この両校については、いつか記事にしたいと思っていたのです。
私の教え子もずいぶんお世話になっている学校です。
※両校を持ち上げる意図も貶める意図も全くありません。できるだけニュートラルな立場で書きますが、私の主観にすぎませんのでそのあたりはご容赦ください。
(本記事では、渋谷教育学園幕張中学校を「渋谷幕張」、渋谷教育学園渋谷中学高等学校を渋谷渋谷」と表記します。正式校名が長いので。)
思い出話
昔私が指導していた生徒に変わった生徒がいました。私が黒板に向かって板書していると、私の後ろにひっそりと佇んでいるのです。気配を感じて振り返ると、そこに人が立っている恐怖。悪戯をしているというより、自由人の生徒でしたね。
成績はなかなか苦戦していて受験校選びには苦慮しましたが、見事渋谷渋谷に進学しました。実は開校初年度だったのです。
一般に開校初年度の学校は入り易いものです。(最近は人気・情報先行型で初年度がいきなり難しいことも増えましたが)
ただし、海のものとも山のものともわからぬ学校を受験するのには勇気がいりますし、薦めるこちらも勇気が必要です。
私が渋谷渋谷を薦めたのは、10年ほど前に開校した渋谷幕張の成長を目の当たりにしたからでした。もっとも教育の世界で10年は短い時間です。それでも、今後の伸びが期待できる学校として、同系列の渋谷渋谷を評価したわけです。
その後の渋谷渋谷の発展ぶりを見るにつけ、あの時の自分の判断は正しかったのだな、と改めて思ったものでした。
今調べてみると、渋谷渋谷の開校は1996年となっています。もう28年前の話なのですね。
田村哲夫氏について
この両校について語るためには、この人物について語らないとなりません。
学校の隅々まで「田村イズム」が流れているからです。
1936年 東京生まれ
もう御年88歳になるのですね。
そして、注目すべきは麻布出身というところだと思います。
「麻布のような共学校を目指した」と言われています。
田村哲夫氏の一族もまた華麗な経歴です。少し紹介します。
けっこう複雑なので、田村哲夫氏を基準として縁戚関係を整理します。
父:田村國雄
1902生
1937 目黒商業女学校校長
目黒学園理事長
渋谷教育学園理事長
1970 死去
長兄:田村邦彦
1927生
目黒学園女子高等学校教諭
田村学園理事長
青葉学園理事長
田村学園学園長
2020 死去
本人:田村哲夫・・・田村國雄の二男
1936生
1962 渋谷教育学園常任理事
1970 渋谷教育学園理事長
1972 渋谷女子高等学校校長
幕張高等学校校長
青葉学園理事長
2022 渋谷教育学園学園長
長男:田村聡明
1968生
渋谷教育学園幕張高等学校副校長
渋谷教育学園幕張高等学校校長
学校法人幕張インターナショナルスクール理事
甥:田村嘉浩・・・田村邦彦の長男
1961生
田村学園常務理事
多摩大学目黒高等学校校長
田村学園理事長
長女:高際(旧姓田村)伊都子
1966生
東洋英和女学院中高教諭
渋谷教育学園渋谷中高副校長
渋谷教育学園渋谷中高校長
学校法人というのは同族経営が多いのですが、それにしても凄いですね。
深堀すればまだまだ広がりそうですが、今回のテーマから逸れるのでここまでとしておきます。
渋谷幕張の校長を長男が、渋谷渋谷の校長を長女が、そして学園全体を哲夫氏がみている、とそういう構図なんだと思います。
学校法人
多角経営すぎて把握しきれません。
わかった範囲で列挙します。
◆学校法人 田村学園
多摩大学・大学院
多摩大学目黒中学校・高等学校
目黒幼稚園
大森双葉幼稚園
三宿さくら幼稚園
大森双葉スイミング
◆学校法人 青葉学園
東京医療保健大学・大学院
青葉学園幼稚園
◆学校法人 渋谷教育学園
渋谷教育学園 渋谷中学校・高等学校
渋谷教育学園 幕張中学校・高等学校
渋谷幼稚園
渋谷教育学園浦安幼稚園
ブリティッシュ・スクール・イン・東京
学校の沿革
哲夫氏の父、國雄氏が1937年に目黒商業女学校を開校したことが全ての始まりでした。
(ここは現在の多摩大目黒です)
まずは渋谷渋谷の沿革を見てみましょう。
【渋谷渋谷】
1924 中央女学校開校
1934 渋谷商業実践女学校に改称
1943 愛泉女学校・東洋家政女学校を統合して、渋谷女子商業学校に改称
1946 渋谷高等女学校に改称し、渋谷中学校を開校
1948 渋谷高等学校を開校
1963 高等学校を渋谷女子高等学校に改称
1996 渋谷中学高等学校が開校
2001 渋谷女子校高等学校閉校
私にも詳細は不明なのですが、1960年代に田村哲夫氏の田村学園に吸収され、渋谷教育学園の理事長に田村氏が就任した、ということなのかと思っています。
(曖昧ですいません)
1970年代~1990年代にかけて渋谷で青春を過ごした?方ならご存じだと思いますが、渋谷女子校(渋女)は、ある意味有名な学校でした。
今、「渋女」と検索すると、「渋谷女子インターナショナルスクール」という学校しかヒットしません。HPの最初のページで「!」となりました。
「英会話・動画・SNSをマスターし、世界に挑戦する」そうです。
27歳のギャルが作った学校とありますが、学校法人ではなく「通信制サポート校」です。
通信制サポート校は、通信制高校ではありません。ただの民間施設です。
通信制高校の手伝いをするという位置づけですので、ここに通うだけでは高卒資格は得られません。
諸般の事情により高校に通えない子たちの受け皿なのでしょうか。最近この手の「学校?」が増えていますね。
どんな形であれ、子どもたちの「学び」は大切だというのが私の信念ですが、さすがにこれは私の想像の斜め上を行っています。
もちろん、渋谷教育学園とは無関係です。
学校の歴史・沿革を調べる際には、学校の公式HPを見ることにしています。
最も正確な情報だからです。
ただし、渋谷渋谷については、HPを隅から隅まで探しても、「歴史」も「沿革」も出てきません。もしかして、と思って英語ページまでチェックしたのですが。
普通は、「学校案内」「学校の紹介」「学校について」などといったところに、かならず「沿革」「学校の歴史」が載っているのです。
珍しいですね。少なくとも私はここ以外に知りません。
ささいなことかもしれませんが、この学校の姿勢が示されているのかな、と思っています。
過去は気にしない。
そういうことなのでしょう。(まさか渋谷女子高時代を葬り去る意図ではないでしょう)
また、この学校を志望する生徒も「学校の歴史などどうでもいい」のだと思います。
歴史好きの私からすれば信じられませんが、現在進行形で学ぶ生徒達にはどうでもいい話なのかもしれません。
(したがって、上に紹介した沿革抜粋も孫引き情報なので不正確です)
【渋谷幕張】
1983 渋谷教育学園幕張高等学校開校
1986 附属中学校開校
「早稲田渋谷シンガポ−ル校」となる
2004 渋谷教育学園幕張高等学校附属中学校を渋谷教育学園幕張中学校に改称
40年の歴史があります。
実は、渋谷幕張の登場以前は、千葉の私立中は東邦大東邦が頂点であり、次に市川中が人気校でした。
東京・神奈川の入試解禁日である2/1以前の1月に入試が行われますので、「お試し受験」「予行演習受験」の生徒も殺到する、なかなかにぎやかな入試だったのです。
もちろん千葉の生徒や東京でも千葉よりの生徒達も大勢志望します。
東邦大東邦で合格をとって(押さえて)から開成・桜蔭にチャレンジ、そうした生徒達が大勢いました。
しかし今やその流れは完全に渋谷幕張になりましたね。
東京最上位の生徒達がこぞって渋谷幕張の1月入試を受験します。そこで合格したら、入学手続きをするのです。住んでいるエリアによりますが、多少遠くても進学したい学校になりました。
大学実績
【渋谷渋谷】
東大 43(36)
京大 6(4)
東工大 3(1)
橋大 8(8)
千葉大 7(3)
早稲田 136(119)
慶應 104(86) 上
智 55(47)
理科大 53(35)
明治 50(31)
医学部医学科 60(39)
目についた大学を公式HPから拾ってみました。(かっこ内は現役)
なかなかの実績ですね。
意外だったのが、海外大学合格者数です。もっと多いと思っていました。
のべ34名と、とても良いのですが、ほぼ全て1名のみの合格で、たまに2名・3名の合格校があるといったかんじですね。
いくつか見てみましょう。
〇Amherst College 1名 全米屈指のリベラルアーツカレッジです。
〇Carleton College 1名 名門リベラルアーツカレッジ
〇College of Wooster 1名 キリスト教系リベラルアーツカレッジ(3.7)
〇Cornell Uniersity 1名 アイビーリーグ大学
〇Denison University 1名 リベラルアーツカレッジ
〇Earlham College 1名 小規模リベラルアーツカレッジ
〇Grinnell College 2名 名門リベラルアーツカレッジ
〇Lake Forest College 3名 小規模リベラルアーツカレッジ
〇Mount Holyoke College 2名 名門女子大
難しい名門大学に合格しています。
ただし、アメリカの大学入試制度は日本とは異なります。
何校でも出願が可能です。
チャレンジ・相応・安全、それぞれで数校ずつ出願するとして、一般には、8校~12校くらい出願するのは普通です。
このように考えると、渋谷渋谷の海外大学合格者数についても、数名の生徒が稼ぎ出した実績なのだろうと思われます。
この学校は一学年がおよそ200名、帰国生入試で入学するのがそのうち30名程度です。ただし、一般入試で入ってくる生徒にも準帰国生(幼少時に海外経験がある)もいるので、50~60名程度が海外経験がある生徒だそうです。
こうした生徒の存在が、学校の「グローバル」な空気を醸成しているとは思いますが、海外大学志向がそこまで強くはないのだな、というのが率直な感想です。
【渋谷幕張】
東大 64(51)
京大 13(6)
東工大 11(10)
一橋大 7(6)
筑波大 13(9)
千葉大 23(15)
早稲田 209(156)
慶應 151(119)
上智 45(26)
理科大 131(92)
明治 65(30)
医学部医学科 119
海外大学 64
海外大学については、34名がuniversity、34名がLiberal Arts Collegeとなっていました。
一般に、universityの方がLiberal Arts Collegeより格上のような印象を持たれがちですが、そういうことではありません。アメリカでは大学を偏差値で序列化していないのです。
海外大学合格者数のうち、帰国生は31名、一般性は33名とありました。帰国生以外でも学校で学ぶことで海外大学に合格できるというアピールだと思います。
ただし、帰国生入試を経て入学していない「隠れ帰国生」も多数いますので、これだけでは何ともいえません。「純ジャパ」と称される、海外経験が無い日本の高校生が欧米の大学に合格するのはハードルがとても高いのです。また、英語ができさえすれば合格できるというものでもありません。「英語力」と「その他の力」の両方を鍛えてくれる学校だとしたら素晴らしいですね。
実績人数だけ見ると渋谷渋谷を上回ってみえますが、一学年の人数がおよそ350人ですので、単純比較はできません。
グローバル
両校についてまわるのが、「グローバル」な雰囲気です。
国際化に早くから舵を切り、先進的な英語教育をしている、そうした印象がありますね。
◆ユネスコスクール
◆グローバルハイスクール
こうしたものに参加・指定されています。
また、「模擬国連大会」での活躍も目立ちますね。過去の大半の大会で日本代表に選ばれています。
これは、「全日本高校模擬国連大会」という大会に、全国の高校生チームが集う催しです。優秀チーム6校がニューヨークで行われるGlobal Classrooms International High SchoolModel United Nationsに派遣されるのです。
私は、日本の決勝大会を何度か見学したことがあります。
真面目そうな高校生たちが、割り振られた国の代表(になったつもり)として、お互いに英語で議論を交わし合う、そういう大会です。昼休憩中にも、会場外のマクドナルドで他校のチームに交渉を持ちかけている姿が微笑ましかったですね。
見ていると、ネイティブの英語力がある高校生が大半です。もちろんネイティブでない生徒も混ざっています。
こんなに真面目そうな高校生をまとめて見たのは初めてで、まだまだ日本の高校生も捨てたもんじゃない、などという感想を持ちました。
渋谷渋谷と渋谷幕張は、学内の複数チームで競い合い、選抜チームが参加しているようですね。私が2階席で見ていると、白人の先生に引率された生徒達が、先輩の活躍を見にきていました。彼ら同士の会話はナチュラルな英語でしたので、おそらく帰国生なのだと思います。ただし、交わされていた会話の内容は、お世辞にもお行儀のよいものではありませんでした。他校の選手を貶す発言はいただけませんね。英語だからわからないと思ったのかな。引率教師も注意はしません。まあ、高校生なんてそんなものですね。良く悪くも「欧米化」しているのだなあ、というのが私の感想でした。
ちなみに、この高校模擬国連国際大会のバックは公益財団法人ユネスコ・アジア文化センター という組織ですが、この財団法人の理事長は田村哲夫氏です。
学校の魅力
とかく、伝統校と新興校、別学と共学、という文脈で語られることの多い学校です。
たしかに、この2校が出てくるまでは、「共学の進学校」と呼べる学校がとても少なかったのです。
神奈川の桐蔭くらいだったと思います。
あとは、共学といえば大学の付属校ばかりでしたね。
必然的に、中学受験する優秀層は、開成・麻布・桜蔭・女子学院といった別学伝統進学校に流れていきました。
しかし、渋谷幕張、そして渋谷渋谷の登場により、ここに「共学の進学校」という選択肢ができたのですね。
また、学校の歴史や伝統などに重きをおかず、むしろ「新しい教育」を求める層をもひきつけます。
両校の成功は必然だったのだろうと思います。
その後、広尾学園をはじめとして多くの「共学の進学校」で「グローバル」な匂いのする「新しい教育」を実践する学校が登場しています。
私立中高の魅力は、創立理念にあるというのが私の持論です。
1.一人の(複数の)強力な個性が、学校を立ち上げる。
2.その理念に共感した人材が集まる
3.その理念に共感した生徒が集まる
4.その理念が100年以上継続する
こうして魅力ある学校が作られていくのです。
100年も続く学校には、どこにも芯となる「教育理念」が息づいていると思います。
渋谷幕張も渋谷渋谷も歴史の浅い学校です。上の段階でいえば、3段階目です。
現理事長の田村哲夫氏の後、教育理念が今後どのように引き継がれていくのか、そこが重要なのだと思います。
ただし、これはあくまでも外野から見た話ですね。
実際に通っている生徒、これから進学したい生徒にとっては、100年後も続く教育理念だの未来だのはどうでもよい話かもしれません。
今行われている教育こそが最重要なのは間違いありませんので。