今回は、2024慶應湘南藤沢中・国語の入試問題にみられる、意見の根拠の記述方法について考察します。
2024慶應湘南藤沢中国語の問題
以下の①~⑮までのもののうち、あなたが「世の中をハッピーにしている」と考えるものを三つ選び、その理由を150字以内で説明しなさい。
①独立
②鉄道
③リゾートホテル
④誕生日
⑤国家
⑥オリンピック
⑦スポーツ
⑧藤沢
⑨プロフェッショナル
⑩自動車
⑪温泉
⑫ファッション
⑬学校行事
⑭自然
⑮オーディション
ある意味慶應湘南藤沢らしい、「無茶振り」の出題ですね。
方針の策定
闇雲に書きだすとはまります。
ここは記述の前に4つの準備が必要です。
(1)「世の中」と「ハッピー」の定義づけ
「世の中をハッピーにしている」とあります。
「世の中」とは、辞書的な意味でいえば、「多くの人々が互いに関わり合って生きていく場=社会」ということになるでしょう。
しかし、実は「世の中」はもっと漠然した多様な意味を持っています。
◆「世の中が大きく変化している」
こういえば、人間というより、「社会体制・状況・時代」といったニュアンスです。
◆「生きづらい世の中だ」
人の世の無常をイメージしますね。
◆「世の中には自分と同じ顔を持つ人間が必ずいるものだ」
人が大勢集まっているイメージでしょうか。
◆「世の中はそんなに甘くはない」
人間をとりまく社会体制がクローズアップしています。
他にもまだまだ思いつきそうですがこれくらいにします。
つまり、「世の中」と気軽に書いていても、「人間」に焦点を当てているのか、「人をとりまく制度や状況」に重きを置いているのか、そこを考えましょう。
「happy」は、喜びや幸福を感じている状態を示す形容詞ですね。
しかし日本語で「ハッピー」と表すと、形容詞が名詞化され、「happyな状態にある」ことを示します。
もちろん「happyな状態になる」主体は人間です。
ということは、「世の中」は、社会を構成する多数の人間を示すと考えてよいでしょう。
「世の中」を「ハッピー」にしている
=「3つの何か」が私たち多くの人間を幸せにしている
こう読解できます。
しかし、この「人間を幸せにしている」が曲者です。
寒さが苦手な人にとっては「暖冬」はハッピーですが、スキー好きの人にとっては「アンハッピー」ですね。
競争好きな人にとっては「テスト」は自分の実力を示すことができる「ハッピー」なものでしょうが、大多数の学生にとっては「アンハッピー」以外の何物でもありません。
つまり、社会の構成員全てを「ハッピー」にしてくれるような物・事象など存在しないのです。
解答では、「誰をハッピーにしているのか」、対象を明確化するのか、それとも曖昧にごまかすのかの選択をしなくてはなりません。
論理を愛する私としては前者しか考えられませんが、そもそも出題が「乱暴」なのですから、ここは後者の立場をとるしかないのでしょうね。
(2)3つの単語を単発でそれぞれ書くのか、それとも関連させるのか
どう考えても単発でそれぞれ書いたほうが楽です。しかし、それではこの問題の出題意図をくみ取ったとは言えません。
あえて3つの語句を選ばせているのですから、それらを相互に関連づける記述が求められているはずです。
(3)語句を分類する
3つの語句を関連づけて書くのですから、相互に関連しそうな語句をグループ分けするとよいですね。ついでにそのグループの特徴、なぜそのように分類したのかも考えておきましょう。
◆国家の誕生日=独立
①独立
⑤国家
④誕生日
◆輸送手段
②鉄道
⑩自動車
◆余暇
③リゾートホテル
⑪温泉
⑭自然
◆運動系
⑥オリンピック
⑦スポーツ
⑬学校行事
◆人々に魅せる
⑫ファッション
⑮オーディション
⑨プロフェッショナル
◆意味不明
⑧藤沢
この分類は、あくまでも仮のものです。
人によっては別の分類も成り立つでしょう。
例えば、リゾートホテルと温泉と鉄道の組み合わせも、「旅」というキーワードでくくれそうです。
ここで曲者なのは、⑧藤沢 ですね。
そもそも「一般名詞」ですらありません。固有名詞の「藤沢」を選択肢に入れた意図がわからないのです。
もしかして出題者がおもしろいとでも思って入れたのでしょうか?
「藤沢」は地名か人物名でしかあり得ませんが、まさか人物名ではないでしょうから、地名なのでしょう。
「藤沢」の地は、清浄光寺の門前町として14世紀からの歴史を刻み、江戸時代には東海道藤沢宿の宿場町としても栄えました。
宿場町としての藤沢は、旅館の数を見る限り、東海道の他の宿場よりも少ないことから、交通の中継点・分岐点としての役割が大きかったと思われます。
「東海道中膝栗毛」の弥次さん喜多さんも、江戸日本橋を出て一泊目は藤沢の一つ手前の戸塚宿に宿をとり、藤沢を素通りして2泊目は小田原宿です。
川崎宿 72軒
神奈川宿 58軒
保土ヶ谷宿 67軒
戸塚宿 75軒
藤沢宿 45軒
平塚宿 54軒
大磯宿 66軒
小田原宿 95軒
箱根宿 36軒
藤沢はむしろ時宗総本山の遊行寺(清浄光寺)の門前町としての役割の方が大きかったのではないでしょうか。
時宗の信徒にとっては「ハッピーにしてくれる」地名かもしれません。
と、歴史好きで天邪鬼な私はいろいろ書き連ねましたが、学校の意図としては、「慶應湘南藤沢が存在する藤沢」のつもりなんでしょうね。それが世の中をハッピーにする、つまり「慶應湘南藤沢の存在が世の中をハッピーにする」とでもいうつもりなのでしょうか?
不遜です。
さらに言うと、慶應湘南藤沢があるのは藤沢市の中心ですらありません。遊行寺や旧宿場、江ノ島などがある「藤沢」の中心から北西の外れに位置しています。江戸時代には、相模国高座郡遠藤村でした。
少々皮肉がにじみ出たのは恐縮です。
私は、入試問題で「ふざけ」られるのが大嫌いなのです。
出題者は面白いと思ったのかもしれませんが、全人生を賭けて入試に臨む受験生に失礼だと思うのです。
「藤沢」を選択肢にとりあげた、出題者作成の「模範解答例」をぜひ読んでみたい。
⑧藤沢は無視しましょう。
(4)結論を先に考える
語句の選び方はただ一つ、結論を先に考え、それに即した語句を選びます。
そのためには、「世の中をハッピーにしている」の理由も合わせて考えます。
例えば、
③リゾートホテル
⑪温泉
⑭自然
の3つを選んだとすると、結論はすでに見えていますね。
誰だって自然の中のリゾートホテルで過ごし、温泉につかれば「ハッピー」になります。
とても書きやすいですね。
これでも構わないと思います。ただ、おそらくこの組み合わせは一番多かったと思われます。
皆と同じ過ぎるのはどうなんだろう?
そんなことは気にせず合格点がもらえる答案を書くのが鉄則なのですが、少しだけ、あくまでもほんの少しだけひねった解答を考えるのもよいかもしれません。
◆輸送手段
②鉄道
⑩自動車
この2つなら、交通手段の発達が私たちの生活を向上させたことは間違いありませんので、「ハッピー」につながりますね。
ただし、もう1つの語句に悩みます。
⑤国家とでもしておきましょうか。
国家の発展につながった、との観点です。
あまり好きな方向性ではありませんが、書きやすいことは確かです。
あるいは、⑨プロフェッショナルの存在が、交通手段の維持管理には必須であるという方向性で書いてもよいでしょう。
もう少しシンプルに考えて、「自然」「温泉」の組み合わせも書きやすそうです。
交通手段の発達により、高齢者や障碍者も「自然」や「温泉」に親しむことができるようになった、そういう流れです。「弱者」がハッピーになれる「世の中」、いいじゃないですか。
◆運動系
⑥オリンピック
⑦スポーツ
⑬学校行事
運動好きの子なら、この3つが「ハッピー」をもたらすかもしれません。
書きやすいですが、幼稚になりすぎないように気を付けましょう。
自分がハッピーになるのではなく、「世の中をハッピーにしてくれる」ことがポイントですので。
こうして書いてきましたが、やはり⑥藤沢 がひっかかります。
敵前逃亡したみたいで気になるのです。
こうなったら敵の挑戦を受けてたちましょう(敵ではない)
〇独立自尊・・・慶應義塾の教育理念
〇気品・・・当事者意識から自然とにじみ出る人格の高潔さ、人間の大きさ
どちらも慶應湘南藤沢のHPに書かれています。
自然豊かな藤沢の地において、自然と滲みでる気品を追求する、独立自尊の教育こそが世の中をハッピーにする。
あるいは、
藤沢の地で多様な学校行事を通じて独立心を養うことこそ世の中をハッピーにすることにつながる
そんな流れでの記述も可能です。
学校にゴマすりすぎで、辟易とする解答です。
まさかこんな解答を求めているのではないですよね?
2023年の問題の分析をこちらに書きました。