今回は、生成AI(以下AIと省略)について、学校教育現場での取り組みを紹介しつつ、今後について考察してみたいと思います。
※せっかくですので、タイトル画像を画像生成AIに作ってもらいました。
リーディングDXスクール
みなさんは、「リーディングDXスクール」ってご存じですか?
おそらく知らない方が大半だと思います。
これは、現在文部科学省がすすめている事業の一つです。
スーパーグローバルハイスクール(終了)
スーパーサイエンスハイスクール(進行中)
GIGAスクール構想(進行中)
など、文部科学省は様々な取り組みを行っているのです。
「また文科省が何かやってるなあ」くらいの認識でいたのですが、今回改めて調べてみることにしました。
まずは、ちょっと長いのですが、文科省のHPから引用します。
「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実を通して、主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善につなげる、しかも、働き方改革と両立させる形で。そうした挑戦に不可欠なインフラとして1人1台のGIGA端末が整備されました。
全国各地では意欲的な取組が次々と生まれつつある一方で、端末を日常的に活用している学校とそうでない学校との間で大きな差が生じているのも事実です。
こうした中、生成AIの飛躍的進歩に代表される社会のデジタル化はこれまで以上に加速しており、教育の在り方にも大きな影響を及ぼすことが見込まれています。新たな教育課程を構想するためにも、また学校を若者に魅力ある職場にするためにも、一刻も早く端末活用の日常化を進め、教育DXを実現することが必要です。
こうした問題意識の下、本事業では、全国すべての都道府県及び政令指定都市に指定校をおき、GIGA端末の標準仕様に含まれている汎用的なソフトウェアとクラウド環境を徹底的に活用し、情報活用能力の育成を図りつつ、「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実や校務DXを推進し、全国に好事例を展開することとしました。
ビジネスパーソンが活用しているソフトウェアを子供たちも同じように使う。大人と同じようにクラウド環境を使いこなし、クラスメートを含む様々なリソースを参照し、学習を自己調整しながら、問題を発見・解決する能力を磨く。端末とオンライン、様々なデジタル教材のサポートも得ながらオーセンティックな学びを増やし、社会に開かれた教育課程を実現する。先生方も社会で使われている便利なツールはどんどん使い倒して、生まれた余裕を子供たちのために使う。
そんなチャレンジに向け、全国の指定校や教育委員会の皆様と想いを共有し、課題を受け止めて一つ一つ解決しながら、取組を進めていきたいと思います。どうぞよろしくお願い申し上げます。
よかった、文科省の文書にしてはわかりやすいです。
ようするに、教育DXをさらに推進する取り組みということですね。
その背景としては、せっかく多額の予算を費やして一人一台のPC環境を整えたのに、まったく活用されていない、そうした現実があるのでしょう。
ここに指定されているのは、公立の小中学校だけです。東京ですと10校ほどが指定されています。
取り組み事例を見ると
◆chatGPTを使用した職員室会議議事録作成
◆Googleformを使った情報共有
◆ネット検索で情報を調べる練習
◆教師の勉強会・研修会
だいたいこんなところでしょうか。
珍しくもなんともない、わざわざ「取り組み事例」として紹介するレベルではないですね。
生成AIパイロット校
さらにこうした学校も指定されています。
2023年に文科省が策定した「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」に基づくものです。
例えば、このような活用を考えているようですね。
①情報モラル教育の⼀環として、教師が⽣成AIが⽣成する誤りを含む回答を教材として使⽤し、その性質や限界等を⽣徒に気付かせること。
②⽣成AIをめぐる社会的論議について⽣徒⾃⾝が主体的に考え、議論する過程で、その素材として活⽤させること
③グループの考えをまとめたり、アイデアを出す活動の途中段階で、⽣徒同⼠で⼀定の議論やまとめをした上で、⾜りない視点を⾒つけ議論を深める⽬的で活⽤させること
④英会話の相⼿として活⽤したり、より⾃然な英語表現への改善や⼀⼈⼀⼈の興味関⼼に応じた単語リストや例⽂リストの作成に活⽤させること、外国⼈児童⽣徒等の⽇本語学習のために活⽤させること
⑤⽣成AIの活⽤⽅法を学ぶ⽬的で、⾃ら作った⽂章を⽣成AIに修正させたものを「たたき台」として、⾃分なりに何度も推敲して、より良い⽂章として修正した過程・結果をワープロソフトの校閲機能を使って提出させること
⑥発展的な学習として、⽣成AIを⽤いた⾼度なプログラミングを⾏わせること
⑦⽣成AIを活⽤した問題発⾒・課題解決能⼒を積極的に評価する観点からパフォーマンステストを⾏うこと
①②は前段階ですね。
生成AIに限らず、インターネット黎明期にも同様の議論がありました。スマホ普及期にも同様です。
しかし、現代の若者(大人も)のスマホ使用状況をを鑑みるに、無駄な足掻きとなりそうな予感しかしません。
リテラシーやモラルが備わった人間ならそもそも心配はないでしょうし、備わっていない人間なら、何をどうやっても「沼にハマって」いくだけだと思います。
④はそろそろ実用化しかかっていますね。すでに民間の英語教育コンテンツとして提供されてきています。
⑤は、そもそも生徒側に「良し悪しの判断」ができる能力が無いとはじまりません。そうでないとAIを使いこなすことはできないからです。
「ワープロソフトの校閲機能」というのが、昭和の匂いがします。
⑥については、やがてプログラミングという概念そのものが無くなってくるのだろうと私は思っています。私たちが欲しているのは、「高度なプログラム」ではなく、プログラムがもたらす「結果」だからです。そもそもAIとはそういう領域を目指す技術ではなかったのかな? AIにプログラミングを行わせるという発想が「古い」なあ。
⑦については、AIを使いこなす能力をテストするということなのでしょうか。
意味がわかりません。
例えばレポート作成を考えてみます。
多種多様な情報を参照しながら作り上げるようなレポートです。
それを、自分一人の頭脳だけで作り上げるのと、AIを使いこなして作り上げるのと、どちらがより評価できるのか、ということですね。
どう考えても前者でしょう。
自分で作る能力がありながら、AIを利用することで効率化をはかる、というのが本筋だと思います。それをテストで測ってどうするのかな?
ということで、どうも文科省の取り組みは、「これじゃない!」感が強いのです。
民間企業の取り組み
やはりこうしたものは、民間企業のほうが一歩も二歩も進んでいるのが通例です。
少しみてみましょう。
◆ベネッセ・・・自由研究テーマのアドバイス
小学生(含む親)を対象として、「自由研究おたすけAI」というものを2023につくったそうです。
どうやら、ChatGPTを利用して、AIとやりとりしながら、自由研究のテーマを見つけるというものなのですね。
何だこれ?
たしかに自由研究のテーマを考えるのは大変です。
まして、受験生にとっては「迷惑」なのも確かです。
しかし、このテーマを考えることが一番大切な部分じゃないのでしょうか?
個人的には、「自由研究」は不要だと思っています。それをAIにテーマを考えてもらうようでは、ますます不要です。
このサービスは、「登録」しさえすれば、だれでも無料で使えるそうです。
もちろん「登録」するためには、子どもの個人情報をベネッセに引き渡す必要があります。
知人に聞きました。
横浜の大規模動物園「ズーラシア」に幼稚園の子どもを連れて遊びに行ったそうです。
入口ゲートを入ると、ベネッセ主宰のスタンプラリーをやっていたとか。もちろん知人はそんなものを手にとりたくはなかったのですが、子どもはやりたがりますよね。それでしかたなくカードを受け取ります。子どもは園内各所でスタンプを集めます。そして最後の出口付近で、景品と交換となるのです。
ただし、景品を受け取るためには、子どもの個人情報(住所・氏名・学年等)を記入させられるのです。知人としては当然拒否したい。でも、それで子どもが納得しますか?
仕方なく個人情報を記入し、つまらぬ景品を受け取ったそうです。
さて、それから10年以上にわたり、知人の郵便受けにはベネッセの入会勧誘資料が届くことになりました。「今なら入会特典として〇〇がもらえます」といったやつですね。
「やり方があざとい!」
知人は怒っていましたね。子どもの気持ちを人質にとるようなやり方が許せないといって。
たしかにスマートなやり方ではありませんが、よく考えたものですね。
この話にかぎらず、「無料」で「得をする」ものには、背後に必ず「何等かの目的」が潜んでいると考えるべきでしょう。
それこそが「リテラシー」ですね。
◆学研・・・学習アドバイス
「AIを活用して個別最適化学習を実現する学研オリジナルのデジタル教材・教務システム」というものがあるのですね。
まあ、動画視聴とデジタル教材提供が主軸のシステムで、さほどAI感がしないものです。
同様のシステムはいろいろな会社から出されていますね。有名なものでいえば、リクルートが提供している「スタディサプリ」があります。
スタサプとの違いは、塾の先生が生徒の学習状況を把握するのにも使えるところでしょうか。
しかし、これも「EDIX(エディックス)」のような教育系展示会に行けばいくらでも目にするシステムです。
教材は「文理」が提供とありました。この会社は、教材開発専門としては老舗の出版社で、教科書ガイドやドリル等の、公立小学校・中学校の補助用教材専門会社です。塾向けの教材もつくっていますが、高校受験用の教材がメインですね。
なるほど、このシステムは、テスト・テキスト開発力が無く、授業スキルも低い塾向けなのかもしれません。でも、それはもはや塾を名乗れるレベルではないように思いますが。
さらに、生徒の学習アドバイスを、ChatGPTが行う仕組みが提供されたとあります。
結論
生成AIの現状を見ると、動画や画像作成、あるいはプログラミングのような、膨大なマンパワーを必要とする作業を代替する手段としては実用レベルにあるように思います。
また、質より量が重要な書類作成にも有効でしょう。マニュアル作成のようなものですね。
ただし、人間の創造性を代替するレベルにはまだまだだと思います。
現時点では、教育に有効なレベルにはない。
これが私の結論です。
しばらく放っておきましょう。
こんなものに関わる時間が惜しい。
小中高生には、まだまだ学ぶべきことが他に山ほどありますので。
その「学び」を代替するのは不可能です。
なぜなら、「学ぶ」ということは、一見無駄に思える作業の繰り返しもまた必須だからです。
漢字学習を例とします。
PC(古くはワープロ)の普及により、漢字を書く機会がめっきり減りました。
その結果、私など、漢字をずいぶん忘れてしまいましたね。
もちろん読むことはできます。誤変換を見抜けないと話になりませんので。
でも、漢字って、手を動かして書くことでしか定着しないのはご存じのとおりです。
いくら面倒くさくて時間がかかったとしても、こればかりは仕方がありません。
生成AIも同じようなものかと思います。
人が時間をかけてやる必要のないことを代替させるのには非常に有効ですが、「教育」には無駄なものなどありませんので。
時間をかけてやるべきものが「教育」の本質なのだろうと思います。
この記事もぜひお読みください。