中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

生成AIの話題を取り上げた江戸取適性型A入試問題

今回は、昨年12/16に行われた、江戸川学園取手中の「適性検査型入試」の問題を見てみたいと思います。

最初に言わせてください。昨年末に、来年入試で出そうな重大ニュースの筆頭に生成AIの話題を取り上げました。

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江戸取適性型Aの大問3の大物記述問題が、まさに生成AIについてでした!

的中!と自慢したいところですが、まあ誰でも入試に出そうだと予想がつくテーマですからさほど自慢にはなりません。しかも、記事を書いたのが江戸取の入試後なので、いくら入試問題を見たのが今年(2024)の1月になってからだと言い訳したところで格好悪い限りです。

 

それはさておき、さっそく問題を見てみましょう。

 

1.生成AIに関する記述問題

「AIに質問すると即座に応えてくれるサービス、私も登録して利用してみました。最初に「まな板立てはタブレットスタンドとして使えますか」と質問。・・・・すると「まな板立ては、通常、まな板を立てて収納するために使用される道具です」からはじまる、大変真面目な解答をもらってしまいました。・・・・・

 さて本題はここからです。私は国語の先生ですから、生徒に宿題として作文を書くように指示することがあります。題は例えば「将来の夢」とか、「日本の増税」とか。AIにも出してみました。「将来の夢」は「人口知能の発展と技術の進歩を追求すること」だそうです。ちょっと面白い。「機械学習や画像認識の研究に取り組み現代社会で役立つ技術や製品を生み出すことができるように努力したい」と、大変「立派」な作文を書いてきました。・・・

先生がなぜ子どもに作文を書かせるのか、みなさんにもわかりますね。将来、文章作成の場面で困ることがないようにするため、そして文章を通じて自分の思想や感情、自分らしさを世間に表現できるようにするためです。その訓練をさぼってAIでごまかすような子どもが出てこないように、先生の方も課題の出し方を工夫しなければなりませんAIには簡単に書けない、無理やり書いても人間らしい文章にならない題を真剣に考えなければなりません。・・・・」

抜粋ではありますが、こんな文章が書かれていました。国語の先生らしい視点から、AIについて真剣に考えている、そして生徒(受験生)にも考えてほしいという気持ちが伝わる、わかりやすい良い文章でした。

AIの特質と、それが学校教育に与える影響については、多くの専門家が文章を書いています。そうした文章をそのまま引用しても問題は作成できたはずですが、きちんと自分の文章で出題したこの国語の先生には好感が持てます。きっとわかりやすい授業をされる良い先生に違いない、と勝手に憶測しています。

入試問題には作成者の個性・力量・指導方針等の全てが出るものです。例えば意地の悪いひっかけ問題ばかり作る先生は、きっとそういう先生なのだと思いますし、どこかの学校でも出されたような手垢のついた問題ばかり並べている先生は、やはりそういう先生なのでしょう。その点、江戸取のこの問題を作られた先生は素敵です。

この文章から、2問の記述問題が出題されています。

 (1)理由記述

下線部「ちょっと面白い」とあるが、その理由を考えて書きなさい。

この下線部より前半で、筆者はAIについて、こう書いています。

〇完璧すぎてむしろ不親切な感じがする

〇質問者の状況とか心情とかを一切想像せず、解答する

このような、いわばとても「不器用」なAIの将来の夢が「人工知能の発展と技術の進歩を追求すること」だという点に、どのような「面白さ」があるでしょうか?

◆相変わらず「自己中心的」「独善的」な解答である点が面白い

◆想像どおりの優等生的な解答である点がむしろ面白い

◆まるで自意識を持っているかのように振舞おうとしている点が面白い

このような点が考えられるでしょう。

おそらくは、この問題は模範解答が存在しないような気がします。どの答えを書いたとしても、それがきちんと説得力を持って自分の言葉で書かれていれば〇が付いたのではないでしょうか。

あえて文章全体から感じられる筆者の好みを類推すると、おそらくは3番目なのかな、という気もします。

 (2)自由記述

下線部「AIには簡単に書けない、無理やり書いても人間らしい文章にならない題」について、あなたが国語の先生なら、どのような題で作文を課しますか。その題がいいと思った理由も含めて180字以上、210字以内で書きなさい。

この問題は面白いですね。面白いけれど、難易度は高いですね。

こちらも問1同様、理由さえきちんと書かれていれば、それこそ何でもよいのです。

ただし、何でもよいとはいっても、明らかにAIが得意そうなテーマではいけません。理由が全く書けませんので。

この出題の文書を読んで、自分なりにAIが得意そうなテーマ、不得意そうなテーマをいくつか書き出してみると、何をどう書けばよいのかが見えてくると思います。

【得意そう(だと思うテーマ)】

〇理系テーマ全般・・・論文・レポート

〇資料の分析や事実をまとめるようなテーマ

〇すでに結論が出ていて少し検索すればわかるようなテーマ

【不得意そう(だと思うテーマ)】

〇文化・芸術系のテーマ

〇矛盾したテーマ・・・禅問答?

〇人間特有の感情に基づくテーマ・・・恋愛?

このようにいくつか考え、その中から具体的なテーマを見つけるとよいでしょう。

 

 実は、私もいくつかテーマを考えて、生成AIに答えさせてみたのですが、なかなか敵?もしぶとい、器用にかわされてしまいました。

「宿題を忘れた言い訳を教えて」

「宿題が宇宙人にさらわれました!でも次の授業で返してもらう約束をしました。」

「宿題を見つけたら、タイムトラベルして昨日に戻ります。」

「ペットが宿題を食べちゃいました。でも本当に食べましたよ、嘘じゃないです!」

「宿題を書いていたら、突然忍者が侵入してきて取り上げられちゃいました。」

ただし、これらの言い訳は冗談であることを理解してもらえる相手に向けたものであり、真剣な状況や真面目な場面では使用しない方が良いでしょう。学校や職場では誠実さが重要です。

「子どもの教育にAIが悪影響しかもたらさない理由を説明しなさい」

個別化された学習の限界: AIが学習プロセスを個別化することは一般的に良いことですが、個々の子どもに対して十分な注意が払われない場合、学習の深さや理解が不足する可能性があります。また、人間の教育者の役割や洞察が欠如することで、子どもたちが必要なサポートを受けられないことが懸念されます。

人間性や感情の発達への影響: AIは感情を理解するのが難しく、人間的な対話や共感を提供することが難しい場合があります。子どもの感情的な発達において、人間との対話や交流が重要な役割を果たしているため、AIの不足が子どもたちの感情的な成長に悪影響を及ぼす可能性があります。

情報の制御とフィルタリングの困難さ: インターネット上の情報は多岐にわたり、その中には子どもたちには適さないものも含まれています。AIが適切な情報の制御やフィルタリングを行うことが難しい場合、子どもたちが有害なコンテンツに触れるリスクが高まります。

アルゴリズムの偏りと差別: AIが機械学習アルゴリズムに基づいて動作する場合、そのアルゴリズムには偏りや差別が含まれる可能性があります。これが教育に取り入れられると、子どもたちに対して不公平な影響を及ぼすおそれがあります。

依存と技術の不足: AIに過度に依存することで、子どもたちの自己学習や問題解決の能力が低下する可能性があります。また、技術の導入が均等でない場合、一部の子どもたちが必要なスキルや知識を得る機会を失うことが懸念されます。

これくらいの解答を瞬時に出してくる能力の高さは脅威です。

その他、恋愛をテーマとした質問をしてみたのですが、どうやら恋愛テーマは慣れているらしく、全く尻尾をつかませませんでした。また、架空の単語について質問したところ、韓国の伝統料理であると、もっともらしい嘘八百を並べてくれましたが、これもある意味人間らしいといえるかもしれません。

 

この、「もっともらしい嘘をいくらでもつく」というのが、生成AIの弱点として言われています。この弱点の困った点は、ほんとうに「もっともらしい」ところにあります。つまり人間側に嘘を見抜く力がないと、ころっと騙されてしまうのです。

人間側の奮起が促されますね。

 

2.資料の分析に関する問題

 大問1は、資料の分析に関する記述が出されていました。戊辰戦争に際し、幕府と対立した藩の行動についての短文資料が5つ挙げられています。

(1)資料⑤の兵士が「上山藩には私の父を殺した者がいる。その者を連れてこい。成敗してやる!」のような発言をしたのはなぜか。その理由を資料①~④から推測し、仮説を立てなさい。

(2)あなたが立てた(1)の仮説が正しいことを裏付けるためには、他にどのような資料があればよいか、なるべく具体的に答えなさい。

 

これだけ見ると相当な難問に見えますが、実は平易な問題です。

問題文中に、上山藩戊辰戦争で幕府側として戦ったことや(1)の兵士が薩摩出身であることも書かれていますので、少しの歴史の知識があればすぐに答えは思い浮かぶでしょう。ここでは、(2)のように、どのような資料が必要かをきちんと考えられるかどうかが問われています。

 

3.資料と討論の複合問題

討論は「絶滅危惧種の保護方法」についてのものです。資料は、環境白書からのもの、環境倫理についての文章、生物多様性の図、など数種類があげられていました。

記述については、文章中の空欄に当てはまる内容を考えるものと、資料の題を考えるという、こちらも平易なものです。

 

全体を通してみると、典型的な「適性検査型」の入試問題であったといえるでしょう。