中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

テスト時間が足りない、その原因と解決法

ある日、一人の生徒から相談されました。

「社会科の入試問題を解くと、いつも時間が足りなくて最期まで終わらないのです。いったいどうしたらいいですか?」

というものでした。

たしかに答案用紙を見ると、最後に行くにしたがって雑に解いたことが明らかです。さらに、ちょっと長めの記述問題はもれなく空欄でした。

そこで、問題を解く際の頭の働きを分解しながら、解くのに時間がかかる原因を考えることにしました。

問題を解くときの頭の働きは以下のように分けられます。

(1)問題を読む

(2)何を聞かれているのか把握する

(3)何を答えればよいか考える

(4)頭の中から知識を引っ張り出す

(5)その知識でよいのかどうか確認する

(6)書く

順に説明します。

まず、(1)の問題を読むことについて。そんなもの日本語が読めれば大丈夫だろう、と考えるのは間違っています。社会科で使われる語句は日常的ではないものが多数あります。単に字面を目で追うだけでは読んだことになりません。意味のある単語として認識される必要があります。

次に、(2)について質問の意図を把握します。例えば、日本の世界遺産の一つに、「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼,造船,石炭産業」というものがあります。岩手・山口・静岡をのぞくと、多くが九州にあります。なぜ九州に多いのか? という入試問題が出たことがあります。ここで把握しなくてはいけないのは、「明治日本の産業革命遺産が九州に多い理由を聞かれている」ということです。

(3)については、いったいどういう答えを期待されているのか、作題者の出題意図を推理すると考えてください。先ほどの例でいえば、こう考えなくてはなりません。

現代の東京(や大阪)を中心とした感覚だと、九州なんて僻地(失礼!)でなぜ産業が?となりますが、そうではなくて、この時代には九州こそが産業の中心であったことを理由とともに書けばよいのだな、これが期待されている答なんだな、ということに気が付きましょう。

(4)については、(3)を考えている過程で浮かびつつあったテーマにそった具体的な知識を頭の中から取り出す過程となります。ここでは、世界遺産に入っているグラバー邸が重要です。1859年の開港と同時に長崎にやってきたスコットランド出身の貿易商トーマス・ブレーク・グラバーは、長崎の地にグラバー商会を立ち上げ、幕末日本の近代化を支える中心地となりました。その後1855年には士官を養成する長崎海軍伝習所が作られ、1861年には日本初の本格的な洋式工場「長崎製鐵所」が作られ、まさに長崎が日本の近代産業の発祥の地といっても良いのです。この後、多くの藩士がイギリスへ渡り産業を学んで帰国します。彼らが九州各地に様々な施設を開いていくことになります。九州が明治時代の日本の産業最前線の地だったのですね。

★実は、この入試問題は出題した学校の先生が作った模範解答が公開されていて、その解答は、完全に間違っていました。この学校の先生の力量不足に残念な思いがします。詳細は別の記事に詳しく書こうと思います。

 

(5)について。常に確信を持って答が書ければよいのですが、なかなかそうはいきません。本当にこれでいいのかな? 何か違うような気がするけど、などと何度もためらい迷った末にやっと答を書くことは普通です。ここで迷わないですむことは、時間の節約にとても大切です。

(6)について。(5)とも関連しますが、自信なさそうに小さく薄い字で弱弱しく書いてある答案を実によく見かけます。何度も消した跡が目立つ解答も多いですね。ここは、濃く太い字でしっかりと1回で書きたいものですね。

 

このように、入試問題を解くときの生徒の頭はフル回転しています。それに時間がかかる理由はもうお分かりですね。

知識不足

ただそれだけです。確信を持って使いこなすことのできる知識が、頭の中に少なすぎるのです。過去に絶対に習っているはずの知識なのに、いざという時に出てこない。すぐに出てこない知識は無いのと同じです。例えていえば、乱雑に物が詰め込まれた机の引き出しのようなものでしょうか。もちろん机上にも物があふれています。必要な文房具やプリントを瞬時に取り出せるよう整理されていなければ、持っていないのと同じですよね。社会科の知識を身に着けるということは、すぐに取り出せる状態で頭の中で整理された知識を身に着けるということです。また、この知識には多くのタグが付けられていなくてはなりません。様々な角度からの検索にも応えられる状態の知識、これこそが「使える知識」なのです。