シェイクスピアは聖書と並び、欧米の基礎教養なのだそうです。
そういえば、欧米の作家の小説を読んでいても、登場人物が普通に引用しているのを見かけます。
日本人の私としては、訳者の註のおかげで何とかなるのですが。
今回はシェイクスピアについての回です。
ヴェニスの商人は読んでおこう
現在イスラエルで戦争が起きています。
このイスラエルとパレスチナ問題は、なかなか生徒に理解できない項目です。
「先生、何で第四次中東戦争っていうの?」
「それは4回も戦争があったからだね」
「どうして?」
「先生、どうして長崎の平和式典をイギリスやアメリカは無視したの?」
こうした疑問にきちんと応えるためには、そもそもの初めから語るしかありません。
まともに話し出せばすくなくとも十数時間は必要な話を、わずか数十分にまとめるのは至難の業なのです。
だいたいは、出エジプトのモーセの話あたりから始めて、ヘブライ王国、バビロン捕囚、ローマの支配、イエスの登場、ディアスポラへと駆け足で話をすすめます。
そして反ユダヤ主義からイギリスの三枚舌外交、イスラエルの建国へとつなげていくのです。
実は、この反ユダヤ主義の説明が最も困難なのですね。
純粋?な子どもたちにとって、人が人をそこまで憎み迫害するということがどうにも理解不能のようです。
どうしてこの年代の子どもには理解できない(つまりそうした考えが浮かびもしない)のに、やがてレイシストになる人間が生まれるのでしょうね。
おそらくは大人の悪影響でしょう。
さて、このなかなか理解してもらえないユダヤ人への差別の例として、「ヴェニスの商人」をとりあげるのです。
ご存じのように、強欲な金貸しのシャイロックが懲らしめられるという勧善懲悪のストーリーです。子どものころに最初にこの話を知ったときには単純にそう考えていました。
しかし、金貸しのシャイロックがユダヤ人であること、16世紀末のイタリアの不況の中でユダヤ人の金融業者が重用されたこと、主人公のヴェネツィアの商人アントニオがそのユダヤ人を軽蔑していることなどがわかると、物語の様相が一変します。
シャイロックが借金のかたに肉1ポンドを要求する前に、アントニオがシャイロックを足蹴にして唾をはきかけるシーンがあるのです。
また、自分の肉1ポンドを提供するという契約書に納得してサインしたのもアントニオです。怖い契約書ですが、サインした以上、責任が生じます。契約は守られねばなりません。この話は、いわば、その責任逃れの物語ということになるのです。
そもそもその借金というのも、友人が求婚のために必要としたというのもお粗末な理由である気がします。借金しなければ求婚できない? また、シャイロックの娘をアントニオたちの友人が誘惑?して逃げたというサブストーリーも展開しています。
最終的には、シャイロックは財産を娘と夫に渡し、キリスト教へ改宗することを強要されるのですね。
シェイクスピアは、エンディングをコメディタッチでまとめています。
なんでしょうね、この当たり前のようなユダヤ人への差別意識は。
ヒトラーの所業を話すだけでは、ユダヤ人に対する欧米キリスト教徒の感覚をなかなか理解するのは難しいものです。
そこでヴェニスの商人なのです。
残念ながら、もうここ数年、この話を知っている生徒は皆無です。
中学受験生は忙しいですからね。
せめて、中学生になったら読んでほいいものです。
その他の作品
「ハムレット」「オセロー」「リア王」「マクベス」の4大悲劇はもちろん必読です。
喜劇は、わかりにくいものが多い(せりふが冗長すぎる)ので、後回しとしましょう。
それより「ロミオとジュリエット」は読んでほしいですね。
ただ、小中学生にわかるかなあ?
言ってしまえば、立場に妨げられた悲恋、ですからね。
おそらくさっぱりとわからないでしょう。
でも、だからこそ読まなくてはならないのです。
もはや私たちには、こうした読書によってしか得られない体験となっているからです。
そういえば、曽根崎心中も説明困難な作品ですね。
シェイクスピアの生家
シェイクスピアの生家があるのはイギリスロンドン郊外の Stratford-upon-Avonという小さな町です。ロンドン市内から車で2時間くらい行ったところです。小さな、と書きましたが、想像以上に観光地化していて大勢の人達で賑わっていました。写真はシェイクスピアの生家のあたりですが、楽しそうな雰囲気ですね。鎌倉の小町通りって感じかな。道の左側、2本の木の間に見える古そうな家が生家です。今年は生誕460年になります。1564年といえば、川中島の最後の合戦があったはず。思い切り戦国時代です。
街のあちらこちらにシェイクスピアゆかりの銅像があってなかなか楽しいのですが、これも本を読んでいなければ面白くも何ともないでしょう。