今日は、中学受験の世界をちょっとだけ離れて、都立日比谷高校の数学の証明問題を見てみましょう。
解いていて気が付いたのですが、数学の証明問題って、ロジカルライティングと共通点があるのですね。
自校作成問題
中学受験の世界にいると、高校受験に疎くなりますね。
都立高校の入試は5科目で実施されます。
そして、その入試問題は共通です。
この共通入試問題については、東京都教育委員会のHPで公開されていますので、一度ご覧になってみてください。
知識ベースは教科書レベル、そこから応用問題を組み立てる、そんな設えになっています。
正直な感想を言えば、とても易しいですね。
中学校3年間、普通に努力してきた生徒なら難なく解けるレベルに思えます。
とくに理社に関しては、「3年間も勉強してきてこれ?」といささか拍子抜けするレベルですね。あきらかに中学入試問題のほうが難しいのです。
もっとも難易度が高くない(点差がつきにくい)入試問題というのはなかなかやっかいです。高得点のせめぎ合いになって、ミスが許されないからです。
さて、一部の難関都立高校では、理社は共通問題ですが、英数国の3科目に関しては、共通問題を使わずに、自部の学校で作成する「自校作成」問題を出題します。
共通問題では高得点になりすぎて差別化ができない=合否の線引きが困難だからです。
この自校作成問題は、さすがに難易度が高くなっています。いったいどんな問題が出題されているのか、今回は都立日比谷高校の数学の証明問題だけをとりあげてみます。
2024日比谷高校 数学大問3 (問2)
実は、この問題は問1で角度を求める問題があり、問2で条件設定を1つ加えた後に証明問題が出題されているのです。
条件その1 △ABCは正三角形
(問1では鋭角に等辺三角形でした)
条件その2 弧BC上(Aを含まない方)に点Dをおく
条件その3 頂点Bを通り線分CDに平行な直線を引き、円との交点をEとする
条件その4 頂点Cを通り線分BDに平行な直線を引き、線分BEとの交点をFとする
すこし簡略化しましたが、条件設定は以上です。
この条件を、図に落とし込んでみますね。
さて、証明すべきなのは、
△BDC≡△CEAです。
△ABCは正三角形ですから、辺BC=辺ACですね。
そうすると、証明すべき二つの三角形△BDCと△CEAにおいて、底辺は共通ですから、その両端の角、つまり∠CBD=∠ACE と、∠BCD=∠CAE がいえればいいわけです。
三角形の合同条件・・・一組の辺とその両端の角が等しい を使うという作戦が立ちました。
まず、線分CDと線分EBは平行ですから∠DCB=∠EBCとなります(錯角)
また、線分CEから見て、∠CAE=∠CBEとなります(円周角)
上の図の緑の🟢印のところですね。
したがって、∠BCD=∠CAE が成り立ちました。
あとは、上の図の🔴印の角度が等しいことが言えればいいわけです。
ここで1本の補助線を引きます。線分ADです。
そうすると、線分ABの円周角を考えて、∠ACB=∠ADB=60° となり、同様に 線分ACの円周角を考えて、∠ABC=∠ADC=60° となります。
さて、∠ABE=60°ー∠EBC ですね。
上の図でいえば、★=60°-🟢 です。
線分AEからみた円周角を考えると、∠ABE=∠ACE=★
さあ、いよいよフィニッシュです。
△BCDにおいて、∠BDC=120°
したがって、内角の和を考えると、
∠BDC+∠BCD+∠CBD=180°
→∠BCD+∠CBD=60°
→∠CBD=60°-∠BCD
つまり∠CBD=60°-🟢
こうして、★が等しいことが証明できたので終了です。
このように見ていくと、この証明問題は、錯角と円周角しか使っていません。
そんなに難しい証明ではありませんでした。
あえていえば、補助線ADを引けたかどうか、くらいですね。
きちんとした証明については、日比谷高校のHPで公開されていますのでご確認ください。
🔗学力検査問題等 | 東京都立日比谷高等学校 | 東京都立学校
数学証明問題と論理記述の共通点
実は、私は論理記述と証明問題には共通する要素があると思っています。
(1)第一段階
まず、問題で設定されている仮定・条件について整理します。
論理記述においても、
「何を聞かれているのか」
「前提としているのはどのような事実なのか」
「何が問題なのか」
こうしたことを整理していきます。
しかも、書かねばならない(要求されている)「結論」はすでに見えています。
(2)第二段階
「結論」にいたる道筋をつける
何をどのような順番で書いていけば、スムーズに「結論」につながるのかを考えます。
少し複雑な問題だと、この道筋が曲がりくねっていてストレートには進みません。
ただほとんどの場合は、シンプルです。
数学においても、今回取り上げた日比谷高校の証明問題など、実にシンプルでしたね。
最初から道筋が見えていました。
実は、問題を解く前には、(1)で出た答え・結論を利用しないと証明できないに違いない、と思っていたのです。
中学入試問題や中高一貫校の数学で扱う問題がそのパターンばかりだからです。
しかし、蓋を開けてみるとそんなことはありませんでした。同じような図と条件を使ってはいるものの、(1)と(2)の問題は別物でした。
(だから、最初の図で、(2)には無用だった点Fを書いてしまったのです)
(3)第三段階 どう書くか
あとはフィニッシュです。
数学の証明問題なら、特有の書き方=フォーマット に従って整理しながら書いていくだけですね。
論述問題も同じです。
短い記述なら、現状(問題点)→理由→結論(今後)といった書き方ですね。
長い記述なら、結論→現状(問題点)→理由→結論(今後) というように、結論を2回書く場合もあります。
例えば、このような問題を考えてみます。
「ストラスブールやデュッセルドルフ、アムステルダムなど、ヨーロッパの都市ではトラムとよばれる路面電車が市民の足として活用されています。環境にも優しいトラムが、どうして東京や大阪等の日本の都市では普及しないのか説明しなさい」
(1)第一段階
◆都市の規模が違う・・・人口
◆古い街の景観が残る(保護される)ヨーロッパの都市と東京の違い
◆自動車の使われ方
◆地下鉄網の発達
こうした点を考慮して、結論としては、「景観保護を優先したヨーロッパと、スクラップ&ビルドで発達してきた東京・大阪との違いを論ずることにしました。
(2)第二段階
◆数百年前の建築が残るヨーロッパと、数十年で建て替えるのが前提の日本の大都市の建造物に対する考え方の違いを説明します。
◆世界有数の災害大国である日本の条件を述べましょう。地震・台風・火事でしょうか。とくに地震は必須です。
◆江戸時代の数回にわたる大火をとりあげてもいいですし、関東大震災や東京大空襲を取り上げてもいいでしょう。
◆東京・大阪のような大都市では地下鉄網が発達したこと=トラムの必要性が薄かったことも書きたいところですね。
◆いったん自動車優先の町になってしまうと、逆戻りが難しことも書いてみましょう。
ストラスブール(フランス)では、トラムと地下鉄のどちらを導入するかの論争があったそうですが、予算も考慮してトラムを採用したそうです。
その英断が、今の便利さにつながっているのです。
昨年、このような記事も書きました。ぜひご覧ください。
こちらでは、路線バスとLRTについて考えています。