中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

【中学受験】四谷大塚に向く子と向かない子

今回は、四谷大塚という中学受験塾に、どんな子なら向くのか、どんな子は向かないのか、そのあたりを考えてみます。

※この塾を持ち上げるつもりも貶めるつもりもありません。あくまでも私の主観にもとづく完全な私見ですのでご容赦ください。

 

いったいどんな塾なのか?

 

この塾の特徴は4点あります。

 

(1)テスト会である

(2)予習シリーズという教材

(3)準拠塾の存在

(4)ナガセの子会社

 

順番に見ていくことにします。

 

(1)テスト会である

 もしかして、みなさんご自身が中学受験経験者で、四谷大塚の会員であった方もいらっしゃるかもしれません。

1954年創業の中学受験塾の草分けの一つですが、1960年代に入り「予習シリーズ」という教材を開発したことで、ライバルだった日本進学教室(日進)を蹴散らし、1970年代~80年代には全盛期を迎えました。

この塾に入るためにはテストにパスしなくてはなりません。正規の会員資格である「正会員」と、その下のレベルである「準会員」とに分かれていました。

この「正会員」になると、難関校に合格が保障されたも同然といわれるほどレベルの高い塾だったのです。

 

基本のシステムは「テスト会」です。

つまり、毎週日曜にテストを受けるだけだったのです。

そのテストを受けるための勉強=予習 を家庭で行うための教材として「予習シリーズ」が開発されました。

 

つまり、この塾の学習システムはこうなっていました。

①家で「予習シリーズ」を使ってテストのための勉強=予習をする。

②日曜日にテストを受けに行く

 

ただこれだけです。

シンプルといえばこれほどシンプルなものもありません。

ただただ、予習シリーズのテスト範囲のページを家で勉強するだけですので。その成果が日曜テストで測られるのですね。

 

当然この塾は、テスト作成および予習シリーズ作成のノウハウはあるものの、授業のノウハウは皆無でした。

いちおう午前中のテストの後、午後にテストに出題された問題のピンポイント解説をおこなってはいましたが、まあおまけみたいなもので授業とは呼べません。

会場として借りた大学の大教室に数百名の生徒がいて、教師がマイクで問題の一部を解説するだけでしたので。

 

したがって、この当時の四谷大塚の正会員に求められていたのは、自宅で自分一人の力で予習シリーズの学習をできることと、テストで高得点が取れるレベルであることだったのです。

予習ができなければテストを受けられません。

テストの見直しをする余裕のないシステム(テストが返却されたころには次のテストに向けて予習している最中です)のため、最初から高得点、すなわちテストの間違い直しをしなくて済むレベルでなければならなかったのです。

テスト終了後に配布される模範解答を見ただけで、自分の間違い直しが完了するレベルの生徒であるということです。

 

この本質は今でも変わりません。

「日曜テスト」から土曜日の「週テスト」へと名称が変わり、テスト時間も短くなり、レベルも細かく分かれ、比重は下がってきてはいますが、相変わらず毎週のテストが学習の主軸であることを理解しましょう。

 

(2)予習シリーズという教材

この教材は会員以外でも、四谷大塚のHPから購入が可能です。

4年生~6年生まで、年間上下2冊です。

ちなみに価格は、5・6年生用が各教科それぞれ2200円、4年生用が1980円となっていました。

4~6年の3年分で25520円ですね。

コスパは悪くない、いやむしろ良いと思います。

参考書って高いですから。

その他にも、漢字練習・計算練習・基本問題練習・発展問題練習等が副教材として用意されています。

クオリティも高い教材です。1科目1億円のコストがかかっているなどと業界では噂されていました。

 

この予習シリーズの毎週のカリキュラムにしたがって学習しているだけで、中学入試に必要な学力がつくように構成されています。

 

「教材に迷わなくてよい」点がメリットです。

 

※予習シリーズの難化について

 

2021年から、予習シリーズ4年生の改訂に着手し、2023年に6年生まで改訂が完了しました。

難易度が上がりました。

昨今の入試問題への対応及び他塾(おそらくはサピックス)への対抗が目的だと思われます。

 

そもそも予習シリーズの弱点は改訂が少ないことにありました。最新の入試傾向をキャッチアップできていないのです。

今回の改訂で、今からこの教材で学習する生徒にとっては、新しい入試傾向を反映したテキストを使えるのですから朗報です。

 

巷では難しくなり過ぎた、という声も聞かれます。

サピックスでは6年夏以降に扱うような算数の問題が、予習シリーズでは春頃出てくるというのですね。

 

しかし、改訂前後のテキストや他塾の教材と比べてコメントするのは「塾屋」に任せておけばいいと思います。

四谷大塚も考えがあっての教材改訂でしょうから、つまらぬことは気にせずに、今目の前にある予習シリーズに必死に取り組めばいいだけの話です。

 

(3)準拠塾の存在

前述したように、この塾の基本は「テスト会」で、授業はありませんでした。

その後、会員の声に押されたのか、あるいは収益増をねらったのかはわかりませんが、「土曜教室」という授業を始めましたが、あくまでも家庭における予習が学習のメインというスタイルには変更はありませんでした。

 

しかし、徐々に中学受験の裾野が広がるにつれて、そうもいかなくなってきたのです。

家で予習ができない受験生が増えてきたのですね。

 

そこで、四谷大塚の予習シリーズを使った授業を行う塾が乱立してきました。

いわゆる「準拠塾」です。

平日に、準拠塾で予習シリーズを教わります。

そして日曜になると四谷大塚のテストを受けにいくのです。

テスト結果は塾に持参します。

四谷大塚の会員になれないレベルの生徒に対しては、日曜日に塾内で何かのテストを実施します。多くは、日曜テストの過去問だったようですね。

 

完全にコバンザメ塾です。

しかし、この需要はとても大きく、準拠塾は増え続けます。

四谷大塚にとっても、予習シリーズの売り上げ増につながるばかりか、会員の学力が向上してくれるわけですからメリット大です。

そこで、四谷大塚もこうした準拠塾と提携して取り込む動きを見せるようになっていきます。また、四谷大塚の直営校での授業も始めるようになりました。

 

現在では、勝手なコバンザメ塾は姿を消し(もしかして生き残っているかもしれませんが)、YTnetというネットワークに加盟する塾が全国に900ほどあるようです。臨海セミナー・早稲田アカデミーといった大手塾ですらこのネットワークに加盟した「準拠塾」ですので、自前のテキスト・テストを持たずに四谷大塚のシステムにのっかっている形です。

 

(4)ナガセの子会社

「ナガセ」は、永瀬昭幸氏が1971年に開いた個人塾を母体とします。

やがて上場し、東進ハイスクール東進衛星予備校と事業を展開していきます。

2006年に四谷大塚を子会社としました。

 

ナガセの子会社となったことで、四谷大塚にいくつか変化が見られます。

◆映像授業の充実・・・予習ナビ・復習ナビといったネット配信の講座が充実します。配信事業のノウハウを持つ東進の影響だと思われます。

◆YTnetスタート・・・準拠塾をネットワーク化していきます。これも東進のノウハウが入っているのでしょう。

◆全国統一小学生テスト・・・全国小学生を対象とした無料テストがスタートします。

「テスト会」であった四谷大塚が、生命線のテストを無料で実施するというのが信じられません。自らの存在を否定しかねないと思うのですが。

四谷大塚のHPには実施目的にこう書かれていました。

独立自尊の社会・世界に貢献する人財を育成する」という教育目標を掲げる四谷大塚は、中学受験指導のパイオニアとして、住んでいる地域や経済的な事情に関係なく、子どもたちに学力向上の機会を広く提供するため、「全国統一小学生テスト」を年に2回実施し、すべての小学生を無料で招待しています。
このテストにより、日本全国に埋もれている優れた才能を次々と発掘し、その力を存分に伸ばしていくことで、将来、世界をリードする新しい日本を築いていく人財が次々と育ってくれることを願っています。

 

高邁な考えですね。

ただ、これを鵜呑みにするには、私はこの業界に長くい過ぎました。

ちなみに、このテストに申し込むには、17項目もの個人情報の入力が必須です。

 

 

どんな子が向くか?

 

(1)海外(or地方)在住

 周囲に塾が無い環境で、中学受験勉強を独学で何とかしようとするのなら、四谷大塚は有力な選択肢です。

ネットをつかった映像配信授業・予習シリーズの学習・テスト、これらがすべて自宅で完結します。

本来が自学自習をベースとしたテスト会ですので、こうした学習スタイルにフィットするのです。

 

(2)得点力の高い子

 予習スタイルの弱点は、復習が不足するところにあります。すぐに次の週のテストのための予習をしなくてはならないので、じっくりと弱点補強や間違い直しをやる時間がとれないのですね。つまり、週テストで点がとれない生徒=間違い直しがたっぷりとある生徒には向かないスタイルなのです。

 予習段階できちんとマスターし、週テストは確認くらいに使う、そうしたことが可能な生徒にはフィットします。

 

(3)標準的な問題を出す学校を受ける生徒

奇をてらった出題、難易度の高すぎる問題、長文記述問題、そうした問題を出さない、標準的な問題を出題する学校を受験するなら、予習シリーズの学習だけで十分です。

つまり、ほとんどの学校の受験にはこれで事足ります。

 

(4)子どもの学習状況を親が把握したい家庭

毎週のテストがあり、予習シリーズもある。わが子の学習進捗状況をリアルタイムで把握したいご家庭にフィットします。

 

(5)老舗の安心感が欲しい場合

塾に老舗も新興もないのですが、「私も通っていた」という親からすれば安心感があることは確かでしょう。

 

(6)塾選びについてよくわからない場合

自宅近くに四谷大塚の直営校があった場合、とりあえず通わせてみるというのも正解です。大きく外すことなはいと思われます。

 

どんな子が向かないのか?

塾なんて、向く・向かないは本人の取り組み次第なのですが、あえてあげるとすれば以下のような子でしょうか。

 

◆スローペースで学びたい子

 毎週のテストに追われるスタイルはそもそも合わない子もいますね。

◆毎週成績が出るのが嫌な子

 受験は競争ではありますが、毎週の成績に一喜一憂したくない子は向かないでしょう。

◆思考力系の入試を受ける子

 ここの教材システムでは対応が困難です。

◆親が塾に丸投げしたい家庭

 ここに限らず、ほとんどの塾が向きません。

ただし、「おまかせ塾」、つまり「全て私どもにおまかせください」という塾も多数あり、なかには四谷大塚の準拠塾もありますので、そういうところを探すしかないでしょう。

 

おまけ 予習VS復習

勉強において、「予習と復習が大切だ」とは常識です。

しかし、四谷大塚は、あえて「予習主義」を唱えています。

HPにはこうありました。

四谷大塚の考える「予習」は、これから習うところを自分で理解して問題を解いてくることではありません。子どもたちは、疑問を持つとその解決のために想像力や創造力を働かせます。その繰り返しによって「論理的に課題を解決する力」が自ずと育成されていくのです。社会に出たら答えのない問題ばかり。でも誰もその答えを用意してくれません。だから、授業を受ける前に少しだけ教科書「予習シリーズ」を開いて、自分で考えて悩む時間[=予習]が、小学生のこの時期にこそ必要だと考えています。わからない問題に対して、今持っている知識・思考力で、少しでも正解に近づく努力をしてほしいのです。「予習」こそ、将来必要とされる論理的課題解決力を育てる最高の手段です。これが四谷大塚が「予習」にこだわる理由です。

 

なるほど。

創立当時のシステム、「自宅で予習→テストを受ける」が「自宅で少しだけ予習→授業を受ける→テストを受ける」に変化していても、「予習」にこだわる姿勢は変わらないのですね。

 

ところで、「復習主義」を標榜する塾であるサピックスのHPをのぞいてみると、こうなっていました。

サピックスでは子どもたちが自ら関心を持って考え、学んだことがきちんと身につくようにするために、授業から教材まで「復習中心の学習法」に基づいて構成しています。子どもたちには、塾の授業に予習をすることなく臨み、その場でその日の課題に取り組んでもらいます。そして家庭では、塾で学習した内容の復習を中心に進めてもらいます。塾と家庭での学習を復習主体に組み立てて、全体として学習の定着度を高めていこうというのです。

 

おもしろいですね。

詳細はHPを見ていただければと思いますが、同じ受験塾でも真逆のアプローチの正当性を主張しています。

 

ただ、どちらが正解ということも無いのだと思います。

 ◆気づき・疑問

 ⇒◆考える→解決

 ⇒◆演習→定着

こうした流れは同じだからです。

サピックスは最初の「気づき・疑問」の部分を教室で実践することにこだわり、四谷大塚は、それを家庭で悩むことにこだわりを持っているということなのでしょう。

 

ちなみに日能研のHPを隅々まで見たのですが、この塾が「予習主義」なのか「復習主義」なのかは明確にはされていませんでした。

授業を超えた「知の時間」

すべてが、子どもたちの学び中心

「持続可能な未来をつくる学び」

「ファンタジーを大切にした豊な学び」

「イマジネーションとクリエイティビティを大きく育てる」

「学習プロフィシエンシーシステム」

知識といかに「新鮮に出会うか」

なんだか「ふわっと」したワードが並んでいて、よくわからないのです。たぶん私の理解力が低いせいだと思います。

まとまった教材は前渡しされてはいますが、どうやら授業が最初のようですので、復習スタイルなのだと思います。