中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

I have a dream. 私には夢がある

今週のお題「夢」について最近思ったことがあります。

表題の「I have a dream.」についてです。

言うまでもない、アメリ公民権運動の指導者だった、キング師(Martin Luther King Jr.)が行った、1963年、ワシントン大行進のときの演説ですね。

「・・・I have a dream that one day on the red hills of Georgia, the sons of former slaves and the sons of former slave owners will be able to sit down together at the table of brotherhood.
I have a dream that my four little children will one day live in a nation where they will not be judged by the color of their skin but by the content of their character.・・・」

何度読んでも、原文で読んでも、日本語訳で読んでも、感動的な名演説です。世界三大スピーチなどというランキングあれば、間違いなく入ることでしょう。

なぜ突然これを思い出したかというと、先日、2023年の桐光学園の帰国入試の国語の問題を生徒に解説していたのですね。題材となっていたのは2022年に出された、落合恵子の「わたしたち」という小説でした。ところで、この本は必読です。とくに、これから中学受験を迎えようとする女子生徒、あるいは中学生になった女子生徒にはぜひ読んでほしいと思います。物語は、私立中高一貫校で出会った4人のお話です。版元である河出書房新社のHPから宣伝文を引用すると、こんなふうに紹介されていました。

「4⼈の⼥の⼦たちが13歳で出会った1958年から、彼女たちが人生の最終ステージを迎える2021年まで――本作は、それぞれの人生を果敢に生き抜こうとする「わたし」の物語であるとともに、半世紀以上にわたる4人の友情を描いた「わたしたち」の物語でもあります。
だいじなのは、何になるかではなく、わたしがわたしになっていくこと――
誰もが翼を持つ存在であることを思い出させてくれる、傑作長編小説の誕生!」

さて、入試問題では、主人公の一人が学校で書いた作文の部分がとりあげられていました。タイトルは「私の夢」です。この子は、父親が米国人のハーフのため、学校内で執拗な差別=いじめにあっています。それに対して、真向から自分の意見を述べたこの作文もとても良いのですが、その中にこんな文がありました。

「わたしは夢を見ています。いつの日か、わたしたちのすべてが、日本人も、米国人も、中国人も、何人であろうと、ひとりのひと同士として、「わたし」同士として向かい合える日が来ることを。」

もうおわかりですね。あきらかにキング師の有名な演説を受けて書かれていますね。こうしたことに気づくのも大切な教養だと思うのですが、残念ながら教養不足の小6の生徒には全くわからなかったようです。そもそも「キング師って誰?」という顔をしていました。中学入試の受験指導をしていると、時々ぶつかるジレンマです。本当は、入試の枠を超えて教えてあげたいことがたくさんあるのですね。枕草子清少納言、とこれだけを丸暗記するのではなく、枕草子の一節を語ってその内容の凄さを教えてあげたい。鴨長明方丈記平家物語に共通する「無常観」について語りたい。欧米人と話をするための基礎教養である聖書やシェイクスピアについて教えてあげたい。例えばシェイクスピアの「ヴェニスの商人」で手ひどくやりこめられる強欲な金貸しは、当時のユダヤ人に対する一般的な感情を反映しているわけですから、ユダヤ人に対する差別意識についての好例だと思うのです。また、舞台となっているヴェニスは、当時交易で栄えた町であり、世界史の流れの中で教えてあげたいと思うのです。残念ながら、どれも中学入試には出ない知識ばかりですので、扱うことはできません。そういう教養の幅を広げるような授業をしてくれる先生のいる中高に生徒に進学してもらうことが、私の夢ということですね。