読書の大切さについては何度も書いてきました。
しかしまだまだ書き足りないのです。
それほど、今の子どもたちは本を読まない!
今回から何回かに分けて、必須の作家について語ります。
芥川龍之介について
1892年生、1927年没
幼くして母が病死(精神の病だったとも)したため、母方の親類である芥川の養子となります。芥川家は徳川家に仕えた奥坊主だったということですので、高尚な文化が身の回りに普通に感じられる家庭環境だったのでしょう。ちなみに奥坊主というのは、将軍の身の回りの世話をするというなかなかの職種です。
その後旧制一高から東京帝大英文学科へ進学したというのですから、秀才であったことは間違いないですね。
帝大在学中の1914年に「老年」を同人誌に発表しますが、翌年に発表した「羅生門」が事実上の処女作といってよいでしょう。
1916年、24歳で発表した「鼻」が夏目漱石に絶賛されたことで作家の道を進むことになります。
1915年「羅生門」
1916年「芋粥」「鼻」
1917年「戯作三昧」
1919年「奉教人の死」「蜜柑」
1922年「藪の中」「トロッコ」
1927年「河童」「歯車」「或阿呆の一生」
芥川龍之介は、神経衰弱とも重度の閃輝暗点を抱えていたともいわれています。
自殺の原因としては、妻子にあてた遺書には「過去の生活の総決算のために自殺する」とあり、旧友にあてた遺書には「唯ぼんやした不安」が原因だとあります。
おすすめの作品
さて、芥川龍之介の入門編として何からよむべきか。
おすすめの作品をいろいろ考えていたのですが、選べません。
全部お勧めです。
しかし、なにせ378作品ありますので。
ここは王道ですが、「トロッコ」と「杜子春」から入るとよいでしょう。どちらも中学校教科書にも採用されている作品ですので読みやすいと思います。
さらに、「鼻」「芋粥」「羅生門」をあげておきましょう。今昔物語集を題材とした読みやすい短編ですね。何とも言えないおかしみと奇妙さと不気味さが同居しています。
このあたりで芥川龍之介ワールド?にはまったなら、あとは手あたり次第に読めばよいと思います。短編作家とされ、中長編は今一つともいわれていますが、それは自分で読んで判断すればよいことです。
ここでおすすめは「kindle本」です。なんと芥川龍之介の全378作品が200円!で購入できます。こんな贅沢な200円はありません。
もっとも著作権が切れているため、青空文庫でも無料で読むことはできます。
個人的には、スマホでもタブレットでも読みやすいkindle本がお勧めです。
「杜子春」
数ある作品の中から「杜子春」をとりあげてみます。
或春の日暮です。
唐の都洛陽の西の門の下に、ぼんやり空を仰いでゐる、一人の若者がありました。
若者は名は杜子春といつて、元は金持の息子でしたが、今は財産を費ひ尽して、その日の暮しにも困る位、憐な身分になつてゐるのです。
これが出だしです。
とても読みやすい文章です。
この後、杜子春は不思議な老人=仙人の言葉に従って大金持ちになるのですが、再び財産を失ってたたずむことになります。
この冒頭のエピソードだけでも、授業ネタ満載です。
◆そもそも杜子春はどうして財産を使い尽くしてしまったのか
◆どうして仙人は杜子春に2度も3度も財宝をプレゼントしたのか
◆それなのにどうして杜子春はそれを無駄に使い尽くしてしまったのか
その後、杜子春は仙人にとんでもない願い事をします。なんと自分も仙人になりたいというのですね。
◆いったいなぜ杜子春は仙人になりたがったのか
◆どうして仙人はその突拍子もない要求を受け入れたのか
物語は、杜子春の厳しい修行へと続きます。そして有名なシーン、無言の誓いを破った杜子春が「お母さん」と思わず叫ぶシーンへとつながるのです。
杜子春が人間らしい情を失っていなかったことを確認し、仙人は杜子春を殺すことをやめます。そして最後に粋なプレゼントを渡して去っていくのです。
後半はいっきにたたみかけるような展開で、最後まで読み通すのはあっという間ですね。
しかしそれにしても大きな疑問が残ります。
◆なぜ仙人はこうまで杜子春を構うのか?
◆なぜ仙人はこうまで杜子春に親切?なのか
◆そもそも仙人は何者なのか?
一読して感想を書かせると、「杜子春が人間らしい気持ちを取り戻した」良い話だとみな書きます。
もちろんその通りです。
しかしそこで、「杜子春って何者?」という質問をぶつけてみます。
そうすると、自堕落な金持ちの道楽息子の姿しか浮かんでこないのです。そうした自堕落な男が、なぜ厳しい修行の最終段階まで耐えられたのか?
そうした観点から読み直させるのもよいですね。
また、仙人も不思議な存在です。
「杜子春」の元ネタは唐の伝奇集です。ストーリーが微妙に異なります。そこに注目すると、芥川龍之介の意図したことも見えてきたりもするのです。
その他、いろいろな本をこちらで紹介しています。