中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

日ごろの食生活が【中学受験】の合否に関係するという怖い話

今回は、日ごろの食生活が、中学受験の成否にかかわる(かもしれない)というお話をします。

情報源は、私が接してきた生徒・保護者からのものですので、「ごく狭い範囲」ごく僅かの人数」からの情報を「私の主観」だけで調理した記事になりますので、そのつもりでお付き合いください。

個食・孤食・固食

 

まずは、この入試問題をご覧ください。

2024 お茶の水女子大付属中 「検査Ⅱ」の問題です。

 

「個食を増加させて社会関係の構築を妨げているように見える。」について、ここ数年、新型コロナウィルス感染症の広まっている中で学校では会話が制限された「黙食」がなされ、社会でもその言葉をよく耳にしました。筆者がこの文章で述べている「個食」とはどういうことか、「黙食」との違いを明確にして説明しなさい。

 

ここで「筆者」というのは、山極寿(壽)一です。「ゴリラからの警告『人間社会、ここがおかしい』」からの出題でした。

山際寿一といえば、人類学・霊長類学の第一人者ですね。とくにゴリラの研究で有名です。京大総長・日本学術会議会長等を歴任した方でもあります。

それにしても、中学校の先生方って、ほんとうにゴリラ、いや山際寿一が好きですね。入試に出まくりなのです。

出題されるテーマはいつも一緒です。ゴリラやサルなどの社会と、人間社会の共通点や相違点についての文章、そしてそこからの出題です。

この方の文章は、理系研究者にもかかわらず、非常に平易でわかりやすく示唆に富んでいます。そこが入試に好まれるのでしょう。

 

さて、この問題文では、「食べる」ということについての考察がなされていました。

 

サルの食事では、仲間と適当な距離を置いて食事をする。それは、「気持ちを通じ合わせながら信頼関係を築くため」であり、「同じ物をいっしょに食べること」で「信頼する気持ち」「ともに歩もうとする気持ち」を生み出すのだ。

人間もまた、「他者との関係の維持や調整」が食事の機能であり、「他者といい関係」をつくるために調理法やマナーが考案されてきた。

ところが、輸送手段や保存の技術の発達が人間的な食事の時間を短縮させ個食を増加させた。

 

ざっとこのような趣旨の文章からの出題でした。

 

「個食」については、従来から出題されることの多いテーマですが、この学校の問題はコロナ下の「黙食」と関連させたところに工夫がありますね。

 

 

◆個食

個食とは、家族が同じテーブルについていながら、食べるものが違うという食事のことです。「バラバラ食」ともいいますね。

例えば朝食。

お父さんはご飯・味噌汁・納豆といった和風の食事を食べている横で、姉はドーナツを、弟はトーストを食べている。「そんなんじゃ飯にならないだろう」とドーナツを横目でみる父親に、「いいのよ、朝は甘い物で」という母親は、オートミールを食べている。

そんなかんじなのかな?

実際に生徒に聞いてみると、けっこう家族が「バラバラ食」であるケースは多いですね。

「食事」を、家族がそろっていただく「儀式的な行為」から、単なる栄養補給、さらには「好きな物を食べればいい」という状況まで進化(退化?)させた現象だと思っています。

 

孤食

この言葉のニュアンスは実に寂しいですね。

文字通り、孤独な食事です。

父親が帰宅すると、息子はまだ塾から帰ってきていない。母親は下の妹とすでに夕食は済ませている。食卓には父親の食事だけが置かれていて、テレビを見ながらひとりで食べる。やがて塾から帰ってきた息子も、一人で食事をとる。

そんなかんじでしょうか。

あれ? 犯人は塾?

 

◆固食

自分の好きなものだけを食べる。つまり、固定されたメニューということですね。

これはまずい!

成長期の子どもの栄養バランスは最重要課題です。

まさか、「僕は毎日、納豆・焼き魚・ひじき・豆腐・筑前煮・ごはんと味噌汁しか食べない!」という固食ではないでしょうし。

小児生活習慣病(高血圧・肥満・糖尿病)まっしぐらです。

 

◆子食

これは、子どもたちだけで食事をとることです。

父親の帰宅を待つと食事が遅くなるので、とりあえず子どもたちだけ先に食事させる、そういうことかな?

子どもだけの食事は、偏食や食事マナーの問題が生じやすいそうです。

 

この他にも、「こ食」で検索すると、たくさん出てきます。

 

◆粉食

あ、これは私も反省せねば。

忙しいとつい、麺類で昼食を済ませてしまいます。

パン・パスタ・ラーメン・うどん・ピザ

いわゆる「粉もの」主体の食事ですね。

炭水化物は大事ですが、どうしても栄養は偏ります。

 

◆小食

いわゆる「食が細い」状態です。

生徒の持ってくるお弁当など見てみると、びっくりするような小さなお弁当箱を見かけます。

「え? これで足りるの?」

思わず声が出てしまいますね。

必要な時期に必要な物を必要な量食べないと。

もちろん子どものダイエットなど言語道断です。

 

◆虚食

だんだんこじつけ感が出てきましたね。

虚食というのは、何も食べないことだそうです。

朝食抜きなどというのがここに相当します。

「食」は人間が生きていく基本ですから。食べないという選択肢は本来無いはずなのですが。

これは「摂食障害」にもつながりかねません。

 

◆濃食
味の濃い物ばかり食べることですね。

これは私も反省しかありません。

加工食品や売られているお惣菜も塩分や糖分過多ですからね。そんなものばかり食べていれば、味覚もおかしくなってしまうでしょう。

もし子どもが、オムライスの黄色が見えないくらいにケチャップを掛けていたら要注意です。

 

◆戸食

外食ばかりの食生活です。

一人暮らしの若者に多そうでうね。

親が忙しく、デリバリーやテイクアウトに頼りすぎるのもここに相当します。

もちろん、栄養バランスも偏りがちです。

 

調べていると、「こ食15」「20のこ食に注意」などというページもヒットしますが、きりがないのでこのへんにしましょう。

「こ」の文字に無理やりこじつけることが趣旨ではありませんので。

 

だって、しかがたないでしょ!

 

そうなんです。孤食も個食も、やむを得ない事情というものがあります。

 

◆子どもが夜まで塾通い

◆父親の帰宅が遅い

◆母親も仕事が忙しい

◆小さい弟・妹がいる

◆祖父母と同居していない

 

今や当たり前の環境です。

このような状況で、外食やテイクアウト、レトルト食品を犯人扱いされても困ります。

孤食だってしかたがありません。

 

どうも、このような現代の「食」の問題点を調べていると、そのほとんどが、古き良き日本の家庭、昭和の家族関係を理想とし過ぎているように思うのです。

 

◆朝食・夕食には家族全員がそろう

◆母親は専業主婦で食事の支度にかける時間がとれる

 

今時そんな家庭がどれだけあるのでしょう? サザエさん一家?

 

前述した山際寿一氏の主張だって、「近年の(食を便利にする)技術は人間的な食事の時間を短縮させ、個食を増加させて社会関係の構築を妨げている」ですからね。

まあこの方は1952年生まれですから仕方がないのかな。

 

ここで私の言いたいことは、昭和の食卓文化の復活などというものではありません。

 

従来の食卓が担っていたものを、現代でどのように補っていくのか、ということなのです。

 

食卓の担っていたもの

 

◆家族の一体感

 「同じ鍋をつついた仲間」ですね。同じ食卓を囲み、同じ物を食べる。これは家族の一体感の醸成にとってとても大切なことです。

 

◆家族間コミュニケーションの時間

 父親が仕事の話などしたり、母親がママ友情報を披露したり、子どもたちが学校の様子を報告したりする。内容は何でもよいのですが、家族がお互いの状況を理解し確認しあう時間としてとても大切な役割を果たしています。

 

◆偏食をなくす

母親が(父親でもよいですが)心をこめて作った食事をいただくのです。「私これ嫌い」「食べたくない」は通りません。

 

◆「家庭の味」の継承

「おふくろの味」などというワードはもはや死語ですが、なんとなく母から子へ伝わる「味」ってありますよね。ちなみに私は亡くなった母親がよく作っていた「赤飯」と「けんちん汁」が好きで、今でもたまに食べたくなると「けんちん汁」を自分で作ります。一度だけ赤飯にチャレンジしたのですが、まず「ささげ」の入手に苦労しました。「小豆」はいくらでも売っているのですが。その後、もち米をささげの茹で汁に数時間浸したり、大きなせいろで蒸したりと、半日がかりです。何気なく食べていた赤飯でしたが、そんなに手間暇がかかっていたのか、と母親の愛情を再確認した次第です。

 

◆伝統文化の継承

伝統文化などという大げさな話でもないのです。

8年ほど前の慶應中等部のこの問題をご覧ください。

慶應中等部社会科

煮:さといもの煮物

漬:漬物

魚:焼き魚

 

この中から正しい並べ方を選ぶ問題です。

(実際の入試は三択でしたが、バランスが悪いのでもう一つ私が書き足しました。)

この問題を紹介したとき、保護者たちからどよめきが起こったのを覚えています。

みなさんのご家庭の食卓は大丈夫ですか?

こんなものは教える・覚えるという類のものではありません。

日ごろの食卓を思い浮かべて答えるだけの「つまらぬ」問題なのです。

 

また、こんな問題も合わせて出題されていました。

 

 和食のマナーとして正しくないものを選びなさい。

  1 汁ものから口をつける
  2 茶わんやおわんを手に持って食べる
  3 料理を一品ずつ食べきってから次の料理を食べる

 

さすがにこれは大丈夫でしょう。

 

◆食事マナーの躾

大人になってから気づいたことです。

食事マナーって、その人の「育ち」を如実に反映しますね。

楚々とした美人と食事をしたら、口を開けて「にちゃにちゃ」と音を立てて咀嚼しているのを前にして、百年の恋も一瞬で醒める、そんなことがありますね。(いちおう私の実話です)

 

なにも全ての食事をお上品にしろ、というつもりはありません。そんな肩の凝りそうな食事はいやです。

ラーメンや蕎麦を、音をたてないようにお上品に口に運ばれても、それはそれで興ざめです。

 

しかし、基本の食事マナーというものは大切だと思うのです。

生徒がお弁当を食べているのを見て、握り箸など見かけるとがっかりします。今時は外国の方でも上手に箸を使う方が大勢いるのにね。

 

「出されたものは残さない」

こんな当たり前の礼儀も失われてしまいました。

 

別に「小笠原流礼法」を実践しなくてもよいですから(そんなもの私も知りません!)、昔ならおじいちゃんやおばあちゃんに叱られたようなことを、子どもにもしつけてほしいと思います。

 

中学受験の合否にどう関係する?

 

大げさなタイトルをつけてしまいましたからね。

説明します。

 

(1)実際の入試に出題されている

 伝統的な食文化のみならず、普段の食生活に関連した出題、あるいは日本の食文化の喪失に関連する問題など、中学入試問題にはちょいちょいこのテーマが出題されています。

ご当地グルメと郷土料理の違いは?

◆ところてんの原料は?

◆かんぴょうの原料は?

◆給食をどのように改善すれば、より意味のある共食になるのか?

◆和食をユネスコ世界無形文化遺産に登録した理由を、国内向けと世界向けのそれぞれについて説明せよ

 

おそらくは、中学校の社会科・国語の先生方の危機感の表れなのだと思います。

 

こうした問題は、塾で教わりません。参考書もありません。

日ごろの家庭生活で自然に学ぶものだからです。

 

◆お雑煮は好き? → 食べたことない

おせち料理食べた? → 洋風おせちだったよ

七草がゆは食べた? → ??

◆かぼちゃの旬は? → 冬

◆すいかはどうやって食べる? → 皮を剥く?

◆箸置きは使ってる? → 箸はお皿の端にのせてるよ

◆ごはんの炊き方知ってる? →なんか炊飯器にお米入れてスイッチ入れる

◆フランス料理のフォーク・ナイフの使い方は? →外側から使う(そっちは知ってるんかい!)

 

子どもたちは、大人の想像を絶するくらい「無知」です。

ここは何とかしましょう。

 

(2)家族のコミュニケーションが重要

 受験を迎えるころに、反抗期になる子もたくさんいます。

反抗期にならなくとも、親の指示に従わせることが難しくなったりもします。

志望校について親子の意見が分かれたまま入試本番を迎える家庭も多いですね。

 

全て、家族のコミュニケーション不足が原因です。

何も一緒に食卓を囲まなくとも、家族間の意思統一は入試に向けて重要課題です。

確実に合否に関わります。

 

(3)栄養バランス

言うまでもありませんね。

正しい生活の基本は正しい食習慣からです。

どうしても塾で帰りが遅くなるとしても、工夫できることはあるはずです。

旬の美味しいものをたくさん食べてもらう。

そんな簡単な考え方でもよいと思います。

「これを食べれば成績が上がる」

などという単純な話ではもちろんありませんが、きっと何かが変わってくると思っています。

 

「いただきます」「ごちそうさま」

 

「いただきます」

いい日本語じゃないですか。

山の神や海の神への感謝の気持ち、作ってくれた人への感謝の気持ち、命への感謝、そんな意味がこめられているそうですね。

 

「ごちそうさま」

これも素敵な言葉です。

馬で走り回って準備してくれた食事に対する感謝の気持ちが込められています。

 

せめてこれらの言葉だけでもきちんと言える子であってほしいと思うのです。

 

 

 

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