子どもたちは、論理的に物事を整理して思考することが苦手です。
だから彼らが書く文章はわかりづらいのです。
そこで今回は、論理力と記述力を鍛えるのにとても有効な、賛否両論法について説明します。
まあ「賛否両論法」などと御大層なネーミングとしましたが、特別なやり方ではありません。見たまんまのやり方です。
でもとっても有効なことは保障します。
いつも通り、ロジカルライティングの授業例を紹介します。
登場人物は、麻布志望のタロウ・ゲンタ・ワタルの3名です。
問題提起
「あなたが進学した中学校では、スマホの学校への持ち込みが禁止されていて、見つかった場合は没収されてしまいます。この学校のやり方について、賛成か反対か、どちらかを選んであなたの意見を論述しなさい」
私:今日とりくんでもらう課題はこれだ。
ワタル:ひどいね、その学校! 僕は絶対に行きたくないな。
ゲンタ:さすがに自由な校風の麻布なら大丈夫だよね?
私:そうだな。自主性を重んじている学校だからな。
タロウ:良かった!
私:どうやら3人とも、こういう学校は嫌いなようだね。
一同:もちろん!
私:まあ、麻布を志望しているという時点でそうだろうなとは思うが。では聞くが、どうして嫌なんだ?
ワタル:だって、スマホくらい自由に使いたいじゃん!
タロウ:そうだよ、今時スマホなんてみんな使ってるよ。
ゲンタ:友達とラインでやり取りするのに必要だし。
私:皆の意見を整理すると、
◆自由に使いたいから
◆皆が使っているから
◆ラインでやり取りしたいから
ということでいいか?
ワタル:ううん、そういわれると何か違うような気がする。幼稚っていうか。
タロウ:うん。皆が使っているからっていうのも、カッコ悪いかも。
私:よく気が付いたな。これでは自分の好みを主張しているだけになってしまう。例えばタロウには兄貴がいたな。
タロウ:うん。
私:その兄貴が、タロウが後で食べようと思ってとっておいたアイスを勝手に食べたらどいうだ?
タロウ:それは嫌だよ。っていうか、兄貴、よく僕のお菓子とか食べるんだ。ひどいでしょ?
私:そして兄貴がこう言い訳するんだ。「だって食べたかったから」
タロウ:ひどい!
私:スマホを自由に使いたいから、皆が使っているから、これでは意見でも何でもないってことはわかるよな。
ゲンタ:先生、僕の言った、ラインするのに必要だっていうのは?
私:タロウ、どう思う?
タロウ:具体的な例が出ているからいいんじゃないかな。なんていうか、客観的な理由ってかんじがするし。
私:ところでゲンタ、ラインで誰と繋がるつもりだ?
ゲンタ:クラスメイト
私:ということは、学校で毎日顔を合わせるクラスメイトとラインしたいってことか。直接話すのではだめなのか?
ゲンタ:別にダメじゃないけど。
私:よし、このあたりで、少し時間をあげるから、3人で相談しながら、スマホを学校に持ち込むことを禁止するルールについて、反対意見をできるだけたくさんあげてみなさい。
反対意見
ワタル:できたよ。じゃあ僕から発表するね。
◆私立中学は、遠いところから通っている生徒が多いので、学校を離れた友達同士がつながるためにはラインのようなSNSは必要である。
◆私立中学は電車で通うので、事故やトラブルで電車が止まったときに乗り換えルートを検索する必要がある。
◆家から遠い学校に通うため、自宅との緊急連絡の際に必要だ。
◆授業やレポートに必要な情報を調べるのに役立つ。
◆板書内容を写真に取れば、ノートをとる手間が省ける。
だいたいこれくらいかな。
私:なるほど。どれももっともな意見になっているな。最後のノートをとる手間を省く
ことについては、先生の立場からは賛成しかねるが。
ワタル:どうして? そのほうが先生だっていっぱい授業ができていいんじゃないの?
私:それだったらプリントを配ったほうが早いだろ。
ワタル:確かに。
私:先生がプリントを配らずに板書するのにはちゃんとした理由があるんだ。
ワタル:どんな?
私:それについてはいつか話してあげよう。
タロウ:あと僕が付け加えたい意見があるんだ。
◆そもそもスマホを校内で使用することを禁止すれば良いのであって、持ち込むことを禁止するのは間違っている。
ね、いいでしょ?
私:なかなかいいね。
ゲンタ:あと僕はこうも考えたんだ。
◆スマホの使い方が問題なのであるから、持ち込むことを禁止するより、使い方を規制すればよい。
私:なるほど。その意見ももっともだ。他にあるかな?
ワタル:こういうのはどう?
◆そもそも学校のルールは生徒達が自主的に決めるべきだから、一方的に学校が決めるのがおかしい。
私:もしかしてこのルールは生徒達が相談して決めたかもしれないじゃないか。
ワタル:そっか。じゃあ、これならどう?
◆中学校は生徒の自主性を育てるところだから、一方的に規制するのではなく各自に使い方を考えさせるべきだ。
私:なかなか考えたな。ちょっと強引だが、そうした角度もありだろう。では次に、賛成意見を書いてみよう。
ワタル:ええ、嫌だなあ。賛成じゃないし。
私:賛成じゃないからこそ、冷静に考えることができるんだ。3人で相談してごらん。
賛成意見
ゲンタ:できたよ。発表するね。
◆学校は勉強するところだから、勉強に不要なものは持ち込むべきでない。
◆授業中にスマホに気を取られるから禁止である。
◆高価なスマホを学校で無くすリスクあある。
◆SNSはイジメの温床になる。
◆学校では学生同士が生身の人間同士のコミュニケーションをを重視すべきだ。
◆すぐにスマホで検索せずに、図書室を利用して調べる習慣が大切だ。
◆学校が定めたルールに従うのも学生のあるべき姿だ。
私:なるほどね。良くまとまっているじゃないか。
タロウ:本当は最後の意見を僕は入れたくなかったんだけど。
私:どうしてだ?
タロウ:だって、何でも学校のルールに従うだけって、なんだか思考停止っていうか、自主性が無いっていうか。
私:それも大事な意見だな。それをさっきの反対意見に入れればよかったね。
タロウ:しまった!
私:ところで、10年以上前に話題になった話だが、アメリカで13歳の息子にアイフォンを買い与えたときに母親が息子に守らせる18の約束っていうのを考えたんだ。
ワタル:へえ。どんなの?
私:全部を紹介すると長いから、抜粋するね。
◆このスマートフォンは、母が買い与え、料金も支払っているので、あなたに貸しているものです。
◆パスワードは親が管理します。
◆電話はマナーを守って礼儀正しく。
◆学校に持っていかないこと。直接会話を楽しみなさい。会話は生きる上で大事なスキルです。
◆嘘をついたり、人を馬鹿にしたりするために使わないこと
◆面と向かって言えないことをメールしないこと。
◆公共の場ではマナーを守ること
◆膨大な写真やビデオを撮らないこと。記録するより体験を大切にすること。
◆上を向いて歩きなさい。周囲の世界に目を向けなさい。
まあざっとこんな調子で、18の約束を守らせる契約をしたんだね。
ワタル:へえ。さすがアメリカは契約社会だね。
私:まあ子どもとの間の契約だが、約束は約束だ。
タロウ:別に不思議なことは何もないじゃない。全部当たり前のことばかりだし。
ゲンタ:ほんと、スマホを見ながら歩いている人っていっぱいいるからね。この前も僕、そうやって歩いている人に突き飛ばされたよ。
ワタル:そうそう。あと、やたらに写真を撮る人も多いよね。家族で外に食事に行くと、必ずお母さんが、料理の写真を撮りたがるんだ。
タロウ:うちもそうだよ!
ワタル:それで、写真を撮り終わるまで食べちゃいけないんだ。僕、お腹が空いてたからすぐに食べようとしたら、怒られたよ。
賛否両論法の効果
この例は、普段授業で意見をまとめる練習をしている生徒達なので、すぐに短文にしてまとめることができています。
ここまで文章化ができなくても、賛成意見と反対意見を具体的に列挙するだけで、ずいぶん思考が整理されていくのです。