中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

【中学受験】拘束時間の長い塾は辞めたほうがいい

とくに今年6年生になる受験生にお話ししたいことがあります。

今お通いの塾は拘束時間はどうなっていますか?

今回は、いつにもまして厳しめの内容となっています。

※特定の塾を持ち上げる意図も貶める意図もありません。私の主観に基づく意見です。

 

何であんな塾に3年間も通ってたのかな?

 

もう社会人になった元教え子と話をしていました。

中高の話、大学時代の話、そして今の仕事の話など話題は尽きません。こうして教え子のその後の様子を知ることは、教師の喜びでもあり、学校の生の情報を知る機会でもあるのです。

この生徒は、小学生時代に、某集団指導塾に通っていました。そして、対面とオンラインを併用しながら、週1日程度、私の記述指導を受けていたのです。その後も、たまに学校のレポート作成のヘルプなど単発で頼ってきました。この子の志望校合格は、私の指導の賜物であることは言うまでもありません。少なくとも私はそう思っています。

 

話は通っていた某塾の話題になりました。そのとき、この子がもらした本音がこれです。

「何であんな塾に3年間も通ってたんだろ? 無駄だったよ、今にして思えば」

親が聞いたら泣きそうなセリフです。

安からぬ費用を支払い、通わせていたはずです。それが無駄だとは。

この子の話を深堀して聞き出すと、こういうことでした。

 

◆拘束日数がとにかく多かった

ほぼ毎日塾に行っていたそうです。

いちおう5年生までは週3日、6年生になると週4日というのが正規の授業スケジュールだったが、〇〇特訓、〇〇演習などといったオプション講座(といいながら必修)があるため、結局ほぼ毎日通うことになっていたとのことでした。だから、受験校の文化祭や説明会等に行くこともできず、学校は一度も見にいかずに受験・進学したそうです。

「でも良い学校に進学できてよかったけど」

と言ってくれました。

 

◆拘束時間がとにかく長かった

小学校が終わるとそのまま塾に行って、だいたい10時くらいまでは塾にいたそうです。

「とにかくお腹がすいちゃって。いつもお腹がすいていた思い出しかない」と言っていました。塾近くのコンビニで、おにぎりかサンドイッチを一つ買って、軽食タイムに食べていたそうです。

「あんな軽食タイムに30分も使うなら、その分早く帰してくれればいいって思うよね。あの頃は友達とだらだら話しながらサンドイッチ食べるのも楽しかったけどさ」

 

◆いつもテストばかりしていた

毎回授業の際には、各教科の小テストがあります。そこで満点がとれないと、居残りで再テストだそうです。だから帰りが遅くなっていたのですね。

「授業ってしてもらってたのかな? 小テストの後は、先生が答えを読み上げて〇付けしてただけだし。あ、中には話のおもしろい先生もいて、くだらない話をいっぱいしてくれた。それは今でも覚えてる」

子どもは、くだらない余談ばかり覚えているものです。それはわかります。まさか授業をしていないはずはないのですが、何も印象に残っていないということは、その程度の授業だったのでしょう。年間教材を渡されるスタイルの塾だったので、自分で解説をすでに読んでから授業に行くので、別にそれでも困らなかったようです。

「最後のほうは、毎日入試問題解かされた。でも、解答配って自分で〇付けしてそれでおしまい。間違い直しは家でやれ! って言われてた」

家でやれと言われても、毎日塾に行っていますので、家で勉強する時間はありません。

 

◆説教が多かった

 クラス全体に向けての話や、一部の生徒に向けて、説教が多かったそうです。

「言ってることはもっともだと思うんだけど、とにかく説教が長かったんだよね。やる気を出せ!って怒られてた思い出しかない。別にやる気で点数は変わらないのにっていつも思ってた」

 

どうやらこの子にとっては「相性の悪い」塾であったことは間違いありません。「指導が熱心だ」との評判をとっていた塾ではあるのですが。

 

「塾のおかげで、大好きだったピアノも5年生から行けなくなったし。中学生になってから再開したけど、ブランクは大きいんだよね。あの時間を返してほしいくらい」

 

小学生のときから習っていた先生に今でもレッスンを受けているのだそうです。

毎年の発表会では、ピアノの技量によって二部制に分かれているのだそうです。いわゆる子どもの部と大人の部というものですね。大人の部に上がることを励みに頑張っていたそうです。この子の進み具合だと、そろそろ第二部に上がれると先生から言われていたのが、中学生になって再開したときは第1部から再スタートだったのが相当悔しかったようでした。

 

なぜ拘束時間が長い塾が人気なのか

 

実は、世の中には、拘束時間の長い塾を求める需要というのがあり、それに応える塾がたくさんあるのです。

これは、親の願いと、塾の営業戦略と、その両方がかかわっています。

 

(1)家で見てあげられないから、塾で全て面倒見てほしい

 これが最も多い理由です。

両親とも仕事を持っていて、子どもの受験勉強を見てあげることができない。だから、塾に丸投げして何とかしてもらおう、という作戦です。

塾も、「うちに全ておまかせください。毎日来させてください」とアピールします。

そうした「おまかせ塾」で仕事をしている知人がこう言っていました。

「うちは、託児所なんですよ」

この知人の塾では、軽食の手配まで塾がするそうです。もう至れり尽くせりです。

 

(2)長時間教えてくれるのが熱心な塾だ

 親が中学受験の学習内容を把握していないのですね。だから、長時間教えてくれる=熱心な良い塾、という尺度で判断しているのです。

 塾の扱っているサービスは、目に見える商品ではありません。サービスの良し悪しを測る尺度が無いのです。だから、わかりやすい尺度、つまり拘束時間を見てしまうのでしょう。

 

(3)どうせ家にいても勉強しないから塾に行かせたほうがまし

 家では、あれこれ理由をつけて勉強しない。だったら、塾に行かせておけば、勉強になるだろう、という考えです。

 

(4)オプション講座で儲ける仕組み

 週3日の授業に加えて、様々なスペシャル講座を設定するのです。それを生徒の志望校や学力に応じて組み合わせることで、生徒一人一人にフィットした指導ができる、という「売り文句」になります。

 しかも、こうしたやり方は、月謝を安く見せかけるのに有効です。

 週3日で月謝が5.5万円だとして、週6日では11万円となります。さすがに塾の費用が月10万を超えると、「高い!」という印象になりますね。でも、選択の自由が親にあるように見せかけることで、その印象を回避できます。

実際には、塾の教師から「〇〇中学合格のためにはこの講座が必要です」と言われて断る家庭はないでしょう。

 まるで歌舞伎町のぼったくりバー(私は行ったことはありませんが、よくニュースになっていますね)みたいなやり口で、私が嫌悪するスタイルですが、大半の塾が、多かれ少なかれこのスタイルをとっています。

 

(5)昭和の精神論がまだ求められている

「本気」「やる気」「情熱」「熱意」「生徒を愛する心」

いくつかの塾の広告を見ると、こうしたワードが散りばめられているのですね。

まるで昭和の価値観ですが、未だにこうした言葉がはびこっているということは、それを求める需要があるのでしょう。

しかし、「やる気」だの「情熱」だのは計測できません。そこで、長時間拘束したり、居残り補習をやることで、「熱意」を見える形とするのです。

 

なぜ拘束時間が長いといけないのか

 

それは、家庭学習時間がとれないからです。

復習・定着・弱点補強・暗記・問題演習、全ては家庭での学習要素です。

これらの時間が十分に確保できないと、言われた通りにペンを動かすだけの、受動的な学習しかできず、得点力も上がりません。

 

目安は一概にいえませんが、4年生なら週2日、5年生で週3日、6年生で週4日が限界でしょう。

これ以上拘束されると、家庭学習が成り立ちません。

全く復習時間がとれないまま、ただ問題を解きっぱなしという無駄な時間となるだけです。

 

終了時刻も問題です。夜10時を過ぎる拘束は、子どもの体調を壊す原因となります。

 

もしお通いの塾がこれに当てはまる塾の場合、その指導内容を精査してください。無駄をそぎ落とした充実した指導であるかどうかの判断が大切となります。