2023女子学院中の社会科問題の分析
2023年の問題はどうだったのか、具体的に説明していきましょう。
記述問題は4問出題されました。
(1)歴史の記述
これが大問1の問1
(2)女性の地位に関する記述
「製糸工場の労働者の多くは、若い女性でした。」に関して、戦前の政府は、男性に比べ女性の失業を重大な問題とせず、職を失ったのに失業者とみなされていない女性も多くいました。政府が女性の失業を問題にしなかった理由を、考えて答えなさい。
(3)昭和恐慌時の失業率のグラフについての記述
(4)三権分立についての記述
「民主政治」では、国の権力を1つに集中させないしくみが大切です。(1)その仕組みを担っている3つの国家機関の名称を書きなさい。(2)国民の権利と自由を保障するために、そのしくみを担う国家機関は互いにどうすることが必要ですか。
記述問題以外に気になった知識問題
(5)常識を問われる問題
さすがにイ・ウ・エは銅でできていることは知っているはず。
残る3つのうち、「アは鉄器・青銅器の使用時期と米作の普及時期が一致することから、これも銅製がありそうだ、だから答はオとカ。」と答えた生徒が多そうです。
そもそも茶器や花器がどんなものか、ご両親が茶道や華道を嗜んででもいなければ、受験生はあまりよく知らないでしょうね。銅でできた茶釜や高岡銅器の一輪差しなど、どれくらいの生徒が見たことがあるのでしょうか。
ネットで検索するとオーストリア製の銅製Swing Hoeなる鍬のような園芸道具が出てきました。まぎらわしい。
私の教えていた生徒達は皆解けたのか、とても気になる問題でした。
(6)雇用保険制度についての常識を問われる問題
雇用保険制度の現在の内容として、まちがっているものを2つ選び、記号で答えなさい。
ア.この制度に加入するかどうかは、それぞれの企業の判断で決定する。
イ.失業中に、新たな資格を取るための受講料の一部が支給される。
ウ.アルバイトやパートタイム労働者は、一定の条件を満たしていれば加入できる。
エ.仕事を失ったときに備える保険なので、毎月の保険料は全額労働者が負担する。
オ.失業者への給付金は、全労働者に一律ではない。
雇用保険制度については、生徒は単語としてしか教えられていないはず。
日本の社会保障制度の授業は、公民分野の最後に出てくるため、十分な時間を割いて説明することが難しいのです。
このあたりについての出題としては、圧倒的に「介護保険制度」を答えさせる問題が多く、授業でもそこを重点的に指導するため、その他の社会保障制度については通り一遍の説明になりがちです。それを補うため、6年生後半には過去問演習を強化するのですが、過去問演習の弱点として、「過去に出題された知識」しか身につかないという点があげられます。ベテラン教師(私?)になると、過去に出たことがなくても、「これは出そうだ!」と勘が働き、関連知識として教えていくのですが。
以上、2023年の女子学院中の社会科問題は、女子学院らしい良問であったといえます。
付け焼刃的な知識の丸暗記ではなく、一つ一つの事項についてきちんと理解することまでが求められる入試でした。
対策としては、王道の社会科学習を積み重ねるしかありません。
何らかの対策を期待して読まれてきた方をがっかりさせて申し訳ありません。
でも、逆に言えば、小手先の対策で何とかなる学校ではないということなのです。しかも算国理社の配点が均等配点となっています。地道な学習を積み重ねてきて理社が得点源の生徒にとっては、理想的な入試問題であるといえるでしょう。
女子学院という学校はどんな学校?
最期に、女子学院という学校について少し説明しましょう。
(1)自由な校風
たまに相談されることがあります。
「男子でいえば麻布のような自由な校風を求めています。そういう女子校はありませんか?」
麻布のような女子校とは、なかなか難易度の高い希望です。この場合は、もう女子学院しかおすすめできる学校はありません。
女子校の多くは、全人教育を標榜するところがほとんどで、勉強以外の面での指導に期待する保護者が多いものです。また、学校に塾・予備校の役割を求める方も多くなってきました。女子学院のような、ある意味放置プレーに近い学校は皆無だといえますね。
女子学院の校則が4つしかないことは有名です。
〇JGバッヂをつける
〇校内履きを履く
〇登校後は外に出ない
〇校外活動は届け出る
しかし、たった4つの校則でも守っていない生徒は多数だそうです。JGバッヂは、服に穴が開くのが嫌ですぐにつけなくなると聞きました。校内履きは指定のものですが、古くなると似たかんじの白スニーカーを履く生徒が多くなるそうです。
また、それ以外のルールとしては、スマホは校内で電源を切ることというのがありますが、これも守る生徒が少数派なのは容易に想像がつきますね。
女子学院らしいなと思うのが、髪の自由さです。中1から早くも髪を染める生徒が出始め、中にはピンク→金色→青 とカメレオンのように髪色を変化させている生徒もいます。もちろん染めない生徒も多く、みな好きにしているのです。生徒に言わせると、先生方も同様だそう。
服装についても特段きまりはありません。和服・ドレス・着ぐるみ以外はOKと生徒は言っていましたが、おそらくこれは教師の冗談でしょう。昔の制服(セーラー服)を作ってくれるところがあるそうで、それを持っている生徒も多く、年に3回くらいは着る機会があるそうです。
1972年に服装を自由化した際、当時の学院長から保護者にあてた手紙にこのような一節がありました。
「・・・人によっては思い切って派手な服装をしてくることもあるかもしれません。そして、ある種の流行になるという心配もあります。しかし、そのような浮いた空気があるとするならば、すでに女子学院の教育に何か大きな欠陥があることを示すにすぎません。そのときは、服装よりも教育のありかたそのものを反省すべきであって、またそれに耐えられなくなって服装にうき身をやつす生徒の弱さは、別に解決すべきだと思います。」
なかなか言えないせりふと思います。このように言い切れるのも、生徒への信頼があるからでしょう。
女子学院の自由は、もちろん何をしてもよい自由ではありません。
「あなたがたは聖書を持っています。だから自分で自分を治めなさい。」
これは、初代院長の矢嶋楫子の言葉です。
矢嶋楫子については、三浦綾子の著書「われ弱ければ~ 矢嶋楫子伝」が2022に映画化されています。
私は本のほうは読みましたが、実は映画は見ていません。2月11日公開でしたので、入試期間中で忙しい真っ最中でしたから、その余裕はありませんでした。
映画会社のHPをみると、おもしろそうですね。ちょっと見てみたかったかも。
毎朝の礼拝はもちろん、聖書についての学びも多く、そのことが思春期の生徒に多かれ少なかれ影響を与えていることは想像がつきます。
また、毎日持ち回りで生徒が記入する学級日誌のようなものもあり、教師の目はきちんと生徒を見ていると思われます。
何をしても許される学校だと思って進学すると、それは大きな勘違いです。
学校の指示を守るだけでよいと思って進学すると、物足りなくなるでしょう。
何をすべきか、またしてはならないか、自分で考える生徒は、一番JG向きです。
(2)保護者が学校に行く機会は少ない
〇体育祭・・・・高3の1回
〇学園祭(マグノリア祭)・・・年1回
イベント系はこの2つですね。体育祭は毎年開催されていても、保護者が見ることができるのは高3時だけです。
〇担任教師と話す機会としては、毎年学年の切り替わり時に集まる機会があるようです。面談については中1以外は希望者(あるいは指名された生徒)のみとききました。
それ以外にも学校に行く機会はあるのかもしれませんが、実にあっさりとしたものです。
最近の学校は、親を巻き込むというか、親が学校に行く機会がとても多くあります。そうすることで、学校の透明化をはかり、安心感を親に与えることができるからでしょう。
そのような学校と比べると、「これでいいのか?」と思えるほどなのが女子学院です。
中高生になれば、親は過干渉せず、本人の自覚に委ねたい、そう考える家庭には実に向いていると思います。
しかし、学校のからのフィードバックの多さを期待したり、学校に「サービス業」的な要素を求めるご家庭には全く合わないといえるでしょう。
学校の教育方針については、私などより学院長の話がHPにありますので、ぜひそちらをお読みください。