まさか大学入試問題レベルのテーマが中学入試に出るわけはない。みなさんそう思われますよね。しかし、実は中学入試のレベルはもうそこまで来ているのです。今回は、そのあたりについて考察します。
(昨日の中学入試問題の分析はもう少し検討してからUPしようと思っています。)
1.K大学理学部
コンピュータは社会基盤として世界中で結ばれ、あらゆるところで利用されているように見える。また、将来はコンピュータが行うことがさらに広がっていくことが予想される。そこで、
(1)コンピュータがまだ利用されていないけれども、やがて利用されるようになると自分が思うことをできるだけたくさん書いてみよ。なるべく具体的に書くこと
(2)コンピュータにさせるべきでないことがあるだろうか。もしあれば、それを書いてみよ。
(3)コンピュータにさせようとしても、できないことがあるだろうか。もしあれば、それを書いてみよ。
(4)コンピュータの能力が高くなると、多くの仕事がコンピュータに奪われて職を失う人間が増えるのではないかという不安を抱く人もいる。仕事に関するコンピュータと人間のそのような関係について、あなたはどのように考えますか。
さて、これで制限時間は60分、字数制限なしとなっています。
これに類した問題はすでにいくつかの中学校でも出題されていますね。
この問題では(4)が本題として、(1)~(3)はそれに至るヒントとなっているという親切な出題です。
(4)については、今後消滅する職業の話題としてこの記事でも詳しく取り上げました。
THE FUTURE OF EMPLOYMENT: HOWSUSCEPTIBLE ARE JOBS TOCOMPUTERISATION?
というタイトルの論文で、オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン博士が発表した話題です。この入試問題も、明らかにこれを下敷きにしていますね。
ここでは、人とかかわる仕事、高度な技能が必要な仕事、総合的な判断を瞬時に求められる仕事、こういったものが残る仕事と分析されています。しかしコンピューターの発達は目覚ましく、生成AIの進歩により、従来は人間にしかできなかったとされる分野までこなせる能力を手に入れつつあります。小説や脚本、イラストや絵画の作成、音楽、こういった芸術分野が意外と得意のようですね。
少なくとも大学入試をする高校生ならこれくらいの情報は基本教養として持っておかなくてはならないでしょう。
2.K大学外国語学部
(1)「日本人はマナーが良い」ということばを時折耳にすることがあるが、そのことについてあなはたどう思うか。自分の体験なども含め論じなさい。
(2)日本にいて外国語を学ぶよりも、その外国語が話されている国や地域に滞在するほうが、その外国語を取得するのに都合がよいと一般的には考えられるが、なぜそのように考えられるのか。日本の学校などで外国語を懸命に勉強しても、なかなか上達しないのはなぜか。自分の体験なども含めて論じなさい。
(1)と(2)のどちらかを選んで800字で記述させる問題でした。試験時間は60分もありますから簡単だったと思います。
これも中学帰国生入試でもみかけそうな定番の問題ですね。
これは明らに(2)のほうが書きやすい問題です。
海外経験がある受験生たちなわけですので、実体験として(2)については論ずることができます。論点は以下の3つです。
〇切迫感・・・海外にいるので、その国の言語を身につけねばサバイバルできない
〇量・・・圧倒的な量の外国語に接する環境だからこそ身につく
〇生きた言語・・・言語は生きている。現地でなければ身につかないものが多くある
このどちらも日本にいては無理なものですね。これらを具体例を交えながら文章にする問題です。
実は(1)がトラップ問題だと思います。
「日本人はマナーが良い」って、たしかに耳にしますし、納得もします。が、ちょっと待ってください。この「日本人は〇〇だ」という決めつけは、はたして正しい思考なのでしょうか?
「アメリカ人は陽気だ」「イギリス人は気取っている」「イタリア男性は女好きだ」「女は地図が読めない」「男は幼稚だ」
このように書き連ねていけば、違和感がわかってもらえると思います。
ステレオタイプの決めつけは、差別の温床です。
多様性への理解や受け入れが求められる現在、このような昔ながらの決めつけはそもそも成立しないですし、愚かなことなのです。
さて、困ったのは、本当にそうした論調で書いても大丈夫かどうか、という点です。
「日本人はマナーが良いといわれるが、マナーが良い日本人もいればそうでない日本人もいる。これは主観を一般化することで差別を助長する考え方である。・・・」
このように書きたいところですが、ちょっと危険な気がします。もしかして出題者が、そうしたステレオタイプの偏見を持っている可能性も否定できないからです。それを真っ向否定する論文を書くと、場合によっては0点となる危険性があります。
いくらなんでも大学の先生はそこまで狭量ではないだろう、とお考えですか?そうかもしれませんがそうでないかもしれません。そこに賭ける勇気はないですね。
ということで、この出題は、(2)について書くしかないのです。
3.H大学文学部
世界がグローバル化するにつれて、将来、職場で一緒に働く同僚は、国籍や文化等が異なる可能性が大である。そのため、仕事のスタイルや考え方に違いがあり、働く上で求められる能力や要件が大きく変化すると思われる。
(1)具体的にどのような変化が起きると考えられるか。良い点と問題になる点を想像し、自由に述べなさい。
(2)上で想像される変化をふまえて、適応できる人材を育成するには、どのような能力を育てることが重要だと思うか。具体的に3つの能力に絞って考え、その理由も説明しなさい。
字数制限なしで60分です。
ああ、こちらの問題のほうがはるかに良いですね。ダイバーシティをきちんと受け止め、その上でどうすべきかを考察させようという問題です。
この問題なら、このまま中学受験に出題してもよさそうです。職場は小学生には想像しづらいでしょうから、中学・高校に舞台を置き換えて出題すればよい問題となりそうですね。
4.S大学文学部
今日のグローバル社会において、人間関係を築く上で必要とされるマナーにはどのようなものがありますか。一例をあげて、なぜそれが必要なのかを説明してください。
What are the manneres that are required when building a human relationship in today's global society? Name one and explain why it is importan.
800字(300words)以内、60分の問題です。日英どちらかを選択して解答します。
この問題もよいですね。さっきの問題が気になっているので、つい「日本人はマナーが良いというように、異なる文化・国の人を一般化して主観的な決めつけをしないことが重要だ」などと書きたくなってしまいます。