今回は、中学受験のみならず、あらゆる場面で役立つスキル、「列挙法」について説明します。
また「列挙法」など大げさなタイトルをつけましたが、読んで字のごとく、列挙する思考法の紹介です。特別なやり方でもありません。
しかし、これが実に役に立つことは間違いありません。
いつものように、麻布志望の3人、タロウ・ゲンタ・ワタルに登場してもらいます。
問題提起
私:今日はこの課題から考えてみよう。
「工業の立地条件を思いつく限りあげてください」
タロウ:そんなの簡単だよ。太平洋ベルトだよ。
ワタル:そうそう。そう習ったじゃないか。
私:たしかに太平洋ベルトは習ったな。でも、そもそも太平洋ベルトって何だ?
ゲンタ:それは、太平洋に面していて、工場が集まっているところでしょ。
タロウ:それが帯状だから太平洋ベルトっていうのさ。
私:そのとおりだね。でも、工業の立地条件として太平洋ベルトでは説明になってるのか?
ゲンタ:たしかに順番が逆な気がする。工場が集まったから太平洋ベルトって呼ばれるようになったわけだから、なぜ太平洋ベルトに工場が集まったのかの理由を考えなければだめってことだよね。
私:では、どうして太平洋ベルトに工場が集まったんだろう?
タロウ:まず太平洋に面しているっていうのが大事なんじゃないかな。
私:どうしてだ?
タロウ:だって、ほら、太平洋に面していれば、貿易に便利だからだよ。
ゲンタ:そうそう。それに、新幹線とかも通っているしね。
私:他にはないかな?
ワタル:大都市の近くじゃないか。
私:どうして?
ワタル:大都市の近くのほうが便利だからだよ。
私:便利って?
ワタル:ええと、通勤しやすいとか、お店が多いとか?
タロウ:工場だよ?
私:それじゃあヒントを出すぞ。
もし工場を作るなら?
私:いいか、君たちはこれから工場を作るんだ。工場の経営者になったつもりで考えてみよう。
タロウ:いいね!
私:ではタロウ社長。どこに工場を作りますか?
タロウ:その前に何の工場?
私:何でもいいぞ。タロウの好きなもので。
タロウ:それじゃあお菓子工場!
ゲンタ:タロウらしいね。
タロウ:いいじゃん、お菓子好きなんだから。じゃあゲンタ達は何の工場にするの?
ゲンタ:僕は自転車工場
ワタル:僕は、パソコン工場かな。
私:それじゃあ3人で相談して、なるべく多くの条件を出してみてごらん。
タロウ:それじゃあ僕がまとめて発表するね。
①港の近く
②大都市の近く
③高速道路の近く
私:それだけ?
タロウ:だって、だいたいの工場がこうした所にあるよ。
私:その理由も考えてみたかな?
タロウ:港の近くにあれば、例えばお菓子の材料の小麦とか、自転車の材料の鉄鉱石とかを輸入しやすいでしょ。
ワタル:それに、外国に輸出するのにも便利だよ。
ゲンタ:高速道路を使って全国に輸送もできるしね。あと、大都市に近ければ、大勢の人を雇うのにも便利でしょ。
私:なるほど。先生は10個条件を考えたけどね。
三人:10個!
私:こういう風に考えてみよう。まず、工場を作るために最初に必要になるものは何かな?
タロウ:それは土地じゃないかな。工場を建てる場所が必要でしょ?
私:その土地はどうやって手に入れる?
タロウ:買うんだよ。
私:土地を買うためのお金はどうやって手に入れる?
タロウ:えっと、貯金? それとも銀行から借りるとか?
私:じゃあもし西表島に工場を作るとしたら、お金を貸してくれる銀行や会社はたくさんあるかな?
タロウ:あっ、わかった! 大都市のほうが銀行も会社もたくさんあるから、お金を貸してくれるところもたくさんあるんだね!
ゲンタ:じゃあ、お金を手に入れて、工場の土地を買うには大都市に近いほうがいいんだ。
私:その土地はどんな土地がいいのかな?
タロウ:なるべく安くて、広くて、平らなところ。
私:例えば?
ゲンタ:大都市に近いと土地の価格が高いからね。あっ、埋め立て地! なんか安そうだし、平らだし。
私:さて、お金を手に入れて土地も買った。工場の建物も建てられた。次は?
タロウ:機械を買ってきて入れるんだ。
ゲンタ:それでスイッチを入れればOKだね。
私:機械は何で動くんだろう?
ゲンタ:それは電気でしょ?
私:工場の機械を動かすためには大量の電気が必要になるね。
ゲンタ:そっか。発電所の近くのほうがよさそうだね。
タロウ:あと、機械を冷やすための水が必要だって習ったよ。
ワタル:それから材料も入れてあげないとね。
ゲンタ:あと働く人も必要だよ。
タロウ:それから、製品を町まで運ばないとね。ちょっと三人で整理してみようよ。
ワタル:先生、整理できたよ。
◆資本が得やすいこと
◆工業用地が得やすいこと
◆動力が得やすいこと
◆工業用水が得やすいこと
◆原料が得やすいこと
◆労働力が得やすいこと
◆製品の輸送に便利なこと
◆大消費地の近く
私:よく整理できた。
タロウ:でもこれで8個なんだ。あと2個って何?
私:うん、1つはちょっと特殊な条件でね。ヒントは、野田・銚子
タロウ:しょう油!
私:しょう油はどうやって作るか知ってるかな?
タロウ:大豆と塩と、あとは微生物の働きだよ。
私:その通りだ。だから微生物が働きやすい気候の条件があるんだね。
◆気候が適していること
ゲンタ:あと1つは?
私:話は変わるが、皆は将棋は好きかな?
ゲンタ:いきなり変わった! 特に好きってわけでもないけど、たまにやることあるよ。
私:プロ棋士の出身都道府県ランキングを見てみると、1位は東京、2位は大阪、3位は兵庫県、4位が神奈川県、5位が千葉県となっている。
ゲンタ:やっぱり大都市に偏ってるね。
私:何でだと思う?
ゲンタ:それは、大都市のほうがライバルも多いし、あとは新しい手の研究するのにも情報がいっぱいあるからじゃないかな。
私:そうだ。
ゲンタ:わかった!工場で物を生産するのにも、最新の情報は重要ってことなんだね。ライバル会社の動向も知りたいし、新しい材料が開発されるかもしれないし、消費者の好みの流行だって知りたいし。そうしたあらゆる情報は、やはり大都市に集まっているってことでしょ。
◆情報が得やすい
10個めの条件は、これだ!
私:正解! いくらインターネットが発達しても、やはり人と人が直接コミュニケーションをとらないと入ってこない情報っていうのはたくさんあるからね。むしろビジネスの世界では、ネットに流れている段階で情報は古いとみなされるんだ。
列挙法のコツ
列挙法は、とにかく思いつく限り列挙するだけなのですが、やはりコツというものはあります。
上述の授業例でわかると思いますが、ただ列挙しようとすると、過不足なく条件を列挙するのはなかなか難しいのです。
そこで、「もし工場を建てるなら」という順番にそって必要な条件を列挙していきました。こうすることで、過不足なく条件を数え上げることができたのです。
このやり方は、日常生活でも無意識に普通に行われています。
例えば、キャンプに行くときに持っていく物を考えるときはどうするでしょうか。
キャンプに慣れている人なら、あまり考えずに必要な物を車のトランクに入れることができると思います。不慣れな場合は、キャンプ場に行く道中から到着してテントを張って準備する順に考えると思います。
①道中の軽食と飲み物
②キャンプ場に到着したら、まずタープを張る
③グランドシートを敷いてからテントを張る
④テーブルと人数分のチェア
⑤BBQコンロと木炭、BBQ用の食材
こうした風に考えていけば、忘れ物は防げますね。
基本的に列挙法は、自分で考えた何等かの順番に沿って列挙していきます。
★賛否両論法についてはこちらの記事をぜひお読みください。