中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

年越しそばの起源と歴史、もし中学入試に出題されるなら(2024.1/10加筆修正)

今日は大晦日、年越しそばは召し上がりますか?

私もこの後いただこうと思っています。

今回は、年越しそばの歴史についてまとめてみます。そのうえで、中学入試に出題されそうな話題も触れていきたいと思います。

※2024.1/10に加筆修正しています。おもに5.伝統文化・慣習に関する出題 の部分です。

 

1.年越しそばの歴史

いくつかの説がありますね。

 (1)鎌倉時代

 博多に「萬松山 承天寺」という古刹があります。臨済宗の禅寺です。開祖円爾(えんに)(字は弁円)が宋から水車を使った製粉技術を持ち帰ったため、そば・うどんの発祥の寺とされています。ここで、年越しできない貧しい人々にそば餅をふるまったところ、みな運が開けたとか。そこから「運そば」として大晦日に食べるようになったといわれています。

ちなみにこの円爾ですが、同じく宋から持ち帰った酒饅頭の製法を茶屋の主に伝えたそうです。この茶屋の屋号が「虎屋」で、円爾が揮毫した「御饅頭所」の看板は現在東京の和菓子屋「とらや」にあるそうです。ただしこの茶店ととらやの関係は不明だとか。

思わず虎屋の歴史から和菓子の歴史に迷い込みそうになってしまいました。いつか記事にまとめてみたいですね。

そういえば、けんちん汁は鎌倉建長寺が発祥ですし、がんもどきも禅宗由来の精進料理、石庭で有名な龍安寺では湯豆腐がいただけますし、どうやら禅宗と日本の食文化は濃い関係にあるのですね。茶と禅宗も繋がっていますし、このあたりの話題から面白い問題が作れそうです。

もし私が問題を作るとしたら、禅宗のひろがりと日本の食文化の歴史についての文章をつくり、そこから鎌倉新仏教や和風建築について、あるいは鎌倉文化の特色へと広げて出題するでしょう。

(2)室町時代

日本麺類業団体連合会のHPにはこうあります。

室町時代、関東三長者のひとり増淵民部が、毎年大晦日に無事息災を祝って家人ともどもそばがきを食べたのが始まりとする説では、この時民部の詠んだという次の歌がミソ。
世の中にめでたきものはそばの種 花咲きみのりみかどおさまる
「みかど」とはソバの実の形が三稜角ということ。「三稜」で「みかど」と読むが、 その音は「帝」 に通じるというわけだ。

なるほど。しかしここで食べられているのは「そばがき」なんですね。

 

 (3)江戸時代説

やがて江戸時代に入るころに、「切りそば」が登場します。今私たちが食べているそばです。江戸初期のそばつゆは、味噌を煮てから絞ったものであったり、それにかつおぶしを加えたものだったようです。やがて醤油やみりんが大量生産されるようになると、従来の味噌ダレと醤油ベースのタレが両方使われるようになりました。化政文化のころ、11代将軍家斉の時代には、現在と同じ「かえし」が使われるようになりました。

 また、初期のそばは、そば粉100%だったため、切れやすかったと思われます。やがて小麦粉を2割まぜた「二八そば」が普及していきます。

巷間いわれている、「細長いそばは無病息災・長寿と通じる」とか、「切れやすいそばで悪運を絶つ」といった由来は、後付けと考えてまちがいないでしょう。そもそもこの2つは思い切り矛盾していますし。

 忙しい大晦日には、手早く作って食べられるそばがちょうどよく、それが年越しそばの起源だという説もありました。これも説得力があります。

江戸時代の庶民のそば好きは有名ですので、理由はなんでもよく、大晦日にも食べたかっただけなのかもしれませんね。

ところで、江戸時代の南部藩では、農民に切りそばを食べることを禁止していました。理由としては、作るのに手間どるから、というものです。まあ「そばがき」もたまに食べるから美味しく思えるのであって、どう考えても「切りそば」のほうが美味しいと思います。そんなくだらぬ理由で禁止してまで、農民に「良い思い」をさせたくなかったのでしょうかね。

 もしここで私が問題を作るなら、そばの価格から入りますかね。「二八そば」の由来は2つあげられます。2×8=16文が当時のそばの価格であり、現代の物価に直すと250円ほどになります。立ち食いソバの価格と同じくらい(かそれより少し安い?)くらいですので、江戸時代の物価と現代の物価を比べるときに役立つ指標です。そこから商品経済の歴史などに発展させられそうです。あるいは、「二八そば」の由来として、小麦粉を2割つなぎに入れたそばだったからという説もあり、たぶんどちらもだ正しいのでしょう。

 江戸時代の江戸の町は、外食産業が花開いた町でもありました。明暦の大火以降に外食の習慣が広がったといわれています。

〇火事の復興のために集まった大工等の職人の需要

〇参勤交代の武士の食事需要

〇火事後に設けられた火除け地に屋台が立ち並ぶ

簡単に手早く食べられる食事が好まれましたので、鰻の蒲焼・握り寿司・天ぷら・蕎麦、これらが普及しました。あとは稲荷ずしも人気です。

 さて、このネタで問題を作るとすれば、手軽な外食産業の普及とその理由について考えさせるような記述問題など面白そうです。もちろんヒントとして史料を見せて考えさせたいですね。

 

2.地域によって異なるそば

 (1)にしんそば

 京都で食べると美味しいものに「にしんそば」があります。東京出身の私としては、温かいそばといえば「たぬきそば」「天ぷらそば」なので、にしんがどんと載せられた「にしんそば」はインパクト大です。

 さぞかし古い伝統があるのかと思えば、実は誕生したのは明治時代でした。北海道から北前船ではこばれてきた「身かきニシン」をそばにトッピングしてみただけのようですね。

 ※この北前船」は入試頻出です。「鯖街道」であるとか、「こんぶロード」とからめてよく見かけます。

 (2)その他

 〇北海道・・・かしわそば

 〇福井・・・大根おろしそば

 〇新潟・・・へぎそば

 〇岩手・・・わんこそば

 〇沖縄・・・ソーキそば

 〇香川・・・年越しうどん

途中から「そば」ですらないですね。まあ美味しくいただけば何でもいいと思います。

 

3.お雑煮について

むしろお雑煮のほうが伝統があり地域性も豊かです。

この話題は以前の記事で書きました。

peter-lws.hateblo.jp

お雑煮関連のほうが入試問題が作りやすい=出題されやすいと思います。

 

4.おせち料理について

ひところよく出題されていたテーマですが、最近は落ち着いてきていると思います。

おせち料理に砂糖が多く使われる理由(桜蔭

 →保存性を高める

◆いわしの甘露煮を田作りという理由(桜蔭

 →干鰯を肥料として使っていたから

◆にしんの子供を選ばせる(慶應湘南藤沢)

 →かずのこ

その他、確か慶應中等部ではおせちに加えたい料理とその理由を答えさせる問題がありました。

 

 おせち料理の各々の由来なども教えたくなりますが、ほとんどが単なる駄洒落のようなものですので、基礎教養としては知っておく必要がありますが、入試対策としては不要だと思います。れんこんが穴が多いから未来を見通すとか、どう考えてもこじつけが過ぎますよね。

 ところで、試しに生徒に「祝箸」について聞いてみると、そもそもその存在を知らない生徒が多数(ほとんど)でした。使い慣れた箸のほうが便利なのはわかりますが、そもそもおせち料理の重箱を並べた段階で、そうした形式にはこだわってほしいものです。

 

5.伝統文化・慣習に関する出題

 20年ほど前には、日本の伝統文化や慣習に関する入試問題をよく見かけました。私なりにその理由を推理してみると、こんなところではないでしょうか。

核家族化が進行し、子供の周りに、伝統文化にこだわるお年寄りがいなくなった

〇そのため、子供たちが伝統文化に触れる機会がなくなった

〇子供の読書量が減った・・・明治~昭和初期の作家の作品を読まない

〇そのため、書物から知識を得る機会もなくなった

〇マンション住まいだと、門松も精霊馬も柊鰯も無理。節分の豆まきもできない。

〇その結果、伝統文化を知らない子供ばかりになった

◆そうした現状に危機感を覚えた中学校の先生が入試に出題するようになった

 

しかし、その後出題が減ったのはなぜでしょうか?

〇あまりにも得点率が低すぎるので出題できなくなった

〇学校にクレームが入るようになった・・・「こんなことまで覚えなくてはいけないのですか!」

〇そもそも学校の先生自身も伝統文化を知らない世代となった

あくまでも憶測(邪推)ですが、こんなところのような気がします。

 

伝統文化というものは時代につれて廃れていく宿命にあるとはいえ、寂しい話ですね。

井原西鶴の「日本永代蔵」を読んでみると、こんな文章があります。

「・・・年越の夜に入りてちひさき窓も世間並に鰯の首柊をさして、目に見えぬ鬼に恐れて、心祝ひの豆うちはやしける。夜明けて是を拾ひ集め、其中の一粒を野に埋みて、・・・」

今の子が大人になって読んでも、もう何のことやらわからないのでしょうね。

 

それなのに、由来もわからぬ「恵方巻」は食べるのでしょうか。

この、「恵方巻き」、東京出身の私の子供時代には存在しなかった「伝統文化」なのですが、いったいいつ頃どこから始まったのか、調べてもよくわからない存在です。

その中では、1970年代に海苔の組合が広めた、という説と、1989年に広島のセブンイレブンが仕掛けた、という説が個人的には気に入ってます。

まあ、意味のわからぬ「ハロウィン」ではしゃぐよりはよほど「日本の伝統文化風」だから良しとすべきでしょう。美味しいですし。