中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

【塾選び】ホワイトボードVS黒板、どちらがいいのだろう?

今回は、ホワイトボードと黒板、どちらがいいのか? という話題です。

そんなことを真剣に考えているのは私くらいだと思います。

毎日使っているものなので、はたしてどちらが使いやすいのか、どちらが効果があがるのか、そこがとても気になるのです。

しばしお付き合いください。

黒板の歴史

「全国黒板工業連盟」というところのHPに詳しく書かれています。

www.kokuban.or.jp

それによると、1810年にフランス人によってアメリカに伝えられた、とあります。そののち、1872年(明治5年)に、東京大学(の前身の学校)にアメリカ人教師によって持ち込まれたとか。やがてBlackboardを直訳した「黒板」として、全国に広がっていったとあります。

日本では150年の歴史を誇る「教育ツール」ということですね。

 

さて、フランスからアメリカにもたらされたということは、フランスがルーツなのでしょうか?

しかも、「・・・当時アメリカでは石盤さえ使用されていませんでした。」と気になることが書かれています。

「石盤」

ヨーロッパの昔の学校が舞台の小説を読んでいると時々出てくるワードです。私がはじめて「石盤」を知ったのは、「赤毛のアン」でした。(私には姉がいましたので、家には女の子が読む本が大量にあり、本の虫だった私も一通り読んだのです。)

アンが、旧友のギルバートの頭に石盤をたたきつけて割るという、ワイルドなシーンがありましたね。ご記憶の方も多いと思います。

当時の私には「石盤」というものが今ひとつ想像がつかなかったことを覚えています。

イギリスあたりから採掘される粘板岩の薄い石の板=スレートに木枠をつけたものです。これに「ろう石」で字を書いた、まあ個人用小型黒板のようなものでしょうか。

貴重な紙を浪費しないために使われたことは間違いないのですが、それではアメリカの学校ではいったい何を使っていたのか、非常に気になります。

今度調べてみましょう。

 

欧米における黒板の歴史

 日本語の検索では、それ以上遡ることができなかったので、英語検索に切り替えます。

ルーツとしては、古代バビロニアの粘土板にまでさかのぼりそうですが、さすがにそれは私のイメージしている「黒板」ではないので飛ばします。

こんな記事を見つけました。

教員向けのプラットフォームのようです。

At the end of the 18th century, students in Europe and America were still using individual slates made of actual slate or pieces of wood coated with paint and grit and framed with wood. Paper and ink were expensive but slate and wood were plentiful and cheap, making them the economical option. Unfortunately, they were also highly inefficient. Teachers had no way to present a lesson or a problem to the class as a whole; instead they had to go to each individual student and write a problem or assignment on each one’s slate.

In 1801, the rather obvious solution to the problem made its debut. James Pillans, headmaster and geography teacher at the Old High School in Edinburgh, Scotland, is credited with inventing the first modern blackboard when he hung a large piece of slate on the classroom wall. In America, the first use of a wall-mounted blackboard occurred at West Point in the classroom of instructor George Baron.

Other schools rapidly adopted this new innovation. America’s fast-growing railroad system assured that by the middle of the 19th century, almost every classroom in America had a blackboard, mostly using slate shipped from quarries in Vermont, Maine, Pennsylvania, New York, Maryland and Virginia. Businesses also started using them in their boardrooms.

(ResilientEducator.com)

 

 

18世紀末、ヨーロッパやアメリカの学生たちは、まだ天然のスレートでできた石盤や、木片に塗料を塗って仕上げ木枠をつけたものを使っていた。紙とインクは高価だったが、スレートと木材は豊富で安価だったため、経済的な選択肢だった。しかし残念ながら、非常に非効率的でもあった。教師はクラス全体に授業や問題を提示する方法がなく、代わりに生徒一人ひとりのところに行って、一人ひとりのスレートに問題や課題を書かなければならなかった。

1801年、この問題を解決する明白な方法が登場した。スコットランドエジンバラにあるオールド・ハイスクールの校長で地理教師だったジェームズ・ピランズは、教室の壁に大きなスレート板を掛けて、最初の近代的な黒板を発明したとされている。アメリカでは、ウェストポイントのジョージ・バロン教官の教室で壁掛け黒板が初めて使われた。

他の学校もこの新機軸を急速に採用した。アメリカの急成長する鉄道網のおかげで、19世紀半ばにはアメリカのほとんどすべての教室に黒板が設置され、そのほとんどはバーモント、メイン、ペンシルベニア、ニューヨーク、メリーランド、バージニア採石場から出荷されたスレート板を使用していた。企業も役員室で黒板を使い始めた。


なるほど、納得しました。

他のソースからも、アメリカの陸軍士官学校アメリカにおける黒板使用のルーツであることが調べられましたので、まず間違いではないでしょう。

しかし、黒板の発明の歴史が意外に新しいことに驚かされます。

一人ひとりの石盤に教師が問題を書いて回っていたというのは面白いですね。

日本でいえば「寺子屋スタイル」です。

それが、教室に大きな石盤(黒板)をかけることで、教室全体を対象とした問題提起ができるようになったわけです。

まさに、教育における革命といってもいい出来事だったと思うのです。

革命とは大げさですか?

これは、黒板(あるいはその仲間)が無い教室での授業を想像すればわかります。

教師は一人ひとりの机を見てまわって指導します。

そのまんま「寺子屋」です。

少人数、そうですね、5名程度なら成立する授業スタイルです。1対1の個別指導が同時進行で5組行われている、そんなスタイルですね。

しかし、10名ともなると不可能です。

教師から生徒に一度に情報を送り届ける手段がないからです。

また、5名程度の指導だったとしても、黒板(のようなもの)がないと、生徒が視線を上げませんので、生徒の理解度がこちらで把握しづらいのです。

生徒の顔を上げさせ、視線をこちらに集中させる何らかのツールは必要です。

それが当時は「黒板」だったのです。

黒板の登場によって、はじめて教師は生徒と視線を合わせながらの講義が可能になったのだと思います。

だから、教育における革命だと思うのです。

 

 

ホワイトボードの歴史

 

「日本統計器株式会社」によると、1968年頃に、当時存在したホーロー鋼板製の掲示板に、消しやすいマーカーを開発することでいわゆる「ホワイトボード」が誕生したとあります。「「近代建築にマッチしたホワイトボード」という広告を出したそうで、後にパイロット万年筆が同様の広告を出したとか。

いろいろ調べてみると、1960年代にはホーロー鋼板が作られ、1970年代には日米ほぼ同じ時期に消せるマーカーが発明されたとあります。

どこが最初かはっきりはしませんが、1970年代にホワイトボードが誕生したとみてよさそうです。

個人的には、この「日本統計器株式会社」の味方をしたくなりますね。

 

www.nikky.co.jp

黒板は前時代の遺物なのか

 

色々調べていると、こんな書き込みをいくつも見かけます。

アメリカでは30年前からもう黒板なんて使っていない」

「そういえば子どものころ見かけた気がする、と子どもが通うアメリカの小学校の先生がいっていた」

「日本はまだ黒板なの? とあきれられた」

「うちの子が通うアメリカの小学校は20年前から黒板はない」

「テレビで見たことがある、とアメリカ人が言っていた」

 

この、アメリカではとっくに〇〇だ。日本は遅れている」という言説。まだ生き残っていたのですね。

明治維新以来、進んだ欧米:遅れた日本、という文脈で、あらゆることが上記の〇〇の部分に詰め込まれて日本を進化?させてきました。

例えば、GHQがいた時代、「日本では出産を産婆さんがしきって自宅でする。なんて野蛮な!」ということで病院出産に切り替えたのは有名な話です。その他にも、「日本語は漢字・ひらがな・カタカナと3種類の記号を使っているから日本人の知能の発達が遅れているのだ。英語にすべし!」なんてことを本気で唱えた人がいたとか。これは実現しなくて幸いでした。

それでは、黒板を捨てたアメリカの学校は何を使っているのでしょうか?

◆ホワイトボード

◆プロジェクター(orモニター)

◆電子黒板

こういったもののようです。

教師は机上のPCを操作して、モニターにパワポのスライドを写して授業をするめる、そんなスタイルがスタンダートなんだとか。

このスタイル、私も実践しています。いや、実践するときもあります。

講義をあらかじめ準備したシナリオ通りに進める時のみに有効なスタイルです。

動画・画像やグラフ等を多用するときにも有効です。

生徒へ思考力系の質問をすることもできます。

しかし、このスタイルでは、生徒の発言を拾い上げてそれを授業に組み込み、さらに生徒に投げかける、という「思考力ループ系」の授業ができないのです。

その場でキーボード入力をしながら、という工夫もしますが、どうもうまくいかない。

私のタイピングスピードは速い(そうとう速い)ほうなので、手書きよりもモニターに文字を映し出すのは効率的なのですが、立ったままの入力というのがやりにくいのですね。いちおうスタンディングデスクもあるのですが。それなら座って机の上にキーボードを置けばいいのですが、今度は座ったままだとどうも授業の調子が出ない。まあ慣れかもしれませんが、私はやはり立ってうろうろしながらじゃないと声が出ないタイプです。

 

プロジェクター・モニター・電子黒板については別の記事で詳述するとして、まずはホワイトボードについて考えてみましょう。

 

※私が訪問したことのあるアメリカのいくつかの小学校では、普通に教室に黒板が設置されていました。何も全ての教室から黒板が駆逐されたわけではないのです。

 

ホワイトボードのメリット

 ここでは、黒板と比較したホワイトボードのメリットを考えます。

白い

 シンプルに白いので綺麗です。教室が明るくなります。

カラーマーカーの色が映える

 黒板にチョークですと、白以外はせいぜい赤・青・黄・緑の4色です。黒を背景としたチョークの発色はきれいなものではありません。しかし、ホワイトボードにマーカーは色がくっきりとして綺麗に見えますね。

チョークで手・服・部屋が汚れない

 チョークの粉って、飛び散るのです。服にもつきます。手も汚れます。

 教師はブラックスーツなんて着ていられないのです。

マーカーを「エンピツ持ち」できる

「エンピツ持ち」というのは、今私が考えた造語です。チョークと違い、マーカーなら、エンピツのような持ち方で書けるのですね。とくに小さな文字を書くのに適しています。ただし、手の平をボードにつけるためにインクで汚れますし、大きな字を書くのには不適です。

 

実はメリットはこれくらいです。

ホワイトボードのデメリット

手が汚れる

汚れるのはチョークも一緒ですが、チョークの汚れは手をはたけばある程度落とせますが、マーカーの汚れは、インクの汚れですので、石鹸をつかって丁寧に洗ってからアルコールで拭きとらないと落ちません。

服・床が汚れる

汚れるのはチョークも一緒ですが、ホワイトボードで使うマーカーはインクです。服につけば落ちませんし、床も汚します。

重ね書きができない

一番多く使う黒で書いた後に、他の色で重ね書きはできません。ちょっとでも上書きしてしまうと、たちまち他の色ペンのペン先が黒くそまって汚い色になってしまいます。

数学(算数)の図形を描くときなど、実に書きにくいですね。チョークなら、白で描いた図形・文字の後から、色チョークで強調したり書き込みをしたりと自在にできますが、ホワイトボードの場合は、黒マーカーで書いたあとには書き込みはできません。書くとすると、黒のところをよけて書くために神経を使います。

ペン先が滑って書きにくい

率直な感想です。

チョークのような適度なひっかかりがないため、するすると実によく滑り、字が書きにくいのです。もともと下手な文字がさらに下手になります。生徒には迷惑なことでしょう。

 

黒板VSホワイトボード

結論は出ています。

黒板>ホワイトボード です。

黒板が設置できる環境なら、わざわざホワイトボードをチョイスする積極的な理由はありません。

部屋の環境を暗くしたくなかった、教室が狭く少人数なので、細かい字で書くことがほとんどなのでホワイトボードを選んだ、そんな理由しかないと思います。

 

ホワイトボードの選び方等については以下の記事をごらんください

peter-lws.hateblo.jp