中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

【中学受験】最近気になる「豊島岡女子学園」という学校

最近よく名前が出る学校です。

第一志望にする生徒が増えてきたのです。

桜蔭を超えた」などという人もいます。

何をもって「超えた」のかはよくわかりませんが、人気校ではあります。

今回は、そんな豊島岡女子学園について考えてみます。

教育理念

その学校を知るときに、最初に確認すべきなのは「教育理念」です。

そこで学校公式HPを見てみました。

そこには「教育方針」として以下の3点があげられていました。

 

道義実践

いつの時代、どこの国民も、皆、道義正しい人間でなければならないことは言うまでもないことであります。生徒に道徳を実行することの大切さ尊さを諭し、更にこれを実行する習慣と喜びを体得させたいものです。

勤勉努力
物事をなすに当たって勤勉努力することほど尊いものはありません。これこそ事の成敗の鍵と言えましょう。日常の学習やクラブ活動を通じて、真面目に努力を積み重ねていくことを目標とします。

一能専念
人間には、必ずその人特有の才能があるものと信じております。 今それを「一能」といってみましょう。まだはっきり表われていないかも知れない生徒たちのすぐれた才能を発見し、育成し、磨かせることこそ、人を生かす所以であると信じております。

いいですねえ。実にいい!

地に足がついたというか、浮ついた「今どき」の理念でないところがとてもいいですね。

私の信念として、「教育」は「不易流行」でなければならないと思っています。

芭蕉曰く、「不易を知らざれば基立ちがたく、流行を知らざれば風新たならず」です。

とくに、時代によって変わらない本質的な部分がしっかりしていないと、ただたんに世の中の流行に流されるだけになってしまいます。

それを「教育」とは呼ばないと思うのです。

www.toshimagaoka.ed.jp

毎朝の運針

 有名な、毎朝の運針は、今でも行われています。

なにせ、学校の成り立ちは「裁縫学校」です。

加賀藩士夫人の河村ツネ先生とその娘の3人の女性による女子裁縫専門学校の開校に始まるのです。

いわば「運針」は、豊島岡のアイデンティティそのものであると言ってもよいでしょう。

その目的を、学校ではこのように言っています。

 

無心になる

物事をなすのに、一心不乱になりこれに取り組むということは極めて大切なことです。他の雑念をきれいに捨てて無心になり、無我の境地に入ります。

基礎の大切さを知る
物事にはすべて基礎が大切です。学問にも研究するにも、スポーツにも、仕事にもみんな基礎的なものが大切です。一枚の布、一本の針を通して、「基礎の大切さ」を学びます。

努力の積み重ねが大切です
物事は地味な努力を積み重ねてこそ、他の追随を許さないものに大きく伸びてゆくのです。毎朝5分間の運針、3年または6年の間、入学当初の自分と現在の自分を比較し、それがいかに大切なものであるかを体得します。

 

この運針って、毎回糸をほどくのですよね。

まるでギリシア神話の「シシュフォス」みたいじゃないですか。

豊島岡の卒業生に聞いてみたところ、とくに疑問も持たずにやっていたそうです。

6年間毎日ですからね。

でもこうも言っていました。

「別になくてもいいとは思うけど」

 

ミッション系の学校の朝の礼拝みたいなものかな?

 

大学実績

 

めざましい躍進が話題となっていますね。

2024年合格実績は、こうなっています。

卒業生359名 合格者数(現役)

東京大学 26(22)

お茶の水 6(4)

筑波大学 5(4)

東京医科歯科大学 4(3)

東工大 8(6)

一橋 6(6)

青山学院大 33(28)

慶應 93(74)

上智 70(61)

中央 62(52)

理科大 106(89)

早稲田 126(106)

立教 48(41)

 

まだまだあります。

凄いですね。

国立大学は111(85)です。

また、医学部医学科は184(121)となっています。

 

理系に強い(医学部に強い)女子校は? と聞かれることがよくあるのですが、桜蔭に加えて豊島岡も推奨できます。

 

また、HPでは、大学合格者数だけではなく、進学者数も公表しています。

こうした情報公開の姿勢は評価できます。

合格者数のデータだけでは、一握りの優秀な生徒が複数の大学合格の実績を稼ぐため、学校全体の実力が見えづらいのです。

その点、進学者数は、卒業生一人一人の進路ですので、学校の実力がさらけ出されます。

見てみると、

東大 22名合格22名進学

一橋 6名合格6名進学

東工大 6名合格6名進学 

などとなっています。

国公立については、合格者のほとんどがそのまま進学しているようです。

しかし私立はもともと複数合格者(しかも国公立にも合格)が多いですので、

早稲田 106名合格34名進学

慶應 74名合格24名進学

理科大 89名合格16名進学

上智大 61名合格5名進学 

などとなっています。

早慶上理」などと称される学校の合格もあっさりと袖にしてしまう生徒がこんなにいるのも、学校の実力?というべきでしょう。おそらくは国公立に流れているのかな?

 

ただし、全体の数値で若干気になるものもありました。

進学者数全体がこうなっているのです。
国公立 76名
私立 171名
その他 5名
計 252名です。

卒業生数が359名ですので、7割の生徒しか進学していません。

おそらく3割の生徒が浪人しているのではないでしょうか。

 

最近浪人する受験生は減っています。

とくに女子では、現役でどこかに進学するのが主流となりました。

まだまだ上位男子校では浪人してでも上(東大とか?)を目指す生徒も多いですが。

開成の現役進学率は59%、筑駒は66%です。

ちなみに浪人率が高いとされる都立日比谷高校では65%ほどのようですね。

 

そう考えると、豊島岡は男子校なみの上昇志向といえるかもしれません。

桜蔭についても調べてはみましたが、学校からの公式データはありません。おそらくは、豊島岡と同じくらいの浪人率ではないかと推測しています。

豊島岡大学合格者数推移

さて、ここで過去40年の大学実績の推移をまとめてみました。

1984年に、はじめて早稲田の合格者数が2桁となりました。

東大・一橋・東工大への合格者は、たまに1名いることがある程度です。

はっきりいって、このころの豊島岡は、有名大学へ合格実績を誇れるようなレベルの学校とは言い難かったと思います。

(もちろん学校の評価は大学実績のみで決まるわけではありませんが)

 

転機は1996年でしょうか。

ここから、東大・一橋・東工大にコンスタントに合格するようになりました。

高校募集を停止したのは2022年です。

 

 

学校の環境

 

学校があるのは池袋です。

池袋駅から徒歩7分、有楽町線東池袋駅からは徒歩2分です。

 

さて、この池袋という立地をどう評価するか。

日ごろ池袋駅を使いなれている方なら、通学がしやすい立地だと高評価になるでしょう。

山手線・湘南新宿ライン埼京線・丸の内線・副都心線有楽町線東武東上線西武池袋線の一大ターミナル駅です。

 

しかし、池袋にあまり縁がない方にとっては抵抗感の強い駅かもしれません。

駅から学校までは、グリーン大通りという大通り沿いの歩道を歩きます。

別に治安は心配ありません。

ただ、飲み屋街に通じる路地が何本も交差しています。

昔は、早朝に歩くと、酔っ払いが歩道で寝ていたりするのは珍しい光景ではありませんでした。

しかし、卒業生に聞いてみると、たしかに以前はそうした光景も目にしたが、コロナ以降はめっきりきれいな街になった。再開発もすすんでいる、とのことでした。

どうやら心配は杞憂のようです。

 

校地面積は公表されていませんが、6000㎡程度だと思われます。

狭いと評判の桜蔭が7000㎡くらいですので、それよりさらに狭いですね。

渋谷渋谷はの5500㎡以下のようですので、それよりは少しだけ広いのかな?

 

もっとも、女子校に広さを求める方は少ないでしょう。

広い学校がよければ、鷗友がお勧めです。

21836㎡もあります。

 

豊島岡は、埼玉県の入間に広大なグランドを持っています。

 

入試について

 

複数回入試を行っています。

2/2 160名

2/3  40名

2/4  40名

となっています。

教科・配点は、国語 50分100点、算数 50分100点、理社 50分100点 です。

理社が抱き合わせで、算国の半分の配点なのですね。

 

この複数回入試と日程については、2月1日の桜蔭・女子学院などの受験生の落穂ひろいで優秀な生徒を集めようとしている、と批判する人がいます。

 

そうかもしれませんし、そうではないかもしれません。

そもそも複数回入試を行うということは、そうした意図があるのは当然です。

別に悪いことではありません。

受験生からすれば、受験機会が増えてありがたい話だからです。

 

今の学校の実力・評判からすれば、この批判は的外れのように思います。

 

また、「桜蔭の合格を蹴って豊島岡に進学する生徒がいるらしい。だから、今や桜蔭より上だ」という方もいるようです。

 

そうかもしれませんし、そうではないかもしれません。

どちらでもよい話です。

 

豊島岡が魅力的な学校なのは事実ですし、別に桜蔭と競っているわけではないからです。

 

ただし、受験指導する立場からすると、少々厄介な点があります。

 

熱烈豊島岡志望者は、2/2・2/3・2/4と3日間受験する日程を組みます。

そうすると、他の学校の受験機会が著しく減ってしまうのですね。

鼻歌交じりでも合格できるレベルの生徒ならともかく、そうでない場合は、1日にどう合格をとるかで頭を悩ませます。

とてもじゃないけど、桜蔭や女子学院は怖くて受けさせられません。

鴎友・吉祥・洗足・フェリス、このあたりで合格を取りに行く作戦となるでしょうか。

 

私だったらそのように進路指導するのですが、普通の塾では異なる指導をされそうです。

豊島岡受験レベルということは、多くの塾でトップレベルの成績の生徒だと思います。

それなら、2月1日に、桜蔭・女子学院・雙葉・渋谷渋谷あたりを受験させて、「塾の合格実績」に貢献してもらいたい、そう考えるのが普通です。

それらの学校を志望しているのならよいのですが、そうでないのなら、塾の口車に乗らずに冷静に判断することをお勧めします。

そうでないと、2月4日の19時の合格発表の段階で、「一つも合格していない」などという切羽詰まった事態になりかねないからです。

 

午後入試を組み合わせるという手もあるのですが、豊島岡受験レベルの生徒が納得しそうな学校は見当たりません。ほぼ広尾学園一択(あとは香蘭くらい)です。

広尾学園がお好きなら良いですが、そうでないと受験する学校はありません。

 

あとは、2月5日の渋谷渋谷・洗足・頌栄という激戦の入試しか残っていないのです。

 

繰り返しになりますが、豊島岡三連戦を予定する場合は、2月1日の受験で確実に合格をとっていくことを考えるべきだと思います。

 

あるいは、千葉・埼玉の1月入試の合格校に進学可能な場所にお住まいの場合とかでしょう。

例えば新木場にお住まいなら、池袋も海浜幕張も等距離です。

 

算数・英語資格入試の導入

 

2025年の入試から、算数・英語資格入試が導入されます。

学校の公式発表は以下のようになっています。

 

【算数・英語資格入試】

算数(50分)の得点を2倍したものに、英検級によるみなし得点を加えた300点満点で判定

※算数は、4教科入試の算数の時間に試験を実施

※2022年第1階以降に取得した英検CSEスコア証明書(英検協会発行)の提出が必要

 

正直言って驚きました。

このような英検級保持者優遇入試制度って、なりふり構わず英語のできる生徒をかき集めたい新興校がよくやる手法だからです。

英語さえできれば、私大文系は何とかなるという発想です。

したがって、難関伝統校ではまずやりません。

まさか豊島岡がやるとは。

 

各回若干名の募集ということなので、試験的な導入なのでしょう。

海外大学への合格者数を増やしたいのかもしれません。

 

こうして、小学生のうちから英検級取得に邁進するご家庭が増えるのでしょう。

帰国生以外で英検準1級以上の取得は困難です。

そうとうやりこまないと難しいと思います。

確実に他教科の学習に支障がでますね。

 

・英語入試の自校作成を放棄した点

・国語・理科・社会を軽視した点

・帰国生をあからさまに優遇しようとする点

 

 

この3点において、賛成できない入試制度です。

まあ、私が賛成しようが反対しようがどうでもいいことですが。

 

入試への英語導入については、難関校(伝統校)は様子見状態です。

今後の変化に注目ですね。