今回ご紹介するのは、中学受験のみならず、大人にこそお薦めしたい本です。
「言葉に関する問答集」
文化庁が編纂し、1995年に刊行された「言葉に関する問答集 総集編」という書籍がそれです。
ケースに入っている段階で、古さを感じさせますね。
タイトル写真は、この本を開いた様子です。ボリュームのある本です。
文化庁から、1974年から1993年まで、「ことばシリーズ」として毎年2冊ずつ「言葉」に関する小冊子が刊行されていました。この本はそこに載っていた問答集をまとめたものです。
「新ことばシリーズ」
2000年以降は、国立国語研究所により、「新ことばシリーズ」として刊行が引き継がれています。
新「ことば」シリーズは,世の中で関心の高い言葉の問題を取り上げ,専門家の的確で分かりやすい解説を加えたものです。これをお読みいただくことによって,言葉について私たち自身が考えたり話し合ったりする機会や材料が少しでも増えれば幸いだと考えています。
内容は,「巻頭エッセイ」「座談会」などから構成されています(構成は号により多少異なります)。日本語について,だれもが「親しみ」や「なじみ」を持てるようにと願って編集しました。
新「ことば」シリーズは,私たちの言語生活について標準や規範を示すというよりは,一人一人が言葉について考えるための参考資料として活用されることをねらいとしています。また,国立国語研究所の調査や研究の成果を,広く知っていただくきっかけになればと思います。本シリーズの刊行が,日常生活の中で言葉について気軽に話し合う雰囲気を作ることに少しでも役立つことを願っています。
1冊500円もしない小冊子ですが、実に奥深いのです。学校で無償で配っているところもあるようですね。
さて、今は最新版が出版されているかな? と調べてみると、2015年にこの「総集編」が出版されていますが、すでに絶版のようです。
したがって、2015年版が私の所持している1995年版とどう違うのかは検証できていません。
さすがに20年も違えば、新しい言葉が採録されているんだろうなあとは予測がつきます。
こうなったら、ブックレットを全冊揃える?
と思って調べてみたら、最新刊は「新ことばシリーズ22」で、500円で買えます。最新刊といっても、2009年!の出版です。
20号~22号くらいはオンラインで購入できるようですが、それ以前になると絶版のため購入できるかどうかは不明です。
ところで、国立国語研究所といえば、日本語研究の総本山のような組織ですね。
HPにはこうあります。
国立国語研究所 (国語研、NINJAL) は1948年に創設された、日本語に関する研究機関です。2009年からは大学共同利用機関法人人間文化研究機構の設置する「大学共同利用機関」として活動しています。
https://www.ninjal.ac.jp/info/aboutus/
「日本語の語彙や文字・表記」
「日本語の発音や文法の法則」
「日本語の歴史」
「日本各地で使われている方言・言語」
「場面や状況によることばの使われ方」
「他の言語と日本語の違い」
「母語としない人の日本語学習」「日本語の語彙や文字・表記」
「日本語の発音や文法の法則」
「日本語の歴史」
「日本各地で使われている方言・言語」
「場面や状況によることばの使われ方」
「他の言語と日本語の違い」
「母語としない人の日本語学習」
こうした研究を、大学と共同で行っているそうです。
ここでの研究成果の多くは一般にも公開されていて利用可能です。
そんな専門的な内容には興味がなくても、コラムのページが充実していて、実に楽しいですね。
例えば、こんなページを見つけました。
「“Call me taxi” と言っても、相手から「タクシー」と呼ばれるだけなのはなぜですか」
いわゆる英語ジョークというやつですね。
こんな当たり前すぎるほど当たり前のことを、まじめに分析しています。
Call A B
この文型は、AにBを呼ぶ、AをBと呼ぶ、と2つの用法があるのは常識です。それは、第4文型(SVOO)、第5文型(SVOC)と呼ばれる構文になります。(SVOO)は言語学では目的語を二つ取ることから「二重目的語構文」というそうです。
出た! 「二重目的語構文!」
そういえば習ったような気がするなあ。
この文法用語が出てきた段階で先を読む気が減少しますが、もう少し読み進めてみてください。
言ってしまえば、冠詞の「a」をつけなくてはいけない、とそういう話なのですが、このエッセイでは、「me」の直前に使われる動詞をコーパスを用いて分析しています。
さらに、「実は英語の文法自体が『聞き手が構造を推測し文全体の意味を誤解なく理解できる』ことを指向しているのではないか」という仮説まで提唱しているのです。
英語は語順が大切な言語であることは周知の事実です。
なんだか英文法をめぐるもやもやが晴れてきそうな予感までしてきました。
「総集編」の内容
さて、総集編のページを適当に開いてみます。
「街」か「町」か
おお、昔からこれ、気になっていました。さっそく説明を読んでみます。
町・・・住宅や商店などが密集している地域
地方公共団体の1つ
市や区を構成する小区画
街・・・商店などが並んだにぎやかな道筋・区画
さらに、街を「まち」と読むようになったのは近代になってからだそうです。森鴎外の舞姫や志賀直哉の暗夜行路にそうした用例が見られるそうです。
どうです? おもしろいでしょう!
他にも拾ってみます。
「農作物は、ノウサクブツか、ノウサクモツか」
これも気になりますね。
結論を言ってしまうと、「ノウサクブツ」が正しいとあります。
どうやら「ノウサクモツ」という誤用は、作物=サクモツ から来ているとのことでした。
「耳ざわりが良い」というのは一般的な表現か
ああ、これもよく聞きますし、自分でも使っています。
足ざわり・口ざわり・舌ざわり・手ざわり・歯ざわり・目ざわり
こうした用法の延長線上にありますね。
しかし、「ざわり」をどう漢字で表記するかというと、そのほとんどが「触」だそうです。しかし、「耳ざわり・目ざわり」については、圧倒的に「障」の字を用いて、「耳障り・目障り」と表記されるとあります。もちろん「触」が接触の意味なのに対して、「障」は支障・妨げの意となります。
そうすると、「耳ざわり」は本来は「耳障り」であり、「聞いていやな漢字がする様子」「聞いて気に障る様子」という意味のあのですね。
しかし、形容動詞としての「耳障り」とは異なり、名詞としての「耳触り」は、心地よい場合にも心地よくない場合にも使えるということになるのです。
このように、「いったいどっちの表現が正しいのだろう?」とふと疑問に思う語句について、詳細に説明されている本なのです。
生徒の質問に応えるときや、入試問題のミスをみつけたときなどに、私はよく開きます。暇なときの読み物としても最高です。この問答集を見ていると、言葉というのは変化するものなんだなあ、ということが実感できます。例えば、今は聞いていて気持ちが悪く思える「ら抜き言葉」も、いずれは気にならなくなるのでしょう。
そのあたりはこの記事にも書きました。
ぜひ、1冊入手なさることをお勧めする次第です。