昨年、最近の子どもたちは「買い物」をしないということについての記事を書きました。
今回はその続きとして、買い物から「何が学べるのか」について考察します。
ロンドンの市場
まずはこの写真をごらんください。
これは、ロンドン市内のとある市場で見かけた野菜です。市場といってもここは、卸売り市場ではなく、普通の買い物客が集う市場です。フランスの「マルシェ」、日本でいえば「ファーマーズマーケット」「朝市」といったところでしょうか。
(実は今ロンドンでこの記事を書いているもので、イギリスネタとなって恐縮です。)
日本でもよく知っている野菜の中に、あまり(全く)見かけない野菜が混ざっていますね。
まず右手前の黄色いやつ。これは何だ?
「Yellow Wax bean」とあります。
黄色いさやいんげん、といったところでしょうか?
調べてみたところ、「黄いんげん」「バターいんげん」と言う名称で、国内でも流通しているそうです。寡聞にして私は知りませんでした。
想像ですが、青インゲン特有の青臭さがなくて料理に使いやすいのではないでしょうか。
さて、価格のほうは、£16 kg と表記されています。1キロ16ポンドでしょうか。
あれ、イギリスといえば私の嫌いなヤード・ポンドの国のはず。野菜については㎏を普通に単位としているのかな?
あるいは、貿易の都合上かもしれません。
今、円ーポンド相場は190円台前半ですが、面倒くさいので£1=¥200で換算すると、1キロ3600円ですね。
これが高いのか安いのか見当がつきません。
そこで、日本のネットスーパーを調べてみると、青インゲンは50g300円でした。
ということは、1キロだと6000円!
もしかしてこのロンドンのインゲン、ものすごく安いのでしょうか?
さてその隣の大きな緑のマメは知っています。「broad bean」と書いてありますが、ソラマメですね。
こちらはさらに安く、1キロ6ポンドのようです。
左の「FRESH PEAS」は新鮮な「エンドウ豆」ですね。
ソラマメとエンドウ豆の日本の価格は、ネットスーパーを探しまわったのですがわかりませんでした。今は旬ではないのかな? どちらも初夏までが旬で、暑さには弱いそうです。
この夏の日本の暑さでは無理もありません。
そう考えると、イギリスの気候なら問題ないのですね。
さて一番気になるのが、赤いやつです。
「Borlotti bean」と書いてあります。
調べたところ、「クランベリービーン」と呼ばれるとか。ますます混乱します。
どうやら、原産地のアメリカ大陸では「クランベリー豆」、ヨーロッパでは「ボロロッティ豆」と呼ぶようですね。
イタリア料理やポルトガル料理の定番だそうです。
濃厚でクリーミーで食べ方は無限だそうですね。凄いな、おい。
ただし火を入れるとせっかくの赤い色が失われて茶色くなるとありました。
うう、ぜひ食べたいけれど、さすがにホテルの部屋で調理というわけにはいきません。残念。
さて、右上の丸いやつ、どうみてもズッキーニっぽいですが形状がおもしろいですね。
「green round courgette 」って、丸ズッキーニでしょう。
どうやら、「zucchini」はアメリカの呼び方のようです。
家庭菜園をやられる方ならご存じだと思うのですが、ズッキーニって、とんでもなく広がって成長するので、相当なスペースが無いと栽培ができないのです。でもこんな丸っこいやつならいけるかも。
それにしても、この野菜たち、日本よりも随分安いですね。ちょっとびっくりです。
ここのところ、海外に行った知人たちからは、「物価が高い!」とさんざん脅されていたからです。
たしかに、外でちょっと昼食を食べるだけで5000円くらいはすぐにかかります。
それでも周囲のイギリス人たちは普通に食事をしています。見たところ、特別に裕福そうにも見えません(失礼!)。ごく普通のイギリス人たちの金銭感覚からすれば普通の金額なのでしょうか。日本の庶民代表(それも下位レベル代表)の私の金銭感覚からすると、あり得ない価格です。
続く記録的な円安を加味したとしても、日本とイギリスとの所得格差がそうとうあることが実感できますね。
しかし、この野菜たちは安い。
もしかして「市場」価格の可能性もありますが、そうはいってもロンドン中心部の市場ですから。
そこで私の推理です。
人件費の高い国では、間に人手が入るほど価格に転嫁されます。
野菜たちの「市場価格」はこんなに安くても、それがひとたび料理として提供されるとすると、相当な人件費が上乗せされてしまうのではないでしょうか。
イギリスの最低賃金は、£11.44(時給)です。£1=¥193で換算すると、2208円です。日本の最低賃金は、1055円に引き上げられました。最大の上げ幅だとニュースになっていましたね。
最低賃金、つまりアルバイトでもパートでもこれだけは保障されますよ、という賃金ですでに2倍を超える格差があるのです。
逆に言うと、日本の食事価格の安さ(最近インフレ気味だとはいえ、欧米基準でいえばありえないほど安い)は、低賃金労働に支えられていることが考えられます。
欧米より高い材料で、安い料理を提供しているのでは、当然人件費にしわ寄せがいくはずですね。
可処分所得が低ければ、当然消費生活も低迷します。
消費生活が低迷すれば、経済が上向くはずもないのです。
日本の景気の低迷ぶりの原因が、こんなところからもうかがえると思います。
さて、この野菜たちの価格の安さは、当然農民の収入に直結するはずです。
不安定かつ低収入→農家を離脱→人手不足・高齢化
こうした日本と同じ流れにはなっていないのでしょうか?
農林水産省のデータによると、イギリスの農家の三分の1が65歳以上となっているそうです。ちなみに日本は7割以上。
平均経営面積は81haです。ちなみに日本は3.1ha。
ここには、何か根本的な問題が横たわっているような気がしてなりません。
ところでイギリスの国土面積は日本の2/3、人口は日本の半分強、55%ほどとなっています。
売られている野菜を見るだけでも、考えることは山ほどあるのです。
私が買い物は社会科学習のネタの宝庫だという所以です。