中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

 2023慶應湘南藤沢の国語入試問題にみる、意見文の作成方法について

出題者の意図にそった意見をまとめることが大切

 

巷で話題になった2023年慶応湘南藤沢の国語の出題について考察します。

 

 あなたの目の前に次の意見を述べる人が現れたとして、あとの問いに答えなさい。

「甘いモノって、誘惑は強い割にだいたい体に悪いじゃないですか。肥満とか生活習慣病にもつながるし。だから、国なり県なりで税金をかけて、値段を上げていけば自然と国民・県民の健康が増進されるって思うんですよ。子供の体の生育に必要な部分もあるでしょうから、料理に使う砂糖とかは例外として、生活習慣病の人の食生活をある程度追い駆けてみて、どう見てもいけないなぁと思うような品目だけでいいんですよ。課税しましょう。」

問 あなたはこの人と対話しています。この人の意見に160字以内で反論しなさい

 ※この人に反論するにあたって適切な言葉づかいで答えること。

 

さてこの問題について、「メディアで大活躍の『論破王』を思わせるような意見への反論を書かせるのは面白くて新しい問題だ。」といった言説を目にしたのですが、書かれている口調がメディア論客を連想させるだけで、出題意図自体は目新しくはありません。

 

2000年のPISAOECD生徒の学習到達度調査)以降よく目にするようになった、いわゆる「PISA」の出題です。

 

何かの課題(環境問題・身近な社会問題等)が提示される

 →それについての意見が書かれている(賛否両論併記の場合も)

 →それについての自分の意見を理由とともに述べる

 

本家のPISAのみならず、適性検査型の入試でも多く目にする、いわば定番の出題といえるでしょう。

この問題文を以下のように書き改めれば、とくに目立つ出題ではないことがわかると思います。

「甘いモノは肥満や生活習慣病につながり体に悪い。だから、国や県が税金をかけることで国民の健康が増進される。子供の生育に必要な料理に使う砂糖は例外とし、生活習慣病の原因と思われる品目に課税すべきだ。」

 この意見に対する反論などたやすいですね。

 

 反論のまとめ方

大きく3点あげられます。

1つ目は甘いモノ=体に悪い、という断定の根拠が示されていない点

 2つ目は課税すべき品目を決めるのは困難(不可能)な点

 3つ目として、そもそも国民の食生活に行政が介入することの問題

 

どれを書いてもよいですが、おそらくは3点目についてを書くのがまとめやすくて得点しやすいと思います。 

私が唯一注目したのは、問題の最期の1行、「※この人に反論するにあたって適切な言葉づかいで答えること。」の部分です。

この1行がなければ、問題文の口調に影響されて、ついつい同じような口調・論調で反論を試みる受験生が一定数いたと思います。

しかし、親切にも最期の1行があることで、この問題は私が分類したところの「トラップ問題」とはならずに、オーソドックスな問題となったのです。

 

 トラップ問題とは?

ところで、以前に生徒にこんな問題を記述させたことがありました。

「漫画には漫画でしか得られない感動や教育効果があるのに、それを大人が一方的にダメと決めつけるのは良くない」 といった内容の文章を読ませた後で、それについての意見を論述するというもの。

すると、まあ見事に皆「そうだ、その通りだ!」とばかりに、自分が母親から怒られた体験などを熱く書いてくれたものです。

せっかく鍛えた論理的記述力など忘れ果てて書かれたそれらの「感想文」には評価ポイントは全くつきません。

 これが「トラップ問題」と私が分類した問題なのです。

 

今なら漫画よりもゲームやYouTubeについて出題したら皆引っかかりそうですね。

 

 意見を求められる論述問題でも、感情的に持論を語るのではなく、出題者の意図をきちんと把握することが大切なのです。