今まであちこちに過去問演習の重要性について書いてきました。そのはずなのですが、あちこちに分散して書いているので見つけづらいですね。そこで、今回は中学受験勉強で最重要な「過去問演習」についてまとめておくことにします。
1.過去問とは?
文字通り、過去の入試問題です。この演習をやらずして合格はあり得ません。
その「過去問」ですが、市販されているのは以下の3種類となります。
(1)「〇〇中学校 2024年度用 スーパー過去問」 (声の教育社)
黄色とオレンジの表紙で、学校別の過去問題集がズラリと並んでいるのを書店で見かけたことがあると思います。開成や桜蔭といった、1回しか入試を行わない学校のものは10年分収録されていますが、複数回入試を行っている学校の場合は5年分程度が収録されています。なかには攻玉社のように3年分しか載っていないものもあります。
冒頭に、出題分野の分析や学校の案内がのっていますが、正直ここは役に立ちません。また、解答用紙が縮小して載っており、さらに配点がついています。しかし、配点は学校が公表していないことも多いので、その場合は出版社が適当に割り振った配点となっており、あまりあてになりません。
出版社HPには、解答用紙がPDFでダウンロードできるようになっています。
解答・解説もありますが、この出版社には教科の専門家はいませんので、塾の先生に下請けに出して作成した解答です。したがって間違っていることもあります。
★同様の学校別の問題集を、「東京学参」が出版しています。真っ赤な表紙ですので目立ちます。声の教育社のものでもこちらのものでも、どちらでもかまいません。どっちが優れているということもありません。どうせ同じ問題ですので。ただし、こちらのほうには解答用紙をコンビニでプリントできるというサービスが付属しているようです。また、難易度も表記されているのですが、これは不要、というより邪魔です。かえって学習の妨げになります。
(2)「有名中学入試問題集 2024年度用」 (声の教育社)
最新の入試問題を50校分ほど集めたものです。「男子校・共学校編」「女子校・共学校編」の2種類があります。その分厚さから、我々は「電話帳」と呼んでいましたが、今の子供は電話帳など知らないでしょうね。
解答・解説はありますが、解答用紙はありません。そのはずだったのですが、今検索してみると、「問題・解答・解答用紙3分冊セット」で古書店やメルカリ等で大量に出品されています。表紙を見ると、これは塾向けのものですね。
まったく同じ商品を、声の教育社では、塾向けに表紙を変え、さらに解答用紙集を付属して販売しているのです。それならこっちを買ったほうが得か? と思うかもしれませんが、おすすめしません。
変な書き込みがあったりするのは不快ですよね。まさか全部のページを検品して売られているはずもありません。それに、何となく縁起が悪そう。
(3)「2024年度受験用 中学入学試験問題集」(みくに出版)
こちらの問題集は、教科別となっています。銀色の表紙が目立つので、こちらも書店で見つけやすいですね。しかも分厚い。
「国語編 男子・共学校」「国語編 女子・共学校編」「算数編」「理科編」「社会編」、さらに「公立中高一貫校適正検査問題集 全国版」と分けられています。
この問題集の収録校数は多いです。手元にあった「社会編」を数えてみました。
〇共学校・・・57校
〇男子校・・・36校
〇女子校・・・50校
合計して145校分!
これを4教科分積み上げただけで、子供のやる気が上がる(下がる?)ことでしょう。
解説も解答用紙もありません。解答があるだけです。ただし日能研ブランドですので、声の教育社のものより解答の精度が若干高いような気がします。
こちらも中古品をBookOffでよく見かけます。ただし、解答が抜けているものがほとんどです。解答が無い問題集に価値はありません。高くても新しいものを書店で購入しましょう。
(4)学校が公表している過去問
この他として、学校がHPで過去問を公開しているケースもあります。たとえばこんな学校です。
〇跡見学園(2年分)
1年分・・・4科目×4回、2科目×2回、問題・解答・解答用紙
〇カリタス(1年分)
1年分・・・4科目×3回、2科目×1回、問題・解答・解答用紙 ※配点有
〇大妻中学 (1年分)
1年分・・・4科目×2回 問題・解答・解答用紙
〇桐光学園(10年分 国語のみ5年分)
1年分・・・4科目×3回、国算英×1回、問題・解答・解答用紙 ※配点有
〇山脇学園(3年分)
1年分・・・4科目×1回、2科目×1回、その他、問題・解答・解答用紙
〇洗足学園(3年分)
1年分・・・4科目×3回、英国算、問題・解答・解答用紙・採点者所見 ※配点有
まだまだたくさんの学校が入試問題を公開しています。
これは学校・受験生双方にとってメリットが大きいですね。
学校にとっても、情報公開に積極的な学校は評価も高まりますし、自分の学校を受験してくれる受験生が十分に準備をしてきてくれるならその方が良いに決まっています。受験生にとっては、
◆実際のものと同じ問題・解答用紙を使える
◆学校が作成した模範解答を使える
※残念ながら、問題しか公開していない学校もあります。解答に自信がないのかな?
という大きなメリットがあります。もし受験予定の学校が過去問を公表してくれていたら積極的に活用してください。
また、受験予定の学校でないとしても、入試問題の演習としては有効です。
2.過去問演習に取り組む時期
(1)用意するタイミング
これらの問題集が書店に並ぶのは、夏休み前、6月頃でしょうか。上述した「学校別入試問題集」は、五月雨式に書店に並びます。そこで確実に入手してください。とくに学校別過去問については、遅い時期(秋)になると売り切れて入手できなくなるものもあるのです。
まだ受験校が確定していない段階では、受けるかどうかわからない学校のものを買うのは無駄に思えるでしょうが、秋になって売り切れ、では困ります。やむを得ない投資です。
(2)取り組むタイミング
6年生の7月です。理由は簡単、やっと社会科の単元学習が終了するからです。塾によっても進度は異なりますが、6年生の5月あたりにやっと公民分野が終わると思います。そこから、世界地理や国際社会を学ぶとすると、まあ6月いっぱいはかかるのではないでしょうか。それでやっと過去問演習に取り組む準備が整います。
3.過去問演習の目的
★得点力をあげる、これが最大の目的です。
(1)敵を知る
敵ではありませんね。受験する学校の入試問題を知る、それが第一の目的です。どんなレベルのどんな内容の問題をどのように出題するのか? 記号選択は多いのか? 記述問題は多いのか? 算数の途中式も書くのか? 物語文は出るのか? 韻文は出るのか?
まずは過去問を解いてみないことには何もわかりません。入試問題には、その学校がどのような生徒を求めているのかが反映します。極端な例をあげると、帰国生入試において、国語は漢字、算数は計算問題(計算ドリルレベル)だけを出す学校まであるのです。英語さえできればあとはどうでもいい、という学校の求める生徒像が如実にうかがえますね。
(2)問題形式に慣れる
いくら知識を覚えても、実際の入試問題ではその知識をそのまま書くような出題はありません。入試問題を多く解かなければ、知識が得点力へと進化しないのです。
(3)スピードをつける
決められた時間内で解く過去問演習は、スピードをつけるのに非常に効果があります。
(4)知識を覚える
とくに社会科で有効です。入試問題で問われる知識を、そのまま覚えるのです。これは実践に役立つ生きた知識となります。
(5)自分の弱点を明確にする
何度も間違える問題、解けない問題、抜け落ちている知識、こうした自分の弱点を浮き彫りにするのに効果的です。
(6)点数を出すのが目的ではない!
できた問題、とれた点数よりも、できなかった問題、とれなかった点数のほうがはるかに重要です。
4.演習の進め方
(1)7月になったら
まずは、第一志望校の学校の3年前の問題を解いてください。なぜ3年前のものかというと、最新の問題、その前年の問題の2年分は、入試間際に解くためにとっておかなくてはならないからです。ここでの目的は、「いかに解けないか!」を自覚させることにあります。まあ生徒に喝を入れるイメージでしょうか。生徒を受験生の顔にする目的ということですね。
(2)夏休み
ここが、集中して過去問演習をできる唯一最大のチャンスです。
志望校のものばかりでなく、多様な学校の過去問を時間をきちんと計って解いていきます。理想をいえば午前中に、学校の試験の順番と同じ順で4科目解いてほしいのです。そして午後にその間違い直しをする、そうしたペースが理想です。
(3)9月以降
9月以降になっても同じです。さすがに平日は小学校がありますので、チャンスは土日祝日に限られます。入試まで何本できるかカウントして、計画的に進めてください。
(4)冬休み
冬休みも同様にすすめます。
(5)入試直前
1月になったら、いよいよ残しておいた志望校の最新の入試問題を解きましょう。出題形式・問題の雰囲気に慣れることが目標です。
★夜に解かせるのは意味がない
入試同様、午前中の一番頭が働く時間帯に解きましょう。
★4科目バラバラに解くのはよろしくない
苦手教科の集中特訓としてなら別ですが、4科目ワンセットで解くべきです。試験は4科目で行われるのですから。
★答え合わせ→間違い直しが最重要
解きっぱなしでは何の効果もあがりません。必ず丁寧に答え合わせをして、間違い直しを行ってください。
5.諸注意
(1)年度に注意
間違って古いものを買わないように気を付けましょう。
通常、「年度」というのは、会計年度あるいは学校年度で使われます。
「2024年度」というのは2024年4月1日~2025年3月31日 を示すのが常識です。
ところが書店に並んでいる問題集の表記は異なります。2024年の入試に向けた、2023年に実施された過去問の表記は、「2024年度 〇〇中学校・・・」となっているのです。
1月に書店で見かけたら間違えないでしょうけれど、4月頃に見かけると、「あっ、もう出てる!」と思わず買ってしまいそうです。
いったいなぜこのような紛らわしい表記なのかは謎です。必ず奥付で出版年月日を確認して購入してください。
(2)解答
学校が解答例を公表してくれていれば安心ですが、出版社(=塾の先生)が出した答が間違っていることはたまにあります。そうしょっちゅうではないものの、「何でこの答?」となったときには、そうしたケースを疑ってみましょう。お通いの塾の先生に確認するのが一番です。
まれに、学校が公表している模範解答が間違っているという情けないケースもあります。下の記事にまとめました。
(3)国語の問題が抜けている
著作権保護の観点から、市販されている過去問題集や学校が公表している問題で、国語の問題文が抜けている場合があります。国語の問題そのものが掲載されていないケースもあります。
実は、年々著作権については厳しくなってきていますね。従来は学校が使用する場合には教育目的ということで許されていたのですが、昨今そうもいかなくなりました。入試問題についても、事前に許可をとることはできない(入試問題が事前に外部に漏れてしまう)ので、事後に著作権者に許諾をとるのですが、そもそも入試問題に使われることを拒否する作家も多く、また、入試問題は許容するとしても、出版は拒否される場合もあります。これについて我々ができることはありません。あきらめてください。
(4)配点がわらかない
前述したように、学校が配点を公表しているケースのほうが少ないです。問題集の配点は、出版社が適当に入れたものです。私もよく、配点がわからないので教えてほしい、と依頼されるのですが、そんなもの私にだってわかりません。
せっかく解いたら点数を出したくなるのは人情ですので、均等配点を基本に、傾斜配点を考慮する、そんなところで臨みましょう。
(5)解答用紙の準備
声の教育社の過去問についている解答用紙は縮小されていますが、何%でコピーすれば復元するかの指示が書いてあります。
これをコンビニのコピー機で行うのは現実的ではありません。枚数が多すぎるからです。よほど空いている時間帯を狙わないと後ろに行列ができてしまいます。
ご自宅に業務用複合機があるのでなければ、これを機にコピーができるプリンターを購入される方も多くいます。
人気の機種は、ブラザーの出しているA3のスキャンとプリントが可能な機種のようですね。3~4万円程度で売られています。どうせ中学生になっても使うから、という理由で購入に踏み切るのもよいでしょう。
ただし、この機種はインクジェットです。
私は個人的にインクジェットプリンターは嫌いなので、自宅でもカラーレーザープリンターしか使いません。安いから、という理由で今まで何台ものインクジェットプリンターを買っては、結局インク詰まりでゴミにしてきたからです。とくに複合機の場合、スキャナーは活きているので最悪です。キャノンとエプソンは使ったことがありますがブラザーのものは知りませんので、こちらの機種の性能はわかりません。
しかし、A3サイズのカラーレーザー複合機となると、完全に業務用で、メンテナンス契約を含むリースが主流ですので、一般家庭で購入するなら、そこは譲るしかないでしょうね。
(6)得点について
みなさんがとても気にするのは、「合格最低点に届くかどうか?」「合格者平均点はクリアできるのか?」ということだと思います。
しかし、ここにこだわるのは意味がありません。その理由は以下の5点です。
〇実際の入試とは違う環境(自宅)で解くのであてにはならない
〇配点が不明な場合も多い
〇記述や数式・図の採点許容がわからないので部分点が正確につけられない
〇学校が最低点や平均点を公表していない場合も多い
〇過去問ができたからといって当日本番の得点は保証されない
私は、すべての学校の配点を、算数150点、国語150点、理科100点、社会100点、合計500点に換算して整理することをおすすめしています。
そのうえで、受験校のレベルに応じて目標ラインを設定するのです。下のグラフは、難関校を狙っていた生徒の得点の移動平均をグラフ化したものです。この生徒の場合は7割を目標ラインと設定していました。
このグラフを見ると、1月に入ってからの伸びがすごいですね。
過去問演習の成果が最後の最後に出たケースです。ハラハラさせられましたが。
詳細はこちらの記事をお読みください。
(7)塾との兼ね合い
お通いの塾で過去問演習の指示が出るはずですので、それに従ってください。しかし、以下のような指示が出たとしたら要注意です。
◆受験校の過去問を繰り返し何回もやりなさい
同じ問題を何度も解くことは無意味です。答を覚えてしまいます。前述したように、過去問演習の目的は答を覚えることではありません。
◆過去問は9月からやれば間に合う
嘘です。まったく間に合いません。夏休みから着手しなくてはいけません。
◆受験校の過去問だけをやればよい
嘘です。そもそも1つの学校しか受験しないという生徒はほぼいません。複数の学校を受験する以上、足腰の強い柔軟な得点力が求められます。どんな問題が出ても、急に入試傾向が変化しても、臨機応変に対応できる学力のためには、様々な学校の過去問に取り組むことが大切です。
◆提出を義務付けられるが、ハンコが押されて返されるだけ
過去問は解きっぱなしでは効果が半減どころか全くあがりません。添削指導や解説が必須です。
◆塾の授業時間中に解かされるが、解説がない
実際にこうした塾は存在します。まったくいい商売していますね。授業をしないでお金をとるとは。本当はそうした塾はすぐに移るべきなのですが、6年の後半に移るのは難しい(実質不可能)ですね。お金はかかりますが、家庭教師を探すべきかもしれません。
◆4教科とも10年分解きなさい
算数・国語はまだいいのです。理社は問題です。理科だって、入試問題の流行というものがあります。まして、10年前の社会科の問題は、データが大きく変わっていて無価値です。どちらも5年分もやれば十分です。とくに社会科の場合は、受験校の古い問題よりも、最新の入試問題を幅広く解いたほうが有効です。
(8)出題傾向分析はしない
たまにいるのです。志望校の過去問を徹底的に分析し、それに即した学習だけをさせようとする親が。おもに父親です。それは大学入試に対する予備校の方法論です。中学入試は複数校を受験するのが当たり前ですし、出題傾向が変わる可能性もあります。姑息な分析よりも、総合的な学力をつけることを目的にするべきでしょう。
(9)受験予定校(出願予定校)のものは必ずやる
どうせそこまで受験しないだろう、と高をくくっていた押さえの学校(安全校)の過去問を全く手を付けない生徒がいますね。しかし入試では何がおこるかわかりません。入試前日になって慌てて過去問題を夜に解く、そんなやり方では、安全校が安全とはいえなくなるでしょう。