中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

大学統合と教育の未来(2024.3.21加筆修正)

 ※2024.3.21加筆修正

最近大学に関して気になるニュースがいくつもありました。

2023年から2024年にかけて気になった出来事をいくつか取り上げてみたいと思います。

 

1.学習院大学学習院女子大学の統合

2023年夏ごろでしたね。このショッキングなニュースを聞いたのは。

なんと、学習院女子大学学習院大学が統合を発表したのです。

詳しくはこちらの学校HPをご覧ください。

www.gwc.gakushuin.ac.jp

 

最近の女子大学不人気は知っています。2023年の4月には恵泉女学園大学が2024年に閉校することがニュースとなっていたばかりですね。

こうした大学の動きは、当然中学入試・高校入試にも影響を及ぼします。

 

2.女子大の不人気について

ところで、女子大に限らず、大学が閉校となる理由は、もちろん赤字にあります。学校法人の赤字の原因としては、同族による放漫経営といったものもあるでしょうが、端的に言えば「生徒が集まらない」ことに他なりません。

では、生徒が集まらない理由は何かといえば、これも単純に「魅力がない」ということになるでしょう。

さらに魅力がない理由を考えていけば、以下のような理由に整理できると思います。

 (1)規模が小さい=学部が少ない

 恵泉女学園大学の例でいえば、人文学部人間社会学の2学部しかありません。当然学びの選択肢が少ないことから受験生が選びにくい大学となっています。さらに生徒数が少ないと、学び以外の大学の楽しみ=サークル活動に支障をきたしていたことが考えられます。

ここ数年の同大学の生徒数の推移はこのようになっていました。

入学定員充足率・・・入学者/定員
2019年・・・124%
2020年・・・104%
2021年・・・ 77%
2022年・・・ 56%
2023年・・・ 41%
今年は290名の定員に対して118名しか入学しなかったのです。

4学年の合計をみると、2023年の生徒数は803名、定員充足率は67.6%となっています。2021年からみると、94%→86.5%→67.6%と、急速に人数が減っていることがわかります。

一般に定員に対する生徒数(充足数)が60%が大学閉校の限界ラインといわれているようなので、まさにその条件にあてはまったといえるでしょう。


 (2)特徴ある学部が見当たらない

恵泉女学園大学の2学部は、このような学科で構成されています。

人文学部

 〇日本語日本文化学科:「日本文化や日本語を国際的な視点から探究し、その特徴や豊かさを理解し、教養を深めます」

 〇英語コミュニケーション学科:「世界を知り、人とつながるための「英語力」と「幅広い教養」を学ぶ」

◆人間社会学

 〇国際社会学科:「国や地域間、特定の地域に偏在する問題に現場感覚をもって取り組む人材を育成します」

 〇社会園芸学科:「人と人との豊かなつながりを築く新しい園芸をめざし、園芸学と心理学を学びます」


こうしてみると、「社会園芸学科」を除いては、恵泉ならではという特色ある学部・学科が見当たらないような気がします。

もともと恵泉といえば、「園芸学」「平和学」が2枚看板の大学でした。
「平和学」で修士号が取得できる唯一の大学院があり、全学共通科目として、「教養基礎」以外に、「キリスト教学」「平和研究」「生活園芸」が必修となっています。

園芸については、郊外の立地を活かして、大学敷地内には畑・水田、さらには里山までが広がっています。1年生は畑作業が必修だそうです。
そういえば、NHKで放送されている「やさいの時間」を指導していたのは、恵泉女学園大学副学長の藤田先生でした。

こうした園芸についての学びは、とても素晴らしいと思うのですが、今時の女子高生に人気がでるかどうかは微妙です。
大学を訪ねて、1年生が育てている野菜の畑を案内していただいたことがあります。農作業を嫌がる生徒はいないのか聞いたところ、「そういう生徒もいます」とのこと。なかには放課後自主的に野菜の世話をするような生徒もいるとはおっしゃっていましたが。

せっかくの看板学科なのですが、「人間社会学部」というひとくくりにしてしまうと、もやっとして目立たないですね。もったいないと思うのですが。


学習院女子大学の学部を調べてみると、以下のようになっていました。

◆国際文化交流学部(一学部しかない)
  〇日本文化学科
  〇国際コミュニケーション学科
  〇英語コミュニケーション学科

在籍生徒数は1690名で、定員に対する充足率は117.4%です。

過去6年の入学者数の推移をみてみます。

430 → 354 → 412 → 367 → 358 → 409

定員の355名は上回っています。志願者数の推移はどうでしょうか。

2410 → 2643 → 2203 → 1901 → 1280 → 1614

2023年は持ち直したようですが、予断は許さない状況なのかもしれませんね。


 (3)立地が悪い

これについては巷でよく聞く話なのですが、必ずしも立地だけが問題なのかはわかりません。

学習院女子大学は新宿区に広大なキャンパスを所有していますので。

恵泉女学園大学については、たしかに立地が良いとはいえないですね。多摩センター駅から専用のバスで10分です。小田急線や京王線沿線の場合は通いやすいですが、大学周辺は雑木林が広がっているような立地で、周囲には何も(本当に何も)ありません。最寄りのコンビニまで1㎞以上あるというところです。豊かな自然に囲まれてはいますが、華やかな女子大キャンパスライフをイメージしにくいのは確かです。郊外立地の大学の場合、アルバイトするところが無いという悲鳴も聞く話です。


(4)附属高校からの進学者が少ない

学習院女子高から学習院女子大学に進学した生徒は、2023年は3名でした。残りの生徒のうち、83名が学習院大学に推薦で進学します。1~3名程度が例年の内部進学者数です。
割合でいうと、学習院大学(推薦)45%、他大学進学43%、その他10%となっていて、学習院女子大学への推薦は2%でした。

恵泉女学園中高から大学への進学者を調べてみると、どうやらゼロのようす。少なくとも恵泉女学園高校が公表しているデータにはありません。

東洋英和女学院高等部から大学への進学者は今年は6名でした。

いずれの学校も、附属中高のレベル(偏差値)が大学よりも上ですね。そのまま大学に上がることが魅力的ではなく、他大学へ進学してしまう。だから大学が生徒募集に苦戦することになるのです。

そういえば、5年以上前に閉校となった東京女学館大学も同様です。

◆附属中高のほうがレベルが高い
◆附属中高が都心に立地しているのに、大学が郊外にある

女学館は、渋谷区広尾に立地していますが、大学は町田市でした。恵泉も高校は世田谷区です。

そうしてみると、他の大学が心配になってきます。

◆東洋英和
  〇中高・・・港区六本木
  〇大学・・・横浜市緑区十日市場駅からバス)
◆大妻
  〇中高・・・千代田区三番町
  〇大学・・・千代田区三番町 / 多摩市唐木田 (学部で異なる)
◆白百合
  〇中高・・・千代田区九段
  〇大学・・・調布市(仙川駅)
◆跡見
  〇中高・・・文京区
  〇大学・・・文京区(茗荷谷) / 新座市

 

広い敷地が必要な大学がどうしても郊外に立地しがちなのはやむを得ないとはいうものの、高校生にとっては魅力が半減する原因かもしれません。

ただし、大妻に関しては、大学の学部のバリエーションは多いですね。

そしてそのほとんどが千代田区のキャンパスとなっています。家政学部、文学部、社会情報学部、比較文化学部、短期大学部が千代田キャンパス、人間関係学部のみ多摩キャンパスです。また、管理栄養士の資格がとれる食物学科も人気だそうで、ここは心配ないかもしれません。入学者定員も多く1575名ですし、過去3年の入学者数も、

1642  →     1661 → 1595 と堅調です。

白百合についても、就職率が高いので心配ないと内部の方からうかがいました。
もっとも、定員475名に対する入学者推移は、 571→521→488→477→364 と減少傾向にあるのが気になります。

東洋英和女学院大学は深刻かもしれません。入学定員480名に対し、入学者数は、429→426→327→207 と4年で半減してしまいました。

跡見学園女子大学はどうでしょうか。
入学定員は1600名と多いですね。一方入学者数は、1529→1521→1598→1577→1728→1508→1269→1368→1234
となっています。
直近3年の減少傾向が気になります。

 

〇共立女子大

 少し調べてみました。入学者数の推移は

大学・・・1405→1382→1408→1309

短大・・・247→189→135→161

となっています。大学は入学定員1395名ですから、2023年は下回りました。2023年から新規設置された建築・デザイン学部の108名を加えての数字ですので少々心配です。

短大は定員200名に対して近年は下回っています。2023年は少し持ち直していますが、2024年はどうなったでしょう。

共立女子中高から大学への進学実績はこうなっています。

国公立 20人

早慶上理ICU 39人

GMARCH 57人

津田塾・東京女子大日本女子大 17人

薬・看護・農・理工系大学 53人

美大・音大 8人

共立女子大 30人

その他 50人

浪人 37人

卒業生数311人中の数字ですので、10%弱が高校から共立女子大へ進学しているのですね。

やはり高校に隣接した神田という立地が大きいのでしょう。八王子にもキャンパスがあったのですが15年ほど前に神田一ツ橋キャンパスに統合されています。

 

3.女子大閉校が中高にもたらす影響

そもそも附属高校からそのまま大学に進学する生徒が少ないのです。(ほぼゼロの学校も多い)

したがって、大学の閉鎖は中高に及ぼす影響は少ないかもしれませんが、以下のような問題は考えられます。

 

 ◆イメージ低下

 もともと女子校には伝統校が多くあります。伝統校には長い歴史が育んできたものがあります。いわばブランドイメージですね。大学の閉鎖は、少なからずブランドイメージを棄損します。

 

 ◆逃げ場がなくなる

 逃げ場とはずいぶん失礼な言い方ですね、すいません。大学に進学したい学部・学科があって、附属中高を選ぶ生徒もいたはずです。また、中高で学業以外に打ち込むものがあっても、そのまま進学できる大学があることが、いわばセーフティネットの役割をはたし、中高生活の充実につながる場合もあったでしょう。そうしたものが無くなるのですね。

 

 ◆大学の施設が利用できなくなる

 これは大きいです。
 中高と大学が全く離れた場所にある場合は異なりますが、大学が中高に隣接している場合(学習院女子や大妻、跡見など)には、中高生が大学の施設を利用できるようになっていることが多いです。
充実した図書館や体育館・グラウンドなど、中高を超えた充実した設備が利用できるのですね。それが無くなるというのは大きな問題です。
ある卒業生によると、本来は禁じられている大学の食堂へ、先生に見つからぬよう猛ダッシュで昼食をよく食べにいったそうです。何か、青春ってかんじがしますね。

 ◆青田買いが加速する

 みなさんが大学受験をした当時と今の大学受験事情は大きく異なります。ペーパーテスト一発で合否が決まる入試ではなくなりつつあるとお考えください。

 大学側の事情から考えます。まず、定員の厳格化があります。8年ほど前から私学助成金の交付基準が厳格化しており、収容定員超過率1.07倍の基準を超えると減額されることになりました。そのため、大学としても、実際に入学してくれるかどうかわからない受験生を合格させることのリスクが増大したのです。いわゆる「歩留まり」が読めない受験生よりも、確実に入学してくれる推薦入試の生徒の割合を増やしたほうが安心できるのですね。

大学の生き残りをかけた生徒獲得の動きが加速するでしょう。


4.女子大に未来はないのか

 

女子大はオワコンだ、という人も多いようです。オワコンって嫌な言葉ですね。

〇女子大は女子教育に門戸が閉ざされていた時代の遺物だ

少子化の中で人気がない大学の閉校は当然だ

〇優秀な女子は女子大を選ばない

〇花嫁修業のための学校はもう存在意義を失った

ジェンダーフリーの時代の流れに逆行する存在だ

〇共学の大学が女子生徒の獲得に動いている今、女子大に勝ち目はない

〇男子大学がないのに女子大だけがあるのは不自然

〇これからは理系の時代だから女子大は不要

〇そもそも大学が多すぎる

他にもまだまだ批判的な意見はありますね。

でも、私はそうは思っていません。

そもそも教育を、市場原理のみで語ることに違和感があります

どの学校も、正しいと信じる教育を実践する者がいて、それに共鳴する生徒が集まって始まったはずです。

いったいいつから教育がビジネスになってしまったのでしょうか。

市場のニーズをとらえるといえば聞こえはいいですが、世の中の風潮に合わせてまるで鵺のように姿を変える学校は、もはや教育機関ではないと思います。それは塾や予備校の世界です。

 

OECD加盟国では大学授業料無償化が実現している国は、フランス・ドイツ・ポーランドオーストリアスウェーデンノルウェー等17か国にもおよびます。それ以外の国でも給付型の奨学金が充実しており、家計の事情で大学進学をあきらめる必要がないように制度化されています。

大学が有償で給付型奨学金制度がないのは日本だけなのです。さらに日本はOECD加盟国34か国の中で、GDPに占める教育関連予算の割合が最下位と不名誉な記録ももっています。

このあたりが何とかならないと、教育内容の貧困化は加速する一方でしょう。

たとえ生徒が集まらなくとも、個性的かつ意欲的な教育を実践し続けるような学校が生き残れる社会のほうが健全だと思うのです。

全ての学校が、理系・デジタル化・グローバル化に舵を切り、企業のニーズに応える就職予備校化していくような社会は極めて不健全だと思います。

 

最後に付け加えますと、ここでとりあげた女子大が将来的に閉鎖の危機にあるなどと主張しているわけではありません。どの大学も歴史も伝統もあり、教育内容も素晴らしいものがあると思っています。

また、果敢に攻めている女子大があるのも嬉しいですね。昭和女子大・共立女子大・津田塾大学といった名前が浮かびます。新規学部を開設し、前向きな姿勢が素敵です。

 

5.東京科学大学の誕生

 いよいよ2024年の10月に東京科学大学が誕生しますね。東工大と医科歯科という、全く異なるジャンルの大学が統合することでいったい何が生まれるのか、非常に興味があります。単純に医工連携というより、全く新しい学問領域が生まれることを期待します。

ただ、若干不安な点もあります。

そもそも東京工業大学は明治時代に殖産興業政策のもとで「東京職工学校」として誕生した大学です。一方、東京医科歯科大学は昭和初期に「東京高等歯科医学校」として誕生しました。つまり、どちらの大学も仕事に直接関係のある専門分野を学ぶことを目的とした大学です。まさに「 Institute 」なのですね。

 

今から8年ほど前に、国立大学法人理学部長会議(全国34の国立大の理学部長らで構成)が発した声明を思い出します。そこでは、「未来への投資」と題して、「役に立つ」を前提にした研究では、今年のノーベル医学生理学賞受賞が決まった大隅良典東京工業大学栄誉教授のような新発見は決して生まれない」と訴えたのです。

さらに、「大学から研究者に配れる研究費は年間約30万円」、「生物系の研究室では、大学からの資金が生き物を飼うための電気代で消える」、「研究費は約1億円を二百数十人で分けるため50万円弱。人件費は今後13・2%削減する計画」などという惨状が訴えられたのです。

あれから8年経ち、大学の理系分野はますますいびつなことになっています。資金の潤沢な東京大学ですら、数百名もの研究者を雇い止めせざるを得ないのが現状です。

国際競争力を高める目的で理系教育の充実が叫ばれて久しいのですが、どうやら真逆の方向に突き進んでいるようですね。

この危機感が、両大学統合の真の目的なのでしょう。

 

ところで、大学の目指す方向を占うものとして、新しい大学の名称をどうするのか、という点に注目していました。

まさか「東京医科歯科工業大学」た「東京医歯工大学」では芸が無さすぎます。かといって、ネットに溢れていたアイデア、「シン東京大学」「東京イカシカメカ大学」などというのでは、とても面白いのですがさすがに無理でしょう。未来志向を感じさせる名称を期待していました。

結果は、東京科学大学。ちょっとがっかりです。両大学に縁もゆかりもない私が言えるセリフではないですね。

 英語名のTokyo Institute of Technology (TIT) プラス Tokyo Medical and Dental University (TMDU)はどうなったのかといいいますと、英語名称は Institute of Science Tokyo です。この英語名が、東京科学大学の目的を物語っていますね。「仕事の役に立つ」大学を目指していることは明らかです。8年前の悲痛な叫びは何だったのでしょう? たしか当時の幹事大学は東工大だったはずですが。

ちなみに、東京理科大学は Tokyo University of Science (TUS)です。日本語だと紛らわしいですが、英語表記のほうが区別しやすいですね。

参考にリンクを貼っておきます。

www.titech.ac.jp

 

6.慶應義塾大学東京歯科大学の併合は幻か?

2020年に発表され大きな話題となったニュースでした。「慶應歯学部」が2023年に誕生する予定だったのです。しかしそれから1年で、コロナを理由とした無期限延期が発表されました。コロナを理由にされると何となく納得してしまいますが、よく考えてみればおかしな話です。しかも、コロナが落ち着き社会生活が戻ってきた現在でも、続報がありません。これは完全に立ち消えとなったとみるべきでしょうか?

 

7.受験生にとってのメリットは?

 文科省としても、財政基盤が弱かったり生徒募集に苦慮している大学の再編・統合に積極的な立場のようですね。もちろん大学も生き残りをかけて必死です。

しかし、そこに受験生への配慮はあるのでしょうか?

どうもビジネスの論理が先に立ち、教育的視点が感じられないような気がするのは私だけかな?

受験生にとってはデメリットしかありません。

せめて受験生が大学を意識し始める、6年以上前には公表し、途中経過も含めてきちんと情報公開をする配慮が欲しいと思います。