中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

chatGPTの間違いを指摘しながら、日本の貨幣経済の発達について考える

 

以前の記事で、入試問題に生成AIについての記述問題が出題されたことを書きました。

peter-lws.hateblo.jp

 そこで、「生成AIはもっともらしい嘘をいくらでもつく」ことが弱点であると指摘しました。

今回は、その点を深堀りしながら、日本の貨幣経済発達の歴史についてまとめていきたいと思います。

代表的な生成AIである、Chat-GPTに、「日本の貨幣経済の発達について」というテーマで質問してみまました。その答えが、以下の文章です。

1.Chat GPT の作った文章

Q:日本の貨幣経済の発達について

日本の貨幣経済の発達については、歴史的な変遷や時代ごとの特徴に注目することが重要です。以下は、主要な時代ごとの日本の貨幣経済の発展についての概要です。

奈良時代(710年 - 794年):

この時代には、銅銭(和同開珎)が導入され、貨幣経済が初めて整備されました。当初は中国の影響を受けたもので、広く使用されました
平安時代(794年 - 1185年):

平安時代になると、銭が一般的な通貨として広く使用され、貨幣経済が発展していきました。この時代には、国内で銀も生産されており、銀銭も流通していました
鎌倉時代(1185年 - 1333年):

鎌倉時代には、武士の時代が到来し、武士の生活や貿易の拡大により貨幣の需要が増加しました。銅銭とともに、新たに鎌倉幕府によって鋳造された銀銭も使われました。
室町時代(1336年 - 1573年):

室町時代には、室町幕府が貨幣発行権を持ち、銅銭や銀銭が広く使われました。また、紙幣も一部で流通していました。
戦国時代(1467年 - 1603年):

戦国時代には、戦乱のために貨幣の乱発が見られました。各地の戦国大名が独自の貨幣を発行し、混乱した経済状況となりました。
安土桃山時代(1573年 - 1603年):

安土桃山時代には、豊臣秀吉による統一が進み、通貨経済も整備されました。秀吉は金千両金札などを発行し、通貨制度を統一しました。
江戸時代(1603年 - 1868年):

江戸時代には、江戸幕府が十文銭や金千両銀匁などを発行し、経済が安定しました。また、米や物品も交換手段として用いられました
明治時代以降(1868年以降):

明治時代になると、日本は急速な近代化が進み、1871年には円が導入されました。日本銀行の設立や金融制度の整備が行われ、日本の貨幣制度が近代的なものに変わっていきました。
これらの時代ごとの変遷を通じて、日本の貨幣経済は発展し、経済や社会の変化に対応してきました。

いかがでしょうか。

瞬時にこれだけの文章を吐き出す生成AIの能力はすごいですね。

 とくに前置きと締めくくりが秀逸です。何が秀逸かというと、「中身がゼロなのにもっともらしい」からです。しかし、私もこうした「もっともらしい」文章は良く書きます。生成AIについて考えるということは、自分の文章を見つめなおすことにつながるのですね。

では、項目ごとに詳しく検討していきましょう。

(1)和同開珎について

 和同開珎は、708年に武蔵国(現在の秩父あたり)で銅が発見されたことを記念して作られたとされる貨幣です。現在、だいたいの発掘場所あたりに、大きな和同開珎のモニュメントが建っています。だいぶ以前に私が訪れたときには、ほとんど人が来た形跡のない細道の奥にひっそりと建っていましたね。それはそれで風情があるともいえますが、人気がなかったのでしょう。そんなものを見に行く酔狂は社会科教師くらいしかいないでしょうからね。しかし十数年前に、最寄り駅の黒谷駅が「和銅黒谷駅」に改名し、それなりに推しているようです。

この貨幣については、「なぜ普及しなかったのか」という問題が良く出されています。

「普及しなかった理由」

◆銅の産出量が少なかった・・・銅鉱が発見されたくらいで改元してしまうような時代です。全国に普及させるには原料の銅が不足しています。

◆必要でなかった・・・これが最大の理由です。農業生産も不十分であり、工業も未発達なこの時代には、そもそも自給自足&物々交換が経済の基本であり、貨幣は必要とされていなかったのですね。それを中国の真似をして作ってはみたものの、全く普及しなかったことは容易に思い当たります。

◆信用がなかった・・・コメや布のように実用的な物は、それだけで価値がありますから、物々交換の時代でも、まるで貨幣のように便利に使われました。租庸調のうち、庸は労役ですが、布を納めるようになったことからも、布がお金のような役割を果たしていたことがわかります。それにくらべて貨幣はそのものだけではほぼ無価値です。(金属としての価値はありますが) したがって、それを発行した主体=朝廷に信用がなければだれも使いません。朝廷が普及に必死になったところで、畿内くらいでしか使われなかったのはこれが理由ですね。

さて、生成AI君の出した説明では、広く使われたことになっています。もちろんウソです。

 (2)平安時代の貨幣事情

 和同開珎以降、朝廷は計12もの貨幣を発行しました。「皇朝十二銭」といわれるものですね。しかし、銅が不足しているために質が悪く、普及せずに終わります。それならすぐに撤退すればよいのに、続けざまに12種類も発行したところに朝廷の意地を感じます。結局、その後日本で貨幣が作られるのは、江戸時代になってからです。

つまり、平安時代にはちゃんとした貨幣は発行されていません。銀銭って何ですか?

皮肉なことに、朝廷の力がすっかり衰えた平安末になると、やっと商品経済も動きだし、貨幣が必要となります。そこで宋から輸入した宋銭が多く使われるようになったのです。

 (3)鎌倉時代の貨幣事情

平安時代に引き続き、宋銭が使われます。鎌倉時代には、二毛作も西日本で始まり、農業生産も向上しました。商品経済が発達してきたため、月3回の定期市も開かれます。まさに貨幣の出番です。しかし朝廷は貨幣を発行できないため、宋銭が使われたのです。もちろん鎌倉幕府は貨幣を発行していません。

 (4)室町時代の貨幣事情

 室町時代になると商品経済はますますさかんになります。二毛作も全国で行われ、定期市も月6回となりました。しかし、朝廷も幕府も貨幣を発行しない(できない)ため、明から輸入された明銭が使われたのです。その他に、個人が作った銭=私鋳銭も出回りましたが、質の悪いものが多く、人々は良い貨幣を選んでいくようになります。そこで幕府は撰銭令を出して取り締まろうとしましたが効果はありませんでした。

 (5)戦国時代の貨幣事情

 戦国時代の後半になると、精錬技術も向上し、金・銀が貨幣として使用されるようになってきます。武田信玄の「甲州金」であるとか、豊臣秀吉がつくった天正大判は有名ですね。もっともこれは特別な褒美用とみてよいでしょう。 大名は領国の鉱山開発に力を注ぎます。戦費の捻出が目的です。そして領内では金・銀の重さを測って使う貨幣、「秤量貨幣」が普通でした。

 (6)安土桃山時代の貨幣事情

 前述した天正長大判以外を別として、庶民は相変わらず明銭を使っています。

ところで「金千両」がよくわかりません。寡聞にして私は知らない単語です。ネットで調べると、「金千両 江戸っ子煮」という缶詰しか出てきませんでした。「金札」については江戸末期に大名が発行した金貨がわりの紙幣という認識です。

 (7)江戸時代の貨幣事情

 これについては、日銀貨幣博物館のHPから引用します。

お金の歴史に関するFAQ(回答) - 貨幣博物館

Q4.江戸時代のお金の単位はどのようなものですか?
A4.江戸時代には、金貨、銀貨、銭貨の3種類の貨幣が使われていました(三貨制度)。金貨は小判1枚=1両を基準として、それ以下を4進法の単位で表す貨幣(1両=4分=16朱)、銀貨は重さで価値を表す貨幣で基本単位は匁(1匁≒3.75g)でした。銭貨(銅)は1枚=1文とする貨幣でした(1,000文=1貫文)。三貨間の交換は幕府による公定相場(18世紀の公定相場:金1両=銀60匁=銭4,000文)がありましたが、 実際には時価相場で交換されていました。

いよいよ本格的な貨幣経済の到来ですね。さすがに物々交換は減った(ほぼ消えた)でしょう。「十文銭」はありましたが、「銀匁」は謎です。もしかして「五匁銀」のことなのか?

 (8)明治時代以降

 1871年の新貨条例により「円」を単位とした貨幣制度がスタートします。おお、生成AI君の説明、この時代だけは合っています。

 

2.生成AIの特質

 これについては専門家が詳細な検討を加えています。私ごときがコメントできるものではないのですが、単なる感想としてお読みください。

 どうやら、事実にもとづいた文書作成が苦手のようです。

 予想と逆でしたね。

てっきり、理系の論文ような事実を展開していく文書であるとか、社会科学系の論文が得意だと思っていました。逆に、人間の心理に深く関わるようなテーマ、例えば愛情については苦手だろうと思っていたのです。

しかし、どうも違うような気がしてきました。

曖昧で正解がない問いのほうが得意のようです。これはいくらでも誤魔化しがきくからでしょうか? それとも人間の本質的な悩みなんて生成AIでも答えられるくらいのレベルってことなのでしょうか? 

真実に基づく記述が苦手なのは、今回検証した通りです。かろうじて明治以降は正しく書けていますが、それ以外は嘘八百です。でもあまりにも自信ありげな口調なので、ついつい騙されそうになってしまいます。

そこが怖いところです。

 

 おまけとして、恋愛テーマでこんな質問をしてみました。

Q:片思いでつらい、どうしたらいい?(もちろん架空の質問です。私は片思い中ではありません。)

ChatGPT
片思いで辛い気持ちになることは理解できます。こうした感情に対処するのは難しいことですが、以下はいくつかのアドバイスです。ただし、個々の状況により異なるため、一般的な指針として受け止めてください。

感情を受け入れる: まず、自分の気持ちを受け入れることが重要です。片思いで辛い気持ちは自然な感情であり、否定する必要はありません。感じている気持ちを理解し、受け入れましょう。

感情を表現する: 自分の感情を抑え込まないようにしましょう。友達や信頼できる人に相談することで気持ちが軽減されることがあります。感情を言葉にすることで、理解されやすくなります。

距離を置く: 気持ちを整理するために、しばらくの間相手から距離を置くことも検討してみてください。この時間を使って、自分の気持ちに向き合うことができます。

時間をかけて癒す: 時間が経つにつれて、気持ちは徐々に落ち着いていきます。焦らずに自分のペースで、感情を受け入れていくことが大切です。

片思いでつらい気持ちになることは自然なことですが、その中で自分を大切にし、成長する機会と捉えることもできます。

どうでしょう?

一部抜粋ですが、こんな解答が瞬時に出てきました。ありきたりで一般的な解答ですね。

とくに、冒頭にしっかりと「ただし、個々の状況により異なるため、一般的な指針として受け止めてください。」と逃げを打っているあたりが実に人間くさいです。また最後の締めくくりの「自分を大切にし、成長する機会と捉えることもできます」なんてセリフも、自分でもよく言いそうな内容です。

どうやら生成AIが本能的に受け入れがたいのは、あまりにも人間臭いからではないかという気がしてきました。

 

でも、何か嫌ですね。生成AIごときにアドバイスされるというのは。