中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

【中学受験】子どもの学習環境 勉強机問題を考える

 ところで、お子さんは普段どんな環境で勉強していますか? 自室の勉強机ですか、それともリビングテーブルですか?

 今日は、勉強に最適な学習環境、その理想と現実について考察します。

1.机と椅子の高さの関係が最も大事

 デスクの高さと椅子の座面の高さと身長の理想の関係をご存じでしょうか。

椅子座面・・・・身長÷4

デスク高さ・・・椅子座面高+(身長÷6)

特に、椅子の座面と机の高さの関係(差尺)が重要だとされています。

デスクと椅子の理想の高さを計算するとこうなりました。

身長140㎝・・・椅子座面:35㎝、デスク高:58㎝

身長150㎝・・・椅子座面:38㎝、デスク高:63㎝

身長160㎝・・・椅子座面:40㎝、デスク高:67㎝

身長170㎝・・・椅子座面:43㎝、デスク高:71㎝

身長180㎝・・・椅子座面:45㎝、デスク高:75㎝

男子中高生の平均身長は、中1:148㎝~高3:171㎝

女子中高生の平均身長は、中1:151㎝~高3:156㎝ だそうです。

もし小学生の間に使用していた学習机があるとすると、そのほとんどは中高生には体格に合わないということになります。

また、オフィス用のデスクの高さは、かつてはJIS規格では70㎝だったものが、10年ちょっと前あたりから72㎝が推奨されるようになりました。その理由が4点あるそうで、

〇日本人の平均身長が伸びた

グローバル化がすすみ外国人労働者が増えた

車いすでも使いやすくした

 

〇A4サイズの書類を収納できる引き出しを設置した

からだそうです。このことはコクヨのHPで学びました。

www.kokuyo-marketing.co.jp

4点目はともかく、残りの3つについては生徒に考えさせる恰好のネタとなりそうです。おそらくは、平均身長については皆答えられると思いますが、グローバル化が思いつくかどうか。そこまで答えられれば合格点ですね。車いすに思いが至ったら素晴らしいです。こうやってすぐに授業ネタ・出題ネタに結びつけてしまうのは職業病です。

2.リビング学習の弊害

 リビングルームのテーブルで学習している子が多いですね。せっかく自室に学習用のデスクもあるのに、気が付くとリビングテーブルで勉強をしている。親としてはわが子が勉強している姿が見られて安心ではありますが、これにも問題がいくつかあります。

 (1)自分の勉強机が物置きと化している

 ほとんどの場合は、これが原因です。別にリビングが勉強しやすいからそこで勉強しているのではなく、自分の勉強机が使えないから移動してきているだけなのですね。

食事のたびに「どかしなさい!」と注意するのも毎日となると億劫です。一度お子さんの自室の机をチェックしてみてください。おそらくはうず高く本等が積まれているはず。こうなると、リビング学習の弊害以前に、片付け習慣の問題です。

 (2)机の高さが合わない

 標準的なリビングルームのテーブルの高さは70センチメートル、椅子の座面の高さは40センチメートルとなっています。もちろん物によって異なります。一度リビングのテーブルと椅子の高さを計って見てください。お子さんの身長と合っていますか?

私はIKEAで買ってきたダイニングテーブルを仕事用デスクとして愛用しているのですが、高さを図ると75㎝でした。私の体格にはちょうどよいのですが、子供の勉強用の机としてはかなり高めになりますね。

 テーブルと椅子の高さの差(差尺)がほんの数センチ大きいだけでも、テーブルに広げたノート・テキストと目の位置が近すぎてしまいます。その逆だと、今度は猫背になります。いずれにしても良いことは一つもありません。

 (3)テーブル面が暗い

 そもそも食事を基準とした明るさとなっているリビングテーブル面の明るさは、勉強をするのには暗すぎます。また色温度も食事用の暖色系の明るさは学習用には不向きです。

 (4)落ち着かない

 リビングダイニングは、家族全員が食事をしたり憩う場です。最も人が出入りしていますし、話し声もします。よく静かすぎるとかえって集中できないという子がいますが、それは違います。どう考えても話し声に囲まれたりテレビの音声が響いている環境のほうが集中できないにきまっていますね。

 それでは、家族全員が気をつかって静かにするべきでしょうか? 中学受験の際にはそうしているご家庭も多いですが、それがあと6年間続くと考えてみてください。早急に改善すべき問題だと思います。

 

3.机面(天板)のサイズ

学校で一般的なサイズは、45㎝×65㎝です。

このサイズは、B5サイズのノートとテキストを広げられる最低限の大きさです。

パソコンのキーボードとテキストを同時に広げることを考えると、50㎝×80㎝の大きさはほしいところですね。

また、パソコンに関しては、デスクトップPCを強く推奨します。

そのあたりについては、この記事に詳細を書きました。

peter-lws.hateblo.jp

※引き出しは不要

 一般に学習机というと、引き出しがついているものが普通です。しかし、もしそうした机が家にあれば、引き出しの中身をみてください。ただのゴミタメと化していませんか?

 たまる場所があれば無限にたまる

これを私は「ゴミの法則」と名付けました。

最初から引き出しなどなければ、机上にはせいぜいペン立て一つで事足ります。

 

4.理想的な学習環境

 これについては、一つの提言をさせてください。

 それは、「複数の机を用意する」です。

まず、メインのデスクを1つ用意しましょう。天板サイズは50㎝×80㎝程度の、引き出しなどついていないシンプルなものがベストです。これを「人の出入りはあるが少し静かな環境」に設置します。

父親の書斎があれば、その書斎の一隅、仕事デスクの隣などいいですね。あるいは階段の踊り場、廊下の突き当り、あるいは寝室の隅、どこかしらに場所を見つけてください。もちろん子供部屋があればそこでもかまいません。

 ここでは、「風通しの良さ」が大切です。

子供部屋といえども、普通は扉で完全に閉じきることができるようになっていると思います。鍵までついていたりしますね。

これはNGです。

家族の生活音が何となく感じられる程度、そして子供の気配がこちらにも何となく伝わる程度の「風通しの良さ」が大切です。

もし子供部屋なら、扉はいつも開けておく(その代わりカーテンをつける)といった運用がよいでしょう。

この子供専用部屋については、どうも戦後に中途半端にアメリカスタイルが入ってきたのではないかと思います。ご存じのように、アメリカでは高校卒業と同時に家を出て大学の寮に入るのが一般的です。これは広い国土に人口も学校も分散していて、実家から大学に通うことが不可能だから生まれた文化です。もちろん、自立を重んじる文化背景もあります。戦後から高度経済成長期にかけて、日本人もアメリカ式の生活スタイルに憧れたのでしょうね、日本でも子供部屋を作ることが普通になりました。押し入れのある和室に勉強机が置かれたのび太の部屋などまさに過渡期の子供部屋だと思います。しかし、物理的にはアメリカスタイルを導入したとしても、精神面はどうなのでしょう。子どもを独立した一個の人格として尊重していますか?18歳になったら家から追い出す予定ですか?こうした精神面の自立を重んじていないまま部屋だけ独立させるのは何か中途半端な気がするのです。日本においては、「半独立の子ども部屋」くらいがちょうどよいのではないかと思います。

子ども部屋のあり方としては、「寝る・くつろぐ・着替える」といった生活面のものとしてとらえるのが理想だと思います。そこに「勉強する」まで盛り込もうとするから利用法がぶれるのです。いわばベッドで勉強するようなもので、目的が違うことを一つの空間で行うのには無理があると思うのです。

もちろん、子ども部屋がとても広くて、寝るスペースとくつろぐスペース、勉強するスペースを完全に分離できるのなら何も問題はありません。

さて、そのメインのデスクには、子ども専用のPCを設置します。モニターアームを利用すると机上が広く使えて良いと思います。イメージとしてはこんなかんじでしょうか。



デスク

写真のデスクは、48㎝×95㎝ですので、横幅に大分ゆとりがありますね。

PCモニターサイズは24インチです。PC本体はデスク裏に設置してあります。今のPCは光学ドライブなど使いませんし、クラウド上の作業がほとんどでUSBケーブルの抜き差しもしません。電源のon/offもキーボード上で出来てしまいますので、机上の見えるところに設置する理由がないのです。

もちろんデスクライトは必須です。

基本的な勉強は、このデスクでやるのですが、もう一つ、デスクを設置します。

それは、リビングルームです。

どうせいつのまにかリビングルームにやってきてそこで勉強をはじめるのです。

それならば、最初からデスクを用意してしまいましょう。

このデスクは、コンパクトなものでかまいません。折り畳みでもよいですね。「リビングデスク」というワードで検索すると、手ごろなものがたくさん見つかります。どうもイメージとしては、主婦がリビングでブログを書くのに使う、といったかんじなのかな? 短時間、ちょっとしたデスクワークをするためのものとして用意されているみたいです。子供用に設置したとして、大人もけっこう便利に使えます。こちらにはPCは設置せず、コンパクトなデスクライトだけ置いておきましょう。もちろん運用上のルールとして、「勉強が終わったら机上はリセット!」です。

 

そういえば10年ほど前に、「頭がいい子が育つ家」といった本や雑誌が話題となりました。今でも、同様の本が大量に出版されており、雑誌でも特集されています。

うろ覚えで恐縮ですが、たしかどこかの大学の先生が、「頭のよい子が育つ家」のつくりには何か共通点があるに違いない、と思って調べはじめたところ、予想とは違っていた、そんな話だったように思います。独立した子供部屋、静かな学習環境、そうしたものを想定していたところ、ごちゃごちゃと家族が集まるリビングの隅で勉強していた子が多かった、そんな話じゃなかったかなあ?

 今あらためていくつかの記事をチェックしてみると、「トイレにさりげなく本を置く」だとか「家族のコミュニケーションがとりやすい環境が理社を伸ばす」だとか「算数の思考を深める静かなスペース」だとか、それらしいことが書かれています。

 そんなもの、結果論にきまっています。優秀な子のトイレにたまたま読みかけの本があったとか、にぎやかな家で育った子が理社が得意な子だったとか、そうしたことでしょう。

 家の構造で子供の頭が良くなるのなら苦労はありませんよね。

今回私が書きたかったのは、無理な姿勢での学習の弊害だったのです。机と椅子の高さ、そして照明、ここさえ気をつければあとは何でもよいと思います。

あっ、そうだ、あとはホワイトボードですね。これはお勧めです。

以下の記事も参考にどうぞ。

peter-lws.hateblo.jp