今回は、親が中学受験の勉強を指導することの是非、また指導できるかどうかの可能性について考察します。
中学受験の世界に広がる風評
巷では、このような噂「都市伝説?」が敷衍しています。
「難関校に合格した子はみな家庭教師をつけていたんですって。やっぱり塾だけじゃだめなのね。」
「SAPIXのα1クラス(この塾の最上位クラスの名称)にいる子は、親がみんな頭がいいそうよ。両親とも東大が当たり前ですって。もともと頭がいい上に、親が勉強教えてあげられるんだもの。そりゃあ出来るのも当たり前よね。」
「最難関私立に合格するには、母親が家にいないとやっぱりダメみたい。母親が傍について勉強みてあげないと。母親が教えられるってすごいわね。」
実例(らしきもの)を伴っているだけに、思わず「やっぱりそうなのね」と思ってしまいたくなります。
こうした噂が蔓延するのには理由があります。
中受するご家庭は、いわば「ごく普通の」ご家庭が大半です。そのため、
①優秀な子は両親も優秀で勉強を見てあげている
②うちにはとても無理
③だからうちの子の成績がこれくらいなのはしかたない
という謎の三段論法が成立してしまうのです。
東京大学学生生活実態調査によると、家庭の年収が1050万円以上の学生が31%を占めており、950万円以上が41%を占めていることがわかります。
もっとも世間では、「東大生の6割以上の親の年収は950万円以上。平均世帯年収564万円と比べると、やっぱり東大に合格できるのは富裕層。」
といったように、経済格差の文脈で語られることがほとんどですね。
もっともこの「6割以上」の根拠が示されていない記事しか見つけることができなかったので、そのエビデンスは不明です。中には、「東大の学生100人へ独自にアンケート!」とうたったものもありましたが、その解答を見ると「1億円以上」と答えた学生もいますので、「ふざけて適当に答えた」可能性が高そうです。そもそも今時の学生は、親の年収など知らない子がほとんどでしょう。
「不明」というデータを除外してグラフをつくるとこのようになりました。
これを見ると、750万円未満の家庭が29%を占めていますので、必ずしも「東大に合格できるのは富裕層ばかり」という論理が成り立たないことがわかります。
むしろ、家庭の事情により国立だけを目指して進学する学生も一定層いることがうかがえるデータなのではないでしょうか。
こういうデータを、自分の主張に都合のよいように切り取ることはよく行われていますね。
「東大に合格するには、やっぱり親の年収が高くないとダメなんだ!」のほうが、
「東大に合格するには、親の年収なんか関係ないんだ!」というよりインパクトがあって、記事にしやすい(=アクセス数を稼ぎやすい)ということなのでしょう。
また、全国平均所得との比較には意味はありません。
もし考えるのなら、「全国で子どもを4大に進学させている家庭の平均所得と東大に進学させている家庭の平均所得」の比較でなければならないでしょう。さらに東大は東京の大学ですから、東京の世帯に絞った比較が必要だと思います。
もっとも、東大進学者の出身高校の41%ほどが私立中高一貫校ですので、そもそも所得水準が高い(私立に通わせられる)ことは事実です。
こういう情報も、次のような思考を誘導します。
①東大に合格できるような家庭は所得水準も高い
②所得水準が高い家庭の親は学歴が高い
③そういう親が自分の子どもを中学受験させている
④だから、子どもの勉強を親が教えられる
⑤うちは、所得水準も親の学歴も普通
⑥親が子どもに勉強を教えることなどできない
⑦だから成績がこのくらいなのは仕方がない
なんだか寂しい思考回路ですね。
一度、こうした噂のようなもの、中学受験界の常識?のようなものを捨てるところから考えてみましょう。
中学受験の問題はそんなに難しいのか?
もちろん難しい。
どの塾でも、どの先生でも口を揃えていいます。
「中学受験の問題は難しいですよ。しかも年々難しくなってきています。」
そうして実例として見せられる問題は、難しい問題ばかり。
例えば桜蔭の国語、灘の算数、麻布の理科、海城の社会。そうした問題を見せられると、「これは親でも解けない!」となること間違いなしです。
そうした問題をスラスラと解説する塾の先生が神に見えてきますし、もうこの塾におすがりするしかない! とまで思えてきます。
冷静になってください。
それは「塾の作戦」なのです。
かつて同様の話法を駆使していた私が言うのだから間違いありません。
中学入試問題の分析会というものがありますね。3月~5月くらいにかけて、さまざまな塾で行われています。そうした分析会で禁句とされている言葉があります。
「今年の〇〇中の入試問題は基本問題ばかりで簡単でした。」
なぜこれが禁句かわかりますか?
それは、「易しい→誰でも対策が簡単にできる→この塾でがりがり勉強させなくてもよい」と繋がっていくからなのです。
正解はこれです。
「中学受験の入試問題は、難しい問題も易しい問題もあります。大人なら簡単に答えられる問題も多いですが、難しい場合もあります。」
言われてみれば当たり前のことですね。
まずは中学入試問題を特別視するのをやめましょう。
ここがスタート地点です。
親も勉強を教えるべきなのか?
答えは、YES&NO ですね。
まず、勉強を教えるレベルを設定しましょう。
A:最難関校の入試問題の解説をできるベル
B:基本的な入試問題の解説をできるレベル
C:6年生の塾のテキストの解説をできるレベル
D:5年生まで塾のテキストの解説をできるレベル
E:4年生までの塾のテキストの解説をできるレベル
この5段階のそれぞれについて、
「++」・・・初見の問題をアドリブで説明できる
「+」・・・・解答を見ながらアドリブで説明できる
「0」・・・・自分で解ける
「-」・・・・解説を見ながらアドリブで説明できる
「--」・・・事前に解答・解説を研究すれば教えられるレベル
たとえば、開成の算数をいきなり持ってこられて、その場で解説しながら解答を出せるレベルが「A++」です。そんなレベルの親はいません。いるとすればプロの教師です。プロを名乗る教師の大半がそのレベルではありません。
「A+」なら、模範解答を見ることで解答の確認をして、その上で解説をできるというレベルです。難関校対策を売り物にしているプロ教師の大半がこのレベルです。
「A-」なら、誰かが作ってくれた解説を見ながらなら、なんとか解答の方向性がわかるので、その解説に言葉を足しながら生徒に説明ができます。難関校対策を売り物にしている教師といえども、このくらいのレベルの教師は大勢います。
「A--」なら、事前に解答・解説をみながら問題を研究して、それからやっと解説ができるレベルです。学生家庭教師レベルですね。もっともプロを名乗る家庭教師にもこのレベルの教師は多いです。
ここでは、自分で解けるレベルは無視します。
問題が解けることは必要ないからです。
「解けもしない問題を教えられるのか?」と思うかもしれません。
しかし、「解ける」と「教えられる」は別なのです。
国語なら、多くの大人は問題が解けます。でも、教えられません。なぜなら、「なぜその答えでなければならないのか」の根拠を明確かつ論理的に示すことが難しいからです。さらに、「子どもがどこで躓くのか・なぜ躓くのか」がわからなければ教えることはできないのです。
算数も同様です。現時点で必要な(正しい)解き方を解説できないといけません。
理社については、解くだけなら、資料やネットを駆使すれば簡単です。でも教えることはできません。
さて、みなさんは現在どのレベルでしょうか? そしてどのレベルを目指すのでしょう?
低学年のうちは、大半の親が「++」だと思います。それが、学年が上がるについれて徐々に難しくなり、6年生にもなると「C--」がやっと、そんなかんじではないでしょうか。
それでいいのです。
むしろ、それだけできれば上出来です。
べつにプロの教師を目指しているのではありません。
必要とされるスキルは、「解答・解説を読解できる力」です。
事前に解答解説を読み込んで、その上でわが子に説明ができればそれでOKなのです。
そのためにも解説が詳しいテキストが必要です。
子どもの勉強に無関心ではいけない
親は忙しいです。
仕事もありますし、もし下のお子さんがいれば、さらに時間はなくなります。
中学受験生の世話だけをしていればいいわけではないですよね。
だから、塾や家庭教師に勉強をアウトソーシングする、これは当たり前です。
しかし、だからといって子どもの勉強に無関心でいいといわけではありません。
子どもが何をやっているのか、どれくらい出来ている(出来ていない)のか、それくらいは把握しましょう。
毎日の会話から、あるいは子どものテストや宿題ノート等から、それくらいはうかがえると思います。
そこを最低ラインとして、週末に半日くらいの時間、子どもと一緒に机を並べてみてはいかがでしょうか。
できれば子どもと同じ問題・テキストに取り組んでみるのが理想です。
そこまでできれば、お子さんがわからない問題について、親なりに一緒になって考えてあげることができてくると思います。
「親が勉強を教えられるようになる」必要はないと思っています。
「親も子どもと一緒になって考えてあげられる」ようになればいいのです。イメージとしては、わが子よりも少しだけ優秀な同級生といったあたりでしょうか。
過去には、「わが子よりも理解力が低い同級生」レベルを演じることで、子どものやる気と能力を上手に引き出したお母様もいらっしゃいました。
これもいいですね。
こんな記事も参考になると思います。