中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

中学受験の素朴な疑問 複数回入試は、何度も受けると有利になるの?

よく聞かれるのです。

「複数回入試を行っている学校は、何度も受けたほうが有利になるのですか?」

この疑問について説明します。

かつては有利になると言われていた

そもそも複数回入試を実施する学校が少なかった時代の話です。

最初から全てに出願すると有利になる。

このように言われていました。

それは当たってもいたのです。

ある学校では、「熱意組は有利です」とはっきりおっしゃっていましたね。

2回入試がある学校で、2回とも最初から出願してくれる受験生は、「うちの学校にどうしても入りたいのだな」と判断し、5点プレゼントしてくれました。その学校の入試担当の先生からはっきりと、「複数回出願・受験してくれた受験生には5点下駄をはかせます」と言っているのを直接聞きました。

そこまで明確にしていなくても、「熱意組は配慮します」くらいおっしゃる学校はいくつもありました。

これには理由があります。

 

有利な理由

学校にとって、中学入試で優秀な生徒を集めたい、これは当たり前のことですね。

しかし、2月1日の1回だけの入試で優秀な生徒が行列して受験に来てくれるような一部の学校・・・開成・麻布・武蔵・桜蔭・女子学院・雙葉・慶應普通部等を除いては、仮に合格させたとしても、その生徒が本当に入学してくれるかどうかはわからないのです。

だから、どの学校も定員枠よりも多くの合格者を出します。

開成の例を出します。

年度

2020

2021

2022

2023

2024

出願者

1266

1243

1206

1289

1259

受験者

1188

1051

1050

1193

1190

合格者

397

398

416

419

424

倍率

3

2.6

2.5

2.8

2.8

入学者

304

304

305

307

303

入学率

76.57%

76.38%

73.32%

73.27%

71.46%

天下の開成といえども、入学率は71%くらいなのですね。

若干数字が低下しているのが気になります。

開成を蹴ってまで進学する学校といえば、従来は筑駒一択でしたが、最近は、渋谷幕張も候補に挙がっているのかもしれません。学校にとっては由々しき事態ですね。

ちなみに、筑駒の中学入試では、120名の募集定員にたいして128名の合格者数となっています。さすがに強気ですね。もっとも、この学校は試験日が2月3日、合格発表が5日ですので、この段階から抜ける生徒はいないという見込みかもしれません。

 

桜蔭はどうでしょうか。

出願者数    591人
受験者数    565人
合格者数    287人
補欠者数    30人

この学校は進学者数を公表はしていませんが、いちおう募集定員は240名となっています。何人補欠繰り上げしたのかも未公表ですから、進学率は計算できません。

おそらくは、慶應中等部あたりに抜ける生徒がいるのでしょう。最近は豊島岡に抜ける生徒もいるという話を聞きますが、たしかに豊島岡は1日に入試がなく2日が1回目ですので、そうした生徒もいるのかもしれません。渋谷渋谷に行きたいのなら1日にそちらを受験するでしょうから、渋谷渋谷には抜けないと思います。

 

麻布中については、352名合格で、305名前後が進学ということなので、入学率は86%ちょっとといったあたりでしょう。

開成にくらべると入学率が高いのは、開成よりも、「絶対麻布!」という熱望組が多いことと、筑駒へ抜ける人数が少ない(志望しない&受からない)ことがあると思います。

 

豊島岡はこのようになっています。

2024
合格者 550名
入学者 268名
入学率 48.7%
2023
合格者 557名
入学者 273名
入学率 49.0%
2022
合格者 544名
入学者 268名
入学率 49.3%

 

最近人気も実力もトップクラスの学校となった豊島岡ですら、合格者に対する入学者数の割合は50%を切るのですね。

 

歩留まりが悩みの種

入学率とはつまり歩留まりです。

歩留まりというとあまり良い印象の語句ではないですが、どの学校もこの数値の予想は難しく悩ましい。

例えば、200名定員の学校があったとします。

1クラス40名×5クラス、この数値で全ての設備が作られています。

もし定員を20名オーバーしたらどうなるでしょう。

おそらくは、1クラスを44名に増やすしかないですね。

当然教室は狭くなります。

もし定員を22名オーバーしたらどうなるでしょう。

37名×6クラスにしましょうか?

教室は足りるのかな?

生徒が大勢応募してくれるのは嬉しいことですが、定員をあまりに超えた入学者は学校にとって困った事態なのです。

かといって、定員オーバーを恐れて少な目に合格者を出して、もし歩留まりが悪かったらどうなりますか?

経営を圧迫しますね。

つまり、どの学校にとっても、「いったい今年は何人進学してくれるのか」が最も知りたい情報ということになります。

そこで熱望組です。

あきらかにこの学校に進学してくれることが見込める生徒ですからね。

だからこその優遇であったわけです。

 

複数回入試の一般化により事情は大きく変化した

午後入試を筆頭に、複数回入試が一般化しました。様々な名目で入試を細分化し、6回もの入試を行う学校すらめずらしくはありません。

すると何がおこったのか。

学校は、「熱望組」に対する優遇を考えなくなったのです。

「熱望組」よりも「優秀層」

これが欲しい生徒です。

だからこそ、例えば1日の午後に単科入試などを行うのですね。

どこかの第一志望校(難関校)を受験したあとに、気軽に受験してほしい、そうしたしつらえです。

点数が不足しても自分の学校を第一志望としてくれる生徒よりも、難関校の残念組を多く集めたい。

このように意図する学校が増えました。

こうなると、もはや優遇措置などありえません。

「24時間インターネット出願受付」

「写真・調査書不要」

「試験当日朝受付」

こうした学校も多くみられます。

もう、なりふり構わず、1人でも多くの優秀層を取り込みたい、そういう学校の姿勢です。

もちろんこれは悪いことではありません。受験生にとって受験機会が増えることは、非常にありがたいことですね。形式的な調査書など不要としてくれるのは嬉しいことですし。

こうして、「複数回入試の学校には、あらかじめ全ての日程を出願しておく」という作戦は意味を失ったのです。

 

複数回入試の初回は要注意

今後の戦略としては、複数回入試の学校の初回は要注意です。

広尾学園の募集要項を見てみましょう。

1日午前 募集定員50名
     合格見込み 80名
1日午後 募集定員 70名
     合格見込み 270名
2日午後 募集定員 35名
     合格見込み 110名
3日午前 募集定員 15名
     合格見込み 25名
5日午前 募集定員 35名
     合格見込み 100名

このようになっています。

合格見込みというのは、昨年度実績に基づく数字だそうです。これくらいは合格させますよ、ということですね。

この学校の入試は、「本科」「インターナショナルAG」「インターナショナルSG」「医進サイエンス」と非常にわかりづらいのですが、受験生は「広尾学園」に入りたくて受験すると思いますので、単純に5回入試とみなします。

すると、おそらく「熱望組」が受験するであろう1日午前の入試が最も厳しいことがよくわかります。それに比べ、おそらくは他の第一志望校を受験したあとに受けにくる、つまり広尾学園を第一志望としていないであろう1日午後の合格者数が最も多くなっています。

学校の姿勢はわかりやすいですね。

実際に、1日午前の入試は、偏差値データだけでは占えない、つまり受かりにくい入試であることは私の実感です。

 

それでも有利な場合はある

このように、複数回入試で有利になる場合は減った(なくなりつつある)と書いてきました。

それでも、有利になる場合があります。

例として、洗足学園のHPを見てみましょう。この学校は、帰国生入試を除いて、1日・2日・5日の午前に3回入試が行われます。それぞれの募集定員は、80名・100名・40名となっています。それぞれの合格者数は、83名・163名・73名となっています。

1日の入試でも80名の募集定員ですので、第一志望熱意組をきちんととろうとする意志は感じますが、合格者数は募集定員とほぼ同じで83名です。それに比べて、1日に他校を受験(おそらくは、桜蔭・女子学院等といった第一志望の難関校)した生徒が受けるであろう2日は、募集定員も100名と多く、合格者数も163名と最も多くなっています。確かに、私の指導した生徒でも、レベル的には合格できるはずだった生徒が1日に不合格だった、というケースは何度もありました。

そう考えると、この学校にどうしても進学した生徒は、少なくとも1日・2日の2回は受験するつもりで受験校を組み立てたほうがよいでしょう。

これは、複数回入試が有利になるというよりは、当然の戦略ということになります。

押さえの学校としては、例えば1日午後の三田国際や山脇学園、㏡午後の香蘭などを出願する生徒が多かったですね。また3日には午前に鴎友学園がありますので、洗足と鷗友を迷う、そうした生徒もいました。

ところで、学校のHPの入試に関するQ&Aにこうあります。

Q:繰り上げ合格の発表は3回ともまとめて行うのですか。
A:合否の判定は、それぞれの回で行いますが、繰り上げ合格の時には、受験した中で、一番良い国語・算数・社会・理科の点数を足して合計点として、良いとこ取りをして持ち点としています。

 

これはいいですね。

1回の入試の2科目の失敗を他でカバーできる可能性があります。

このような優遇措置をとる学校は他にもあります。

最初から繰り上げ合格を期待するのもおかしな話ですし、実際の入試でも繰り上げは期待しないのが鉄則ですが、少しでも有利になるのなら歓迎したいと思います。