※この記事の初出は2023.12.20です。2024.12.17にUPDATEしました。
意見を求められる出題、国語や社会でよく見かけます。
しかし、さほどの意見を持たない小学生としては、最も苦手な出題でしょう。
今回は、巷で話題になった2023年慶応湘南藤沢の国語の出題をみながら意見文の作成について考察します。
出題者の意図にそった意見をまとめることが大切
あなたの目の前に次の意見を述べる人が現れたとして、あとの問いに答えなさい。
「甘いモノって、誘惑は強い割にだいたい体に悪いじゃないですか。肥満とか生活習慣病にもつながるし。だから、国なり県なりで税金をかけて、値段を上げていけば自然と国民・県民の健康が増進されるって思うんですよ。子供の体の生育に必要な部分もあるでしょうから、料理に使う砂糖とかは例外として、生活習慣病の人の食生活をある程度追い駆けてみて、どう見てもいけないなぁと思うような品目だけでいいんですよ。課税しましょう。」
問 あなたはこの人と対話しています。この人の意見に160字以内で反論しなさい。
※この人に反論するにあたって適切な言葉づかいで答えること。
これが2023の慶應湘南藤沢・国語の出題です。
2000年のPISA(OECD生徒の学習到達度調査)以降よく目にするようになった、いわゆる「PISA型」の出題です。
〇何かの課題(環境問題・身近な社会問題等)が提示される
→それについての意見が書かれている(賛否両論併記の場合も)
→それについての自分の意見を理由とともに述べる
本家のPISAのみならず、適性検査型の入試でも多く目にする、いわば定番の出題といえるでしょう。
この問題文を以下のように書き改めれば、とくに目立つ出題ではないことがわかると思います。
「甘いモノは肥満や生活習慣病につながり体に悪い。だから、国や県が税金をかけることで国民の健康が増進される。子供の生育に必要な料理に使う砂糖は例外とし、生活習慣病の原因と思われる品目に課税すべきだ。」
この意見に対する反論などたやすいですね。
反論のまとめ方
大きく3点あげられます。
1つ目は甘いモノ=体に悪い、という断定の根拠が示されていない点
2つ目は課税すべき品目を決めるのは困難(不可能)な点
3つ目として、そもそも国民の食生活に行政が介入することの問題
どれを書いてもよいですが、おそらくは3点目についてを書くのがまとめやすくて得点しやすいと思います。
私が唯一注目したのは、問題の最期の1行、「※この人に反論するにあたって適切な言葉づかいで答えること。」の部分です。
この1行がなければ、問題文の口調に影響されて、ついつい同じような口調・論調で反論を試みる受験生が一定数いたと思います。
しかし、親切にも最期の1行があることで、この問題は私が分類したところの「トラップ問題」とはならずに、オーソドックスな問題となったのです。
トラップ問題とは?
ところで、以前に生徒にこんな問題を記述させたことがありました。
「漫画には漫画でしか得られない感動や教育効果があるのに、それを大人が一方的にダメと決めつけるのは良くない」 といった内容の文章を読ませた後で、それについての意見を論述するというもの。
すると、まあ見事に皆「そうだ、その通りだ!」とばかりに、自分が母親から怒られた体験などを熱く書いてくれたものです。
せっかく鍛えた論理的記述力など忘れ果てて書かれたそれらの「感想文」には評価ポイントは全くつきません。
これが「トラップ問題」と私が分類した問題なのです。
今なら漫画よりもゲームやYouTubeについて出題したら皆引っかかりそうですね。
意見を求められる論述問題でも、感情的に持論を語るのではなく、出題者の意図をきちんと把握することが大切なのです。
小学生的な意見にすべきか、大人っぽい意見にすべきか
これも迷うところかもしれません。
世の中の「記述・論述の書き方」「意見の書き方」的なノウハウ本等を見ると、どれもこれも見事に「大人のような文書」を書くことを指導しています。
それも無理はありません。なぜならそうしたノウハウ本を書いているのは大人なのですから。
しかしここで忘れてならないのは、あくまでも主役は「12歳の子どもである」という点なのです。
あまりに大人びた意見は、かえって不自然で、背後の大人の存在をうかがわせてしまします。
「塾でこう書けと徹底的に指導されてきたんだろうなあ」
こう思わせてしまうことは、決してプラスにはなりません。
かといって、あまりに幼い幼稚な意見文も困ります。
イメージとしては、中学生くらいの年代が書きそうな文章レベルが目指すレベルです。
A:「甘い物だって美味しいし、僕は甘いものが大好きだし、そもそも甘いものが体に悪いってきめつけるのはおかしいと思います。なぜなら糖分は脳の栄養だと聞きました。だから僕は、いつも飴を持ち歩いていて、勉強で疲れたときには舐めることにしています。」
B:「政府は国民の幸福や生活向上のために施策を行うべく国民から選ばれ、強い権限を与えられている。税金を徴収する目的は、税収で得られた財源により国民本位の政治を行うことにある。年金・医療などの社会保障・福祉や、水道、道路などの社会資本整備、教育、警察、防衛といった公的サービスを運営するための費用を賄うものが税の役割であり、国民が互いに支え合い、共によりよい社会を作っていくため、この費用を広く公平に分かち合うことが必要となってくる。その税の目的を考慮すると、徴税の権限を、国民の食生活を制限する目的で行使することは、税本来の目的から大きく逸脱しており、日本国憲法13条に規定された幸福追求権を侵害していると考える。」
C:「食の好みは多様であり、甘い物を好むのも好まないのも個人の自由である。甘い物は体に悪いという根拠の無い理由により課税することで国民の食生活を規制することは自由権の侵害にあたると思う。政府の役割は、税によって国民生活を規制することではなく、食の健康にもたらす影響について情報を提供することだと考える。」
言うまでもなく、Cくらいの解答が適切ですね。