今回は、私の仕事に必須の「統計資料集」についてのお話です。
社会科はもちろん、時事問題を扱った記述指導をしているときに、「正確な統計情報」は大切です。
私がどんなものを使っているのか、そしてお薦めしたいものはどれなのか。
そんな話題です。
ネット情報は役に立たない(ことが多すぎる)
どうしてもこうしてPCの前に座って仕事をしていると、ちょっとした統計データを調べるのに、いちいち席を立って資料集を取りにいくのが億劫です。そこでネットで検索してしまえば楽で速いのですが・・・・・。
残念ながら、ネット情報は干し草の山の中から針を探すようなもおで、欲しい正確な情報に辿りつくのには手間と時間が多大にかかるのです。
統計データを調べようとして検索するとヒットするものは、以下の5種類に分類できます。
(1)公的機関によるもの・・・総務省統計局・国連
(2)民間機関によるもの・・・財団法人・社団法人・業界団体・研究機関
(3)報道機関によるもの
(4)データまとめサイト
(5)個人のブログ等
もちろん信頼できる順番もこの通りです。
(1)の公的機関による統計データは、最も信頼できます。ただし、欲しい情報に行きつくのにはとても時間がかかります。
例えば、世界の統計データを調べるのには国連のデータにあたるのが一番なのですが、残念ながら英語です。
例えば、食料や農業関連のデータを調べるのにとても役にたつ、FAO: Food and Agriculture Organization of the United Nations(国連食糧農業機関)の統計検索ページ、FAOSTATですが、もちろん日本語はありません。選択できる言語は6種類です。
العربية 中文 English Français Русский Español
英語・フランス語・スペイン語は納得します。中国語も仕方ないでしょう。でも、ロシア語とアラビア語があるなら、日本語だって、と思ってしまうのは日本人の我儘ですかね。
1 米国
2 中国
3 日本
4 ドイツ
5 英国
6 フランス
7 イタリア
8 カナダ
9 韓国
10 スペイン
国連予算の分担金割合の順位はこうなっています。
どう考えても、ロシア語・アラビア語より、日・独・伊・韓の言語を優先してほしいじゃないですか。だってお金を出しているのですから。
(2)もおおむね信頼できますが、財団法人であれ業界団体であれ、バックの組織の確認は必須です。たとえば原子力発電の発電コストなどというごく基本的なデータですら、元データをたどるとそのほとんどが「電力会社」が算出したものを業界団体(電気事業連合会)が公表している数値にもとづいています。原子力発電推進派の出すデータですから、そのまま鵜呑みにするわけにはいきません。かといって「反原発NGO」のデータもそのまま鵜呑みにはできませんので、なかなか厄介なのです。
(3)報道機関は、(1)や(2)のデータを孫引きして報道しています。大本のデータの精度次第で報道の信頼性は変わりますので要注意です。
(4)は、とても便利そうなので思わず使いたくなりますが、そのまま利用するわけにはいきません。そのサイトが利用している元データの確認が必須です。
(5)は、もちろん利用できません。なかには、私の全く思いもよらぬデータが紹介されていたりして、読み物としてはとても面白いのですが。
というわけで、これだけネット検索が便利とはいえ、結局のところ紙の統計資料集の重要度は変わらないのです。
統計資料集「三種の神器」
◆日本国勢図会
◆世界国勢図会
◆県勢
この三冊が、統計資料集「三種の神器」です。
私が勝手に名付けました。
編集・出版元は、「公益社団法人矢野恒太記念会」です。
見慣れた「矢野恒太記念会」ですが、矢野恒太って誰だ?
今更ながら気になります。
矢野恒太記念会の公式HPから経歴を引用します。
経歴
上道郡角山村(現岡山市)に生まれる。日本生命に医員(診査医)として就職後、共済生命設立に参加、同社総支配役に就任。
のち農商務省に勤務し、保険業法を起草する。
また同省商工局保険課の初代課長に就任。
1902年(明治35)わが国最初の相互会社第一生命を創立、以後専務取締役、社長、会長を歴任した。
この間、東横、目蒲両電鉄社長、第一相互貯蓄銀行頭取、生命保険協会理事などの要職も兼任した。
また「日本国勢図会」を刊行し、統計知識を国民に普及することや、三徳塾開設等、農民教育刷新などにも尽力した。
だそうです。
第一生命の創立者なのですね。
そういえば矢野恒太記念会の所在地も、第一生命本社ビルになっています。
この「日本国勢図会」の初版は、なんと1927年(昭和2年)です。
初版の序文には、「編者が若し教育家であって、幾人かの青年を預かったなら、本書に書いたことだけは何科の生徒にでも教えたいと思うことである。本書は講堂のない青年塾の一部である」と記されているそうです。
「正しい統計」が教育にとって最重要である。
全面的に同意します。
世の中には、「怪しい統計」「誤った統計」データがはびこっています。
元テレビ局アナウンサーで、教育系知識番組に引っ張りだこの方ですら、番組内で誤った統計知識を披露していたのを見たことがあります。きっと忙しすぎて「元データ」にあたるのをさぼったのでしょうね。
この「元データ」にあたるというのがとても重要です。
テレビのみならず、新聞報道ですら間違っていることはよくあるからです。
ずいぶん昔の話で恐縮ですが、ある時生徒から、「先生、日本の貿易相手国は中国が1番になったんでしょ?」と言われたことがあります。
その当時は、アメリカが1位でした。
「そんなことはない。アメリカだよ」と訂正すると、「だってテレビで言ってたよ」と返されたのです。
そこで、テレビ・新聞の報道をくまなくチェックしたところ、複数のメディアで、そのような報道がされてたことがわかりました。
しかし1点気になることがあったのです。報道の文面が、ほぼ一緒だったのですね。
これは明らかに、同じ情報源からの情報を孫引きして報道しているのでしょう。
さらに調べて、ついに情報源にたどり着きました。
外務省の方が情報源だったのです。
さらに深堀りしていくと、この外務省の方は、中国の専門家でした。
この方は、中国と香港の貿易データを「足し算」して、中国が1位になったと発言したのでした。
ちなみに、貿易統計では、中国と香港は区別するのが常識です。そうしないとデータの継続性が損なわれるからです。
この方が何の意図をもって、そのような「禁じ手」を繰り出したのかはわかりません。
もしかして、外務省内における中国の重要性(=自分の立場)を上げるため?
元データにあたることはとても大切なのですが、常に元データを調べることは事実上困難です。
そこで役に立つのがこの、「日本国勢図会」「世界国勢図会」「県勢」の3冊なのです。
ここにまとめられているデータは、内閣府や国連などが発信したデータです。
つまりこの本そのものが「孫引きデータ」集なのです。
しかし、この本の統計データが誤っていた、という事例を私は知りません。
信頼に値する統計資料集だからこそ、「三種の神器」と呼びたくなるのです。
しかも、中学入試~大学入試まで、この3冊の統計資料に基づき、入試問題は作られています。
その意味でも重要です。
「日本国勢図会」は6月、「世界国勢図会」は9月、「県勢」は12月に出版されます。
「日本の100年」と「日本のすがた」
同じく「矢野恒太記念会」により、この2冊も出版されています。
◆日本の100年
◆日本のすがた
「日本の100年」は、文字通り100年間の日本の長期統計をまとめたものです。
2024年版で82版を数える「日本国勢図会」ですが、さすがに初版本から持っているはずもありません。
長期統計を調べるときには、この「日本の100年」は実に役立ちます。
今出版されているのは、2020年2月出版の「第7版」です。
「日本のすがた」は、「日本国勢図会」のジュニア版=小中学生版という位置づけです。
統計資料の抜粋と平易な解説がのっています。
データの量も全体のページ数も価格も、日本国勢図会の半分以下となっています。
小中学生用とありますが、中学受験レベルの小学生にちょうどいいレベル設定です。私立中学生には少し易しすぎると思います。
中学受験生にはぴったり!といいいたいのですが、1つ問題があるのです。
この本の出版は毎年3月です。そして6月になると「日本国勢図会」の最新版が刊行され、入試に反映される統計データはこちらの「日本国勢図会」のものなのです。しかし、「日本のすがた」には、前年の「日本国勢図会」のデータしか載っていません。
5年生までの学習で、基本的な統計データを学ぶのには有効ですが、入試直前の6年生で使うのは要注意だと思います。
「地理統計要覧」「データブック・オブ・ザ・ワールド」
「日本国勢図会」「世界国勢図会」「県勢」が3種の神器だ! などと偉そうなことを言いましたが、最近私はこの3冊を毎年買いそろえるのを辞めました。
理由は簡単です。
狭い書棚のスペースを占拠するからです。
3冊買えば1万円という価格もさることながら、いかんせん私の書棚は狭いのです。
かといって、古い統計資料集を捨てるわけにはいきません。これはこれで利用価値があるからです。
この3冊については、ときおり気が向いたら買う程度にトーンダウンしてしまいました。
その代わりに毎年買うのが、この2冊です。
◆データブック・オブ・ザ・ワールド
出版元は二宮書店です。文字通り、世界の統計データを集めたものです。
前半の統計資料のページは、後で紹介する「地理統計要覧」と全く同じです。
この本の真骨頂は、後半にあります。
世界200か国・地域の概要が国・地域ごとにまとめられているのです。
〇首都・面積・人口k
〇地勢
〇気候
〇略史
〇現況
〇経済
〇出生率・平均寿命・人口構成・人口密度
〇おもな都市の人口
〇民族・所得・言語・宗教
〇土地利用
〇鉱業・工業
〇貿易
〇消費・兵員
これを見れば、まったく知らない国についても、概要が一通りつかめるようになっているのです。
これは役に立ちます。
私は、暇なときには、適当に開いたページで見かけた国について読むのが好きです。
ところで出版元の「二宮書店」ですが、所在地は「山川出版ビル」内となっています。
山川出版といえば、歴史関係に強い出版社ですよね。ここの「詳説日本史」「詳説世界史」にはお世話になった方も多いと思います。
もしかして子会社化されたのかな? と思って少し調べましたが、どちらも株式公開されていないのでよくわかりませんでした。
山川が昭和23年、二宮書店が昭和22年創業、と業界内の関係が深そうですし、山川出版が歴史、二宮書店が地理、とそれぞれ強みがありますので、コラボするメリットはたくさんありそうです。
◆地理統計要覧
こちらも「二宮書店」による統計資料集です。
無味乾燥な統計表がひたすら載っています。
私がこちらを毎年買う理由は3つです。
〇中学校の採用が多い
私立中学校でこの資料集を生徒に使わせているところがたくさんあります。
ということは、入試問題にもここの統計データが使われるケースも多いということになるのです。
〇薄い(軽い)
A5版160ページと、小さく薄い本です。
これがいい!
日本国勢図会・世界国勢図会を2冊持ち歩くことを考えただけでうんざりしますし、開くのにも体力?が必要です。
しかし、この本なら、気軽に開くことができます。
まずこの本を開き、それでもわからないデータについては、三種の神器をとりだす。
そんな気軽な使い方が適しています。
本棚も占拠しませんし。
〇安い
すいません、これが最大の理由です。
何と税込み440円!です。
この情報量でこの価格!
毎年買うのが苦になりませんね。
ところで、前述の「データブック・オブ・ザ・ワールド」も、1冊803円(税込み)です。
何と良心的な!
「データ・ブック・オブ・ザ・ワールド」の統計ページとこの「地理統計要覧」のデータページは全く同一です。
それなら「データブック」のほうを1冊買えば用は足りるのですが、この「地理統計要覧」の薄さと安さですからね。両方買っても、なかなか使い勝手がよろしいのです。
欠点としては、データの年次の問題があります。
この本の出版は1月です。
したがって、前年のデータの公表がある前に編集されていますので、6月に出版される「日本国勢図会」、9月に出版される「世界国勢図会」と比べると、データの鮮度が1年落ちるのです。
そこまでデータの鮮度が必要なものについては三種の神器を、そうでなければ統計要覧を、そうした使い分けをしています。