中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

【中高一貫校】中高生のときに、留学はすべきなのか?

相談されたのです。

「やはり、私立中高は、海外留学って当たり前なのですか?」

どうやら色々な噂を耳にしたようですね。

今回は、中高生にとっての留学について考察します。

なぜ留学を考えるのか

中高生のときに、本人が留学を希望する、あるいは親が留学させたがるのにはいくつかの理由があります。

行かないより行ったほうがよいという考え方

「中高生のときの体験は一生ものである。海外留学は、行かないより絶対に行ったほうがいいよ。」

こう言われることは多いと思います。

何事も、体験しないよりした方がいい。

これはある意味真実です。

(もちろん体験しないほうがよいことは除く)

だから、説得力を持つのです。

「した後悔よりしなかった後悔のほうが大きい」

こんなことも言われます。

しかし、1か月くらいならまだしも、1学期、あるいは1年もの間日本の勉強環境から切り離されることにはそれなりの覚悟が必要です。

確実に日本における学習は遅れます。

いずれ日本の大学進学を考えるのなら、「行かないほうがよい」という考えもあると思います。

周りが皆行くことによるプレッシャー

何も私立だからといって、皆が皆海外留学へ出かけるわけではありません。しかし、行く生徒がいる、しかも何人もいることは事実です。そうした事実は目立ちますからね。まるで皆が行くような錯覚を覚えてしまうでしょう。

「やっぱり私立だから、みんな留学くらいさせるのね。」

「それではうちも考えなくちゃ。」

これでは思考停止です。

 

英語をマスターするためには留学は必須?

これについてはYES&NOですね。

留学は、英語をマスターするためには非常に有効な手段です。

しかし、留学しなければ英語がマスターできないわけではありませんし、逆に、留学したからといって英語がマスターできるわけでもありません。

本人の意欲次第です。

そこを失念した安易な留学は無益でしょう。

 

学校が用意したプログラムが豊富

いわゆる「国際系」「グローバル系」の学校に多いですね。

学校が多彩な留学プログラムを用意してくれているのです。

親としては独自に探す手間が省けますし、学校が紹介してくれるプログラムなら安心です。子どもも行きたがります。

しかし、学校の先生が引率して姉妹校に交換留学するようなプログラムもあれば、民間留学斡旋会社と提携しているだけというケースもあるので要注意です。

 

子どもの未来にとって留学が必須だと親が判断した

 いわゆる家庭方針というものです。例えば、母親が、自分も高校生のときに1年間留学した。とても楽しく充実していた。だから、わが子には必ず留学させたいと考えている。そうしたケースですね。

あるいは、日本の教育に見切りをつけている場合です。

「日本の教育は遅れている! 世界で活躍するためには留学は必須!」

もう既定路線ですので、周囲の声(例えばこのブログ)などどうでもよいでしょう。

 

自分の未来にとって留学が必要だと子どもが判断した

これです。

これが本来留学する際に必要な理由なのです。

この能動的な姿勢がなければ、留学による学びは少ないものとなります。

ただし、「アメリカで本場のヒップホップダンスを学びたい」といったような理由については慎重な検討が必要でしょう。それを将来の人生に活かしたいというのなら話は別ですが、単に楽しそうだから、という理由では困ります。

 

留学の時期と期間

プログラムによっては、10日間程度のものもありますが、これでは短いですね。海外旅行に毛の生えたレベルです。

最低でも1か月程度は行かせたいところです。

時期は、現実的に考えて中3~高1の間でしょう。

おそらくは夏休みに1か月程度、といったあたりが主流だと思います。

もちろん1年間の留学を敢行する方もいます。ただし、元の学年に戻れるのかどうかは学校によりますので慎重に検討しましょう。

 

★大学生になってからではいけないのか?

 ここも検討する必要がありますね。

大学によっては(ほとんどの大学では)、世界各地の大学と交換留学協定のようなものを結んでいます。これを利用すると、日本の大学に学費を払っていれば、現地の大学に学費を払わなくて済むのです。また、現地で取得した単位も認めてもらえます。

期間も、1学期~1年戸なっている場合が多いですね。

これは真剣に検討に値すると思います。

例として、東京大学のプログラムを見てみましょう。

www.u-tokyo.ac.jp

 

全学交換留学(USTEP)
概要
交換留学とは、東京大学東京大学の協定校(東京大学が学生交流覚書を締結している海外大学)が1学期~1年間学生を交換する留学プログラムです。(英語では一般的に”Student Exchange”と言います。)東京大学が授業料を徴収せずに協定校の学生を受け入れる代わりに、東京大学の学生は東京大学に授業料を納めれば、留学先での授業料は支払わずに協定校で授業を履修したり、研究指導を受けたりすることができます。これを大学全体で実施するものが「全学交換留学」です。全学交換留学は、資格条件を満たす学生であれば、どの学部・研究科の学生でも応募することが可能です。

交換留学先としては、このような大学が挙げられています。

(一部抜粋)
国立台湾大学/National Taiwan University (NTU)

上海交通大学/Shanghai Jiao Tong University
清華大学/Tsinghua University

香港大学/The University of Hong Kong

ソウル大学校/Seoul National University

シンガポール国立大学(NUS)/National University of Singapore (NUS)

サンパウロ大学/Universidade de São Paulo

チリ大学/The University of Chile

エルサレムヘブライ大学/The Hebrew University of Jerusalem

トロント大学/University of Toronto

ブリティッシュ・コロンビア大学(UBC)/University of British Columbia (UBC)

イェール大学 Fox International Fellowship Program/Yale University (Fox International Fellowship Program)

カリフォルニア大学サンタクルーズ校/University of California, Santa Cruz
ジョンズ・ホプキンス大学/Johns Hopkins University

プリンストン大学(学部)/Princeton University (Undergraduate student exchange)

アデレード大学/The University of Adelaide
オーストラリア国立大学/The Australian National University(ANU)

オークランド大学/University of Auckland

コペンハーゲン大学/University of Copenhagen

ヘルシンキ大学/University of Helsinki

エコール・ポリテクニーク/École Polytechnique

ケルン大学/University of Cologne
ベルリン自由大学/Free University of Berlin

トリニティ・カレッジ・ダブリン/Trinity College Dublin

ローマ大学ラ・サピエンツァ/Sapienza University of Rome

ライデン大学/Leiden University

サンクトペテルブルク大学/Saint Petersburg State University

マドリード自治大学/Universidad Autónoma de Madrid

ウプサラ大学/Uppsala University
スウェーデン王立工科大学(KTH)/KTH Royal Institute of Technology

ジュネーヴ大学/University of Geneva

グラスゴー大学/University of Glasgow
サウサンプトン大学/University of Southampton

ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)/University College London (UCL)

 

まさに錚々たる大学名が並んでいます。さすが東大です。

もちろん、東大以外の大学も、同様のプログラムを用意していますね。

中高の留学も魅力的ですが、思い切って大学の1年間を留学するという作戦もいいと思います。

留学したい大学から逆算しての日本の大学選びという考え方だってあると思うのです。その準備として同じ都市に高校生で1か月留学する、そんな考え方もあるでしょう。

 

行先について

一般的には、アメリカ・カナダ・オーストラリア・ニュージーランドあたりが多いですね。治安のよい英語圏、これが条件となります。

しかし、こうした行先は、だれもが考える候補地のため、日本人が多いという問題点もあります。結局行ったさきで日本人同士が固まっていた、そんな話を多く耳にしますね。

自分が学びたいものがそこにしかない。

本来はこれが先のはずなのですが。

思い切って、非英語圏への留学というのも一考に値します。

どうせ英語に慣れる程度の効果しかないのなら、英語以外の言語を学ぶというのも考えてみてもよいかもしれません。

その言語の学びを大学でも本格的に継続できるなら、将来に向けての武器の一つとなることでしょう。

目的について

これです。

これが最重要です。

ここを見失うと、「留学させるのが目的」といった訳の分からぬ事態に陥ります。

どうして留学するのか

どうしてその地なのか

そこで何を学びたいのか

その学びが自分にとってどのような意味があるのか

これを自分自身の言葉で語れるようでなければいけません。

 

費用について

この問題は避けては通れません。

なにせ留学には高額な費用がかかります。

私は、平気で親に留学をねだる子どもが嫌いです。

すでに私立中高一貫校に進学したことで多大な費用負担を親に強いています。そこに至る過程での塾代も多額でした。

もしかして私大への進学ともなれば、さらにお金はかかります。もちろん医学部ともなれば費用負担はめまいがするほどです。

もちろん、そうした費用負担が全く気にもならないご家庭も多いのでしょう。

しかし、私が言いたいのはそこではありません。

親に資金的な余裕があろうとなかろうと、「親にお金を出させることに無頓着」な子どもが嫌いなのです。

それは子どもが稼いだお金ではありません。親に出してほしいのなら、きちんと親を説得して出していただく、そうした案件ではないかと思うのです。

 

もっとも、こうした話を知人にしたところ、「それは古い昭和の価値観だ」と馬鹿にされてしまいました。子どもはお金のことなんか心配しなくていいのだと。

もしかしてそうなのかもしれません。単に私の子ども時代が恵まれていなかった僻みなのかもしれません。

 

中受を終え、私立中高を卒業し、大学生になった子に会ったときには、いつも聞いてみることがあります。

「君たちが小学生時代に、親御さんはいったいいくら塾に払ってくれていたか知ってる?」

答えられた生徒は一人もいません。

毎月の月謝ですら、月3万円~30万円まで答えが散らばります。

ほんとうに知らないのですね。

 

結論

あくまでも私の意見ですが、不要と思っています。

正確にいうと、まだその時期ではない、と考えているのです。

日本における学びがまだ途上です。

日本にいて学ばねばならないことがまだまだたくさんあるのです。

中高生の段階で、どうしても海外に行かねば学ぶことのできないものがあるとは思えません。

 

もっとも、私の考えは厳しすぎるのでしょう。

どうせ「昭和の価値観」ですので。

単なる長期観光旅行+ちょっとした異文化体験でいいじゃないか。

そうした考え方もあると思います。

 

「日本の過疎地で1か月間農業のお手伝いをする離島留学をしたい」

そんなことを言ってくる子がいたら大賛成するのですが。

 

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peter-lws.hateblo.jp