田園都市線の三軒茶屋に、昭和女子大学付属昭和中学校・高等学校(以降昭和女子大附属)があります。
最近注目度が上がってきているような気がします。
保護者から質問されることも増えてきました。
さて、どんな学校なのか、少し見てみましょう。
※あくまでも私個人の主観にもとづく記事ですので、この学校を持ち上げる意図も貶める意図もありません。また、データについては学校公式HPのものしか引用していません。
建学の精神と教育理念
いつものように、HPを丁寧に見ていきます。
学校概要の建学の精神にはこうありました。
「世の光となろう」-Be a Light to the World-
日本女子高等学院として創立した当時から続く建学の精神。時代を経て、女性の地位が変化した今日でも生徒たちの目標となっています。
校訓三則
「清き気品」・・・清らかで温かさのこもる心の在り方や言動
「篤き至誠」・・・何事も心をこめて誠に徹する姿勢
「高き識見」・・・高い志をもって自ら考え自主自律する精神
建学の精神を、生活面で具体的に表現。教育理念として、女性育成の根幹にあるものも大事にします。
なるほど。
少々古めかしいですが、とても大切なことばかりですね。
では、沿革を少しみてみます。
大正9年9月 (1920) 人見圓吉ほか有志4名が私塾「日本女子高等学院」を創立(現文京区)
てっきり、「昭和」という校名から昭和の設立かと思っていたら、1920年、大正の創立だったのですね。
創立者の「人見氏」は重要です。
その後、中野に移転しました。
昭和2年7月 (1927) 財団法人日本女子高等学院を設立、高等女学部を分立し「昭和高等女学校」とする
昭和20年11月 (1945) 東京都世田谷区三宿町の旧陸軍近衛野戦重砲兵連隊跡地に校舎を移転
なるほど。ここで戦災で中野から現在の三軒茶屋に移転したのですね。
昭和26年3月 (1951) 財団法人東邦学園を「学校法人昭和女子大学」と改める
人見圓吉が法人の理事長に就任
昭和38年4月 (1963) 学校法人昭和女子大学に学校法人昭和高等学校を併合
学校名を昭和女子大学附属昭和高等学校、附属昭和中学校と改める
昭和63年4月 (1988) 米国マサチューセッツ州にボストン昭和女子大学を開学
平成元年4月 (1989) 生涯学習施設「昭和女子大学オープンカレッジ」を開設
平成12年11月 (2000) 第4代校長人見楠郎が逝去
2000年までは、創立者の人見一族が代々理事長・校長を歴任していました。人見楠郎氏は創立者の子であり、私学教育界の重鎮として知られていました。
その後は、長女の人見楷子氏が第三代理事長に就任しましたが、現在は評議員に名を留めるのみです。
現在の顔は坂東眞理子氏でしょうか。
2007年 昭和女子大学の学長
2014年 理事長
2016年 理事長・総長
2023年 総長
となっています。著書「女性の品格」はずいぶん話題になりましたね。
アクセス・環境
東急田園都市線(&東急世田谷線)三軒茶屋駅が最寄りで、駅からは徒歩7分です。
国道246号線に面していますので、駅から学校までは246沿いの歩道を歩きます。上を首都高が走っていますので、素敵な通学路であるとは言い難いですね。また、この歩道および三軒茶屋駅の入口が狭い! 田園都市線の三軒茶屋駅は地下ですので(渋谷~二子玉川間は地下鉄です)、数か所ある入口階段に乗降客が集中するのですね。また、田園都市線の朝の上りの混雑は壮絶です。一度通学時間帯に実際に確認してみることをお勧めします。
三軒茶屋そのものは、飲食店やショップがごちゃごちゃと集まったにぎやかな街でなかなか楽しいのですが、おそらく生徒達の立ち寄りは禁止されていることでしょう。
校門を1歩入ってしまえば広々とした空間が広がっています。
大学と共有の設備が多くあり(なかにはゴルフ練習場も!)、とても羨ましいキャンパスです。中高図書館に加えて大学図書館まで利用できるのです。
同じ敷地内に、米国州立テンプル大学ジャパンキャンパスやプリティッシュ・スクール・イン・トウキョウ昭和(インターナショナルスクール)まで誘致されてあります。
学校に対する私見
この学校は、進学校ではありません。
小学校も附属しています。
中学受験で進学するとすると、ほぼ自動的に昭和女子大学に進むことになります。
つまり、昭和女子大附属中を受験して進学するということは、「昭和女子大」をどう評価するか、ということとイコールなのです。
※もっとも年々、内部進学率は下がり、今は35%前後です。
昭和女子大への推薦をキープしたまま他大学受験が可能です。
これは、他の学校でもよくある制度ですね。
さて、その昭和女子大ですが、偏差値は高くはありませんが、就職率が高いことで知られています。つまり、企業の人事からの評価は悪くないということですね。
昨今の女子大不人気の中で健闘している女子大の一つであると言ってもよいでしょう。
大学の入学者数の推移をみてみます。
入学定員を、1067名→1167名→1466名→1526名 と増やしています。
積極的な攻めの姿勢ですね。
そして、入学者数も順調に伸びています。
女子大の現状についてはこちらの記事もごらんください。
昭和女子大附属については、30年以上前の記憶では、勉強はあまり得意ではない(好きではない)けれど真面目な子に薦めていました。
いわゆる「お嬢様学校」の雰囲気が残っていたと思います。
また、大学入試が無い利点を活かし、高校3年生のときから、大学の講義を一部受講して単位を取ることが可能な制度などというものもありました。
中高はなかなか厳格な校則です。そのため、真面目な生徒が多い印象です。
◆ダブルディグリープログラム
昭和女子大学で3年間、海外の提携大学で2年間の計5年間学び、昭和女子大学と海外提携大学の2つ大学の学位(学士号)を取得するプログラムです。
海外提携大学は、上海交通大学・淑明女子大学校・ソウル女子大学校 ・クインズランド大学の名があげられています。
そこに、 テンプル大学ジャパンキャンパス もあるのです。
高3で大学の単位を取得する制度も活用すれば、昭和女子大卒業時点で、海外大学の学士号も同時に取れることになりますね。
ダブルディグリー制度そのものは、他大学でもみかける制度ですが、昭和女子大の場合、三軒茶屋の同じキャンパス内にアメリカのテンプル大学を誘致していますので、三軒茶屋でテンプル大学の卒業資格まで得られるのがポイントです。
「人見記念講堂」
実は、何度も訪れたことがあります。
クラシックのコンサートを聞きにいくためです。
とても良いホールで、それだけでこの学校に対する評価が上がります。
さてこのように、少々古い価値観ではあるものの真面目な学校という印象だったのですが、10年前くらいから急速に改革が進んでいます。
もともと、ボストンにキャンパスを持っていましたが、最近は積極的にグローバル化を進めています。
コースも、
グローバル留学コース
スーパーサイエンスコース
本科コース
と3つに分けました。
入試日程も細分化しています。
◆11/23 帰国生入試(募集人員は特に定めず) ※算国or算国英
◆2/1AM 本科コースAA(40名) ※算国or算国理社or算国英
グローバル留学コースGA(10名)
◆2/1PM 本科コース(30名) ※算国
◆2/2AM 本科コース(30名)
グローバル留学コース(10名) ※算国or算国理社or算国英
スーパーサイエンスコース(10名) ※算数・国語・理科
◆2/4PM 本科コース(20名) ※算数・国語
スーパーサイエンスコース(10名) ※算数・国語
なかなか複雑です。
学校の意図としてはこうではないでしょうか。
◆英語ができる生徒が欲しい・・・帰国生入試・グローバル留学コース
◆優秀な生徒が欲しい・・・スーパーサイエンスコース
英検2級所持者は英語試験免除だそうです。
2/4入試にいたっては、サイエンスを名乗りながら試験科目に理科が入っていません。
しかも、スライド合格制度、つまりスーパーサイエンスコースに不合格でも本科コースに合格できる制度があります。
あきらかに学校の位置づけとしては、スーパーサイエンスコース>本科コース となっていることがうかがえます。
入学者数は、本科が80名、サイエンスとグローバルが20名ずつですね。
このように、コースを細分化し入試も細分化するというのが、最近の流行です。
とくに中堅以下の新興校やリニューアルをはかろうとする学校で目立ちます。
しかし、プラスに作用するかどうかはなんともいえません。
いくら看板に『グローバル』『サイエンス』とかかげても、それだけでグローバル化したり理系教育が充実するわけではないからです。
複雑化することで、かえって学校のブランドイメージが低下する場合もあると思います。
人気も実力も高い難関校ではこうした細分化はまずやっていないのにも理由はあるのでしょう。
グローバル留学コースを見てみると、うらやましい海外研修がありますね。
◆シンガポール・マレーシア研修(3泊5日)・・・中3
◆カナダ留学(10か月)・・・高1
しかし、海外大学への進学者はごくわずか(3名、コミュニティカレッジ含む)のようです。
進学実績
今や昭和女子大学に内部進学する生徒は3分の1程度です。
2023年の卒業生165名の合格実績を見ると、
国公立大学 3名
早稲田 1名
慶應 2名
上智 11名
理科大 5名
ICU 1名
明治学院 5名
青山学院大 12名
日大 7名
中央大 9名
学習院大 7名
東洋大 5名
法政大 6名
明治大 5名
立教 4名
成蹊 6名
東農大 10名
東京女子大 2名
日本女子大 5名
1部を紹介すると、こんな学校でした。
その他にも医歯薬系にも合格者が出ています。
さて、この実績をどう評価するか。
正直言って、進学校だとするとかなり見劣りする実績ですが、付属校ですからね。
入学偏差値も、Y-47、N-49、S-35 です。
これからっていうところじゃないでしょうか。
それより気になるのが、卒業生数のこのデータです。
ずいぶん卒業生数が減ってきています。
中高の人気が衰えてはいない(むしろ高まっているはず)ことを考えると解せない数値です。応募者数も合格者数も減ってはいないはずですが。
そこで、詳細に公式HPのデータを調べ、在籍者数の表を作りました。
年度によって、ずいぶん生徒数にバラつきがあることがわかります。
これは、入学者数の読み誤りが続いているためだと考えられます。
とくに、複数回入試やコース別の定員など入試制度を複雑にすると、いわゆる「歩留まり」、つまり合格者数に対してどれくらいの人数が実際に進学してくれるのか読めなくなり、このようなバラつきが出がちですので、おそらくそれが原因ではないでしょうか。
さて、上記の表を、学年団の人数がどのように推移したのかを見やすく作り直そうと思います。つまり、下の表の緑の枠を見てもらえばわかりますが、2019年に入学した中一の240名が、6年後の高3では202名に減っているではないですか。これをわかりやすくしてみましょう。
上の表を、学年団の人数変化を見やすく直してみました。
自分で作っておいていうのも何ですが、びっくりする結果となりました。
中1で入学した生徒のうちの10%以上、多い年には19%近くが途中で「いなくなった」ことになります。
40名も抜けているということは、クラスが1つ消滅するくらいの数字です。
中高一貫校は、多かれ少なかれ途中で抜ける生徒はいるものとはいえ、気になる数字ですね。
原因はわかりません。
可能性はいくつか考えらえます。
もしかして高校は外部受験をしたのか?
◆小学校→中学校と内部進学してきたが、高校受験して他の高校、例えば慶應・早稲田・青山学院・中央大学等の付属高校に進学した。
学校としては残念でしょうけれど、ある意味前向きな生徒達ということになります。
データには出ていませんのであくまでも憶測です。
中3→高1の人数の減少は、そうしたことで説明できるかもしれません。
◆高校に上げてもらえなかった
こうしたケースも、実際にいろいろな学校で聞く話です。
中高一貫校だからといってかならず高校に上がれるわけではないからです。成績が学校が定める基準に達しなければそれは仕方がない話です。
しかし、中1→中2,中2→中3,高1→高2,高2→高3 でいなくなる生徒はいったいどういう理由なのか?
◆転勤・引っ越し
◆海外留学・親の海外赴任
こうした理由なら納得します。学校のせいではありません。
◆途中退学?(自主的or強制的)
まさか退学させられたとか?
厳しい学校だとは聞いていますが、そこまで厳しいのかどうかはわかりません。
もしかして学校が合わなくて自主的に退学したとか?
中学生なら、公立中学には必ず編入できますが、高校はそうはいきません。
この学校の生徒ではありませんが、過去の教え子で、とある私立中高一貫校に進学したものの、どうしても合わなくて、高校受験に切り替えた生徒がいました。その場合、その中学校にそのまま在籍する意味はほぼなくなるので、公立中学に編入したのです。高校受験を考える場合は、あきらかに合理的な判断です。
もしかしてそうしたケースもあるのかもしれません。
いろいろ疑問が解消しなかったので、他の中学校も調べてみました。
桜蔭について調べたこの表は上と同様、2015年に入学した中1が240名、その学年団の卒業生数が229名で減少率は4.6%としています。
学校が公表していたのは卒業生数の4年分だけです。
中1の生徒数は孫引きのデータなので信頼性に欠けることはお断りしておきます。
桜蔭に進学した生徒は多数知っていますが、その後他の中高に抜けたという話は聞いたことがありません。もちろんゼロではないとは思いますが。
その代わり、親の海外赴任に帯同したという生徒はいましたね。本人は泣いていたのを覚えています。
完全に憶測ですが、5%くらいの生徒が中1から高3になるいずれかの段階で抜けていくというのが、だいたいの私立の平均的な数値なのではないでしょうか。
ところで、他の学校のデータも調べたかったのですが、途中で断念しました。
どの学校も生徒数情報推移を公開していないのです。
孫引きデータばかり集めても確かなことはわかりませんので、あきらめました。
そう考えると、年度別生徒数詳細をHPで公表している昭和女子大学付属の姿勢は立派です。
この学校に限らず、学校と生徒のマッチングというのは大切です。
入学前に何度も足を運び、十分納得したうえで進学しなくてはならないのです。
※生徒数の推移をまとめて考察してはみましたが、もしかして私が何かとんでもない勘違いをしている可能性はあります。
実際にこの学校を途中で「抜けた」生徒からの直接の声を私は聞いたわけではありません。あくまでも生徒数推移をみていて疑問に思ったことを書いただけですのでご理解ください。
個人的には、三軒茶屋駅や田園都市線で見かけるこの学校の生徒達には好印象を持っています。中高一貫校の中には、生徒達が化粧しながら歩いていたり、電車内でスカートをたくし上げていたりする姿も見かけますので。その点この学校の生徒達は真面目そうに見えます。あくまでも見えるだけですが。
それが、生徒たちの心がけなのか、それとも学校の強制力なのか、そこまではわかりません。
昔からの「昭和の教育」を維持し続けられるのか、それとも「新しい教育」へのシフトに成功するのか、今がまさに過渡期なのだと思います。