- 1.そもそも質問の方向性が間違っているかもしれない
- 2.私立小といってもさまざま
- 3.中学受験に必要な学習を私立小ではやってくれるのか?
- 4.公立小の中学受験におけるメリットとは?
- 5.私立小の中学受験におけるメリットとは?
- 6.結論
「私立小と公立小では、中学受験に有利・不利ということがあるのだろうか。」
まだ幼稚園の年少の子供を持つ保護者から相談されました。
「そんなに遠くないところに(電車で数駅)評判の良い私立小がある。そこに通わせようかと思っていたのだが、中学受験をするのなら意味はないと他人に言われてしまった。はたしてどうなんでしょうか?」
ううむ、難しい質問ですね。
家庭の判断による、としか言えません。
とはいうものの、同じような質問というのを何度も受けたことがあります。
なかには、逆の質問、つまり私立小に通っているが、中学受験のために公立小に転校すべきかどうか、というものもありました。
そこで、少し考えてみることにしましょう。
※私立小・公立小、どちらかを持ち上げたり批判したりする意図はありません。すでに小学生の方はこの後の記事は読まれないほうがよいでしょう。
1.そもそも質問の方向性が間違っているかもしれない
ここで検討しているのは、
中学受験するために私立小は有利か否か?
です。
ちょうどこの問い立ては、「大学受験するためには私立中高一貫校は有利か否か?」に似ていますね。
そして大学受験(それも難関大学)合格のためには、私立(国立)中高一貫校が有利であることは、高校別大学合格実績のリストを見ると明らかです。東大のそれを見てみると、上位を私立(国立)の中高一貫校が独占しているのが一目瞭然です。
しかし、この話をすると、かならずこう反論されます。
都立日比谷高校や神奈川県立翠嵐高校の東大合格実績も凄い。それなら何も中学受験をしてまで私立に進学しなくてもいいのでは? 結局のところ、賢い子はどんな学校からでも東大に入れるのだから。
確かに、日比谷高校の東大現役合格実績は2023年は33名であり、現役合格率(卒業生に占める東大現役合格者数の割合)は10.51%でした。また、翠嵐高校は35名合格で現役合格率は9.78%です。埼玉県立浦和高校は21名で5.95%でした。東大合格者数ランキング(現役・既卒生合計)のトップ20には公立からはこの3校だけがランクインしています。さすがですね。
しかし、中学受験の目的は6年後の大学合格だけにあるのではありません。(最近中高にそうした大学受験予備校化を求める風潮も確かにありますが)
12歳~18歳をどのような環境で過ごしたいか、これが最重要だと思います。
例えば雙葉に対して、「御三家とかいっても東大に12名しか入らないからたいしたレベルの学校ではない」と貶す人はほとんどいないと思うのです。
私立小学校を選ぶということは、6年間の環境を選ぶということになります。中学受験に有利か不利かで選ぶものではないと私は思います。
2.私立小といってもさまざま
一口に私立小といっても様々ですね。また、当然ご家庭の方針も様々です。
(1)大学まで(ほぼ)全員が進学する学校
代表的なのが慶応です。もうこの学校の小学校(幼稚舎)を選ぶ段階で、慶應大学確定です。青山学院もそうですね。ほぼ全員が中高大へと進みます。
この場合は前述のご相談は発生しないでしょう。
(2)大学までの進学者が多くはない学校
例えば吉祥寺にある成蹊小学校がそうですね。90%ほどがそのまま中学へと進学しますが、高校から成蹊大学へ推薦であがる生徒は約1/3程度です。その他は、国公立や早慶などに外部受験して進学します。(もちろん成蹊大への推薦基準を満たせない生徒もいます)
また、せっかく大学まで進学できる環境なのに、小学校から中学へあがる段階で外部受験する生徒というのも必ずいます。同級生やその保護者との人間関係が理由の場合が多いですね。
(3)中高はあるのに、ほとんどが外部受験する私立小
こうした私立小もいくつもありますね。中学への内部進学率が低い学校です。
こうした学校には、小学校の評価は高いが中学校の評価が低く、事実上受験小学校化している学校が多いですね。
◆洗足小について
洗足小は(3)に入るのですが、どちらかというと少し特殊なケースだと思います。中高の評価は高いですので。
小学校は男女ですが、中高は女子校ですので、男子は全員が外部受験して出ていきます。女子についても全員が中学受験をします。2月の一般入試に先立って12月に内部入試が実施され、合格者は進学の権利を有したまま外部の中学受験が可能です。男女38名ずつの卒業生のうち女子をみてみると、洗足学園中への進学者が21名合格者中8名、残りは公立中2名を含めて様々な学校へ進学していきます。想像するに、21名-8名=13名が、洗足学園中高以上のレベルの学校へ分散するのでしょうか。桜蔭5名・女子学院3名・雙葉1名・慶應中等部1名・筑波大附属1名といった学校への進学者が散見されました。
3.中学受験に必要な学習を私立小ではやってくれるのか?
公立小での学習だけでは中学受験には全く足りないことはみなわかっています。だから塾に通うのですね。
では、私立小の学習はどうなのでしょう? 中学受験に必要な勉強を学校でやってくれるのでしょうか?
結論からいえば、それは期待できません。
正確にいえば、塾無しで小学校の学習だけで中学受験ができるレベルの学習はやりません。さすがに公立小よりは高度な学習を行ってはいますが、それでも中学受験には全く足りません。それが証拠に、いわゆる「受験小」といわれる小学校の生徒のほとんどが、近隣の有名塾(SAPIX・四谷大塚等)に通塾しています。
私は、ある有名私立小(中学受験の実績に定評がある)の授業を見学させていただいたことがあります。社会科の歴史の授業でした。その単元の初回です。
まず教室環境のすばらしさに目を奪われます。最近の公立小も環境は充実しているようですが、こればかりはお住まいの学区次第ということになります。私立小を選ぶことの大きなメリットの一つといえるでしょう。
さて、見学した授業を見ると、皆真面目な生徒ばかりで、先生の質問にもよく手があがります。誰一人不正解の生徒はおらず、「凄い!」と思わせるものでした。
しかし、私は生徒の手元をのぞき込んで見抜いてしまったのです。
これは、すでに習っているな。今日は初回の授業というのは偽りだったのです。授業見学用につくられた「見本」としての授業だったのですね。
さらに、一般的な塾のカリキュラムを考えると、塾でもすでに学んでいる内容でした。
この小学校ではほぼ全員が中学受験のための塾に通っています。
つまり、塾で1回、学校で1回、合計2回学んだことを質問されているので、それは良くできて当たり前ですね。
そのことを前提として考えると、授業のクオリティは、決して素晴らしいものとは思えませんでした。
プロジェクターも使っていましたが、教師が板書の手間を省く役割しか果たしていませんでしたし、生徒は穴埋め型式のワークプリントのようなものの空欄を答えているだけです。
せっかく賢い生徒たち相手の授業なのですから、もっと他にもやりようがあるだろうに、とどうしても考えてしまいましたね。
たとえば南蛮貿易という語句を答えさせるのではなく、当時のヨーロッパの目がなぜアジアに向いていたのかを考えさせるとか、徳川将軍の名前を答えさせるくらいなら、なぜ江戸幕府だけが260年以上も続いたのか、その理由を考察するとか、いくらでも授業を深く掘り下げ膨らませることはできると思うのです。
せっかく「対話型」の授業が可能な環境にあるのに、もったいない話です。
どうやら私は期待しすぎていたのですね。
他の教科の教室も見させてもらいましたが、同様の感想を抱きました。
たしかに公立小の授業とはレベルが全く違うことは確認できましたが、この程度の授業に高い学費を払う必要はないと思ったことを覚えています。
もっとも、その私立小出身で難関中に進学した生徒に聞いたところ、「小学校の歴史の先生が面白すぎたので、今の中学校の授業がむしろ退屈でつまらない」そうです。ちなみにその歴史の先生は、元某大手塾の先生だったそうですが。
たまたま私の拝見した授業がおもしろくなかっただけかもしれませんね。
4.公立小の中学受験におけるメリットとは?
これは簡単です。
通学時間です。
公立小学校は、自宅から歩いていけますね。
私立小だと、たまたま公立小よりも近くにあるという幸運な場合をのぞき、電車・バスなどを利用して通学しますので、どうしても往復の通学時間がかかります。
この時間がもったいない。
中学受験は、ほんとうに時間との戦いです。文字通り1分1秒が惜しいのです。
公立小の中受におけるメリットは、この1点につきます。
また、私立小によっては、学校行事の多いところもありますね。さらに、宿題が多かったり自由研究にものすごく時間をとられるという話も聞きます。そうした学校とくらべれば、公立小の宿題量や行事は少ないと考えてよいでしょう。
ところで、公立小の授業も見学したことがあるのですが、それはもう・・・・。
前述した私立小の授業とは比ぶべくもないですが、それにしても。
途中で自分が授業を仕切りたくなって困りました。
小学校の先生には頭が下がります。
5.私立小の中学受験におけるメリットとは?
これも簡単です。
時間です。
生徒のほぼ全員が中学受験をするような私立小の場合、カリキュラムを早めに終わらせて、6年生の後半には、自習時間を増やすところがあるそうですね。何の勉強をしてもかまわない時間です。聞くところによると、みなその時間に過去問を解いているそうです。
実に羨ましい。
まさに時間をお金で買うといってよいでしょう。
6年の後半からの学習では、過去問の演習量が合否に直結します。しかし、普段小学校に行き塾にも行くとなると、なかなかその時間を捻出するのが難しいのです。それが学校でできるとなると、とても効率的です。
もちろんこの利点を活かすためには、私立小が自宅から近いこと(歩いていけるレベル)が必須条件です。
※ただし、小学校内で過去問を解いたとしても、その採点や添削・質問対応等はさすがにやってもらえません。
※この利点があるのは、いわゆる受験小に限られます。みなが内部進学するような小学校では、逆に課題や行事が多いとも聞きます。
もう一つ付け加えるとすれば、「皆受験モードにある」雰囲気でしょうか。
もっともこれだけ中学受験が一般化すると、公立小学校であっても受験する生徒が多くいるために大きなメリットとはいえなくなりました。
6.結論
結論をまとめます。
自宅から一番近い小学校がベストです。
それが公立小であれ私立小であれ、自宅からの距離(時間)が最も近い小学校が、中学受験には最も有利な小学校であることは間違いありません。
もちろん、この結論は、あくまでも中学受験に有利かどうかの観点からのみの結論です。
公立小には公立小の、私立小には私立小のメリットというものがあります。
私の知人でも、息子を音大付属小学校に通わせているご家庭がありました。しかし、とくに音大を目指しているわけではないそうです。
その小学校の教育内容がとても気に入ったからというのが理由でした。
子どもが長時間&長期間通うことになる小学校選びについて、最も重要な観点ですね。