中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

中学受験で成功する親、失敗する親の違いはどこにある? その2 なぜ二人目はうまくいかないのか?

中学入試において、「親は絶対こうでなければならない」「親がこうすれば必ずうまくいく」などという正解はありません。

しかしそれでも、「こうしないほうがよい」「こうしたほうがよい」といったアドバイスはあります。

今回は、二人目の子をもつ親の注意点について、ケーススタディをあげながら考えます。

※実話に基づきますが、本人が読んでも自分のこととわからぬレベルまで設定を変えてあります。個人情報保護の観点からの措置ですのでご了承ください。

なぜ二人目はうまくいかないのか? 優秀すぎる兄がいたケース

A太はなかなか勉強を頑張っていました。成績も悪くはない。このままいけば、第一志望の駒場東邦の合格は見えてきました。しかし、親は不満でした。

A太には3歳上の兄がいます。兄も同じく受験をし、筑駒に進学しています。開成蹴りの筑駒という、なかなかに羨ましい進学だったのです。

「兄はもっとできた」

両親にはその記憶が強く残っています。たしかに、模試の成績もトップクラスでしたし、親がいちいち注意をしなくても自分で進んで勉強していました。親は安心して受験させられたのです。しかし弟のほうはどうも勝手が違います。

言われるまでは勉強になかなか取り組まない。すぐに飽きてしまう。集中力が持続しない。ケアレスミスが多い。テストの成績も乱高下。

何から何まで兄とは違います。

それなのに生意気に「僕も開成蹴って筑駒に進学する」などと言います。

「無理に決まってるだろ!」と心の中で思わず怒鳴ってしまいます。

兄とは較べてはいけない。そんなの子育ての基本ですのでわかっています。わかってはいますが、どうしても比べてしまうのです。その親の気持はA太にもわかっています。

わかってはいますが、だからといってA太にはどうしようもありません。彼は自分なりに頑張っているつもりだからです。親がするアドバイスは優秀だった兄のときに成功したやり方ばかりです。

結局A太は、3日に受験した浅野中に合格し、進学しました。

本人が頑張って合格したのですから、素晴らしい成果です。誇りを持って進学する価値のある学校です。しかし、両親は、「兄が筑駒だったのに、弟は浅野か」と思う気持ちが残っているのです。

 

これは可哀そうなケースですね。

兄弟といえども、兄と弟は別人格です。

例え二人目の受験だとしても、初めて受験させるつもりで接することが大切です。

この生徒の場合は、3日の浅野に進学できたからよかったのですが、中には、兄の感覚で、強気の受験を敢行し、可哀そうな結果を招いたケースもあるのです。

 

なぜ二人目はうまくいかないのか? 親が冷静すぎたケース

B子には3歳離れた姉がいます。

姉の受験の時は大変でした。家じゅうがピリピリとした戦闘モードだったからです。姉の部屋から、両親が姉を怒鳴る声が聞こえてくると、B子も思わず首をすくめたものでした。母親は頻繁に塾に相談の電話をかけ、父親も面談に付き添います。志望校を決める際にも、夫婦で手分けしてたくさんの学校に何度も足を運んでいました。最終的には、姉は第二志望と考えていた学校に進学することができたのです。

B子に対しては、両親はほとんど注意をしません。B子は姉とちがってコツコツと努力するタイプであり、テストの成績も悪くはないからです。姉よりも偏差値も少し良い数値を出しています。

「この子は大丈夫ね」

「今からあまりお尻をたたかなくても大丈夫」

「このテキストは夏までに終わらせて、過去問演習はその後にやれば間に合うね」

両親はそのように考えていました。何せ2回目の受験です。これからどのようなカリキュラムで学習が進むのか、どれくらいの量をこなさなくてはならないのか、そうしたことが経験済みだからよくわかっているのです。

こうして余裕を持ってのぞんだ受験ですが、結果はかんばしいものとは言えませんでした。普段の成績よりもだいぶ下の学校に進学することとなったのです。

 

このケースは、あきらかに親が良い意味で「無我夢中」にならなかったことが敗因です。

子どもに冷静に接することも重要ですが、「よくわからないまま全力疾走」することも重要なのです。

なまじっか上の子で経験済だったため、「これは省略してもよい」「これは1回やれば十分」といった具合に、まるで受験のプロのように妹の勉強を指導してしまったのですね。

姉と妹は別人格です。夢中で姉に接した熱量で妹にも接していれば、だいぶ結果は違ったものになったと思うのです。

 

なぜ二人目はうまくいかないのか? 妹を放置してしまったケース

C子の2歳上の姉は、なかなか手を焼かせる子だったそうです。勉強させるのも一苦労。すぐに塾から逃亡を企てる。この子は絶対公立中学に入れてはいけない。そう判断した両親は悪戦苦闘しながら、なんとか姉を私立中学に押し込みました。

その間、妹のC子は、完全に放置プレーです。いちおう姉と同じ塾には行かせていたものの、完全に塾まかせ・本人まかせだったのです。

小学生の子が、本人まかせで勉強できるはずもありません。たまに一人で自主的に学ぶ子もいますが、そんな子は1000人に1人と思ってください。

姉がやっと中学生になったとき、C子は小5です。

さてと。親がやっとC子に向き合ったとき、C子の勉強は、すでに手遅れといいたくなるレベルだったのです。

C子は素直ないい子でした。親の言いつけもきちんと守ります。食事の後は、自分の食器は自分で片付け、親が姉とバトルしている間にみんなの分の食器も洗ってくれる、そういう子だったのです。

親としても安心しますよね。

この子は一人で何でもできる子だから。放っておいても問題ない子だから。

そう判断し、全精力を姉に振り向けていたのです。

たしかにC子はいい子でした。ただし、勉強は嫌いだったのです。

これは小学生なら普通のことです。

私にいわせれば、塾の責任も重大ですね。素直な子なんだから、塾がもう少しきちんと家庭学習のケアもしてあげれば何とかなったと思うのです。

しかし、残念ながら全ての塾がそこまでケアしてくれるとはかぎりません。いや、そうでない塾のほうが多いと思います。

塾ではきちんと授業をしますので、あとはご家庭で頑張らせてください。

こうしたスタンスの塾だと、C子のケースでは最悪ですね。

C子は塾の授業中も、授業の内容がよくわからないまま、ただぼんやりとおとなしく座っていただけだったのでしょう。授業妨害もしないので、塾としても放置します。とくに親に連絡する必要もないからです。

こうして、4年生までの学習内容がほぼ空白のまま、5年生を迎えたのでした。

しかし、C子のケースは最悪のケースではありません。

幸いなことに、まだ2年ありますので。

今からきちんとした塾(この塾ではないですね)に通い、親が丁寧に家庭学習をフォローしてあげれば、何とかなるかもしれません。

 

私は基本的に「暑苦しい」受験勉強は嫌いです。

ねじり鉢巻き系学習には何の効用も認めていないのです。精神論で何とかなるような世界ではありませんので。

でも、親があまりに冷静だと、なんだか上手くいかなかった場合が多いような気がします。

無我夢中でわが子の受験に並走する。

そうした親の態度は、子どもにも影響を及ぼします。

もしかして効率の悪い、無駄の多い学習になるかもしれません。

でも、勉強に無駄なんてことは一切ありません。あまりに効率を優先しすぎる学習は、かえって良くないのではないか、そう思うのです。

 

我々プロは効率を優先します。

それは、過去の数百名(実は数千名)の生徒の指導経験があるからです。たかだか1名や2名の受験経験で、親がプロ同様の「冷静さ」を持つことはマイナスでしかないのですね。