中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

高校受験と中学受験、勉強の仕方・させ方の違いを考える

すでに中学受験・高校受験を経験されている方にとっては当たり前の話です。

しかし、まだお子さんが小さい場合、今後中学受験と高校受験の選択に迷うかもしれません。

今回は、私の目から見た両者の勉強の違いについて書いてみます。

※あくまでも私個人の意見にすぎませんのでご容赦ください。

小6と中3比較

 

大分昔の話で恐縮です。

私が教えていた生徒に中3と小6の子がいました。どちらも非常に優秀です。ふと、疑問が生じたのです。この子たちは、どっちが出来るのかな? 

そう思わせるほど、どちらも冴えていたのですね。

そこで、さっそくテストをしてみることにしました。ジュースかなんかをご褒美として、同じテストを二人に解かせたのです。もちろん中学生の学習内容は小学生に出すわけにいきませんので、中学入試問題を解いてもらうことにしました。

結果は予想通り、というより予想以上の結果となりました。

国語だけはかろうじて中3生が数点面目を施しましたが、残り三科目は小6生の圧勝だったのです。特に大差がついたのは理科・社会でした。算数も、中3生が方程式を立てている横で、面積図など駆使してすいすいと答えを導き出すのです。

あらためて、中学受験のレベルの高さを再認識したのでした。

 

ちなみに、二人とも受験はうまくいきました。とくに中3生はよほど悔しかったのか、その後の学習態度が大きく変わったのを覚えています。

 

算数と数学

算数と数学の違いは、「答えを出すこと」を重視するのか、「答えを導き出す過程」を重視するのかにあるといわれています。

たしかにその通りです。

とくに中学数学の図形の証明問題など、まさに過程を大切にしています。

しかし、今改めて都立高校の入試問題を見ていると、「本当にそうなのかな?」と疑問に思うこともあるのです。

そもそもほとんどがマークシートによる解答です。

2024年の都立高校入試問題を見てみました。

 

大問1 作図問題

これについては、定規とコンパスを使って四角形の二辺から等距離にある点を書く問題です。

作図問題

四角形ABCDは,角BADが鈍角の 四角形である。解答欄に示した図をもとにして,四角形ABCDの 辺上にあり,辺ABと辺ADまでの距離が等しい 点Pを,定規とコンパスを用いて作図によって求め, 点Pの位置を示す文字Pも書け。ただし,作図に用いた線は消さないでおくこと。

さて、解き方はこうなりますね。

作図解答

点Aを中心となる円を描きます(赤の円)

次に、その円と辺ABおよび辺ADの交点を中心とした同じ半径の円を2つ描きます(緑の円)

二つの緑の円の交点とを結ぶ直線と辺BCの交点が求める点Pとなります。

もちろん、実際の答案に書く際にはこのような書き方になるでしょう。模範解答もこうなっています。

解答

この問題は、小学生でも普通に解ける問題です。

 

大問2の問1はこうでした。

 a,bを正の数とする。図で,△ABCは,角BAC=90°, AB=a㎝,AC=bcmの直角三角形である。図に示した四角形AEDCは, 図1において,辺BCをBの方向に延ばした 直線上にありBC=BDとなる点をDとし, △ABCを頂点Bが点Dに一致するように平行移動させたとき, 頂点Aが移動した点をEとし,頂点Aと点E,点Dと点Eを それぞれ結んでできた台形である。四角形AEDCの面積は,△ABCの面積の何倍か求めなさい。

 

図形その2

さすがにこれは、小学生だろうと中学生だろうと見た瞬間にわかりますね。もちろん3倍です。

問2はこうでした。

図形03

図に示した四角形AGHCは,図において, 辺ABをBの方向に延ばした直線上にある点をFとし, △ABCを頂点Aが点Fに一致するように平行移動させたとき, 頂点Bが移動した点をG,頂点Cが移動した点をHとし, 頂点Cと点H,点Gと点Hをそれぞれ結んでできた台形である。右の図4に示した四角形ABJKは,図において, 辺ACをCの方向に延ばした直線上にある点をIとし, △ABCを頂点Aが点Iに一致するように平行移動させたとき, 頂点Bが移動した点をJ,頂点Cが移動した点をKとし, 頂点Bと点J,点Jと点Kをそれぞれ結んでできた台形である。図において,線分AFの長さが辺ABの長さのx倍となる ときの四角形AGHCの面積と,図において,線分AIの 長さが辺ACの長さのx倍となるときの四角形ABJKの 面積が等しくなることを確かめてみよう。

 

要するに、直角三角形を左にX倍平行移動してできた四角形の面積と、上にX倍平行移動してできた四角形の面積が同じになるということですね。

 

この問題も、未知数を記号で置かずに実数で置けば小学生でもすぐに面積が計算できる問題です。

 

どうやら算数と数学の違いが少し見えてきました。

数学は、算数とは異なり、まわりくどく・抽象的に・一般化して答えを出させようとするのですね。

だから、説明も非常にくどくどしいのです。

実際に解くと、二つの四角形の面積はすぐにXとa・bを用いて簡単に出せますので、瞬殺で解ける問題といえるでしょう。

 

もう一問図形の証明問題がありました。相似を証明する問題です。これも小学生でも解けなくはなさそうですが、証明のルールというか、作法を知りませんからね。この問題だけは中学生らしい問題といえそうです。

 

日頃多くの小6受験生を見てきています。

彼らの3年後の最高到達点がここのレベルとは思えません。

 

ちなみに、私立中高一貫校では、中2で中学数学を終了するのが普通のペースです。

中3では高校数学(数1・A)に入ります。

 

つまり、中学受験経験者なら2年間で終わる内容を、3年間かけてやるのが高校受験数学の世界ということになります。

 

ただし、これについては異論・反論もあると思います。

数学の基礎をじっくりと身に着ける時期に、いたずらに先へ進むばかりが良いことではない、と。

もっともなご意見だと思います。

 

ただし、どうしても3年後に「高校入試問題」を解くことが目標になってしまいますので、「数学の基礎」「数学の深淵な世界」などといった理想論は実は置き去りにされがちです。

 

国語

 

小学生も中学生もやることは一緒です。あつかう文章の難易度が上がり、文字が小さくなるだけです。

もちろん漢字・文法・古典といった知識系の分野は当然中学生のほうが増えています。

長文読解問題に関してはさほどの違いは感じません。中学生の学校教科書の文章レベルなら小学生でも問題なく読めますので。

しかし、口語文法については、中学受験では「少し覚えて解く」レベルから、「きちんと体系的に学ぶ」レベルへと進化します。

また、ここで学ぶ古文・漢文の素養が、その後の本格的な古文・漢文の学習につながるので意外に大切です。

 

とくに中学生にとって、国語は「後回し」にしがちな教科ですから。

 

理科

これはあまり変わりません。

というよりは、中学受験の理科の内容が、明らかに中学生の理科を先取りしていたのです。中学生になると、実験系の条件設定がよりタイトになるのと、理論的な裏付けが必要とされるかんじでしょうか。

たとえば電気回路の問題。

電流やで電圧を答える問題は中学入試でも頻出です。ところが、中学理科だとオームの法則で簡単に解けるのに、中受理科では、へんてこりんな数え方?を指導される場合が多いのです。

抵抗の合成も同様です。逆数の和で考えるだけなのに、ここでも怪しい?数え方を指導する塾・教師が多くいます。

こういうところは、中学生理科のやり方をきちんと小学生にも指導したほうがよほど正確で理解しやすいと思います。

 

社会

これもほとんど変わりません。

理科同様、中学受験の社会科の内容が、中学生の社会科を先取りしていたのですね。

それでも従来は若干の違いがありました。

中学生になってから学ぶ、中学受験には出題されない内容というものがあったのです。

〇経済

〇世界地理

〇世界史

〇社会問題

この4つです。

しかし、もはやその垣根は崩壊しました。

需要供給曲線など、中学入試にも普通に出題されています。かろうじて世界史・世界地理がまだまだ少ししか出題はされていません。

これもいずれどうなることか危ぶんでいます。

 

学習時間

 

家庭学習時間については、明らかに中学生のほうが少ないですね。

友達付き合いや部活等が、小学生時代とは違いますので。

夕方早く家に帰れる小学生とは違います。

スマホタブレットPCも持たない小学生は、全ての時間を中学受験のための勉強に費やしています。スタバやサイゼ、カラオケにも行きません。

 

ただし、これを単純に比較するのは中学生には厳しすぎますね。

小学生とは異なり、中学生にとっては「学校の授業時間」も重要な学び時間です。授業に全力集中していれば、家庭学習時間は少なくてもかまわないのかもしれません。

さらに、友人との時間により社会を広げていく時期ですから。

 

親の関わり

 

中学生で反抗期を迎える子も多くいます。

これはなかなか厄介です。

親の干渉を嫌いますので、子どもの学習が親の手を完全に離れてしまうからです。

反抗期にならなかったとしても、もう勉強内容については親は見てあげられないですし、また見るべきでもないですね。

 

そうなると、子ども本人が努力していかなくてはなりません。

 

優先順位

 

友人関係>家族

遊び>勉強

部活>塾

 

全員ではないですが、このような優先順位になっている中学生は多そうですね。

受験勉強には不利です。

中学受験の小学生の真逆です。

 

もっとも、知人の高校受験専門の先生に言わせると、「高校受験は部活や遊びの合間にやるものあり、またそうでなければならない」のだそうです。

乱暴すぎる意見です。

おそらく意図としては、「全てを犠牲にして高校入試に臨むべきではない」という理想論を語りたかったのだと思います。

 

中3の夏に部活を引退してから本格的な高校受験勉強を始める、そんなことのようでした。

 

こうしてみてくると、中学受験と高校受験の単純比較はできなさそうですね。

目指すレベル・価値観・勉強の意味、全てが違いすぎます。

 

高校入試問題を解けるようにするためだけに3年間費やすのではないのでしょう。

「学校生活」全般を含めた広い意味での「学び」の時期であるということなのだと思います。

 

※開成・筑駒レベルは話が違う

「公立高校入試」を念頭に書いてきましたが、開成・筑駒を高校から目指す場合は話が変わってきます。

中学入試のリベンジ組が大勢いるからです。

中学入試で最高難度の学校を目指した生徒が、そのまま勢いをゆるめずに目指す学校です。

「中3夏から勉強」などと緩いことを言っている場合ではありません。

「学校の授業に集中すれば大丈夫」なわけはありません。