中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

塾の不祥事について考える

本当は触れたくないテーマです。

でも、一度きちんと書いておくべきだと思うのです。

1.さまざまな不祥事

 塾といえども、一企業にすぎず、経営者や働く人間も別に人格者なわけではありません。昔から様々な問題が起きています。「塾/不祥事」のワードで検索すると、このよう記事がヒットしました。

◆栄光ゼミナール元社員が盗撮(2024.3月)

四谷大塚元講師が生徒を盗撮(2023.8月)

◆学習塾経営者が生徒へ強制わいせつ(2023.7月)

◆アルバイト講師が生徒殺害(2005年)

◆アルバイト講師不同意わいせつ(2023年)

その他にも様々な事件が出てきて、正直なところ吐き気を覚えました。

それらの事件の経緯や原因等については識者が分析してくれていますが、私なりに整理してみるとこうなります。

 

2.不祥事の背景

 (1)慢性的人手不足

 塾の世界は慢性的な人手不足です。講師職の入れ替わりも激しい業界です。そのため、

 ◆人間性に目をつぶって雇用する

 ◆辞職させられてもすぐに次の職場が見つかる

となりがちなのです。あきらかに、これが不祥事が起きやすい背景です。

 (2)資格がいらない

 学校教諭とは異なり、塾の講師には何の資格もいりません。塾を開くことにも何の制約もありません。ある日看板をかかげ、教師を名乗ればそれで塾はスタートします。

 一般にはこのことが塾講師のレベルの低さにつながると考えられるようです。

しかし、実は違います。

 何の資格もないということは、その実力を自ら証明し続けなければならないことを意味します。学校教諭の不祥事もまた多いことを考えると、資格の有無が不祥事の有無とリンクしているわけではないと考えられるでしょう。

 (3)社会に適合できない人間が多い?

 これはどうなんでしょう?

 たしかに、昔はそうした側面もあったと思います。学生運動に身を投じたために一般企業に就職できない人間が予備校講師になった、というやつですね。また、早起きして会社に行くことができないので塾の教師になったという人間も知っています。しかし今はどうでしょうか?

 少なくとも、大手の塾では新卒採用を行っており、教育関係の就職先の一つとして塾業界が存在するため、かなり普通?の社員が多数となっていると思います。その塾で小学生(中学生)時代に学び、私立中高一貫校に進学し、大学を卒業した後に出身塾に新入社員として就職するケースも増えているといいます。

 昔、ある中学校の「塾教師向け説明会」にうかがったときのことです。電車の車両に座っている人間を観察すると、あきらかに「塾教師の匂い」をまとった中年男性が何人も目につくのですね。やがて学校もよりの駅に電車がつくと、それらの中年男たちが一斉に席を立ったのには思わず笑ってしまいました。もちろん私もその一人として席を立ったわけですが。このように、言葉にはできませんが「塾教師独特の雰囲気」というものがたしかにあったのですが、今は時代は変わりました。

 

 (4)異性(同性)の対象年齢が生徒の年齢層である

 これが私には一番理解し難い部分です。はたして一般社会よりもこうした志向の人間の割合が高いのか、それとも教育産業ということでニュースになりやすいのか、あるいはそういう性癖が顕在化しやすいのか、それはわかりません。しかし、その志向を心のうちに留めておくのか、実際の行動に移してしまうのかに大きな差があるのは確かです。

本来ならこうした人間を雇用の際に排除すべきなのでしょうが、不可能です。

様々なニュースを見ると、塾業界というより、社会全体にそうした傾向が増加しているような気がします。アニメやゲームの影響が大きいと私は思います。

 (5)勘違いをする人間が多い

 教師は、教室においては「偉そう」に振る舞います。本当に実力のある教師ならそんな振る舞いをする必要はないのですが、実力の無い教師に限って「偉そう」です。そうした振る舞いで生徒を支配するのですね。そこに勘違いの種があります。

 生徒に対して何をしても良いと勘違いするのでしょうか?

もはや病んでいるとしか思えませんが、そうした現実もあるのでしょう。

 (6)生徒に慕われることによる勘違い

 さすがに小学生相手ではないと思いたいですが、中高生相手ならあるのかもしれません。教科の指導に対して生徒が評価してくれているのを、自分自身に対しての評価と勘違いするのでしょう。

 

 (7)実力至上主義が生む誤解

 塾の世界は実力至上主義です。成績をあげる・合格させる、この2点のみが評価される傾向が強いのです。そのため、多少人間性に問題があっても「目を瞑る」ことがあると思われます。


3.どうしたらよいのか(塾サイドから)

 こうした不祥事が起きると、塾は潰れかねません。各塾とも防止策を考えていると思います。

 (1)採用時に気を付ける

 過去の性犯罪歴を問い合わせできる「日本版DBS」がスタートするようですね。今までなかった方が不思議です。大いに活用して欲しいと思います。

ただし、これで判明するのは「犯罪歴」だけです。表沙汰にならなかった事件まではわからないのです。

 私も以前に採用担当の仕事をしていた時には相当気を使ったものです。

 〇学校・塾を辞めて応募してきた人間は最初から疑う

 辞めるのには理由があるはずです。申し訳ないですが、これは最初から疑ってかかるほかありません。ある時、ベテランの高校の先生が応募してきました。ネットで調べてみると、某高校で不祥事が噂となって退職しているのですね。もちろん不採用としました。

 〇SPI性格検査

 これは役に立ちませんでした。

 〇SNSを検索する

 これは必ず行いました。それで不採用としたケースはほとんどありませんが、ゼロではありません。

 〇勘

 結局はここに行きつきます。長年の人生経験に基づく勘とでもいうものですね。さすがに性的志向まではわかりませんが、何か危ない匂い、何かしでかしそうな匂いというものを感じたときには、自らの直観に従うことにしていました。

 (2)研修を強化する

 今はどの塾でもやっていると思いますが、これは不祥事防止には役立ちません。もし多少でも効果があるとすれば、警察の免許更新の時に見せられるビデオのように、「不祥事により人生を狂わせた人間」のドラマでも見せることでしょうか?

 しかし、そうした人間にどれだけの効果があるかは疑問です。

 (3)監視カメラの導入

 これは有効です。すでに何年も前から導入している塾もありますし、最近の報道を受けて慌てて設置している塾も多いですね。

 (4)教室をガラス張りにする

 これも有効です。悪いことはできません。ただし、生徒の集中力は著しく低下するでしょう。

 (5)複数教師を教室に入れる

 これも有効です。しかし人件費が2倍かかりますので、現実的ではないでしょう。

 

 (6)教室内にスマホを持ち込ませない

 これを実施している塾も多いと思いますが、悪いことをたくらむ輩は抜け道などいくらでもみつけますので効果は限定的です。

 (7)怪しい教師は事前にチェックする

 本当は有効なのでしょうが、これは不可能です。人権的に問題です。

 

 (8)生徒と1対1にしない

 これは有効です。おそらく集団指導塾では当然そのように指導しているはずです。

 

4.どうしたらいいのか(保護者サイドから)

 (1)塾・教師を信用しない

 哀しいアドバイスですが、もうこう言うしかないですね。本来なら教師と生徒の信頼関係が指導の前提なのですが、塾の教師を信用してはいけない時代となりました。

 信用できる人間かどうかは、親が直接確かめるほかないでしょう。

 (2)教室環境をチェックする

 監視カメラ・ガラス扉など、塾内に死角がないかどうかチェックしましょう。

 (3)必ず迎えにいく

 塾の帰り道の安全確保のために重要です

 (4)居残り補習は断る

 もう居残り補習は不祥事の温床と考えるべきでしょう。そもそも補習をしなくてはならない段階で、その塾・教師の指導力は低いと考えるべきです。

 (5)生徒に接する態度をチェックする

 あだ名や下の名前で生徒に親し気に呼びかけていないかどうか。塾の指導にそうした「親しみの演出」は不要です。むしろグルーミングの下心を疑うくらいでちょうどよいでしょう。

 (6)他の生徒や保護者の話に注意する

 不祥事を起こす教師というものは、生徒間で噂になったりするものです。過剰反応するくらいでちょうどよいのです。

 (7)子どもにスマホを持たせない(or常にチェックする)

 いわゆるグルーミング防止のためです。教師という立場を利用して子どもに近づこうとする人間をいち早く察知しましょう。

 (8)子どもとのコミュニケーションを重視する

 何か少しでも怪しい兆候があれば、すぐに親に相談できる関係が重要です。

 

5.どうしたらいいのか(生徒サイド)

 (1)教師に連絡先はもらさない

 もちろん自宅の連絡先は塾に記録されていますが、まともな塾なら講師にこうした個人情報を見せることはありません。教師が生徒のメアドを知りたがったりラインで繋がろうとしたら全力で拒否しましょう。もちろん教師が一方的に教えてきた場合も同様です。そのうえで、すぐに親に報告して「大事」にすべき案件です。

 (2)目の前で教師がスマホをいじったら要注意

 生徒がいる時間帯は教師も仕事中です。スマホをとり出す必要もなく、会社としても禁止しているはずです。それをとり出しただけで、アウトです。すぐに親に報告して「大事」にすべき案件です。

 (3)個人的な補習は断る

 「個人的に教えてあげよう」といった誘いがあったら、全速力で逃げてください。すぐに親に報告してください。

 (4)距離感に違和感を感じたら逃げる

 何かこの先生は距離感が近いなあ。もしそう感じたら、全速力で逃げましょう。すぐに親に報告します。

 (5)塾なんかいくらでもある

 べつにその塾に固執する必要などありません。我慢する必要はないのです。きちんと学ぶ環境がないのなら、そこは辞めるべき塾ということです。



なんだか書いているうちに哀しくなってきました。

同じ業界の端っこにいる身としては、塾がらみの不祥事がニュースとなるたびに、「いいかげんにしてくれ!」といいたい気分です。「これだから塾教師というものは・・・・」と世間で思われているのでしょうね。