありますので見てみてください。

跡見学園中学校高等学校 - YouTube

 茗荷谷護国寺を最寄り駅とする都心の学校ですが、近隣にはお茶の水女子大や筑波大附属高校などがある文教地区です。

 グラウンド・屋内温水プール・体育館・講堂なども充実しています。

 もっとも、学校選びの条件として「プールがないこと!」をあげる女子生徒もいますので、そうした生徒は選ばないかな?

 

大学入試に向けた学内の改革も進めているようで、入試問題からもそのことがうかがえます。

 

なお、2月1日の偏差値を見てみると、S-31、N-44、Y-43となっています。

また、大学合格実績をみてみると、早慶は6名、上智3名、GMARCH38名となっていました。ちなみに併設の跡見学園女子大には27名です。

 正直いって、国公立・医学部を目指す学校ではありません。この学校の価値はそこにはないと思うのです。気になる方はぜひ一度足を運んでみてください。148年の歴史はあなどれないなあと思います。

 

 

2023年の出題


大人になること」をテーマとし、短い動画を見たあとに、資料の読み取りやグラフ作成などがあり、いくつかの記述問題が出題されるという形式でした。 

 解答用紙を見ていただければわかるように、完全な記述のテストです。

 

問6 「(お金を自分で稼げるようになったら、大人だと思うという文中の言葉をうけて)『お金を稼ぐ』ことと『経済的に自立している』こととの関係をふまえて、さくらさんがこの言葉に納得できる気もするし、納得できない気もする理由を考えて説明しなさい。

 

 さて、どのように記述を組み立てればよいのでしょうか。

 ①お金を自分で稼げる=経済的に自立している

 →経済的に自立していれば、親や他人の指示に従う必要はない

 →したがって自立した大人だといえる

 

 まず、最初はこのように考える生徒が多いと思います。

 登場人物の「さくらさん」が、「納得できる気もする」根拠ですね。

 

②お金を自分で稼げるだけでは経済的に自立できるとはいえない

 →大学生のアルバイト程度では自立するには不十分である

 

文中に「姉のももこさんはアルバイトをしているがお小遣い程度の金額しか稼いでいない」という例があげられており、それをそのまま利用するとこのような解答の流れになるでしょう。

 

おそらくは、問題文の例に引きずられてこのように答えた受験生も多いのではないでしょうか。

 

「納得できない気もする」根拠の説明として間違ってはいませんが、この問題の出題意図からすれば最も幼稚な答といえます。

 

③経済的に自立しても、大人とはいえない

 →なぜならば、大人とは、良識をもち自分の責任を自分で負える精神的な自立を必要とするからだ

 

おそらくは期待されている解答はこれだと思います。

しかし、ここまで思考を展開できる受験生はほとんどいないのではないでしょうか。

 おそらくは、受験生に少しでも空欄を埋めてもらうためのヒントとして②の例が挙げられているような気がします。その上で、②の流れで答えを書いても〇をもらえるということになるのですね。

 

問8 跡見学園では、中学と高校6年間の在学中に、自分がなりたい大人のペースを自分の中に作ってほしいと考えています。あなたは今、どの程度自分を大人だと感じますか。解答らんの目盛りの上部に〇印をつけて示しなさい。そして、18歳になったときにはどの程度大人と思えるようになりたいですか。目盛りの下部に☆印をつけて示しなさい。さらに、あなたが記した〇印と☆印が一致していない場合は、〇印と☆印の関係はどのようになっているのか、そしてどうしたら☆印に近づくことができるのかを考えて説明しなさい。もし、〇印と☆印がまったく一致している場合は、その理由を答えなさい。

 

ほとんど自由作文のような記述問題です。

 

もちろん正解などありません自己分析と将来のビジョンについて、論理的にきちんと説明できるかどうかが問われているのです。

 

ここで注意があります。

〇印と☆印が完全に一致している場合というのは、すでに自分は大人であり6年後も同じということになります。

あるいは、今自分は子供で、6年後も子供のままであるということでしょうか。

いずれにしても、このように印をつける受験生はいないと思います。6年間の学校での成長を真っ向から否定するようなものだからです。

 

 ここはオーソドックスでいいのです。

 

自分はまだ子供だが、6年間の学校の学びでこれくらいまでは大人に近づきたい、そういう内容を具体的に書けばよいのですね。

 

 冒頭に申し上げたように、跡見学園は様々な学内改革の過程にあります。

 多くの伝統女子校は生徒募集に前向きです。

 歴史と伝統にあぐらをかいているだけでは、もはや生徒は集まってこないのです。

 きちんとした教育を外部に発信し、目に見える形で子供の成長を保護者に提示し、その上で大学進学やその先の未来を確実なものとしていく。

言葉でいうことは簡単ですが、スローガン一つで何とかなるようなものではありません。

跡見学園においても、入試制度の改革によって可能性のある多様な生徒を集めようとしているのでしょう。

今後も大きく入試制度が変わる可能性がありますので、志望する場合は学校側の発信する情報に注意する必要がありますね。