集団指導と個別指導、とくに個別指導塾選びの難しさについてはこの記事で書きました。
今回は、指導する立場から、どちらが学力向上にプラスなのかを考えてみます。
これについては、実は私は結論を出しています。
それは、集団指導のほうが良い、です。
その理由について説明しましょう。
- 1.1対1の息詰まる緊張感
- 2.1対1だと、他の生徒の発言を聞く機会がない
- 3.教師の関心が逸れる時間も重要
- 4.競い合う楽しさ
- 5.生徒のキャラクター次第
- 6.レベルが揃う必要がある
- ★適正な授業人数とは?
1.1対1の息詰まる緊張感
私は大人です(少なくとも年齢は)。生徒の年齢が12歳だとすると、それよりは数十歳年上です。たぶん生徒の父親よりも年上ですね。その年齢の教師と、12歳の生徒が、小さな机をはさんで1対1で対峙するとどういう状況になるか想像つきますか?
①生徒はなるべく顔を上げずにこちらの顔をみないようにしている
②叱られないために、自分からすすんで発言しようとはしない
③発言するときも、小さな声でぼそぼそと
④教師が少し声を大きくするだけで生徒が委縮する
⑤質問されたことへの答を考える時間の余裕がなくなる
言っておきますが、私は怖い教師ではありません。昔はともかく、今はすっかり人間が丸くなって、ものわかりの良い優しい先生を心掛けています。生徒を叱ることなどめったにありません。
でも、ダメなのです。
冒頭に書いたように、私と生徒の間には年齢の壁というものが立ちはだかっていいますので。しかも、こちらがベテランであることは雰囲気で生徒にも伝わっていますので、余計に生徒は委縮してしまうのです。
そうすると、授業は完全に一方通行となってしまいます。生徒は黙って講義に耳を傾け、黙々とノートをとる、そういう授業となるのです。
これでは、生徒と私もつらい時間となるばかりか、学習効率も上がりません。やはり活発な言葉のやり取りが授業では重要なのです。
2.1対1だと、他の生徒の発言を聞く機会がない
子供っておもしろいですよね。同じ質問をしても、10人いたら10通りの答が返ってくる、そういうものです。その意見の大半はくだらない意見だとしても、たまに鋭い意見が出たり、斬新な着眼点が見られたりするのですね。集団指導の授業では、そういう発言を取り上げて、さらに授業を発展させる、そういうことがよくあるのです。
例をあげましょう。
少子高齢化の問題点とその対策について授業をすすめていたときのことです。
日本の高齢者の割合が世界トップとなり、その勢いが加速していること、対策が急務であることなどを教えていました。そこで、生徒に質問したのです。
「この問題を解決していくためには、どういう政策が必要なのだろうか?」
まあ、中学入試においても頻出の基本問題ですね。
生徒たちからは様々な意見が飛び出しました。
・託児施設をたくさん作る
・子供をたくさん産んだら報奨金を出す
・政府がたくさん子供を産もうというキャンペーンを行う
・老人ホームをたくさん作る
・年寄り専用の病院をたくさん作る
こんな意見が出てきました。まず、報奨金やキャンペーンについては、どこが問題なのかを考えさせることにします。戦中の「産めよ増やせよ」ではないのですから、女性が子供を何人産むか、あるいは産まないかについて、政府が口出しをするべきではないですし、子供を持たない人への風当たりが強くなるような政策は最低ですので。こうした授業展開ができるというのが、集団指導のメリットなのです。
その時、一人の生徒が静かに手をあげました。仮にワタル君としておきましょう。ワタル君は、普段は人一倍にぎやかに発言する生徒です。今日はやけに静かだなあと思ってはいたのです。一通り皆の意見が出尽くしたタイミングでワタル君はこう発言しました。
「みんな、馬鹿だなあ。(こういう余計な一言を言うのがワタル君なのです) 解決策は一つしかないよ。」
こう言ってワタル君が指さした黒板には、高齢化率=高齢者数/人口 ×100 と書いてありました。それを示してワタル君はこう言ったのです。
「少子高齢化問題を解決するには2つしかないよ。まず分母を増やすこと。そのためには女性が安心して子供を産んで育てられる環境が大切だよね。でも、それには時間もお金もかかる。無理やり子供を産ませるわけにはいかないだろ。だから、もう一つのやり方、それは分子を減らすしかないじゃないか。簡単なことだよ。」
ワタル君は続けて、高齢者を一か所に集めて・・・という、悪魔の発言をしたのです。
もちろん、教室は騒然となりました。子供っておもしろいなあ、と思いましたね。私には想定外の意見でした。そこで、このように割って入ります。
「ワタルの意見が悪魔なのはその通り。だけど、さっき他の人たちが言っていた、お年寄り専用の病院とか老人ホームとかいった意見と、本質的には何が違うんだろう? 高齢者を目の前から見えなくする、という発想は、ワタルの意見と違うのだろうか?」
この日の授業は、実に収穫の多いものとなりましたね。ワタル君の突飛な、でも本質を見抜いた意見のおかげです。
そういえば、バブル景気に沸いていた1986年に、「シルバーコロンビア計画」というのを当時の通産省が提案したのをご記憶の方もいらっしゃるでしょうか。正式名称を「シルバーコロンビア計画“92”-豊かな第二の人生を海外で過ごすための海外居住支援事業」といい、物価の安い発展途上国に高齢者を移住させるという政策でした。どうやら本気だったらしいのですが、「老人の輸出」「棄民政策」「姥捨て山」などと猛批判をくらって立ち消えました。まさにワタル君の考えと同じじゃないですか。
3.教師の関心が逸れる時間も重要
1対1の授業では、生徒は1時間にわたって全力で集中し続ける必要があります。
でも、それは無理です。子供の集中持続時間はせいぜ10分程度でしょう。集中の後には弛緩がやってきます。その後に集中時間が。集団指導の授業では、この集中と弛緩の繰り返しが適度なのですね。弛緩といっても、本当にだらけるわけではありません。他の生徒が答えている時間、教師が黒板に何か書いている時間、そういうちょっとした瞬間があるから、集中すべき時に全力で集中することができるものなのです。
4.競い合う楽しさ
受験のための勉強は、大変です。本来なら高校受験レベルの内容を、わずか12歳の子供たちが学んでいくのですから。集団指導の教室なら、周りに友人たちがいます。この友人たちは、ライバルでもあります。切磋琢磨したり、ふざけあったり、勝敗をきそったり。こういう楽しさにハマると、受験勉強も苦ではなくなってきます。とくに男子にその傾向が強いような気がします。
5.生徒のキャラクター次第
生徒のキャラクターによっては、1対1の個別指導でも、上記のようなメリットが生まれる場合もあります。大人の前でも平気で自分の意見を開陳できる生徒、大人にもフレンドリーに振舞える生徒、話好きな生徒、そういったタイプですね。一人でも数人分しゃべりますので、それなら個別指導でもうまくいくと思います。
6.レベルが揃う必要がある
集団指導には弱点もあります。それは生徒の教科力がある程度そろっていないと成立しない、という点です。同じ問題を解かせても一人だけ空欄だらけ、質問しても一人だけポカンとしている、そうした生徒が混ざるだけで、集団指導の醍醐味は失われてしまいます。
★適正な授業人数とは?
最後に、何人くらいが適正人数かについてお話します。
ずばり、10人~20人です。多くても24人程度ですね。
この人数が、経験上、もっとも授業が盛り上がり、学習効率が最大となる人数なのです。
ただし、記述添削指導がメインの場合は、この人数ではつらいですね。全員の答案を取り上げる時間がとれなくなりますので。
この場合は、5人~10人、これくらいの人数が理想です。
もっともこれは対面授業の話です。
リモート講座なら、対面の半分くらいの人数が経験上ベストです。
一般的な授業なら10人くらいまで、記述添削指導なら、3人です。
リモート講座の場合は、私も大きめのモニターを複数台使用していますが、1画面に3×4の12マスの画面くらいでないと生徒の表情がわかりませんので、10人程度にしたいですね。
さらにリモート講座で記述添削指導をするには、画面4分割でやりたいので、生徒人数は3人が理想です。